新米武装派フリーランスプログラマ男子(0x1d歳)

とある未踏の超絶案件'13

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 毎々お世話になっております。エンジニアライフにおける社会のゴミクズ担当、コラムニストterukizmでございます。

 右の方にあるプロフィールでは「新米武装派(略)お仕事募集中です☆」などとふざけたことを書いてございますが、まことにありがたいことにお仕事の方では良きパートナーに素晴らしいご縁をご紹介していただき、毎日刺激的で何もかもが勉強となり、稼働も安定、毎日毎晩定時で帰宅し、ワークとライフのバランスも充実、濁った目で寿司詰めの通勤電車に揺られるという、もったいないほど素晴らしいお仕事をさせていただいております。

 先月に至りましては個人事業主として2回目の確定申告を無事終えることができ、なんとか「新米武装派」などという意味不明な肩書きも外すことができそうにございます。年齢も正しくバッチ処理が走りインクリメントされ、兵装についても若干時代遅れ感の否めないACU迷彩からビンラディン討伐やアフガニスタン遠征など米軍でいま最もホットなSEALsチーム6、もしくはDEVGRUを意識したAOR系の迷彩パターンへと更新される予定で、日々どのプレキャリにチェストリグしようかカタログとにらめっこする毎日を送っております。

 そのように昨今大変充実した毎日を過ごさせていただいている次第なのですが、やはりフリーランスたるもの、常に案件情報に目を通すのは日の常となっておりまして、これは今のお仕事に不満があるですとか決してそのようなことではなく、ただ毎日毎日サバンナのハイエナのごとき眼で食い扶持を探していた時代の名残に相違なく、PC立ち上げと同時に走るメールチェックのような一種の習慣でしかないのですが、いろいろとドス黒い案件情報が並ぶ中に、漆黒の闇の中に浮かび上がるようなさらなる黒、漆黒のダークマター、ライズオブナイトメアの貫禄ででそびえ立つようなドス黒い案件がございました。今回はその「とある案件」について、ご紹介させていただきたく存じます。

■家畜の安寧 虚偽の繁栄

 その案件とは、まあこの業界で知らないという方はまずいらっしゃらない、とても有名な業界団体が企画している案件でございまして、名前を聞けば大抵の方は「ああ、あれ!!」と頭に電球マークが浮かぶような超有名案件でございます。大人の事情で直リンさせていただくのはなんともはばかられる次第ですが、題記から察していただければまあ、すぐにお分かりいただけるかと。

 で、その案件の人員募集要項を案件情報サイト風にまとめると、以下になります。

★【元請直】独立行政法人系 先進開発プロジェクト
 ・契約形態:委託契約(作業実績(時間)に応じて対価を支払う)
 ・期間:2013年10月~2014年6月(9カ月間)
 ・スキル:不問(ある程度の「ソフトウェア開発能力」は必須)
 ・フェイズ:提案~開発~試験
 ・単価:作業時間×単価で変動、合計上限年間1440時間
     18歳以上: 1,600円/時間、18歳以下: 1,200円/時間
     (例: Aさん(19歳)、Bさん(17歳)の場合
      →Aさん(1,000時間×1,600円/時間)+Bさん(440時間×1,200円/時間)
      →212.8万円)
 ・上限:230.4万円(18歳以上) 172.8万円(18歳未満)
 ・超過・控除条件:超過清算なし(委託契約額を上限とする)、控除条件あり(作業実績により)
 ・備考:「次世代のIT市場を担う人材を発掘する」という事業趣旨を踏まえ、25歳までの日本在住者のみを対象。
     費用は人件費のみを対象とする。開発機材やPCなどは自己負担。
     学生可。未成年の場合、父母もしくは同等の親族、保護者等からの承諾書要。
     旅費交通費の一部提供あり(元請の主催する片道100km以上のミーティングや報告会に限る)
 ・支払いサイト: 3カ月(ただし確定検査に合格しない場合、または途中で契約が打ち切られた場合は、全額返還)
 

 とまあ、営業人売りエージェントが「どうですか!? この案件! 業界内で知らない人はいないプロジェクト! 今までにない新規性や独創性が求められていて、この案件を通して成長できること間違いなし! フェイズも提案ベースからの参画になるので、貴方のスキルが十分に生かせますよ! 技術的にも好きなものが使い放題ですし、顧客やPMともフェイストゥフェイスで密なコミュニケーションが取れます! しかも、今までにこの案件で数々の有名な優秀エンジニアが生まれているんです! だから、僕と契約してよ! 契約って素晴らしいね! 契約!(◕‿‿◕)」などと声をかけて来た日には、「いいぜ、この条件で人が集まると思ってるなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!」といった感じで面談後に3時間くらい駅前の喫茶店で説教しながらイマジンをブレイクする右手でひたすら殴って倒す次第ですよ。物理で。

■SAN値 ピンチ

 何がおかしいかって、まず「独新性」「革新性」「将来社会的インパクト」「イノベーションを創出する可能性を秘めた」「若い逸材」に対して、「時給1600円(もしくは1200円)」で仕事させようってのがまずおかしいですよ、カテジナさん! というかなんですか時給1600円って。ネットで検索したらドリームなクラブの女の子とかの方がもっと稼ぎいいよ。いえ、そっちの仕事はそっちの仕事でいろいろ大変だとは思うのですが。職に貴賎はありませんし。にしたって貴方、これからのITを担う人材に、時給1600円ってのはないでしょうよ、このご時世とはいえ。おじさん涙が出ちゃうよ。

 さらに悲しくなるのが「委託契約」って書いてあるところ。確認できる範囲で文章中に明確に「委任契約」とは書かれていませんが、日々日報をつけ、定期的に進捗報告する必要があるという記述内容から、おそらく法律的には「委任契約」なんだと思います。これ、いわゆる時間売りですよ。働いた分だけもらえる労働体系。コンビニやファミレスのバイトと同じ。業界トップ団体からして成果主義のいわゆる知的労働をもはや否定してしまってるわけですよ。もうわれわれIT技術者は立派な肉体労働者だってことですか。はーそうですか。さようでございますか。

 まあ請負契約と違い、完成義務や品質補償義務が求めづらい(コンサルや技術開発系に近い)という業務性質を考えればある程度納得できなくもないのですが、これはその辺の法律的知識まで理解しているとは到底思えない学生さん相手に大人がやってよいことなんですかね? 「旅費交通費や開発機材などは自己負担ください」的な記述に至ってはもう勘弁してくださいと土下座外交するしかありません。ロボット分野とかはまったく門外漢なのですがあれモーター1個で数万円とか平気でするんでしょ? そういうの学生に払わせんの? 面の皮厚すぎて昼飯の角度取ればアハトアハトの水平射撃でも弾けるんじゃないですか。

 しかも「支払いサイト3カ月で、最終検査に合格しないと支払った分は返せ云々」の記述に至っては、恥ずかしながら基本的な労働法も把握しきれていない私ごときにはもはや理解できない領域に至っているのですが、これ一体、法律的にはどういう契約になってるんですかね? もちろん大丈夫なんですよね? まさかアニメ業界みたいに個人事業主契約とかさせて、個人事業主だから云々のメソッドでいろんな問題回避したりしていませんよね? まさかまさか、業界団体トップ様自らそのようなブラック企業じみたことはしておられませんよね?

 それでいて「扶養の範囲を超える可能性があります」とかの文章があるあたりで、もはや理解する努力を放棄しました。もういいや別に。私みたいにおっさんには最初からエントリーする資格とかないし。この条件で仕事したいとか思えないし。

■死せる餓狼の 自由を

 だって、「時給1600円で1440時間、9カ月の仕事」って、「一日8時間・月20日」で人月計算すると、単価「256k円」ですよ。情報系として数字だけ見れば股間の75mm Kw.K.40 L/43がキュンキュンしてしまう値ですけど、「人月単価26万弱」って言われたら、そりゃ愚息もしょんぼり、というかいくら若くてもそれはないわー、いくらクラウドでソーシャルでノマドでデフレ経済な昨今でもそれは受けらんないわー、生活できないわー、ってのが一般的なフリーランスの考え方じゃないでしょうか。
 
 会社員の方は「新卒くらいで月手取り26万とかだったら、あんまり悪くないんじゃない?」と思われるかもしれませんが、これ雇用契約を結んだ企業側が本来負担すべき社会保険とか厚生年金とか給与所得控除とかそういうの、おそらく一切含まれてないですからね。あくまで私個人の想像にすぎないんですが、たぶん「個人事業主扱いで人件費だけ渡すので、他いろいろかかったのは別途経費として必要なら税務署とあれこれやれやコラ、そっから先は税務署との問題だからうちは知らん」っていう投げっぱなし打ちっぱなしファイヤ&フォーゲット契約なんじゃないですかね。黒い。黒すぎる。
 
 オーケイ。まあ、金銭的や契約的なことは200歩くらい譲りましょう。報酬がクッソ安いのも、学業や研究と両立しつつアレコレできる、われわれ凡人では預かり知らないウィンウィンでイノベーティブ、あわよくば起業できてウハウハみたいなメリットがあるんだとしましょう。見た瞬間思わず「これはダサい」と、うなるような非凡なセンスの称号を授与されることにも無上の喜びがあると信じましょう。法律的な怪しさも契約という鎖が運用でカバーしてくれているのだと信じましょう。

 ですが、「こんな真っ黒な案件、まともな個人事業主なら絶対受けない」レベルの仕事を、「25歳以下の世間がよく分かってない学生」に「9カ月の労働と激安の賃金」でやらせようという神経が、はっきり言って理解できないというか、社会的に見てリソースの無駄遣いというか、ブラックもここに極まれりというか、そんなことできる人材なら最初からそこらのベンチャーに企画書持ってカチコミ入れた方がよっぽどマシだと思うわけですよ。
 
 社会的に見ても業界的に見てもこんな仕事害悪でしかないですし、こんなんで貴重な人材をすり潰すくらいなら正直やってもらわなくて結構。セキュリティ勧告とオープンライセンスのフォント提供と形態素解析用の辞書提供だけしてくれればいいです。資格試験はいいや。とりあえず全角入力必須のフォームなんとかしてから出直して来てください。

■どうしてこうなった

 で、「なんであの有名プロジェクトがこんなブラックの代名詞になってしまったのか?」という経緯を追ってみますと、そもそも最初からこんなブラックな案件ではなかったのですよね。本体が上下に分かれてて、ユースとかわけわかんねえ謎の枠もあった頃は、普通に採択予算800万円とかで、年齢制限もなかったですし、学生以外にも腕に覚えのあるフリーランスとか、企業勤めのエンジニアだとか、食い詰めたポスドクとか、そんなのが参加してたんですよ。純粋に「腕に自信のある個人とか少数チームに金を渡して、事業性のある新しい何か作らせようぜ!」っていう、至極分かりやすい企画でございました。

 それが、過去の採択実績を見ると、
 
 ・2008年 400万~700万円
 ・2009年 400万~700万円
 ---(超えられない壁)---
 ・2010年 280万円前後 ※25歳以下制限がつく
 ・2011年 180万円前後
 
 となっている訳ですよ。09年から10年、いったい何があったんだって話。
 
 もちろん、簡単にご想像つくでしょう。そう、あの史上最強にクソまみれだったクソ政権が、あの史上最強にバリバリにスーツのえりを立てていた大臣が、ありもしない埋蔵金を探してザックザックとやっちゃってくれたアレですよ。そう考えると、「25歳制限」が10年度から新しくついた理由も腑に落ちます。今までの「年齢問わず、優れた開発者にドカっとまとめた金を渡して新規事業を創成する」という方針が「参加者はほとんど暇な学生なんだから、25歳以下限定にして安い金の固定労働体系でやらせなさい」などという短絡的な御上からの鳩ポッポ、いえ鶴の一声があったことは想像に難くないですね。
 
 もちろん、金を渡せばイノベーションが生まれるわけではありません。ですがそれ以上に、イノベーションを生み出せる優秀な人材について「若い世代からしか生まれない」→「若い世代は安い賃金で買い叩ける」→「イノベーションは若い世代にはした金を渡しておけば生み出せる」という誤ったクソ理論を作り上げた奴らの脳味噌に、今すぐ手術を施し、その身を呈してイノベーションの礎となっていただきたい所存でございますよ。
 
 というかですね、才能があって技術もあるけど金に困ってる人材なんて、年齢問わずどこにもいるんです。例えばいわゆるポスドクの奴らなんか、足の裏の米粒とか揶揄される博士号という資格を苦労して取った優秀な人材のはずなのに、手取り20万、年収300万とかで働かされてたりするんですよ。もしくはフリーランスのプログラマで腕は立つんだけど営業が下手で仕事が取れなくて食いっぱぐれてるような奴とか、そういう腕はいいけどくすぶってる奴らに仕事をやるのが、正しい公共事業のやり方じゃないんですかね。
 
 おそらく政権が変わっても予算だかを計上する都合上、今年度も残念ながらこのような超絶ブラック案件となってしまったのでしょうが、新政権様もクールジャパンだなんだといってアイドル稼業のプロデューサーに1億PONとやるくらいに金を余らせてるなら、今すぐこの哀れな業界団体へと1億くれてやり、10人くらいの頭のイカれたプログラマを1000万でまとめて雇って何か作らせた方がよっぽどクールなイノベーションが起こるんじゃないかと、私のような凡人プログラマなどは思うのですけれどね。

■結論

 というわけで新政権でも今後のIT業界的には期待はできそうにないので、私としては国内ネットサービス界隈トップをひた走り、金をジャブジャブさせまくっているミク◯ィさんに、グローバルなIT社会において時代のリーダーシップを取れるような優れた人材を育成し、日本の情報技術者の未来を切り開くための新たなプラットフォームを、ゴミ溜めの中から早急に立ち上げてくださることを切に願う次第であります。
 

 参考資料:
  とある科学の超電磁砲S
  やまもといちろうBLOG(ブログ)


  

 ※今回のコラムは内容的に速報性を重視したため、リスペクト元文章の独特な「良さ」を充分に読解し、文体を模倣することが充分にできなかったと認識しております。著者様や著者のファンの方、ご覧いただいた方におきましても、不満を覚えることはご多分にあるかと思いますが、その面におきましては何卒、ご容赦いただければ幸いです。※

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