新米武装派フリーランスプログラマ男子(0x1d歳)

DMR REPORT FILE:1 「DMR緊急出動! データベースマイグレーションの謎に迫れ!!」(上)

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 ……都内でも有数の歴史を持つ、某大手出版社。

 文京区の一等地に相応しい、百年の歴史を感じさせる旧社屋は、区内の観光名所にもなっていた。

 その旧社屋と対をなすように建てられた、ごく近代的なビルディング――新社屋では、社内情報部門に所属する社員――いわゆる社内SEが、日々の対応に躍起となっていた。

 常に冷風が吹きつけるサーバルームに面しているというのに、マシンの排熱と人の熱気が混じり合い、酷く蒸し暑い。

男1『はい、社内システムへのユーザ追加ですね? それでしたらまず、書類の方を社内システムからダウンロードして頂きまして……』

男2『ええと……コンピュータが突然ネットワークに接続できなくなった……ということですか? それではまず、コマンドプロンプトを開いて頂いて……あ、コマンドプロンプトの開き方ですか……ええと、スタートメニューからですね……』

 男は電話を叩きつけるように切ると、椅子に体を投げ出した。

 「超一流企業に務める会社員」というよりは、正直「場末の客引き」といった方が似合う風体のその男は、いつのものかもわからない缶コーヒーの中身を一気に流し込んだ。

オダ「あー、毎日毎日嫌になるぜ!! LDAPへの登録くらい自分でやれってんだよ!! なあカンダ、お前もそう思わねーか?」

 カンダと呼ばれた青年は、今となってはさほど大きくもない液晶ディスプレイに目を据えたまま苦笑した。静電容量無接点方式を採用した高級キーボードのタイプ音が小気味良く響く。

カンダ「無茶言わないでくださいよ、オダさん。エンドはipconfigも知らないような人たちなんですから……」

 雑談しながらもカンダの手は止まらない。一呼吸置き、コマンドを最後まで念入りに確認すると、多少強めのストロークでEnterキーを押下する。ターミナル一面がログ出力に染まった。

 正常終了のリザルトを確認すると、カンダも軽く背伸びをした。

カンダ「ディスク領域不足でアラートが上がっていたので、不要なバックアップファイルを削除しました。暫定対応ですが、とりあえずなんとかなるでしょう」

オダ「おう、ご苦労」

 おざなりにねぎらいの言葉をかけたオダは、あたりを見渡した。

オダ「そういやナカハラの奴、遅えな?」

トリイ「さっきヤマサキ部長に呼び出されてましたが、何かあったんでしょうか……」 

 答えたのは向かいに座っていたトリイだ。彼はアメリカ帰りで英語に堪能であり、海外との交渉や技術文書の翻訳などを主に担当している。

オダ「あいつのことだから、またなんか面倒な話を持ってきそうなんだよなー」

???「随分な言われようだな」

オダ「げぇっ! ナカハラ!!」

 背後にNinjaのように立っていたのは、システム管理部門のサブリーダーであり、運用開発課の技術主任でもあるナカハラだった。彼はオダの悪態を気にする素振りもなく、あたりを一瞥した。

ナカハラ「ちょうどいい、みんな集まっているようだな」

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ナカハラ「聞いてくれ 話したいことがある」

……

 ナカハラは皆を会議室へと集めると、信託を授ける巫女を思わせる、厳かな口調で話しはじめた。

ナカハラ「皆も知っているように、我が社の社内システムはメルトダウン寸前だ。ディスクの増設もネットワークの帯域増強も、もう既にハード的限界にきている」

オダ「……ああ、酷いもんだぜ」

カンダ「運用で騙し騙し対処しているのが現状ですからね……」

トリイ「ユーザ部門からもさんざんに言われています……」

ナカハラ「……さらに、来年4月で既存のベンダとのサポート契約が切れ、EOLを迎える」

オダ「なんてこった……」

カンダ「しかし、なんとなく話が見えてきました。……情報システムを刷新するんですね?」

ナカハラ「そうだ。これを機に、インフラ面、ソフトウェア面ともに抜本的改革を進めることになった」

ナカハラ「まず、現状のハードウェアを社内サーバルームに持つ形式ではなく、外部クラウド上に社内システムを構築する。これによって将来的な需要にも対応した、より強力で柔軟なシステムを運用することができる」

カンダ「なるほど……クラウドですか」

トリイ「今っぽいですね……」

オダ「まあ、上が好きそうな話だな……」

ナカハラ「既にRFPはおおむね書き上がっており、ベンダの選定も進んでいる……」

 ナカハラは軽く深呼吸した。

ナカハラ「オダ、カンダ、トリイ。君たちには既存の業務と並行して、本プロジェクトの肝となる『重要部分』の調査を任せたい……」

オダ「『重要部分』の調査……だと……?」

トリイ「それは一体!?」

カンダ「なんなんですか、ナカハラさん!!」

ナカハラ「それは……」

Nandayo

Nandatte

つづく

※この物語は事実をもとにしたフィクションです。
実在の人物、団体、商品とは一切関係ありません※
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