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小説「あるエンジニアのクリスマス・キャロル」(5)

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 矢崎は、いつの間にか、自分の部屋へ戻っていたことに気づいた。

 「生きてる……。生きてるぞ。俺は生きてるぞ!」

 矢崎は嬉しくなった。

 ふと、窓の外を観ると、空が明るかった。気がつけば朝になっていたようである。

 矢崎は慌てて部屋のテレビをつけた。テレビからちょうどいいタイミングで時報が聴こえてきた。

 「おはようございます。12月24日金曜日。クリスマス・イヴの朝です」

 テレビに映るアナウンサーがそう話していた。

 「そうか、クリスマス・イヴか……。クリスマスだ! やった、クリスマスだ!!」

 矢崎は心も体も軽くなった。とにかく、嬉しくて仕方なかった。

☆★☆

 「おはようございます!!」

 矢崎は元気よく挨拶をし、オフィスに入っていった。周囲の人たちが驚いていた。無理もない。いつもならムスッとして出社してきている人が急にハッピーな声で挨拶してきたのだから。

 「せっかくのクリスマスですから、皆さん今日は頑張って定時で帰りましょう!」

 矢崎がそう叫んだ。何人かの社員が「矢崎さんが壊れた!」と、逆に恐怖を感じていた。

 矢崎は自分の席に座ると、まず電話に手を伸ばした。電話をかけた先は、倉木だった。

 「はい、もしもし」

 「あ、もしもし、矢崎ですけど」

 「あ、お疲れさまです! 朝から何かトラブルがありましたか?」

 「いや、そういうんじゃないんだ。先日の俺の言動を……謝りたくてな。ごめんな、クリスマスだからって休もうとしやがってとか言っちゃって」

 「いえ、そんなの気にしてないです。逆に自分の方が申しわけなくて」

 「気にすることはないよ。今日は家族水入らずで1日を楽しみなさい。良いクリスマスを!」

 「ありがとうございます!!」

 倉木は嬉しそうな声で感謝しながら電話を切った。矢崎も、彼のその声を聴いて、更に嬉しくなった。

 「もし、まだお店でケーキか何かを買えるようだったら、ここに買って持ってきて、プロジェクトメンバーと一緒に食べようかな」

と、矢崎は思うのであった。

☆★☆

 その後、矢崎は独立してベンチャー企業を設立する。その際に福利厚生として「クリスマス休暇」という全社員がクリスマスは休暇とする制度を作る。それとは別に、私財を投げ打って毎年盛大なクリスマスパーティーを開く。その制度が有名になり、各種メディアで取り上げられるようになり、矢崎の会社は優良企業へと成長、矢崎自身も「クリスマスといえば、この方」というように有名になるのであった。

 おしまい

☆★☆

 (以下、あとがき的なもの)

 5日間にわたり、拙い文章をお読みいただき、ありがとうございました。

 タイトルで分かる方もいらっしゃると思いますが、ディケンズ作「クリスマス・キャロル」の二次創作です。この小説の二次創作を作ることを通じて、IT業界に入ろうと思ったきっかけを思い出したくなった、というか初心に返ろうと思いました。ただ、思いついたのが16日の木曜日だったので、仕事は仕事でちゃんとしつつ、プライベートな時間で「ディズニーのクリスマス・キャロル」のDVDを観て参考にして、今回の小説を書いていくのは時間との勝負でした(苦笑)。もっと時間があれば、更に原作に忠実に、且つ、もう少しはしっかりした文章で書けたかもしれません。その点は反省しております。

 また、登場人物の名前については、原作の人物名に近い日本人の苗字・名前を当てはめたつもりです。矢崎の苗字については、ローマ字表記にすると「a」「z」「k」が順番に入ってて……って、そんな小ネタはどうでもいいですね(笑)。

 というわけで、エンジニアの皆様がよいクリスマスを過ごせることをお祈りしつつ、あとがきとさせていただきます。ありがとうございました!

Comment(1)

コメント

私もクリスマスイブ(本日ですね)を早く帰れるよう、この時間まで資料作成中です。

私の上司もクリスマスイブくらいは早く帰らせろ!!と水曜に怒鳴っておりましたが、自分のことだけか~い、と説得力のない怒号にヤレヤレと私たち下っ端には思ってました。

私にもクリスマスイブがあるのになぁ。と。

逆に考えれば、仕事さえ終わらせれば帰っても問題ないととらえ、なんとか26時までには仕上げて明日に備えたいと思います。

まぁ、だったらこのコラムを読むなともいわれるかもしれませんが、深夜に黙々と作業をしているときには、このような息抜きも必要なわけで。笑

それではみなさん、メリークリスマス!イブ♪

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