エンジニア歴20年のおっさんが語る、いろいろな経験やこれからのソフトウェア業界についてです。

特別編 自然災害とITエンジニア

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 今回の震災は、いろいろなところで「想定外」という言葉が聞かれました。地震や津波の規模、原発の事故など。これらはまだ収束したわけではないので、これ以上は申し上げられませんが、なるべく最小限で収まることを願うばかりです。

 うちの会社も本社は東京なのですが、電話で話をしたら余震でゆれるので落ち着かないと言ってました。こういう状況と計画停電もあってガソリンや食料品を買いに走る人がたくさん出るんだと思います。私はもう少し西なのですが、それこそテレビ以外はあんまり変化があるようには感じ取れません。ただ、コンビニとか行くと単1・単2電池だけは軒並み売り切れていました。懐中電灯とか点検するのはこういう時なので、それでかもしれません。ラジオなどで必要そうな単3、単4電池はなくなるほどでもなかったので。

 さて、阪神淡路大震災でもそうでしたが、自然の前ではわれわれはいかに無力なのかという事を改めて思い知らされました。そして今回はもう1つ、阪神淡路大震災ではあまりクローズアップされなかったものがあります。

 それは「電気」です。

 被災地が停電するのはあり得る話ですが、それ以外の場所でこれがクローズアップされるのはあまりなかったと思います。そしてその場所が「首都である東京及びその近郊」だったから余計でしょう。電車が間引きされたり、時間によって停電したり(しかもしないこともある)気が気でないと思います。そして原発の事故。どんな自然災害が起こっても安全だというスローガンが危うくなっています。

 思えばインフラもライフラインもそして生活も仕事も「電気」が一番ベースになっています。電車はその名の通り電気が必要ですし、ガスだって例えばお風呂を沸かす時、給湯器のところが多いと思いますので、電気がないと使えません。ガスにしろ、水道にしろ、ポンプなど、供給側も電気が必要なため、電気がないと供給できません。電話も光ファイバーやISDNの電話は使えませんし、最近の多機能電話機は電源が落ちると通話できません(ダイヤル回線であれば、電話線から供給される電力で電話はできますが、最近は基地局もデジタル化が進んでいるのでこの限りではないかもしれません)。

 何より、われわれの仕事は「電気」なしでは成り立ちません。良い悪いは別にして、タコ足配線状態の方もかなり多いと思います。「コンピューター、電気がないとただの箱」とはよく言ったものですが、バッテリーや自家発電ではたかが知れています。

 テレビやラジオ、ネットでは被災状況が報道などされていますが、たいていの被災者は電気も何もなく着の身着のままの人が多いでしょうから、本当に知りたい人が知りえないという何ともやりきれない状況ではありますが、それでもやるしかないのが現状です。

■危機管理

 報道されている政府や東京電力の対応を見ているといろいろな意味で想定外の事態が起こっていると推測されます。テレビではかなり批判的な意見が多いですが、個人的には良くやっていると思います。

 危機管理は基本的に経験に基づいてどうするかの行動指針が決められます。というのも経験しない「危機」に関しては管理どころか想像すらできないからです。現在の大地震のオペレーションはいわいる「東海地震」が起こることを予想し、阪神淡路大震災の経験がベースになっていると思われます。

 しかし、今回は広範囲で想定の倍以上の津波が押し寄せてきました。東北地方は日本海側、太平洋側問わず比較的地震が多く、近年でも中規模以上の地震が何度か起こっており、どちらかと言えば日頃の備えがしっかりした場所です。それでも海岸から数キロまで津波が押し寄せるとは想像すらできなかったでしょう。想定以上で建設された防波堤すらを軽々超えてしまっては、なすすべはありません。

 東京電力にしてもそうです。原発事故や計画停電、そして忘れてはいけない発電所や送電線の復旧など、現場レベルでは間違いなく右往左往しているはずです。確かに情報の素早い開示は必要だと思いますが、そうもなかなか言っていられない状況もあると思います。広報担当者の慌てぶりを見るとそれが良く分かります。

 プロジェクトでもそうです(やや強引ですが)。

 PMとしては進捗が遅れるであろう障害をいくつか想定してプロジェクトを計画します。しかし、想定外の事が起こると遅延し最悪デスマーチに突入します。こういう場合は情報伝達や意思疎通がだんだんうまく行かなくなります。これらは「誰が悪い」ではなく、「仕組みややり方が悪い」と私は考えています。人を投入して人海戦術で乗り切る、という事はこの業界では昔からありますが、指揮系統を再構築しないとまずうまくいきません。今回の震災で自衛隊を当初の2万人から10万に増やす事になりましたが、単純に増やせばスムーズに行くわけではないことは現状が示しているように思います。もっともこちらは増やさないとどうしようもないので、再構築しつつ、順次増やす方向に持っていくことがベストだと感じます。

■情報公開

 原発関係なんかは特にそうですが、地元自治体や報道機関などは情報が少なく、苛立っている様子がテレビを通して伝わってきます。

 プロジェクトでも順調な時の進捗はスムーズに出てくるのですが、そうでないとなかなか出てこなかったり隠したりする事がままあります。そうなるとPMとして確かにイラっと感じることはあるので、これも理解できます。

 ニュースキャスターや評論家の中には「なんで最初から半径30キロ以内の住民を避難せさせて原子炉に海水を入れないのか」と批判していることがありますが、それは無理でしょう。1つの事象に対して対策を行っても、次から次へ別な事象が起こっているため、リカバリに精いっぱいで発表も後手に回っています。避難にしても、受け入れ先の問題もありますが、何より最初から範囲を広げてしまうとそれが最悪の状態だと推測されてパニックの引き金になることも考えられます。このあたりは本当に難しい判断をしていると思います。

 適切な情報公開と下手な隠ぺいをしないことが、最悪の事態を回避する手段なのは事故でもプロジェクトでも同じです。

■原発について

 原発には昔から賛否両論があり、しかも日本だけではなく世界的であるため、今回の事故についてどの国でもかなり関心が高く、影響を与えています。

 原発は、極論すれば仕組みの違いはあれど「原爆」を抱えているようなものです。唯一の被爆国である日本には非核三原則というものがありますが、兵器ではないからと言っても「核」である事には変わりないので、安全性も含めて賛否両論あることは(特に地元周辺では)至極当たり前だと思います。

 今回の事故は、どんな自然災害でも安全と言われていた中で徐々に被害が広がる様相を見せています。現在進行形なのでこれ以上言及はできませんが、問題がないとしても水素爆発で建屋が吹っ飛ぶ映像を見たら誰でも不安になって当然だと思います。

 核燃料は有害なもので、何重にも対策を講じられているのはほとんどの人が知っていると思います。しかし、今回は本体そのものではなく冷却装置など付帯装置がトラブルで故障したことが発端です。私も原子炉はそうそう壊れないとは思っていましたが、まさかその周辺装置までは考えが及びませんでした。

 これから先、原発の建設・運用についてかなり否定的になってくると予想されます。特に今回と同じような古いタイプのものについてはこれからの運用にかなり反対されるでしょう。日本以外でもそういう流れができつつあります。

 ただ、ITエンジニアとしてはこのことを真剣に考える必要があります。

 日本ではほとんどが火力発電ですが、2割ほどは原子力発電です。電力需要は年々増加をしていますが、それに対応するには現状では原子力発電がおそらく必要です。火力発電は昔は石油がメインでしたが、最近では天然ガスが主流です。ただし、国土が狭くて資源に乏しい日本では安定的(量的にもコスト的にも)に供給できるのはおそらく原子力発電しかないと思います。ここまで高度情報化された社会では電気なしには成り立たないことは容易に想像できます。

 われわれITエンジニアは、電気がなければ仕事ができません。手書きで仕様書を書こうがノートにコーディングしようが動かすものがなければ何の意味も持ちません。そこには知識にもスキルにも価値はないに等しいです。

 自然エネルギー(風力、水力、太陽光)では安定供給は無理なので、それこそ全国的に計画停電になりかねません。とすれば選択は以下の2つぐらいしか思いつきません。

  • 原子力発電は行わず、計画停電などを常態化しインフラも最小限に縮小する
  • 今まで通り、原子力発電を安全性を高めながら推進する

 普段は壁にコンセントがあって、そこにつなくだけでコンピュータなどの電化製品が使えますが、その向こう側の事情についても人任せだけではなく自分でも考える必要はあると思います。個人的にはできれば原子力発電はない方が良いと思いますが、現状では今回の事を教訓にして安全性を高める方法を考えてまた再開して欲しいと思います。

 関係ないと思うなら一度、家のメインブレーカーを落として1日過ごしてみると良いでしょう。それだけでいかに電気に依存して生活しているかが分かると思います。それが何日続いても問題ないと思うのなら原発に反対する資格はあるでしょう。

■思いやりを持ってできることをやろう

 原発事故や計画停電で「何やっているんだ!」と思ってしまうかもしれませんが、最前線で早く何とかしようと思って頑張っている人はかなりたくさんいます。政府にしろ電力会社にしろ批判はまず後回しにしましょう。それは復興が軌道に乗り始めてからで良いと思います。今はとにかくできる人ができることを、その時の最善の方法で行って支援すればいいと思います。

 先ほども書きましたが、被害がなくても、いや被害がないならなおさらコンセントの向こうや電話線の向こう、道の先で頑張っている人達に対して感謝をすべきです。その上で直接助けられる機会があれば現地で頑張ればいいですし、そうでなければやれる範囲で構わないと思います。変に自粛ムードだけになってしまうと経済活動も停滞してしまい、それこそ復興どころではなくなってしまうかもしれません(大げさですが)。

 パソコンでプログラムを組んでいると何となく数人のグループや1人で仕事をしている気になってしまいますが、今最前線で頑張っている人がいるからこそわれわれITエンジニアは不自由なく仕事ができるんだと改めて実感します。

 最後に震災により、亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様やそのご家族の方々に対しまして、心よりお見舞い申し上げます。

Comment(1)

コメント

けい

電話について補足します。ISDN もメタル線を使うので停電時でも局給電があり、ユーザ側で停電用電話機か電池稼働のできる TA があれば問題なく使えます。
多機能電話についても、コードレス留守番電話であれば、ほとんどの機種が親機での通話は可能です。FAX電話機になると、停電時に使えないものが多くなりますが…

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