エンジニアが敬遠しがちなプロジェクトマネジメントを、テレビドラマを題材に解説する

「私、失敗しないので」と断言したPM-「ドクターX~外科医・大門未知子~」

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■ハケンな外科医のドラマが人気

 2012年の10月クールのドラマの中で、一番視聴率を稼いでいる番組、それは「ドクターX~外科医・大門未知子~」です。キャリアを捨て、腕1本で生きているフリーランスの女性外科医大門未知子を描いているドラマです。

 この大門医師、本当に言うことがすごい。

 「失敗したらどうするんだ!」という人に「私、失敗しないので」。教授に向かって「あんた手術下手なんでしょ」

 恐るべし。ここまで言えると人生楽だろうな。ついでにいうと、病院との契約では、医師免許なくてもできる仕事は一切せず、残業1時間(確か)3万円。稼いでまんなぁ。

■もし、PMがドクターXなことを言ったら?

 「私、失敗はしないので」なんてことをPMが言ってしまったら……。というか本当にそんなことをいうPMはいるのだろうか?

 実はいる。会ったことあるし。

 そのPMは、大門医師と同じように、フリーというか自営業者のPMでした。ある会合で打ち合わせをした後、流れで飲み会に突入。そこで、その大門PMは言った。

 「私、今までプロジェクトを失敗させたことないんですよね」

 「本当かよ」と思ったが、まぁあり得るとも思ったのです。だって、自分も一時期、そんなことを言ってましたから。とにかく、面白かったので徹底的にそのFさん(仮名)にヒアリング。

私:「失敗しなかったって、全部成功?」
F(仮名):「成功、成功」
私:「コストも品質もスケジュールも」
F(仮名):「いや」 Fさん(仮名)は、少し言いよどむ。
F(仮名):「客の満足度がよかったんです」
私:「はぁ」
F(仮名):「お客さまに満足してもらえたんですよ」 ドヤ顔のFさん(仮名)。

 わかった。謎はすべて、マルっと解けた

 お客さま満足度が上がったので、プロジェクトは成功か。

 では問題です。

 「お客さま満足度が上がったので、プロジェクトは成功」という文章に、間違いが2つあります。

 どこでしょうか?

■プロジェクトの失敗とは

 「お客さま満足度が上がったので、プロジェクトは成功」

 間違いというか、勘違いの1点目は、お客さま満足度という言葉です。この言葉「お客さまが満足した」は、よく聞かれる言葉なんですが、本当に客は満足しているのでしょうか? また、客といっても千差万別、経営者? 部長? システム部? オペレーター? それともコンシューマや消費者? 誰が「満足」という言葉を言ったのでしょうか? 単なるリップサービス、もしくはFさんの思い込みの可能性が高いかもしれません。もっと多いのは、単なる社交辞令ということです。せっかくシステムを作ってもらったのに、お世辞をいわなきゃまずいでしょ、お世辞はタダだし。「PRICELESS~あるわけねえだろ、んなもん~」byキムタク。

 2点目は、お客さま満足度の上昇=プロジェクト成功という定義です。満足という非常に感覚的な言葉で成功を定義するとは、ちゃんちゃら笑えます(いや失礼)。もし、思いっきりコストを下げて、システムを作った場合、例えば通常ならば1000万のコストがかかるシステムを10万円で提供した場合、作ったベンダは赤字です。でも、客は大満足です。なぜなら、1000万円のモノを特価10万円でもらったのですから。使いものにならないものだとしても、たかだか10万円です。「満足度=プロジェクトの成功」は、かなり残念な定義といえるでしょう。

■プロジェクトの成功の定義

 あるベンダやIT専門雑誌では、プロジェクトのQCDが計画時よりも悪化しなかった場合に成功としています。そして、成功率は大体30%ぐらい。また、ある会社では、もっと単純に、赤字でなければ成功、としています。こちらの成功率は90%ぐらいですかね。

 そして、エンジニアたちは、「得るものがあった」とか「自分の目標を達成した」とか「スキルが上がった」等を上げている人が多そうです。

 プロジェクトに関わる立ち位置によって、プロジェクトの成功の定義は結構まちまちだったりするのです。

 そして、「お客さまが満足した」というのは、間違っているし、ある意味すごく正しいことでもあります。お客さまの経営者、担当者、コンシューマなどすべてが満足するシステム、いやシステム開発プロジェクトは、まずあり得ません。経営者が喜ぶ「コスト削減」は、現場の人員削減につながる可能性があります。エンジニアが大喜びする新技術を活かしたシステムは、お客さまの情弱な方々には苦痛かもしれません。QCDが計画内に収まった場合、下請け会社が泣いているかもしれません。

 ということは……お客さまや関係者すべてが満足するシステムはつくることなどできない、という結論になります。満足度を評価の指針にすることだけはやめましょう。せめて、宣伝トークのみにしておいてくださいませ、PMさん。

 それでは、また別のお話で。

ドクターX 外科医・大門未知子
2012年10月18日から、テレビ朝日系列の木曜ドラマ枠で放送。主演は米倉涼子(役:フリーの外科医:大門未知子)、共演に田中圭(役:第二外科助手 森本光)、内田有紀(役:麻酔科医 城之内 博美)、段田安則(役:第二外科部長、教授 鳥井高)等。脚本は中園ミホ。オープニングナレーションは、なんと「プロジェクトX」の田口トモロヲ。初回視聴率18%超、第七話(12月6日)の視聴率20%超。関西のおばちゃんが喜んで見ているドラマ(らしい)。

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