入社年数別に、SE達のリアルな生態を綴ります。

SEの『ゆりかごから墓場まで』観察日記 総集編

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 SEの「ゆりかごから墓場まで」ひととおり経験した筆者が、実体験に基づき、SEという職種の生態を赤裸々につづります。

 当記事では、SEでない人にも分かりやすくするため、ライフサイクル(乳児期、幼児期、学童期、青年期、成人期、老年期)になぞらえて、各フェイズにおけるSEたちの実態を紹介しています。

 誤解のないように補足しておきますが、すべての会社、すべてのSEがこうだと言うものではありません。あくまで、筆者の個人的な見解であり、一個人の体験談としてお楽しみいただければと思います。

1 乳児期(入社~研修)

 マインドもスキルも学生レベル。文系出身者、ITリテラシーゼロの者も少なからずいるが、理系出身者であってもITスキルは誤差レベルであり油断しているとすぐに追い抜かれる。この研修期間で、JavaやSQLなどの基本スキル(基本情報処理技術者レベル)を学び、MVCやデザインパターン等などシステム構築実習で実践し、習得した気分になる。

2 幼児期(入社1年目)

 初めて、本物のプロジェクトに配属される。まだSEとしてはよちよち歩きで、到底自立しているとは言い難い状態。プロジェクトによってフェイズ(要件定義/基本設計/詳細設計/開発・単体テスト/結合テスト/総合テスト/運用保守)が異なり、またプロジェクト規模も大小さまざま。

 実は、ここが今後のSEとしてのキャリアパスの最大の分かれ道となるが、新人SEに選ぶ権利などなく、大多数は自動的に「人が足りない、新人でもいいから欲しい」プロジェクトに配属されることになる。

 「人が足りなくて新人でも欲しい」プロジェクトというのはイコール「人海戦術で乗り切ろう!」系であり、フェイズとしては結合テスト、総合テストである場合が多い。通称「モンキーテスト」と呼ばれる、その名の通り猿でもできるテスト(ひたすら画面を打鍵するなど)を長い場合は1年以上やり続けることになる。

 加えて、「人が足りない」プロジェクトはスケジュールがすでに遅延していたり、かなりタイトに引かれていることが多く、そうなると研修から出たばかりの新人では到底こなせないボリュームの仕事が与えられる。結果、いきなり残業月平均100時間を達成することになる。単調で、これといったスキル面での成長もなく、残業当たり前という働き方に絶望し、ここで離脱する新卒は大体全体の3割くらいか。

 テストではなく、設計や開発フェイズに配属された場合、画面チーム、バッチチーム、帳票チームと、何をするチームなのか意味も分からず振り分けられる。ここでも新人研修での成績が考慮されている。運が良ければバッチチームのDB担当の雑用係として可愛がってもらいながら専門家を目指す道が開けることもあるが、ほとんどは画面か帳票のアプリ開発に回される。

 チームリーダーに説明を受け、言われたことを言われた通りに、ひたすら愚直にやろうとするが、成果が出ることはほとんどない。自分が1機能作る間に、周囲の先輩達は5機能作るみたいな環境で耐え難いプレッシャーと無力感を味わうことになる。

 ちなみに、先輩に助けてもらおうにも、自分が何をしようとしているのか理解していないので質問すらできない。質問できるようになっても、そもそも単語を知らないので先輩の説明の半分も理解できない。

 結局、研修で刷り込まれたTry and Errorを繰り返す精神で、ひたすら愚直に頑張る。センスがあると、3~4カ月くらいでペースをつかんでくる。本物のコーディング規約の厳格さや、先輩のコードの美しさに触れ、喜びを見出す者も出始める。

 研修で好成績を収めた一握りの成績上位者は、最初から飛び道具技術部隊の専門家チームに配属され、その後は安定して優遇される。

3 学童期(入社2年目)

 自分が大きなシステムの中のどの部分を作っているのか、何となく分かるようになる。このあたりから、設計が固る前に開発するなどの無駄な動きが減ってきて、(先輩と同じとまではいかなくても)格段にペースアップする。なぜなら、同じことの繰り返しだから。

 ようやくプロジェクトの戦力として「先輩に恩返し」するために必死で頑張る。後輩も入ってきて、OJT担当になり、人に教えることで自分の至らない点に気付いたりと、安定した成長期に入る。

4 青年期(入社3年目)

 SEとしての進路がほぼ確定するのは、この時期と言っていいだろう。技術専門家になるか、客先に出て顧客折衝をやるか、プロジェクトの中で一歯車として年々過酷になる激務にひたすら耐え続けるか。

 分かれ道は3つ。

 ここまでの2年ないし3年間で実力を発揮できたもの、認められたものはAかBに進むことができる。

【タイプA】

 自分の得意とする技術領域を見つけ、専門家の道を歩み始める。

 例)Oracleスペシャリスト、アプリの共通部品を作るJavaスペシャリスト、ネットワークスペシャリスト、基盤(ハードウェア)担当 etc...)

【タイプB】

 客先で仕様検討をしたり、リーダーシップを買われ開発リーダーを任され始める。自らも開発しながらチームを管理するなど基本的な技術力もある。要領がよく、人気者であることが多い。

【タイプC】

 スキル面、コミュニケーション面、共に今一歩。2年目とほぼ同じ仕事を、少し速くこなせる。社内のSEの8割はこのタイプで、年齢を重ねるごとに将来への不安が大きくなる。第二新卒として転職できる年齢の限界であるためか、このあたりで一気に離職率が上がる。辞めてどうなるのかは神のみぞ知る。

5 成人期(入社4年目)

 タイプA、Bは入社4年目以降もある程度の期間「成人期」が続く。タイプCは入社4年目の1年間で「成人期」を終える。

【タイプA】

 技術専門家として方々のプロジェクトから引っ張りダコ状態。最先端技術を学んで独自システムを構築したり、プロジェクトのアプリチームに技術指導をしたりする。

 その後は、順当に技術者としてのスキルを高めていき、資格を取ったり趣味でアプリ開発したり技術者同士でセミナーに出かけたりと、楽しそうに過ごしている。スキルの高さに比例して代わりの人材が少なくなるため、比較的自由な働き方に移行し始める。好きな時に来て夕方くらいにフラリと帰っていくが、やることはやっているし、何より機嫌を損ねて辞められる困るのでそれに対して文句を言う人間はいない。

【タイプB】

 プレイングマネージャとして成長。スケジュールを決めたり、人の配属を決めたり客の期待値コントロールをしたり。

 その後は徐々に上流工程(要件定義、基本設計)の仕事が増え始め、名実ともにSEから上級SEに変わる。顧客と金額の話をしたり、営業に行って契約を勝ち取ってくるなど、外出が多いのも特徴。技術力は「基本的なことは分かるし自分でも作れる」程度であることが多い。

【タイプC】

 タイプAほどではないが、少なくともIT技術者である自分に納得して働く「普通のSE」と、生活のためだけに我慢して働き続ける「くされSE」の二極化が起こり始める。

 普通のSEは、そのままゆっくりと、リーダーになったりスペシャリストになったりと地道に昇格、昇給していく。

 AやBのように開花する日を夢見て、ひたすら地道に頑張り続ける。残業月平均200時間を超える者も出始めるが、ここまで残ってきた我慢強さを最大限に発揮し、倒れるまで命を削り続ける。ただ頑張りすぎるせいか、外見もタイプAやBの10倍くらいのスピードで老け込んでいく。机の上に、箱買いしたエナジードリンクをこれ見よがしに置いているのが特徴。

 くされSEの場合、研修を出たばかりの後輩に抜かれる者も出始め、いよいよモチベーションは下がり、「このままでいいのか?」という焦りと不安はもはや破裂寸前まで膨らんでいる。が、ひたすら2年目と同じ作業を繰り返し、それを安定と呼び、今後のことは考えないようにする現実逃避型が大多数、という印象。ひたすらハードワークに埋もれ、先の見えないキャリアパスから目をそらす。

 このくらいの時期から、過酷なハードワークによるストレスのためか、薄毛、過食による肥満に悩む男性社員が続出。最近では新型うつ病などで離脱し、社会復帰がままならなくなる者もいるらしい。

 中には「このままじゃダメだっ!」と、発作的に別の業界に飛び出していく者も現れ始めるが、どっちが正解かは筆者には判断できない。たぶんどっちも不正解だろう。

6 老年期

 タイプA、Bは数年~数十年間、第一線で成人期を過ごしてから老年期を迎える。タイプCの場合、だいたい入社5年目でこの老年期、つまりSEとしての寿命を迎える。

 老年期を迎えたSEが最終的に落ち着くのが、システムの運用保守担当である。運用保守するシステムは他人もしくは他社が開発したものであることが一般的であるため、業務には通常の開発よりも幅広く深い専門知識が必要になる。

 しかし、優秀な社員は最先端のプロジェクトで活躍するのに忙しく、運用保守をやりたがらないケースが多い。だが、誰かがやらなければいけない。そのため運用保守担当には、自然とプロジェクトに配属されなかった「余った社員」があてがわれることになる。加えて、彼らだけで運用保守など不可能なため、金にものを言わせて「優秀な契約社員」を雇わざるを得なくなる。

 この「優秀な契約社員」の正体は、もともとタイプA、Bとして活躍していたSEたちだ。

 彼らはある程度の年齢に達すると、超多忙な第一線を退き、運用保守で安定した余生を送るフェイズに移行する。自らのスキルを武器にとっくに独立しており、契約社員として高額の報酬をもらいながら気ままに働き先を転々とする。運用保守案件は、自ら営業をかけなくてもプロジェクトがリリースされる度に自動的に増えていくため、ビジネスモデルとしても非常に安定しており、余生を過ごすにはもってこいの場と言える。

 こうして運用保守チームは、老年期のSEが「優秀な契約社員」としてスローライフを実現する場であると同時に、「余った」社員が寿命を全うする場になっていることが多い。

 平均年齢が普通のプロジェクトに比べてやや高いのは説明するまでもないだろう。できない社員とできる契約社員、という力と立場の完全な逆転現象が起こり、なんとも不思議な人間模様になっていることも。

 最後に、もう一度。この記事はあくまで筆者の体験に基づいたものであり、すべてのSEに当てはまるものではありません。そういう会社もあるのだな、くらいに思っていただければ幸いです。

Comment(1)

コメント

go

私も新規システムの開発現場で、順調・スマートなところ見たことないですね。
なんでこれほど属人的な仕事なんでしょうね。

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