テストエンジニア時代の悲喜こもごもが今のわたしを作った

朝ドラ「ひよっこ」に見る、夢とか成長とかいう言葉がしんどいときの処方箋

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 こんにちは、第3バイオリンです。

 わたしはNHKの朝ドラが大好きです。現在放送中の「ひよっこ」も、毎朝楽しみに見ています。毎日を懸命に生きるヒロインに、かつての自分自身や娘の未来の姿を重ねて笑ったり泣いたりと朝から忙しいものです。

 そんな折、次のような記事を読みました。

50年間、朝ドラを見てきた私が断言したい「『ひよっこ』はスゴい」

 この記事を読んで、仕事や働くことについてわたしが考えていたことをズバリと言い当てられたような気がしました。今回は、それを書きつづってみようと思います。

■「ひよっこ」とは

 「ひよっこ」は、有村架純さん演じるヒロイン「谷田部みね子」が、集団就職で東京に出てきて、仕事や人々との出会いを通して少しずつ成長していくお話です。

 みね子は、茨城の田舎出身の女の子。高校を卒業したら実家の農業を手伝うつもりでしたが、東京に出稼ぎに出ていた父親が行方不明になったことで運命が変わります。みね子は、父親を捜すため、家計を支えるために上京し、トランジスタラジオの工場に就職します。

 6月に入り、ドラマは新展開を迎えました。みね子が勤める工場は倒産し、寮で一緒に暮らした仲間たちもそれぞれ新しい仕事を見つけ、旅立っていきます。みね子は行きつけの洋食屋で働かせてもらえることになり、店の裏手にあるアパートに引っ越します。洋食屋がある赤坂の商店街の人たちにアパートの住人といった新キャラも次々登場し、物語が大きく動き出すこれからが楽しみです。

■普通の人の、普通の暮らし

 朝ドラのストーリーでよくあるのは「戦前から戦後にかけて、苦労しながらも事業を起こす女性の一代記」または「夢を持った女の子が一生懸命、がむしゃらに頑張って夢を叶えていくお話」です。

 しかし、「ひよっこ」の時代設定は1960年代半ば。みね子は戦争を直接知らない世代です。それに、みね子には特に夢があるわけではありません。東京に出てきたのもなりゆきでそうなっただけです。みね子の親友には「女優になりたい」という夢を持って上京した子もいますが、そのような人はこのドラマでは少数派です。ほとんどの登場人物は大きな夢を持っているわけではありません。ただ、中学や高校を卒業してから就職し、実家に仕送りしつつ、ときどき小さな幸せをかみしめながら日々を生きています。

 大きな夢や野心を持っているわけではない、普通の人が地に足をつけて普通に暮らしている。それだけといえばそれだけなのですが、そんな姿に静かに感動できるドラマです。

■夢ってどうしても必要?成長って常にし続けないといけないの?

 「ひよっこ」を見ながら、ふと、わたしは自分が就職したころのこと、仕事をしていたころのことを思い出しました。わたしが就職したころは、今ほど働くことに対して「意味」とか「成長」とか求められる時代ではありませんでした。それでも、就職に関する書籍には「自己分析をして自分に向き合おう」「自分がこれまでやってきたことから、本当にやりたいことを見つけよう」「自分の強みと弱みを知ろう」という言葉が躍っていました。当時のわたしはそれを見るたびに辟易していました。

 わたしの大学の成績は普通で、大学院でもなかなか研究論文がまとまらず、ようやく学会発表できたのは修了直前の3月になってからでした。勉強以外でも、例えばサークル活動で大会やコンクールなどに出場した経験もないし、人よりも秀でた一芸もありませんでした。

 そんなわたしが、やりたいことや自分の強みと言われても「別にそんなものない。でも、それがなければ働くことすらできないのか。勘弁してくれ」としか思いませんでした。内定が出るのも周りより遅かったので、なおさら追い詰められていたのかもしれません。エンジニアという仕事を選んだのも、興味があったからというのもありますが、情報系の学部で、先輩も友達もほとんどがその道を選んでいたから、というのもあります。

 ようやくエンジニアとして働きだしてからも、悩みは形を変えてやってきました。

 エンジニアとして自分には何ができるのか、どうありたいのか。メディアに登場するスーパーエンジニアに憧れつつも、自分はそこまでの器ではないということにも早々に気が付いて、やれエンジニアとしての市場価値だ、他のエンジニアにはない自分だけの売りは何だ、とかいう言葉に「正直しんどい」と思うことがしょっちゅうでした。

 仕事に夢とか働く意味とか絶対に必要なのか、成長ってずっとし続けないといけないのか、それができなかったら仕事人としてはダメなのか。エンジニアとして働いている間、これらの悩みは心のどこかにずっと引っ掛かっていたような気がします。

■夢とか成長とか、あればそれに越したことはないけれど

 エンジニアを引退したいま、わたしは相変わらず夢らしい夢もなく(今の望みは、娘の成長を見届けたい、くらいかな)、成長らしい成長もせず(せいぜい身体が横方向に成長したくらい)、日々を生きています。それでも、なんとか生きていけるというのはありがたい限りです。

 エンジニアという職業は(他の職業でもそうですが)新しい技術を学ばないと仕事にならないので「成長できないならしなくてもいい」とはさすがに言えません。

 ただ、夢を持てない自分、成長していない(成長している実感がない)自分は他の人より劣っていると悩んでいる人がいれば、そこまで自分を卑下することはないと言いたいです。大きな夢を持てなくても、成長できてないと思ってもいいのです。大きな夢はなくてもいいし、成長していないと思っていてもちゃんと成長しています。ただ、自分の思った方向やスピードと違うから気づいていないだけです。

 もちろん、大きな夢がある人、自分がガンガン成長できる環境に身を置いている人はそのままでいいと思います。また、「夢を持ちたい」「今よりもっと成長したい」と思っている人に「そんなのしんどいからやめとけ」とは言いません。

 でも、「夢」とか「成長」とかいう言葉がしんどい、今はそんなの聞きたくないし考えたくないと思うことがあったら、どうかその気持ちを否定しないでください。しんどいと思ってしまう自分を否定しないでください。

 「ひよっこ」を見ていると、大きな夢を持たなくても生きていくことはできるし、成長しなければと焦らなくてもちゃんと成長しているんだよな、と、なんだか安心する次第です。

Comment(7)

コメント

山無駄

自分自身の就職動機を振り返っても「夢」とか「希望」とか「成長」なんてかっこよいものは
何もなく、ただ地元にいたくないからという動機だけで、小さなソフトハウスを見つけて就
職しました。学生時代は研究でプログラミングをやっていましたが、正直、プログラムの世界
も興味の対象ではありませんでした。それなのに、ソフトハウスを選択したのは、ただ、当時、
訳の分からない横文字の職業がかっこよさげに見えたにすぎません。
そんな不純な動機での就職でしたので、職場にも職種にもなじめず、3年我慢して転職したい
なとまで考えていたのですが、結局20年経った今でも同じ職場で働いております。
今さらながら考えてみると、いろいろな機会と人との出会いについては恵まれていたと感じます。
当時の社長が下請けソフトハウスから業態変化を目指し、大手祖父会社の大規模システム開発PJ
を仕込んでいた時期でしたから。そのため、大手企業の偉い方や、ベンチャーの社長、大学の
先生、オラクルを初めて日本に伝えた方など、いろいろな人と出会う機会があり、中にはひそか
に心の師匠と慕う方もできました。そうすると、おのずと仕事に対する動機やモチベーションも
できはじめ、気が付くと20年経っていたように感じます。
確かに高校入学時から医者になることを志し、その夢をかなえている同級生もいますが、一度
も経験したこともない職場や職種に関して「夢」や「成長」を持てる人など、どれくらいいる
のかと思います。ただ今はSNSの時代で、ネットを覗けばリア充アピールが氾濫し、「夢」や
「成長」に満ち溢れています。そのリアルとネットの世界のギャップに焦燥感や劣等感をもっ
てしまう気持ちもわかりはしますが、私の様なひねくれ者は、アピールしてる奴ほど焦燥感や
劣等感にさいなまれている、と思ってしまいます。
大切なことは、自発的に「夢」や「成長」などを意識しなくとも、人との出会いや環境の変化
の中で受動的に意識するようになる、という事です。あとは、それに自分が気づくかどうか。
そして、間違ってはいけないのは、それを他人と比較することでしょう。

こんな体験談も、処方箋になるかな?

第3バイオリン

山無駄さん


コメントありがとうございます。


自分の仕事を選ぶとき「これがしたくてたまらない」と思って選ぶ人は少数派なのかもしれませんね。
社会に出たことのない高校生や大学生が仕事を選ぶ決め手なんて、なんとなくかっこいい、とか、周りがみんな同じ道に進むからなんとなく、とか、案外そんなものかもしれません。
それに家庭の事情などで選択の余地がない人もいますからね。
私の同級生でも、親が重い病気でどうしても地元を離れられない人や、
開業医の跡継ぎ息子で4浪して医学部に進んだ人がいました。


仕事を選ぶ事情はいろいろあるのに、みんなに「夢を持て、やりがいを持て」というのはナンセンスですね。


今の時代は、SNSで誰でも夢や成長をアピールできる時代ですし、
スポーツや芸能の世界では10代のうちから成功している人もたくさんいます。
若くして成功している人は話題性もあるのでメディアがどんどん取り上げるわけですが、
そういう情報ばかりが目に付くと、「自分はたいしたことない」と劣等感にさいなまれる人もいることでしょう。
その10代から成功している人は、物心つくかつかないかのうちから努力して、ときには子どもらしい生活や楽しみを犠牲にすることもあるわけですが、そういうのはあまり報道されないですね。


>大切なことは、自発的に「夢」や「成長」などを意識しなくとも、人との出会いや環境の変化
の中で受動的に意識するようになる、という事です。あとは、それに自分が気づくかどうか。


「私の前に道はない、私の後に道はある」ということですね。
最初から「夢」とか「成長」とかなくても、気が付いたら歩んできた跡ができて、その延長線上に夢があり、成長がある。
それでええやん、と思えるようになるのがいいんですよね。
とはいえ、それに気が付くのはたいていある程度年を取ってから、というのがちょっと難儀なところですね。
それだけ、自分の後ろに道ができてきた、それに気づくことができたということで良しとしましょう。

山無駄

第3バイオリンさん

高校が進学校でしたので、医学部への進学率が異様に高かったです。
でも、だからといって皆が高尚な夢を持っていたとは思えません。私立の進学校だったので
医者の息子が多かったのが、その理由だと思います。今思い返しても、どこにでもいるアホ
な男子高校生達でした。
マスコミに取り上げられるような若くて成功している子たちは、やはり、小さいころからそ
の環境にいたという事が成功の大きな理由だと思います。でも、そのような環境にいる子は
多くいるわけで、その中で突出していることは間違いないのでしょう。でも、小さい頃から
その環境に身を置いているという事は、その子たちが語る「夢」や「成長」はきっとその環
境に身を置いてからできたものだと思います。

高村光太郎も好きですが、ジョブズのスピーチも気に入っております。
「将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできません。できるのは、
後からつなぎ合わせることだけです。だから、我々はいまやっていることがいずれ人生のど
こかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない。」
最初からゴールを目指して進む人もいれば、後から振り返って、ああ、これが自分の「夢」
だったのかと気づく人もいる。あの、ジョブだってそうだったんだ。っていうのは救いです。
だから名スピーチとして刻まれるのでしょうね。

>それに気が付くのはたいていある程度年を取ってから、というのがちょっと難儀なところ
ですね。

やはり、そういう意味では「夢」や「成長」を意識するという事よりも、「夢」はぼんやり
してて分からないけど、今やっている事が将来につながる、という事を若い時から意識できる
社会の方が良いように思います。そうすれば、自己嫌悪に陥ることなく、他人を妬むことなく、
リアルな現実を見つめ、今を真摯に生きていて行けるのですから。

第3バイオリン

山無駄さん


>最初からゴールを目指して進む人もいれば、後から振り返って、ああ、これが自分の「夢」
だったのかと気づく人もいる。あの、ジョブだってそうだったんだ。っていうのは救いです。


今でも「初志貫徹」がかっこいいという風潮がありますし、それができる人は幸せだと思いますが、なかなかできない人が大半です。ある分野で成功を収めた人みんながみんな迷いなく最初に決めた道を進んだわけではない、迷いながら、ときには不本意だと思いながらもその道を進んできて結果的に成功することができた、という話を聞くと救われますね。


>そういう意味では「夢」や「成長」を意識するという事よりも、「夢」はぼんやり
してて分からないけど、今やっている事が将来につながる、という事を若い時から意識できる
社会の方が良いように思います。


そうですね。
好きで選んだ仕事でもそうでない仕事でも、今やっていることが無駄にはならないという実感があれば一番いいのかもしれませんね。
仕事は途中で変わる可能性もありますから、仕事そのものにかかわることに限らず。


「これを一生の仕事にする!」と思っていても、途中で事情が変わって異動や転職することになる場合もありますからね。スポーツ選手なら必ず「引退」があるわけですし。

のぶし

何個か前からしか見ていませんが、いままのコラムは楽しかったのですが、急に書き方というか変化があり驚きました。(私生活でなにかあったのでしょうか?)
山無駄さんとは、お付き合いされているのでしょうか?何もこういうところで、交換日記をせずに、実際にSNSでされてはいかがでしょう?
これをきっかけにご結婚されたら、それはそれで貴重かコラムですが。

第3バイオリン

のぶしさん

コメントありがとうございます。

>急に書き方というか変化があり驚きました。(私生活でなにかあったのでしょうか?)

私自身は意識していませんでしたが、エンジニアを辞めてからコラムの内容が変わった、というのはあるかもしれませんね。
辞める前まではエンジニアとして当事者目線から書いていましたが、エンジニアを辞めてからは
一歩引いた感じになったかもしれません。
進歩の速い業界ですから、一度現場から離れるとどうしても現役のエンジニアとはものの見方や価値観にずれが生じてしまうのは仕方ないかな、と思っています。

>山無駄さんとは、お付き合いされているのでしょうか?

いえ、山無駄さんとはお付き合いしていません。私は結婚していますので。
ついついコメント欄でお話が盛り上がってしまいました。
誤解を与えてしまって申し訳ないです。

山無駄

おっと。
これくらいのディスカッションで、結婚話まで発展するとは驚きでした。
山無駄は自分のもふくめて、あちこちのコラムコメントでディスカッションしているので、都度
お付き合いするとなると、大変です。今回はテーマが「夢」とか「成長」なので、誤解されたの
かな。でもこんな青臭いテーマをエンジニアライフで真面目にディスカッションするのも、意外
と大切だと思っています。悩みをもっているエンジニアはきっといるはずですから。

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