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コミュニティ活動で語学の勉強

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■語学スキルとIT業界

 IT業界にいれば、みんながみんな外国語に直面するわけではないですが、外国語ができると仕事が広がることはありますし、特に「英語」は必要なケースに直面することがあります。

 よくある例が

  • ドキュメントが英語しかない(マニュアル、技術書、論文、情報交換、情報発信etc)
     → 使いこなすのに or 最新動向を追うのに英語が必要
  • 製品が日本語化されていない

 ITエンジニアでも硬派な人は「洋書は邦訳が出ても原書を読め」といいます。実際、和訳文書の中には誤訳が混じっていたり、誤訳とまではいわないものの、日本語としてこなれておらず、原文を読む方が分かりやすいこともあります。

 IT業界に限らずとも、「これから身につけたいスキル」というようなアンケートを社会人や大学生向けに取ると、上位に必ずといっていいほど入る「語学/英語」。かくいうわたしも英語は決して得意ではありません。でも、まぁ仕事で使うこともぼちぼちあるので、Readingはそれなりにやったりします(Writingは上手いとはいえませんし、Hearingは絶望的です)。

■コミュニティ活動で語学の勉強

 さて、ここで「コミュニティ活動で英語の勉強をする」という方法をご紹介したいと思います。

 一番手軽なのは、

  1. 海外で開発されていて、主に英語で情報発信されているソフトウェアで、
  2. 日本にすでにコミュニティがある

というようなプロジェクトに参加して、何かしらドキュメント翻訳をやることです。

 そういうプロジェクトには通常、和訳されていない英語リソース(ドキュメントや、時にはソフトウェア自体)があります。翻訳者の余っているプロジェクトは滅多にありません。普段、英語に触れる機会がない人は、その機会を作るのが一番ですから、辞書を引きながらでも何か文章を訳すというのはそれだけでも多少なりとも勉強になります。基本的には、100点満点の翻訳でなくても、何かのドキュメントの和訳を作れば誰かの役に立ちますし、それで自分の勉強になるならもってこいです。

 そして、ここが「コミュニティ」の良いところなのですが、既に翻訳を担当するスタッフがいるようなプロジェクトなら、英語の訳文のレビューを依頼すれば、たいがい何かコメントがもらえるでしょう。そこでもらう意見や指摘が、また勉強になります。プロの教師に教わるわけではありませんが、タダで英語を教えてもらえるという言い方もできるでしょう。

 もちろん、あまりにも「教えて君」すぎるといやがられるでしょう。しかし、あくまでプロジェクトへの貢献が主で、その動機に語学の上達がある、というスタンスで臨んでいれば、大抵は大丈夫です。高度な語学力がなければやってはいけないわけではありません。実際、英語力になんの不自由もないようなプロジェクトメンバーは、ドキュメント翻訳を中心に活動することはあまりありません。たまには訳すにしても、英語圏のプロジェクトメンバーとのコミュニケーションが必要な部分を担っていることが多いです。英語が得意な人は日本語訳が必要ないのであまり興味がない、という話も時折耳にします。そうでない人もいますが、ある一面は言い表していると思います。

 翻訳への貢献はほどほどの英語力でも参加できます。技術文書の翻訳をやるときには、なるべく調べながら、ちゃんと「意味を理解して」訳すことをお勧めします。「とりあえず分からないけど日本語にしておく」は、まぁやらないよりはましなこともあるので場合によりけりですが、調べることは英語以外の自分の勉強になります。ソフトウェアの文書なら、実際にその機能を使いながらやるといいでしょう。時々、原文のバグが見つかることもあります。

 わたしが一番関係してきたFirefoxの翻訳コミュニティだと、

などあります。最近、活動が活発でないものも混じっていますが、ここにあるような情報は他のプロジェクトにも応用できるのではないかと思います。

■語学のツール

 翻訳に関わるには、色々な道具をそろえておくといいでしょう。

 まずは「辞書」。これは紙の辞書なり電子辞書なり、PC用ソフトウェア辞書なりは持っていた方がいいでしょう。大抵はWeb上の無料の辞書で足りますが、訳語に悩むときには市販のものと併用するのが今のところ無難です。例えば、有名なWeb辞書であるアルクで提供されている「英辞郎」ですが、収録単語数は素晴らしいですし、イディオム(複数の単語で1つの意味)の見出し収録数は相当優れています。しかし、複数の訳語がありえる場合に、この文脈にはどの単語があっているか、というのを調べる場合には、他の辞書よりも使いやすいとはまだ言えないと感じています。

 「英英辞典」もあなどれません。それから、読解には不要でも、訳文を作るときには「類語辞典」があるとたまに助かります。類語辞典は書籍出版までしないのであればそれほどの出番はありませんが……。

 持っておくと便利なのが「翻訳メモリ」。翻訳ソフトではありません。翻訳を記録して、今までに翻訳したのと似た文が出て来たら過去の翻訳を例示してくれるソフトウェアです。文章全体の表現を統一する助けになるのと、前に訳したことがある文章が出てくると訳す時間自体を節約できるというメリットがあります。使えば使うほど役に立つわけです。ドキュメント翻訳を有償で請け負うような人たちの間では「TRADOS」のような高価で高機能な翻訳メモリが有名で、常識ですらあるとも言われますが、ボランティアベースなら、OmegaTというオープンソースのものを使うとよいでしょう。1人で作業する分には一定の機能があります。語学の検定試験や通訳の検定試験は色々ありますが、「ITソフトウェア翻訳士 認定試験」という資格もあります。わたしは業務の実務のソフトウェア翻訳はあまりやったことがないので未体験ですが、この試験の1級ではTRADOSの技術も試験科目になります。

 その他にも色々なツールがあると思いますが、既存のプロジェクトに参加するなかで情報交換するとよいでしょう。

 翻訳ソフトも、長文の下訳をするのに役に立つこともあると聞くことはありますが、そういう話もまれで、自分が外国語の文章を流し読みするのに使うことはあっても、ソフトウェア関係で公開する和訳を作るために使っているという話はほとんど聞いたことがありません。使うとしても、市販のものは、高価なものでに限って特定分野の専門用語の登録単語数でこそWebの機械翻訳と比べて多いのが優位点ですが、翻訳性能がWebで使える無料のものと比べて値段に見合うかというと、わたしがいくつか使った中ではそうは思えません。翻訳それ自体だけではなく、翻訳ソフトの持つ各種機能を使いこなすなら多少は役に立つのかもしれませんが。

■もっと色々な貢献

 ドキュメント翻訳でも、Wikiや公式サイトにあがっている文書の翻訳の他に、関係者のブログの翻訳も面白いでしょう。IT系に限らず、面白い外国語ブログのポストの和訳紹介は、アクセスの集まる記事の1つですね。

 ドキュメント翻訳では、厳密に言えば著作権の問題があるので、著者に許諾を取ってからやることをお勧めします。一般公開しているドキュメントの「翻訳」に後ろ向きな著者は滅多にいません。大抵は快諾の返事がすぐに返ってくるでしょう。

 参考までに、Firefoxの開発元Mozilla Corporationの社員の公式ブログに関しては、Mozilla Japanが会社としてアメリカ側に話をつけており、翻訳は誰でも自由に行えることになっていますので許諾の手続きは不要です。

 ソフトウェア自身の日本語化という仕事もあります。他にも、開発が英語コミュニケーションベースで行われているならば、バグ報告や議論参加など、英語でコア技術者とコミュニケーションするのもよいです。Mozilla Japanの中野雅之さんも、学生時代の英語の成績は相当悪かったそうですが、今では日常英語でやりとりしています(あくまでReading/Writing限定ですが)。どこかで英語をまとめて習ったからできるようになったわけではなく、やっているうちに上達した好例でしょうか。

 すでに翻訳活動をしているプロジェクトに参加するのもよいですが、翻訳コミュニティがまだ存在しない所で翻訳プロジェクト自体を立ち上げるのも1つの挑戦です。これもやりがいはあると思います。

 和訳ではなく、英語での情報発信というのも面白い仕事です。日本語発のまとまったドキュメントの英語化となると、ちょっとレベルが上がるので英語の相当得意な人にフォローに入ってもらわないと厳しいですが、日本のコミュニティや市場で起こった出来事を英語で通じる程度に発信するような作業ならやってできないものではありません。

■参考までに

 英語の話を例に出しました。IT系だとどうしても英語が中心になってしまいますが、他の外国語を習得して、他の国のコミュニティとコミュニケーションするのもよいです。英語以外の外国語が得意な人というのは日本のIT系コミュニティにはそうそう多くはないので、ユニークな活動ができると思います。

 doc-ja プロジェクトという、ソフトウェア翻訳に関わっている人が横断的に参加しているプロジェクトもあります。こういったものに参加してみるのもよいでしょう。また、Doc-Festというイベントもあります。「Code Fest」というコーディング合宿にインスパイアされた企画で、みんなで集まって翻訳をしようというイベントです。開催回数は多くないですが、調べて見ると面白いと思います。kansai.pmも独自で翻訳イベントやっていますね。

 最近話題になったところですと、NICTと東大、「みんなの翻訳」を公開 - スラッシュドット・ジャパンなんてのもありますね。英語学習ネタはみなさん関心がある分野と見えて、はてなブックマークを見ていても色々な人が話題にしているようです。

 個人的な注目は2009年3月の鰤端末鉄野菜まとめ - 鰤端末鉄野菜 Brittys Wakeですね。楽しみながら英語というなら、有名どころでは日刊ショート漫画サイト「The official Dilbert website with Scott Adams' color comic strips, animation, mashups and more!」がお勧めです。一部は@IT情報マネジメント:ディルバート連載インデックスで和訳紹介があります。ちとアカデミックな方向だとxkcd - A Webcomic - Parental Trollingもかなり面白いのですが、ちょっと難易度が高いです。

 ドキュメント翻訳系の話題をやってきましたが、ソフトウェア翻訳寄りの話題では、Launchpadは、理念としてはフレーズ単位に自分の訳せる所をちょっとずつでも訳していくタイプの機能をホストしています。多言語翻訳のフレームワークのその他の例として、Firefoxの拡張機能の翻訳支援をホストするBabelZillaの紹介文 - deq blogというのもあります。

 ソフトウェア翻訳ともまたちょっと毛色が違いますが、ネットを日本語化する:Japanizeというサービスの翻訳もボランティアベースです。今ではもうすっかり有名になったプロジェクトWikipediaでも外国語版に存在する記事を翻訳して日本語ページを作ることはよくあって、これを使って勉強することも、Wikipediaのルールに従う限り可能ではあります(ただし、その外国語記事の情報量が多いとしても、情報の信憑性は別の資料で確かめることをお勧めします)。

 参考リンクとして、マルチリンガル翻訳と辞書・辞典 [無料]椎茸プロジェクト:オンライン翻訳者を支援するなどもあります。

 丁度こんなことを書いている最中に翻訳どうしてますか ? - スラッシュドット・ジャパンが公開されました。やっぱりみんな感じているところは何年も変わらないなぁと思います。

■まとめ

 今回ご紹介したのは、主に和訳(ドキュメントやソフトウェア)中心の話なので、英文を書く方や、Hearing/Speakingの上達はなかなか難しいです。チャット系のツールでコミュニケーションすれば、口語的表現が多少身についたりはしますが、それ以上はちょっときつい(チャット系はネットスラングと実際の口語との区別が分かりづらいという難点があります)。

 真面目に夜学で語学学校に通うとか(教育訓練給付制度で適用になりやすいジャンルの筆頭が英語です)、市販の英語学習書を使うというのも手ではあります(市販のものは多すぎてどれがいいか難しいですが、案外NHKのTV/ラジオ講座の教材はレベルが高いです)。ただ、ITに限定しない英語学習コミュニティというのもままありますので、そういうものを探してみるのもいいでしょう。

 英語以外の言語にも勉強コミュニティはあります。世間一般ではちょっと異色ですがはじめませんか、多言語のあるくらし。-7ヵ国語で話そう!ヒッポファミリークラブなんてものもあります。最近はIT系に限っても、英語以外の勉強会をやるところがちらほら現れているようです。中国語の勉強会とかも東京でも名古屋でもみかけます。オフショア先として中国は有名なので、中国語に熱心なエンジニアも少なからずいますね。IT系だとベトナムや韓国との取引も聞きますが、そちらの言語が達者な日本人ITエンジニアというのはまだまだ少ないと思います。

 わたしも実力が伴っていないので胸を張って言える立場ではないですが、語学アップのための情報・ツールは非常にたくさんあります。是非是非挑戦されてはいかがでしょうか。

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