キャリア20年超。ずっとプログラマで生き延びている女のコラム。

IT業界名誉毀損罪ヲ提唱スル

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 それは、ビデオを観ながらまったりしていた休日の午後の出来事。NHKを名乗る人がやってきて「受信料を払え」と言いました(←ちゃんと丁寧な感じで言ってたはずだけど、要約するとこうなる)。

わたし「受信料は払っています」

集金人「いや、これにちゃんと出てるんですよ」(と端末をふる)

わたし「登録ミスなんじゃないんですか?」

集金人「コンピュータで管理してるんですから、間違いありませんよ」

わたし「でも、ちゃんと払ってますから」

集金人「……もしかして、最近、引っ越してきました?」

わたし「最近といえば最近ですかねえ」(←引っ越して3カ月目くらいだった)

集金人「じゃあ、住所変更届けを出してないんですね。ここに用紙があるので今、記入していただければ」

わたし「届けもちゃんと出してます」

集金人「でも、ここに出てるってことは出してませんよ」(と端末をふる)

わたし「とにかく出してますから。事務所に戻って確認し直してきたらどうですか?」

集金人「……届けはどうやって出しました?」

わたし「インターネットで手続きしましたけど」

集金人「ああ、だからですね! あれは使えないんですよ。ここに用紙があるので……」

わたし「ちょっと待ってください! インターネットは使えないって、あのシステムをつくった人たちの立場はどうなるんですか!」

 わたしはNHK関連の仕事をしたことは一度もないですし、知り合いが関係しているってこともないんですが、「使えない」という言葉にうっかり過剰反応してしまいました。だる~い感じで対応していたわたしが、突然テンションをあげたせいなのか、「システムをつくった人たちの立場」なんて言われたことがなかったのか、集金人さんはポカーンとしてました(苦笑)。

 だって、「使えないシステム」って、いろんな意味で聞きたくない言葉です。

 エンジニアたちががんばってつくったシステムがそう呼ばれてしまうのもイヤだし、現実にそういうシステムが存在しているというのもイヤです。要するに、その評価が正当でも不当でも不愉快なわけです。

わたし「とにかく、ここの住所宛にNHKからの郵便物が届いてますから、住所変更されてるのは確かです。インターネットでの受付はちゃんと使えてます」

集金人「でしたら証拠をみせてください!」

わたし「証拠?」

集金人「その、こちらに届いたという郵便物を見せてください!」

わたし「探すのめんどくさいんですけど」

集金人「だったら、この用紙に記入を……」

 ここで用紙に記入したら、Webシステムは役立たず、ということを認めたことになりそうで、どうしても書く気にはなれませんでした。しかし、集金人さんは「絶対にひかないぞ!」という表情です。しかたないので、NHKからの郵便物を探しました。探しながら「もしかして届けを書いた方が早いんじゃ……」とは思いましたが、なんだかもう引き下がれませんでした。しょうもない意地だと分かってはいたんですけどね(苦笑)。

 それでもなんとか探し出して渡すと、住所を確認していた集金人さんが「……あれ?」と首をかしげました。

集金人「あの……ここ○○(←マンションの名前)じゃ……」

わたし「違います」

集金人「建物、間違えた……」

 どうやら集金人さん、他のマンションのうちと同じ号室の人を訪ねようとして、間違ってきちゃったようです。

 バグってたのは集金人さんの脳内マップじゃん!

 集金人さん、よっぽどバツが悪かったんでしょうね。「いやあ、悪かったねえ……ははは……」と、いきなりくだけた口調になって、笑ってごまかしながら去っていきました。

 残されたわたしは怒る気力もなく、それどころかどんどんヘコんできました。「わたしがかかわってきたシステムも、誰かに使えないとか言われてるのかもなあ」とか思っちゃって。

 昔のわたしは、自分が関わったシステムの全体像を把握せずに黙々とコードを書いていたので、結果としてできあがったものが使えるのか使えないのかなんて、分かりようがありませんでした。

 きちんと動くものをつくってきた自信はありますけど、「動く」から「使える」とは限りません。

 自分があんなにがんばって書いたコードが「使えない」と言われて誰にも使われず放置されてるかもしれない、とか想像しちゃったら、それだけで泣けてきます。

 それに、わたしはああいうふうに反論したけど、ITに疎い人は「やっぱりそういうのは信用できないのねえ」とか言いながら届けに記入しちゃって、その人がその話を誰かにして、といった形でどんどん伝播しちゃって、静かにIT不信が広がってったりするのかもしれない、と想像すると、とてもむなしい気持ちになります。

 せっかくの休日にどんどんヘコんでいくわたし……。

 おそらく、あの集金人さんに悪気はまったくなくって、ナチュラルに「インターネットは信用できない」と信じていたんだと思います。

 でも、あの端末に表示されているデータを正しいと言い張っていたところをみると、コンピュータ全般が信用できないと思っているわけでもないんでしょう。

 多分、あの端末には仕事で使い続けてきた信用があって、Webシステムにはそれがなかった、というだけなんじゃないんですかね。

 専用端末は信用できるけどWebは信用できない、ではなく、使い込んだものは信用できるけど、ほとんど使ったことがないうえに仕組みが理解できないものは信用できない。

 それはとても自然な考えのような気がします。

 とはいえ、使えるシステムを使えないって喧伝するのはどうなのよ!

 あのシステムをがんばってつくった人たちがいるのよ!

 いっそのこと、IT業界名誉毀損罪とかいうのをつくっちゃえばいいのよ!

 確たる根拠もなしにITに関する不信感をあおるようなことを言った人を、訴えられるようにすればいいのよ!

 それで有罪が確定したら、IT業界の人たちがどんだけがんばって仕事しているかを、延々とビデオで観続ける刑を受ければいいのよ!(あっ、映像を想像するだけで泣ける)

 とかいう妄想を繰り広げてさらにむなしくなっていくわたし……。

 この件はだいぶ極端な例ですが、IT技術や技術者たちに不信感(うさん臭さ?)を抱いている人は、わりと多いんじゃないかなあと感じています。それでもって、信用できない、という気持ちもなんとなくは分かるんです。

 実際、分かりにくいですもんねえ。そのうえ、分かりにくいことを利用してお客さんをだます輩もいるし。

 しかしながら、自分の人生の半分以上を捧げている業界が、世の中で信用されていない、というのはやっぱり悲しいんですよ。

 なので、「IT業界のほとんどの人たちは、システムを便利に使ってもらうために、トラブルをできるだけ発生させないために、いろいろとがんばっているんだ」ということを、業界とは関係のない人たちにアピールしたい、と思っていろいろと考えているんですけど、画期的な方策はまったく思いつきません。

 結局のところ、地道に根を張って、信用を広げていくしかないんでしょうね。

 信用というものは、一朝一夕に手に入るものでも、押し付けるものでもありませんから。

 とかいったことは理性ではわかってるんですけど……ユーザーさんに開発サイドの気持ちを押し付けちゃいけないってわかってるんですけど……悔しいなあ……。

 やっぱりIT業界名誉毀損罪を……(←なぜそこに戻る)。

Comment(11)

コメント

そのNHKの住所変更のサイトって利用したことがないんですが、たぶん、受信料を払いたくない人が住所変更届けをだして、集金からのがれようと悪用されているのではないでしょうか? 

 そういった意味で、システムを実際に作ったエンジニアを批判しているのではなく、システムを企画したNHKが使えないシステムを企画しているので集金人は苦労しているということなのかもしれません。

 使えないシステムを企画したNHK、受信料という名目で一般大衆から金を徴収し、その一部を使えないシステムの構築費に割り当てられているとするとNHKを非難するべきでしょう。

 私は社内SEですが、ログなどをたまに見て、システムがどの程度活用されているか観察しています。多くの利用者がいると、やはりやりがいを感じ、苦労したのに利用者が少ないと骨折り損したなどと思ってしまいます。

 システム企画自体に穴や盲点や投資効果に疑問があると、構築意欲ってなくなるもんですよね。

choir

IT業界名誉毀損罪なんてつくったら、
コの業界で働いてる人が一番良く捕まるんじゃないかと思うわけですが。冗談抜きで。:-P

Fufuhu

NHKの集金の人を相手にすること自体が馬鹿げてるってのはダメですかねぇ…?

ひでみ

こんばんわです。ひでみです。


みながわけんじさん

> システム企画自体に穴や盲点や投資効果に疑問があると、構築意欲ってなくなるもんですよね。

意欲がなくなるのは確かですけど、それでもできるだけお客様にメリットが出る方に誘導するのもSEの仕事のうちなんだなあ、とうちのSEたちを見ていて思います。
外部の人間である私たちと、社内の人間であるみながわさんとでは、会社から求められるものがだいぶ違うとは思いますが。


choirさん

> IT業界名誉毀損罪なんてつくったら、
> コの業界で働いてる人が一番良く捕まるんじゃないかと思うわけですが。

言われてみれば確かに……迂闊……。


Fufuhuさん

集金人さんも自分の仕事をがんばってるんだ、と思うので門前払いは気の毒かと。

ちょびちょび

使えないシステムと言えば、e-Taxの電子納税。あれ使えない(使う気力がわかない)ですよね。使った人どれくらいいるのでしょうか。まあ、申告書の作成部分ではお世話になってますが……。
「あー、面白かった~」とコラムを読み終わったあと、某公共システム改修に携わったときの会話を思い出してしまいました。
「仕様書のフォーマット、実際のデータと違うんですけど」
「どれ? う~ん。違うと困る?」
(困ってるから来てるんじゃないか!)
で、質問票を書いて設計者に提出したけど放置されて、結局、数字チェックでNGだった項目はすべて「ゼロ」で対処しちゃったんですよ。(余談ですが、そのときの上司が「ゼロにしてゴー!」とか言ったんですが、後年「ルーツ飲んでゴー」とかいうCMを初めてみたとき、圧倒的な既視感に眩暈がした)
誇りを持って仕事したいとは思うんですが、全ての作業で最善を尽くしたかと問われると……。自分が関わっているからこそ、不審の目を向けられても「そーいうこともあるよな~」と納得してしまう自分が悲しい。

ひでみ

こんばんわです。ひでみです。

ちょびちょびさん。いつもコメントありがとうございます。

e-Taxは最初の認証手続きのやり方を読んだだけでくじけますよね。あれはお役人さんが考えたのか、システム屋さんが考えたのか……。

> 自分が関わっているからこそ、不審の目を向けられても
> 「そーいうこともあるよな~」と納得してしまう自分が悲しい。

そうなんですよ。実際に「使えないシステム」や「いいかげんなシステム」が存在しているから、さらにヘコむんですよ。
だからこそ、住宅性能評価やセカンド・オピニオンみたいな客観的な目が欲しいというか……。
「使えないシステム」という判定が正当か不当かをジャッジしてくれる機関があれば、能力不足だったりいいかげんだったりする会社の淘汰がすすんでくれるんじゃないかなあ、とか思うんですけど。

しっぱ

こんにちは。しっぱと申します。

IT業界名誉毀損罪・・・・・。やめてほしいです。。。。

WEB業界で働く人間にとって、ユーザビリティが一番メインになる部分だったりします。
ユーザーが批判⇒名誉棄損⇒裁判

とかってなると生の意見が聞けなくなり、本当の意味で使いやすいシステムの構築が困難になります。

WEBシステムに限らずシステムというのはある特定の人たちが集まって、
全ユーザーにヒアリングしたわけでもないのに「こうしたら使いやすいだろう」「こういう機能があったら便利だろう」という推測を元に作り始めます。
(ユーザーが自社内のみとかだったら別ですが、WEBアプリなどユーザーが不特定多数の場合)

現実的に全ユーザー+将来的にユーザーにユーザーになる可能性のある人にヒアリングするわけにもいきませんので、当然と言えば当然です。

オープンなシステムを構築する要素で大事なものは「改善」です。
(時に改悪もなってしまうという怖いものですがw)

オープンなシステムの改善に必要なものは「ユーザーの意見」であったりします。
そこで自由な意見が出来ないような社会環境になると問題になるように思います。

まあ、自分が作ったシステムが「使えねー」とか言われたらやっぱりイラっとするのは事実ですがwwww

楽人

はじめまして、楽人と申します。

批判、称賛のどちらもが意見です。
システムなどの改善点は批判によって明らかになることも多いです。またユーザによってはそれを的確に言い表せることができなかったりもします。
ですので、ユーザの不満をすくい上げて解釈し、それが理不尽でないものかどうかを判断するべきこともあると思います。

私の場合は、感覚的に批判していると思われる方に対しては、メモを片手に「具体的にどのような所がですか?」と嬉しそうに聞いてみています。
それで改善点が挙がれば儲けものですしね。
かなりの確率で「それはそっちが考えるもんだろ!」とお引き取りになられますが…。

ひでみ

こんばんわです。ひでみです。


しっぱさん。

> オープンなシステムの改善に必要なものは「ユーザーの意見」であったりします。
> そこで自由な意見が出来ないような社会環境になると問題になるように思います。

おっしゃるとおりです。
ユーザーさんにムダにプレッシャーを与えるようなものはいりません。
よりよいものをつくるために邪魔になるハードルはできるだけない方がいいです。
でも、悪影響を与えるものに対するハードルがどこかにあって欲しいです。
どれがいい影響を与えるもので、どれが悪い影響を与えるものなのか、どこまでは許されるべきで、どこからがダメなラインなのか……考え出すとキリがないですし、多分、正答もないんですけど、どうしてもグルグルと考え続けてしまいます。
我ながらずいぶんとムダっぽいことをしているなあ、とは思いますが、「どうせ胡散臭い業界だと思われてるし」と単純に割り切るのだけはイヤだなあ、とも思います。

まあ、現実問題としてこの法律が成立しちゃったら相当めんどくさいことになりそうだなあ、と思います(←だったら提唱するなよ)。
私は物事を考える時、極端な例から考え出す習性があって、それは時折おもしろいところに着地するので、私としては楽しいんですが、周囲からみると「なぜそうなるっ」となるようです(苦笑)。


楽人さん。はじめまして。

> 私の場合は、感覚的に批判していると思われる方に対しては、メモを片手に
> 「具体的にどのような所がですか?」と嬉しそうに聞いてみています。

「嬉しそうに」ってのがポイントなんですね、きっと。
ユーザーさんの意見はもちろん大事です。それが痛かろうとなんだろうと。

Jitta

お疲れ様でした。

 使えないシステム、経験ありますねぇ。
 あるお客様のところに、担当者の代わりに出張したんですね。すると、お客様はすごく気に入って下さっていて、「メーカーさん、儲かってるでしょ。全国から見学に来るけど、宣伝してまっせ」と、言ってくださいました。うれしかったですねぇ。ところが、そのシステムでは利益がほとんどでないため、関西の営業さんは売ってくださらず、関西地域では「使えないシステム」となっていました。
 それから3年ほどして。異動していたのですが、出張先が近かったために、また担当者の代わりに出張することになりました。すると、お客さんの顔が怖い。フィールド サービスの方々が、ササッと作業して、私に報告して(お客様に報告しないで)そそくさと帰って行く。そしてお客様から。「あいつら、すぐ帰ってしもうたやろ。小言言われるんわかっとうからや。あんたは担当者の代わりやっちゅうから、言うてもせんない(仕方がない)やろうけど、…」と、小言を半時間ばかり。。。前回の時とは180度違うお客様の態度に、かなり戸惑いました。
 システムが停止した原因は、熱暴走でした。6台ある冷却ファンのうち4台が、埃が詰まって止まっていました。フィールド サービスが言うには、「保守契約を結んでいないので、定期的な清掃作業をしておらず、この様なハードウェア トラブルが頻繁にある」とのことでした。
 こうなると、システムが動かないのは、保守契約をしていないお客様自身、保守契約をするようにお客様を説得できなかった(orしなかった)営業、埃っぽい場所に本体を設置した工事業者、そこまで埃が出るような環境など、システム エンジニアリング時には予想できなかった事象が問題であるように思います。難しいですね。
 この後、駐車場にプリンターを置いていたお客様があったことを思い出し、報告書に書き添えておいたのですが、どの様な対応をしたのかまでは追跡しませんでした。

ひでみ

こんばんわです。ひでみです。


Jittaさん。

マシンの保守費用を「余計な出費」ととらえるお客様っていらっしゃいますよね。
テレビや冷蔵庫は買ったらそのままで壊れるまで使うのがほとんどですから、それと同じ感覚でいるのかもしれません。
ユーザーさんの考えは「だったら冷蔵庫みたく頑丈にしろよ」かもしれないけど、「部品の繊細さが違うんだから、同列に並べないでくれよ~」っていう。

理解できない方が悪いとか、理解させられない方が悪いとか、そういう話をしたいのではなくって、コンピュータシステムというものは、つくる人、管理する人、使う人が協力しあうことで、一番いいスペックを引き出せるんだから、「こんなわけのわからないこむずかしいものなんか知らないよ。専門家がなんとかしろよ」と突き放さないで欲しいんです、っていう気持ちはどうやって伝えれば通じるんだろうっていう、そういう歯がゆさをずっと抱えていて、それが時々ものすごく耐えがたくなっちゃうっていう……。

こちらの気持ちを押し付けてもしかたない。地道にやっていくしかないって、わかってるんですけどねえ。はあ。
……なんかグチっぽくなってすみません。

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