テストエンジニア時代の悲喜こもごもが今のわたしを作った

「WACATE 2010 冬」参加レポート(その3)――自分のスキル、適切に評価できてますか

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 こんにちは、第3バイオリンです。

 新年あけましておめでとうございます。2011年もよろしくお願いします。

 年明け最初のコラムは去年からの続き「WACATE 2010 冬」の参加レポートです。今回は、2日目のセッションの内容をお伝えします。

■テストと海外とワタシ

 ガイオ・テクノロジー(株)の大西 建児さんのセッションです。

 大西さんは自社のテストツールの普及、ソフトウェア品質改善コンサルタントとして働くかたわら、ソフトウェアテストの専門書の執筆・翻訳をしたり、ソフトウェアテストの国際組織「ISTQB」の会議に出席したりと、国内外を問わず多方面でご活躍されています。

 そんな大西さんが、どうしてソフトウェアテストの第一線で活躍するようになったのか、世界に羽ばたけるようになったのか、WACATE参加者に勇気を与えるべく、これまでの経験を語ってくださいました。

 大西さんは、最初からテストの仕事がしたかったわけではありませんでした。新人だった大西さんは、オフィスで颯爽と働くSEに憧れていたそうです(当時、SEは花形職業でした)。ところが、実際に配属されたのは工場の品質保証部門という、希望とは異なる部署でした。

 当時のテストはホワイトボックステストとブラックボックステストのみで、「合格か、不合格か」だけを判定するスタイルでした。テスト対象がテストベースどおりに動いているかどうか人海戦術でチェックし、システムを知らないユーザーが変な操作をしても壊れないかどうか確認するために適当にボタンを押してみる、まさに「3K(気合、根性、勘)」の世界でした。

 大西さんは新人だったこともあり、割り当てられたのは単純作業ばかりのテストでした。はじめは正直つまらない仕事だと思っていた大西さんですが、それでも経験を積み、仕様書を読みまくっているうちにスキルを身につけていきました。

 このときの経験から、大西さんは「図々しくても教えを乞うこと。自分がわからないことが何かを知るのが大事」と語りました。また、技術的なスキルだけでなく、厳しい上司やお客様とのやりとりを通して、コミュニケーション力を身につけていったのもこの時期だそうです。

 そんな大西さんでしたが、自分が作っているシステムについて英語で説明を求められたものの、英語ができないばかりにうまく説明ができなかったという苦い経験を味わいました。このとき「英語を勉強したい!」と強く思った大西さんは、外資系企業に転職しました。

 しかし入社初日にいきなり英語で本社にメールを出すはめになり、周囲からも外資系企業なのだからそのぐらいはひとりでできないと困ると突き放されてしまいます。大西さんはそれからひたすら英語を猛勉強しました。「人間、追い込まれたら何とかなる。生活がかかっていればなおさら」と大西さんは語りました。猛勉強の甲斐あって、転職して2年ほどで英語にも自信が持てるようになったそうです。

 そして大西さんに再び転機が訪れます。自己流のテストだけでなく、外の世界にも目を向けるべきだと思っていた大西さんはソフトウェアテストのコミュニティ「テスト技術者交流会(TEF)」に入ります。そこで海外のテスト専門書の翻訳プロジェクトに携わったり、ソフトウェアテストのカンファレンス「JaSST」や、日本におけるソフトウェアテスト技術者資格認定の運営組織「JSTQB」の立ち上げに携わったりしました。

 そのような活動を通して国内外のテスト業界の有名人と交流し、テストのトレンドを肌で感じてきました。その経験から、大西さんはこれからのテスト業界を担うわたしたち若手の技術者に次のようなことを伝えてくれました。

 技術は常に進歩します。それに伴い、今までの常識では考えられないようなものがわたしたちの日常生活に入り込んできます。例えば、手を触れなくても頭で思うだけで自在にコントロールできる装置、といったものです。では、そのようなものはどうやってテストすればよいのでしょうか。具体的な方法は今後のお楽しみですが、確実に言えることは今までの常識では考えられないようなテストが求められるということです。技術の発展に伴い、新しいテスト方法を考えていく。そういう意味ではこれからますますテストエンジニアが活躍できる時代がやってくるのです。

 また、これからは日本国内だけで、日本人だけを相手にして仕事をするのは不可能になるでしょう。外国で働く、外国人と一緒に働くには英語力はもちろん、度胸や慣れも必要です。しかし大西さんは、まずは日本語、日本の文化をしっかり勉強してほしい。外国人は必ず日本のことを質問してくるので、それに答えられるようにすること、でも本当に一番大切なことは、伝えたいという気持ちであることと語りました。

 大西さんのお話を聞いて、テストという仕事にはまだまだ可能性がたくさんあること、テストエンジニアが活躍できるフィールドはまだまだ広げることができると感じることができました。本当にワクワクするようなお話で、勇気をたくさんいただきました。

■ワークショップ「技法の必要性を考えてみる」

 電気通信大学大学院の河野 哲也さんのセッションです。

 ワークショップでは、事前に予習のポイントが知らされるものですが、このセッションのポイントはただひとつ「予習はしないでください」それだけでした。まさに異例の予告です。

 テストにはさまざまな技法があります。まず、演習を通して技法の必要性について考えてみることになりました。

 河野さんは参加者に、ある文章が印刷された用紙を配りました。そして「この文章からひらがなの『の』の字を探してカウントしてください」という指示が出ました。各参加者が制限時間内にカウントした数を班ごとにまとめ、グラフ化しました。人によって、そして班によってけっこうバラつきがありました。

 河野さんは「これは人間の信頼性テストです。同じ資料を見て、同じ文字をカウントしてもらったのに結果を見るとみごとにバラバラです。人間というものが、意外と当てにならないということがおわかりになったと思います。技法の目的は、人によるバラつきをなくすことです」とコメントしました。

 技法の目的を体感したあとで、「ある資料に出てくる特定の文字を個人でカウントする」テストの技法を班ごとに考えるワークショップに移りました。さっそく班のメンバーでアイデアを出し合い、技法を考えてみました。

 その後で別の資料が配られて、自分たちで考えた技法を使ってみました。技法を使えば、最初よりは精度が上がると思ったのですが、私も含めて途中で時間が足りなくなって、最後までカウントできない人が続出しました。このワークショップで、いくら技法があっても、個人の作業では限界があることもわかりました。

 そこで次は「チームでカウントする」テストの技法を考えることになりました。このときは単純に文字をカウントするだけでなく、チームでレビュー、検算できる仕組みも一緒に盛り込みました。その技法を使ってみると、テストの精度が格段に上がりました。

 しかし、技法は応用がきかなくてはいけません。また、技法を作った人だけでなく、他の人も使えないといけません。というわけで同じ技法を使って、文章ではなく路線図から特定の漢字を探し出したり、他の班と技法を交換して、英文ドキュメントから特定の文字を探し出したりしました。テスト対象や使用する技法が変わっても、高い精度をキープすることができました。

 自分で技法の必要性を考え、技法を考えて作り出したことにより、技法について必要以上に難しく考えることはないということに気がついたセッションでした。今までは、既存の技法をいかに業務に応用するかを考えていましたが、既存の技法のなかに自分がやりたいことを実現できるものがなければ、いっそのこと自分で技法を作り出してもかまわないわけです。これはちょっとしたパラダイムシフトでした。

■Test.SSFセッション「温己知進・自分を知って進もう - Test.SSF セッション」

 WACATE実行委員の小山 竜治さんのセッションです。

 Test.SSFとは、JaSST’10 Tokyoで発表された「テストスキル標準」のことです(詳細はこちらのPDF資料をどうぞ)。ソフトウェアテストのスキルを可視化し、テストエンジニアの育成に役立てるために考案されました。

 このセッションでは、Test.SSFに基づいて自分のスキルを定量化し、「己を知る」ことがテーマでした。

 まず班ごとに入力用のファイルが配られました。各自がそこに記載されている、テストについてのタスクについて、どの程度のレベルでこなすことができるのか(指導を受けながらできる、自力でできるetc.)数値を記入し、グラフ化しました。そして各自のグラフをもとに、班のメンバーでディスカッションを行いました。

 わたしも自分のスキルについて自分が思ったとおりに入力しましたが、同じ班のメンバーと比較してあまりに低い結果が出て、少しだけへこみました。具体的なことはここでは言えませんが、他のメンバーが「嘘だ、いくら何でもそこまで低くはないだろう」と口をそろえて言うほどでした。

 班のメンバーとのディスカッションを通して、わたしはなぜそんなに低い数値をつけたのかを説明しました。

 これまでのわたしのコラムをごらんになっている読者の皆さんは、わたしがテストリーダーとして働いていたことをご存知かと思います。しかし、実を言うと今のわたしはテストリーダーとしての仕事はしていないのです。わたしがリーダーを務めていた案件は事情があって別の案件と統合されることになり、わたしとは別の人がリーダーを務めることになりました。つまり、わたしはテスターに降格してしまったのです。

 案件が統合されたことも、別の人がリーダーになったことも会社や部署の方針であり、わたしが何とかできることではありません。もちろん、わたし自身のスキル不足も理由のひとつとしてあるでしょうが、それだけではないと思います。それでも、この話が決まったときには「わたしって、そんなに使えないの? リーダーとしての資質がないってことなの?」と落ち込んでしまいました。自分はダメだと決め付けて腐っていたともいえます。

 しかしディスカッションを通して、今リーダーでなくなったからといって、リーダーとしてのタスクをこなせないわけではないということに気が付きました。短い間でしたが、リーダーとしての仕事、プロジェクト管理や自分の判断で仕事を進めることは実際にやっていたのですから。

 このセッションを通して、今のわたしに本当に必要なスキルは、過大評価も過小評価もせずに「自分のスキルを適切に評価するスキル」だと気が付きました。

◇ ◇ ◇

 実はこの後クロージングセッションがあるのですが、長くなりましたので次回にお届けします。次回はいよいよレポート完結編です。

Comment(2)

コメント

Anubis

西の果てからこんにちは。

いろんなイベント参加して、楽しそうです。
なんか、テストって奥が深そうですね。

ちょっと勉強してみたくなってきた。

第3バイオリン

Anubisさん

コメントありがとうございます。

>なんか、テストって奥が深そうですね。

WACATEのようなワークショップに参加すると、
いろいろな気づきがあって、本当に楽しいです。

>ちょっと勉強してみたくなってきた。

ぜひぜひ!
大きい本屋さんの技術書コーナーに行くと、テスト関連の本のコーナーがあったりしますので。
(コーナーといっても、開発系技術の専門書に比べると圧倒的に小さいのが何ともいえないところですが)

WACATEのような合宿形式のワークショップのほかにも
本文中に登場した「JaSST」のようなカンファレンスも存在します。

JaSSTは今月東京で開催されますが、関西でも開催されますし、
Webサイトには過去の発表資料が保管されていて、自由に閲覧できますので、こちらもご興味があればぜひ。

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