同じAIでも、私たちは違う関係を築いている 人とAIの関係を考える④
私の期待や頼り方は、どこから来ているのだろう
ある人は、AIに個人的なことを話すのは抵抗があると言います。
別の人は、人には話しにくいことも、AIには話せると言います。
ある人は、丁寧な言葉に安心する。
別の人は、その丁寧さを、少し不自然に感じる。
同じような応答でも、受け止め方は違います。
そして、その違いは、人と人の間だけにあるのでしょうか。
昨日は、じっくり問い返しながら読めた。今日は、早く答えを出してほしい。同じ説明でも、余裕のあるときと、疲れているときでは、読み方が違うかもしれません。
同じAIでも、関わる人が違う。
同じ私でも、関わるときの条件が違う。
前回は、親しく感じること、信頼すること、任せることを分けて考えました。
今回は、その関わり方の違いが、どこから生まれるのかを考えます。
「若いから」「専門家だから」で、どこまでわかるのか
AIとの関係について考えるとき、年齢、ジェンダー、文化、専門知識などに目が向きます。
それらは、大切な研究の視点です。
ただ、そこで説明が終わってしまうことには、気をつけたいと思います。
若いから、AIに慣れている。
年齢が高いから、抵抗がある。
技術者だから、適切に判断できる。
そう考えると、わかったような気持ちになります。
でも、AIを使い慣れていることと、その回答を確かめられることは、同じでしょうか。技術の仕組みを知っていることから、その人がどんな場面でも同じように判断すると言えるでしょうか。
年齢からは、その人がこれまで何を経験し、何を必要とし、何を心配しているのかまではわかりません。
属性は、その人を知る入口にはなります。でも、それだけで関係の中身までは見えません。
年齢の違いを見るとき、何を見ているのか
米国の成人を対象に、模擬的な大規模言語モデルへの反応を調べた研究では、最も若いZ世代は、ほかの世代よりも擬人化や信頼の評価が低いという結果でした。また、回答を外部で確認しようとする傾向にも、世代と扱う話題による違いが見られました。
「若いほどAIを信頼する」という一方向の説明では、捉えきれない結果です。
ただし、この研究だけで、若い人のほうが慎重だとも言えません。特定の参加者、システム、課題の中で得られた結果です。また、観察された違いが、年齢そのものによるのか、世代ごとの経験によるのかも、この比較だけでは切り分けられません。
そこから私が考えたいのは、年齢の後ろにある経験です。
どんな技術に触れてきたのか。
役に立った経験があるのか。
期待を裏切られたことがあるのか。
何なら、自分で確かめられると思っているのか。
同じ年齢の人でも、その履歴は違います。
ジェンダーは、利用者の側だけにあるのではない
ジェンダーについても、利用者を分類するだけでは見えないことがあります。
AIの声、名前、言葉遣い、外見。
そこから、私たちはどんな人物像や役割を受け取っているのでしょうか。
利用者のジェンダーと、AIに知覚されたジェンダーとの一致が、擬人化や信頼に関わるという報告もあります。これは、単に「男性と女性ではAIへの反応が違う」と整理するだけでは足りないことを示唆します。
たとえば、ある声を「頼もしい」と感じる。ある言い方を「親切だ」と受け止める。
その評価には、何が含まれているのでしょうか。
内容を見ているのか。自分が身につけてきた人物像や役割への期待も、重なっているのか。
これは、自分に問いかけたいことです。
AIについて評価しているつもりで、そこに映った人間社会の期待に反応していることもあるかもしれません。
文化は、「何を自然だと感じるか」にも関わる
AIに個人的な話をすること。
機械に名前をつけること。
丁寧にお礼を言うこと。
それを自然に感じる人もいれば、距離を置きたい人もいるでしょう。
文化的背景の異なる参加者を比較した研究では、チャットボットと社会的なつながりを持つことへの態度に違いが見られ、技術を擬人化する傾向との関連も報告されています。
ただし、この研究が主に尋ねたのは、仮想的な会話への期待や、他者がチャットボットと関係を築く場面への評価です。長期間の利用で実際にどう行動するかまで、直接示したものではありません。
「日本人はこう」「欧米ではこう」と、個人の関わり方を決めることはできません。
文化を考えるときには、国籍に加えて、自分が身につけてきた関わり方にも目を向けたいと思います。
質問することを、歓迎されてきたか。
わからないと言っても、大丈夫だったか。
助言を断ったり、保留したりできたか。
家庭、学校、職場で経験してきたことが、AIとの対話にも関わるのでしょうか。
ここは、私がさらに確かめていきたい問いです。
専門知識がある私と、専門外の私
専門知識についても、もう少し具体的に考えたいと思います。
自分の専門分野であれば、AIの説明の不足に気づけることがあります。
その前提は違う。
その情報だけでは決められない。
例外が考慮されていない。
問い返すための言葉も、確かめる方法も持っています。
でも、同じ自分が、詳しくない分野の相談をするときはどうでしょうか。
何を聞き返せばよいかがわからない。説明が詳しく、筋が通っているように見えても、重要な点が抜けているかどうかを評価しきれない。
専門家であることにも、範囲があります。
AIを理解していること。
相談する領域を理解していること。
その場で確認できること。
これらを、一つにまとめないようにしたいのです。
専門家という肩書からは、その人が今、何を確かめられる状態にあるのかまではわかりません。
同じ私でも、今日は違う
ここまで、人による違いを考えてきました。
でも、私が特に見落としたくないのは、同じ人の中にある変化です。
余裕がある日は、別の見方を聞いてみる。
締切が迫る日は、使えそうな案を早く選びたくなる。
自信があるときは、異論を求める。
迷いが強いときは、「それでよい」と言ってほしくなる。
これは、誰にでも同じように起こると決めつけたいのではありません。自分の関わり方を振り返るための例です。
私は、人間中心のサイバーセキュリティを考える中で、その人が判断している条件を大切にしています。
疲労、焦り、責任感、孤独、時間の圧力。
私が「曇りの日」と呼んでいる状態も、その一つです。
そうした日に、AIに何を求めるようになるのか。何を読み、何を確かめ、何を任せるのか。
ここは、研究で確かめていきたい問いです。
自分の関わり方が変わったとき、私はAIの何かが変わったと思うのでしょうか。それとも、自分の状態にも目を向けられるでしょうか。
「人によって違う」を、そこで終わらせない
個人差がある。
それは大切な認識ですが、それだけでは、どう支えればよいかが見えてきません。
年齢や文化に合わせて説明を変えることが役立つ場面もあるでしょう。
同時に、目の前の人が何を理解していて、何に困り、どんな支援を使えるのかを確かめる必要があります。
年齢を聞くだけでは、その人が回答を評価できるかはわかりません。
専門職だとわかっても、確認する時間があるかはわかりません。
慎重な人でも、選べる条件が乏しければ、十分に納得しないまま進めることがあるかもしれません。
私は、こうした違いを、本人の性格や注意力だけに収めたくありません。
違いを理解することを、その人が判断できる条件を整えることにつなげたいのです。
私の期待や頼り方は、どこから来たのだろう
最近のAIとの対話を、一つ思い出してみます。
私は、なぜそこに相談したのでしょうか。
以前、役に立ったから。
自分で確かめられると思ったから。
人には話しにくかったから。
早く決める必要があったから。
いくつかの理由が、重なっているかもしれません。
その理由には、これまでの経験があります。そして、その日の状況もあります。
私は、このAIに何を期待するようになったのだろう。
その期待は、どんな経験から生まれ、今日は何によって変わっているのだろう。
行動する前にも、行動した後にも、少し振り返ってみる。
同じAIとの関係を見つめながら、そこにいる自分についても知っていきたいと思います。
参考資料
・Cohn, M., et al.(2026). Generational differences in anthropomorphism and trust calibration for large language models. Google Research掲載の研究概要。
・Ibrahim, F., et al.(2026). Gender similarity effects in human-AI interaction: Development and validation of the Behavioral AI Anthropomorphism Scale(BAAS)and implications for trust and gender attribution. Computers in Human Behavior Reports, 22, 101003.
・Folk, D. P., Wu, C., & Heine, S. J.(2025). Cultural Variation in Attitudes Toward Social Chatbots. Journal of Cross-Cultural Psychology, 56(3), 219-239.
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