新米武装派フリーランスプログラマ男子(0x1d歳)

孤独のエンジニアめしばな 第2めし「寿司」(前編)

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あらすじ: ITエンジニア向け情報サイト「&IT」の企画により、『エンジニアめし』という題材で、お互いのめし論をぶつけあうことになった三人のコラムニストたち。初回はコラムニストTが「カレー」を題材に持論を展開し、他のコラムニストを唸らせた。そして2人目の語り手となったコラムニストIが題材に選んだのは――『寿司』――!!

Tさん「『寿司』……!?」

Jさん「『寿司』やと……!?」

Iさん「ええ。その通りです」

Tさん「それはもしかして、大手チェーン店が続々と参入し、外食産業でいま競争が最も激しいといってもいい、『回転寿司』のことでしょうか?」

Iさん「たしかに最近の『回転寿司』チェーンは、高度なIT技術を駆使したシステムを構築し、品質管理や、食材管理、注文管理をおこなっています。そういった意味ではたしかに『エンジニアめし』といえる題材ではあるでしょう。……ですが、それは私がここで語りたい『寿司』ではありません」」

Tさん「まさか……!!」

Iさん「そう、私が推すエンジニアめし……それは『職人が握る寿司』です」

Jさん「フ……フリーランスだかなんだか知らんが、ふざけおってーッ!!!!」

Tさん「待ってください!! 暴力はいけません!!」

 激昂して掴みかかろうとするJさんを、Tさんが後ろから羽交い締めにした。

Jさん「うるさい!! わてみたいに回転寿司すら一般的でない世代の、決して裕福でない家庭に育ったもんにとって、『寿司』つーたら、それはそれは、特別なもんなんや!! 誕生日にかーちゃんが、スーパーやら外食チェーン店やらで買ってきてくれた、プラスチックの安っぽいケースに入った持ち帰りの寿司を、その日1日中、楽しみに楽しみに、何をどういう順番で食べるかで頭がいっぱいになるような、そんな『特別なめし』なんや!! それを……!!」

Tさん「それについては私も一緒です。……話の内容次第によっては……私もこの手を離すことになるかもしれません……!!」

しばし、あたりは沈黙で満ちた。

 Iさんは、怒りの炎をたぎらせる2人の目を、慈しむように見つめると、静かに通る声で語り始めた。

Iさん「お2人のお気持ちは、私にも痛いほど分かります。 ですが、私にとってこの『板前の寿司』は、私の『エンジニアとしての生き様』を左右することになった『大事なめし』なのです。……少し長くなりますが、どうか、お聞きいただけないでしょうか」

Jさん「『エンジニアとしての生き様を決定づけためし』……やて……?」

Tさん「……Jさん、どうやら深い事情がおありのようです。取りあえず、話を聞かせてもらおうじゃありませんか」

Jさん「…………下手な話をしたら、ただじゃおかんで……」

Iさん「……ありがとうございます」

Iさんは深々と一礼すると、言葉を選ぶように、だが確かに響く口調で、語り始めた。

Iさん「……あれは、もう秋の足音も去りゆくような、寒い冬の夜でした……」

……

Iさん「当時私は、とあるWebベンチャー系システム開発会社の社員でした。しかしそこは、ベンチャー系システム開発とは名ばかりで、オフィスという名のマンションの一室には、社員の半分の椅子すらない、事実上の人売り会社でした」

Jさん「要求仕様に見積もりを出し、ソフトウェアを開発して納品するという、受託開発ですらない会社……エンジニアを時間単位のみで計算し、ただの労働力として扱う労働形態、請負開発が売上の中心となっている会社か……」

Tさん「会社によってはSESなどという横文字で言いかえたりはしていますが、現実は法律で禁止されているはずの事前面接や偽装派遣が堂々と行われ、ピンハネや中間搾取がはびこっている、この業界の最も悪しき一面、その1つですね……」

Iさん「その頃の私は、『賃金や対価』といったものに、あまり興味を持っていませんでした。そんなことより、自分の知らない技術や、マネジメント手法、開発手法などを学び、いかに自分のものにしていけるか……そう、『自分が技術的にいかに成長できるか』という点にしか、はっきり言って興味がなかったのです」

Tさん「典型的な『エンジニア』ですね……」

Jさん「珍しいことやない……技術屋にはよくいるタイプや。問題なのは、そういうエンジニアたちをだますような形で金を絞りとろうとする、ハゲタカのような奴らが、この業界にはぎょうさんいることや……」

Iさん「もちろん、自分が月にいくらの売上を上げ、対価としてどれくらいの額をもらっているのかは、おおむね把握していましたし、自分がまるでモノのように、人月などという単位で計られることについても、あくまでそれは『自分に対する評価の1つ』でしかないと思っていました。実際にもらえる給料との乖離については、会社員として働く以上、ある程度は仕方のないことだと、そう思っていた……いや、思い込んでいたのです」

Tさん「今でもそう考えている人は、多いと思います」

Jさん「わては正直、そういう考え方、好きになれんわ。そりゃ営業の給料とか会社としての経費は当然、払わんといかん。だが、奴らは平気で個人の売上の半分以上を持っていったりするからな。実際に稼いでいるのは実力のある若手社員なのに、本来払われるべき額を無視して、彼らに払われるのはスズメの涙とか、よくあるこっちゃ」

Iさん「そうですね。ですが、フリーランスとして独立して働くようになってから、仕事を取ってくるということが、いかに難しいのか、身に染みて分かるようになりました。そしてこの業界の悪しき構造を覆すことが、いかに難しいかということも……すみません、話がそれてしまいましたね……」

Tさん「おかまいなく。失礼を承知で伺いますが、その『人売り』として働かされていたあなたが、そこまで金銭的に裕福だったとは思えません。それがどうして、『板前の寿司』などを?」

Iさん「……その時の私の勤務先は渋谷の企業でした。もうすっかり慣れっこになった、面談という名の事前面接で受けた説明では、『日本ではまだあまり利用事例のない、非常に先進的なフレームワークを用いて、複数の既存Webアプリケーションを統合・リプレイスする仕事』だということでした。そして、非常にチャレンジングな要素が多く、高い技術力が要求されるということも……。私はそれを聞いて『自らの成長につながる』仕事のように思ったのです」

Jさん「たしかに……一見、面白そうな仕事に聞こえるわな……」

Tさん「ええ。ですが『前例のないフレームワーク』という単語には、少々ひっかかりますね」

Iさん「はい。その点については、『オープンソースであること』『某ベンダが、APサーバへと抱きあわせて販売しているので完成度は保証されていること』『これからの業界標準になりうるアーキテクチャであること』といった説明を受けました。私は違和感を残しながらも、金銭的メリットが大きかったという営業の猛プッシュもあり、結局はその仕事を受けることにしたのです……が……」

Tさん「ということは……やはり?」

Iさん「ええ。実際にプロジェクトにアサインされ、そのフレームワークを調べてみると、日本語の書籍は1冊出ているだけで、Web上にもほとんど情報がない。あっても日付は数年前。フレームワークに同梱されているサンプルコード自体にもバグがあるというありさまで、ベンダの有償サポートも、二言目には『現地法人に問い合せ中』で1カ月放置は当たり前、といった状態でした」

Jさん「そりゃひどいわ……そのアーキテクチャで行こうと決めた奴は、事前に調査しなかったんか……」

Iさん「それについてはいわゆる『政治的問題』があったらしいです。『癒着』とまではいかないようでしたが、『このソフトウェアを使ってシステムを構築してくれれば、構築事例としてプレスを打ち、会社総出でソリューションとして大々的にビジネス展開していく』というプランが、アーキテクチャを選択した上層部内でやりとりされていたらしいという噂を、後々小耳にはさみました」

Tさん「それは……この業界で仕事をしている上で、ときに耳にする話ではありますが……技術者としては、なんともやりきれませんな……」

Iさん「というわけで順調にプロジェクトは炎上、私も比較的初期から参画していたということで多少は責任を感じており、毎晩帰りは終電近く、土日もどちらかは出勤、という日々が続きました。その間、およそ3カ月といったところでしょうか……」

Jさん「そこで責任を感じるべきかどうかは、正直意見が分かれるところだと思うが、気持ちは分かるわ……」

Iさん「その頃の私の唯一の心の支え……それが『イカの娘』でした。海から来たキュートな侵略者に、私の心は完全に侵略! 侵略! されてしまい、それだけが日々を生き抜く、唯一の希望だったのです」

Tさん「なるほど、『イカの娘』ですか……あれはかわいすぎますからね……気持ちはよく分かるでゲソ」

Jさん「わても当時はデスマ真っ最中でな……録画した『イカの娘』だけが毎週末の楽しみやった……そういうエンジニアは、かなり多かったんじゃなイカ?」

竹金「(いえ、たぶん少数派だと思います)」

Iさん「そんな中、悲劇は起こりました……ご存じの通り『イカの娘』のアニメが、最終回を迎えたのです」

Tさん「あれは……まさしく悲劇でしたね……」

Jさん「当時は2クール目が決まっていたわけではなかったからな……『イカの娘』のかわいさに侵略された奴らが、こぞって皆絶望していたのはよく覚えてるわ。もちろん、わてもその1人や」

Iさん「人間というのは不思議なもので、気を張っていれば多少の無理は効くものです。しかし、あくまでそれは短期的なものにすぎません。長期的に精神的負荷の高い状態が続くと、肉体的な弊害が出てきます。 その時の私は、微熱と咳という風邪に似た症状に常に悩まされており、それを『イカの娘』のかわいさや、赤牛等の栄養ドリンクによって、だましだまし働いていたのです。……しかし、ついに限界が来ました。食欲が完全になくなってしまい、コーディングをしようにも、まったく手が動かなくなってしまったのです」

Tさん「食欲がなくなると、脳は糖分を失い、頭も体も働かなくなる……末期症状ですね……」

Iさん「私は自らが限界に達したことを悟りました。『これ以上この仕事を続けていくのは、精神的にも体力的にも、無理だ』――私は期間途中での退場だけではなく、こんな職場へ無慈悲に放りこんだ所属会社への、退職すら考えました」

Jさん「完全に追い込まれたときの考え方やな……だがその気持ちは、痛いくらいに分かるわ」

Iさん「そして私は、この街に来るのも最後になるのならばと思い、定時を過ぎても皆が残業している中、1人、夜の渋谷センター街へと繰り出したのです……」

→後編へ続く

Comment(3)

コメント

Jitta

Jさん、かなり標準語に毒されてますね。

「いかん」はないやろ。宮川大輔知らん?「あかーーーん!」って咲けんどうやん。「いかん」はないわぁ。
他、いっぱいあるけど、まぁ、ええわ。せやけど、「いかん」はあかん。絶対あかんで。

Jitta

ああ、あかん。「叫んどう」が、咲いとうorz

terukizm

言語って難しいですね。Java言語仕様読んで復習してきます

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