攻撃に対して「ハックされにくい人間」に

AI時代にこそ、サイバー判断力を磨く「お稽古」を

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AIに尋ねれば、答えがすぐに返ってくる。難しい文章をかみ砕いてもらうことも、不審なメールの怪しい点を挙げてもらうこともできる。その便利さを享受しながら、私たちは一つの問いを持っておきたい。AIの助けを借りて正解できることと、自分で考えて判断できることは、同じなのだろうか。

2026年に公表された中国の中高生を対象とする研究報告は、この問いを考える手がかりになる。研究者は、中国中部のある県の生徒26,811人について、30か月分の学習記録を分析した。生成AIの利用開始後、宿題の点数が上がり、所要時間が短くなる一方、資料を見ずに受ける月例試験の点数は下がったと報告している。宿題をうまく仕上げられることと、学んだ内容が本人の力になることの間に、食い違いが見られたのである。

これは一地域の記録を比較・分析した研究であり、すべての子どもやAIの使い方に同じ結果が当てはまるとは限らない。査読状況も本稿では確認できていないため、確立した結論として扱うことは避けたい。それでも、提出物の出来だけで本人の理解を判断してよいのか、という問いは残る。

この問いを、セキュリティ教育にも向けてみたい。ここからは、研究結果そのものではなく、それを手がかりとする提案である。

たとえば、フィッシングメールを見分ける訓練を考えてみよう。模擬メールを毎回AIに見せ、「これは詐欺ですか」と尋ね、その判定を回答すれば、高得点を取れるかもしれない。しかし、本人が何を確認すべきか理解していなければ、AIを使えないときや、AIが判断を誤ったときに対応できるだろうか。訓練で正解したという結果だけでは、危険に気づく力が育ったかどうかは分からない。

この問題を考える視点を与えてくれるのが、デジタル技術と人の心理や行動の関係を扱うサイバー心理学である。

たとえば「認知負荷理論」は、人が一度に頭の中で扱える情報には限りがあると考える。初心者に専門用語や確認項目を一度に大量に示せば、何から見ればよいのか分からなくなるだろう。AIが説明を整理し、一つずつ確認を促せば、理解の負担を軽くできる可能性がある。

ただし、説明を分かりやすくすることと、本人が考える過程まで省くことは、区別する必要がある。「これは詐欺です」と結論を渡すだけでは、その人がどこを見落としていたかは分からない。「表示されている会社名と、送信元のメールアドレスを比べてみましょう」と促せば、自分で確かめる機会をつくれる。

AIへの信頼にも、人の心理が関係する。「メディア等式理論」は、人がコンピューターなどにも、人と接するときのような社会的反応を示すことを説明する。これを対話型AIに当てはめると、親しみやすく、自信のある口調で返される説明に、利用者が安心感を抱く可能性を考えられる。

しかし、説明が丁寧であることと、判断が正しいことは別である。AIが「安全です」と答えたときにも、何を根拠にしたのか、確認できていないことはないかを考える必要がある。流ちょうな言葉に納得するだけで、確かめる手を止めてしまわないようにしたい。

だからこそ、サイバー判断力を磨く「お稽古」が大切になってくるのではないだろうか。

お稽古とは、知識を一度聞いて終わることではない。小さな実践と振り返りを重ね、必要な場面で使えるようにしていくことである。

模擬メールを使い、まず自分で怪しい点と、その理由を挙げる。次にAIの説明と比べ、見落としや思い込みを確かめる。最後に、別のメールをAIなしで判断し、自分の言葉で理由を説明する。正解か不正解かに加えて、何を見て、どう考えたかを振り返る。こうした練習なら、AIを活用しながら、本人の理解も確かめられる。

自分で選ぶことや、できるようになったと感じることを重視する「自己決定理論」も、この提案を考える手がかりになる。AIの判定を受け取るだけでなく、自分で気づき、確かめ、判断する。その経験を積むことが、「次も自分で確認してみよう」という姿勢につながるかもしれない。もっとも、これらの理論が、このお稽古の効果を直接証明しているわけではない。実践したあとに、初めて見る事例でも判断できるかを確かめ、練習方法を見直していく必要がある。

また、自分で判断することは、一人で解決することではない。実際に不審なメールが届いたときには、操作を止め、組織の窓口や信頼できる相手に確認することが優先される。自分だけでは判断できないと気づき、助けを求めることも、大切な判断である。

目指したいのは、自分の足で立ち、歩き、考え、答えを出せることである。そのうえで、必要なときには自分の判断でAIの力を借りる。何を任せ、何を自分で確かめ、いつ人に相談するのかを選ぶ。AIの答えをうのみにせず、適切に、ほどよく利用する。その加減も、お稽古を通じて身につけていくものだろう。

AIが身近になるほど、答えを得る速さだけでは測れない力が重要になる。立ち止まる力、根拠を確かめる力、分からないと言える力。サイバー判断力を磨くお稽古を、子どもにも大人にも、日々の学びとして取り入れていきたい。

Reference - https://cepr.org/voxeu/columns/generative-ai-learning-penalty-secondary-school

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