日曜プログラマです。

「目的意識」至上主義(1)

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 ひとつ手品を教えましょう。

 相手の心が読めてしまう、不思議な不思議なマジックです。

 まずは相手を1人選びます。男でも女でも構いませんが、いわゆる日本の「最近の若いもん」が宜しいでしょう。

 次の質問の答えを頭に思い浮かべるよう、指示してください。質問は、こうです。

 「将来やりたいことは、何ですか?」

 そこで相手の表情をじっくり観察――する必要は御座いません。落ち着き払った顔で「はい、思い浮かべました」と答える彼女。何だか急にそわそわし始めた彼。あなたはただ澄まして、こう言い当てればよい。

 「それは、『自分にしかできない何か』ですね?」

 これで、今のところ私は失敗知らず。ま、拍手でなくて苦笑いを頂くことも多いのですけどね。やってみたいなら自己責任です、悪しからず。

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 インターネットに国境はない――少なくとも一般論としては。

 「日本語が使える範囲」と限ってみても、あなたの動ける領域は過去のどの時代よりも広い。

 ある地域の中でオンリーワンになり、自分のできることを精一杯やっていれば、人生を全うできる時代があった。でも今は本気になれば、自分のスキルやアイデアを世界に問う、なんてことができてしまう。

 お金も、物も、世界の大体の場所に送ることができる。特別な資格は要らない。情報を得るのも流すのも、自宅に居ながらローコストでできる。特別なスキルは要らない。

 「できること」の制限が限りなくゼロになった今、「やりたいこと」を適正サイズに収めておくのは大変だ。

 あれも、これも、できそう。

 これも、あれも、やるべきではないか。

 放っておけば前向きな予感は、どんどんどんどん降り注ぐ。

 具体的な一歩を、まるで含まないまま。

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 こんにちは。かわばたです。

 先週末は貴船(きぶね)神社というところへ行って参りました。縁結びで有名な神様のところへ、女1人で。

 危うくただの寂しい人ですが、一応目的はカップル用のお守り。友人が結婚するのでプレゼントしようと思ったのです。

 最寄駅から約2.1km。澄んだ空気の中を歩きながら、出がけに受信したメールのことを考えていました。ITエンジニア目指して就職活動中の女性が、前回のコラムに感想を送ってくれたのです。

 掲載許可を頂いた部分だけ、抜粋。

 親戚にプログラマーを目指してることを言うと、『すごい大変な仕事なんじゃないの!?』って心配されて、そのときに何も言えなくなってしまいます。『大変かもしれないけど、自分にはこういう目的があるから』って自信を持って話せるみたいな目的意識が無いです。なので、このまま就職しても大丈夫かどうか不安になる時があります。

 ......「目的意識」。

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 いま歩いている私。目的地は、貴船神社。

 人生の目的や目標となると、もちろん話はこう簡単ではない。......らしい。

 個人の可能性が途方もなく広がっている現代。目的地として選べる候補が、無数に、無限の奥行きで現れている世界。

 一昔前まで立派な目的地だった場所が、単なる経由地になり下がった。技術の進歩により、あらゆる行程・タスクが効率よく処理できるようになった、という方向からの後押しもある。自分が「目標」としていたものをあっさりこなして、より大きなビジョンに向かう他人の姿が目に入る。

 目は、遠くまで届くようになった。でも、踏み出す一歩の幅は変わらない。目的地への距離が長くなればなるほど、寄り道の余裕はなくなっていく。

 早く、誰よりも大きなビジョンを見つけて、無駄なことはなるべくしないで、その最終目的地に向け邁進しなければならない。

 そうしないと――「自分にしかできない何か」には、永遠に辿り着けない。

 だから、「目的・目標は大きくあるべき」。若いうちから、最初から、そうあるべき。

 周りから褒められたいとか、立派な人間だと思われたいとか、そんなつもりはまるでなく......自らの心の声として、私たち「最近の若いもん」はそのように考えている。

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 ――最後の一言は随分と勇気を出して言い切ってみました。

 私自身の就職活動中、友人から相談を受けたり、同じ就職活動生の掲示板書き込みを読んだりして、個人的に感じていた事柄です。

 皆が言う「目的意識」は、ほぼ「自己実現」とイコールだよな、と(私はあまり何も考えていなかったので他人事調)。

 かつ、自己実現は並大抵のことでは達成できない、遠いゴールであるという共通認識がある。

 だから皆......会社の(つまり他人の)ビジョンに、ほんの一時期でも共感して時間を使うことそのものに、ある種の抵抗感を持っているような。

 自分のものではない夢に協力して、本当の自分を一生発揮できなくなる可能性を考えると、怖い――。進路の悩みを打ち明けてくれる人のほとんどが、胸の奥底でこう叫んでいるように聞こえました。 では、どうしたら良いのか?

 そもそも、そのメンタリティは適切なものなのか?

 考えたいことはまだまだあります。そのために、タイトルには連番を振らせて頂きました。

 ちなみに、先述のメールをくださった彼女には、既に私なりの返信を考えてお送りしてあります。今回の話とは外れるので掲載しませんでしたが、次回、次々回、話の流れ次第ではご紹介するかもしれません。

 親戚にプログラマーを目指してることを言うと、『すごい大変な仕事なんじゃないの!?』って心配されて、そのときに何も言えなくなってしまいます。『大変かもしれないけど、自分にはこういう目的があるから』って自信を持って話せるみたいな目的意識が無いです。なので、このまま就職しても大丈夫かどうか不安になる時があります。

 あなたなら、彼女にどんな言葉をかけますか?

ご意見・ご感想はこちらまで

【 追伸 】

 本文中にも触れましたが、はじめてのコラムには色々なメールを頂きました。

 エンジニアを目指す学生の方、ご自身の新人時代や退職後の夢について教えてくださったベテランの方。「@IT自分戦略研究所」というメディアの大きさを、改めて感じた次第です。

 おかげさまで先週末はパソコンの前で1人「書いてよかった! 書いてよかった!」とはしゃぐ不審者でした。

 いえ、照れ隠しに茶化した言い方してますが、本心です。

 本当に、書いてよかった。本当に、ありがとうございます。

今回のご感想や雑談はこちらから(※担当編集者に送信されるのか? との質問も頂きましたが、私に直接届きます)

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