海外IT企業で働いていた純日本人エンジニアがいろいろと考えてみる。

日本と海外の在宅勤務事情

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 どうも、鹿島和郎(かしまかずお)です。ここ最近はScalaとi18nという技術ネタを続けて書いてきましたので、そろそろIT技術者として認知されてきたのではないかと思います。ということで、今回は久しぶりに技術から離れた軽いネタでいこうと思います。

 ちょっとネタが古くなってしまいましたが、1カ月前位くらいにCNET Japanで「在宅勤務のよくない点」という記事がありました。CNET Japanは海外の記事の翻訳が多いので、英語があまり得意でない方には便利なのですが、その反面、単に英語の記事を翻訳するだけなので日本ではまったく当てはまらない内容の記事もあったりします。

 「在宅勤務のよくない点」というのがまさに「日本ではまったく当てはまらない内容の記事」なのですが、結構面白いので、この話題について少し書こうと思います。

■北米における在宅勤務

○CNETによる「アメリカでの典型的な在宅勤務風景」?

 以前のコラムで少し触れたとおり、アメリカでは日本に比べると在宅勤務が一般的です。CNET Japanの記事によると、「年次スタッフミーティング」や「大型のアップグレードのために、オフィスに呼び出され」る以外ではオフィスに行かないというケースもあり、その結果「上司の顔を忘れ」ることがよくあるようです。

 また、アメリカは国土が広いので、「普段、時差があるところに住んでいる」人同士が同じプロジェクトで働くという事も割と一般的だそうです。

 CNETの元記事は恐らく若干誇張しているとは思いますが、それでもこういった話がまったくのフィクションではなく、それなりの現実味を持ってとらえられるというところを見ても、アメリカの在宅勤務の状況が日本とは異なることが分かるかと思います。

○実例

 わたしが北米の中小企業に勤めていた時は在宅勤務ではありませんでしたが、向こうっぽい経験をすることが二度ほどありました。

 一度目は、取引先のアメリカ企業(A社)が開発しているシステムの一部を担当するようになった時のことです。A社の社員は実質2名で、彼らは普段アメリカ中部のどこかの州の違う町に別々に住んでいて、打ち合わせはSkypeやWebEx(テレビ会議システム)を使っていました。

 システムは、わたしの会社とA社、A社の外注先のポーランドの会社(P社)の3社で開発したのですが、A社とP社とのやりとりも当然インターネット経由です。また、A社、P社、わたしの会社で三者通話の会議をすることも結構頻繁にありました。

 ちなみに、わたしがA社の2人と会ったのは、彼らが一度カナダに来た時の3日間だけで、P社の人とは会うこともありませんでした。

 二度目はわたしの会社が開発拠点をフィリピンに移した時です。わたしと同僚1名がフィリピンに転勤となり、現地開発者のチームに合流しました。それに伴い、カナダに残った開発者は基本的には自宅勤務となり、コミュニケーションはメールでのやりとりとなり、重要な話がある時だけSkypeを使う形になりました。

 わたしが北米で働いていたのは2年半ほどですが、その間に在宅勤務をしている人たちに2回会ったことからしても、日本より在宅勤務が普及していると言えるかと思います。

■日本では15.3%が在宅勤務?

 翻って、日本の状況はどうでしょうか。平成21年度テレワーク人口実態調査によると全体の15.3%が「テレワーカー」だそうです。「テレワーカー」の定義は以下の通りです。

  • 普段、収入を伴う仕事を行っている人の中で、仕事でITを利用している人
  • かつ、自分の所属する部署のある場所以外で、ITを利用できる環境において仕事を行う時間が1週間あたり8時間以上である人

 この定義からしていくつか突っ込みどころというか疑問があります。

  • 週に2日はお客さまのところで作業するエンジニアの場合は該当するのか
  • 自宅に仕事を持ち帰って、1日2時間以上家で仕事している人は該当するのか

などなど。

 そもそも、15.3%が「テレワーカー」というのがまったく現実味のある数字として感じられません。世間一般の方が「在宅勤務」という言葉から想像する勤務体系で働いている人は、わたしの周りでは

  • 個人でたまにWebサイトのデザインをやっている主婦
  • 企業に出向いて研修を行い、自宅で研修の報告書を作成するコンサルタント

の2名だけです。株のデイトレーディングで生計を立てている1名を含めても3名です。

 もちろん「類は友を呼ぶ」ので、わたしの周りに在宅勤務の人が少ないだけという可能性もありますが、標本の偏りが少ないと思われる小学校・中学校の同級生を考えても、同じクラスのうち約3人が在宅勤務しているというのは、どうも考えにくいです。控えめに言っても「テレワーカー」≠「(世間一般で言うところの)在宅勤務者」ではないかと思います。

■IT業界でこそ普及させてほしい

○なぜ普及しないのか

 日本で在宅勤務が普及しない理由の第一は、労務管理がしにくい(と思われている)ことが挙げられます。簡単な言葉で言うと、経営側が「社員は目の届くところに置いておかないとサボる」と思っていることです。

 少し話は変わりますが、IT業界ではいわゆる偽装請負、多重派遣、多重請負などが構造上の問題として存在することは、多くの方が認識されているかと思います。その理由の1つが、在宅勤務の場合とまったく同じ「人員を目の届くところに置いておきたい」ということだと思います。もし、在宅勤務の問題が解決すると案外、多重請負の構造も解決に向かったりするかもしれません。もちろん、多重請負の原因はそれ以外にもいろいろとあるのですが、ここでは触れません。

 また、情報漏えいを理由に在宅勤務に否定的な企業が数多くあります。一見すると正当な理由に思えますが、実際には導入にメリットを感じていない、あるいは単に検討するのも面倒、というところが多いような気がします。

○まずは自分たちから使えば?

 やれ業務改善のためのソリューション提供がどうのとかVPNが何だのという話を日常的にしている割に、日本の多くのIT企業では最先端のIT技術を活用しきれていないところが多いと思います。「紺屋の白袴」なんてよく言われますが、まずは自分たちの業務を改善してほしいと思うのですが、皆さんはどう思われますか。

■終わりに

 完全在宅だとメリハリをつけづらいと思っている方も多いかと思いますが、週に2~3日出社とか昼の数時間のみ出社でOKとかであれば、受け入れられやすいのではないかと思います。

 今後、社会に在宅勤務がどんどん普及していってほしいですし、われわれITエンジニアは、在宅勤務をサポートする効率的な仕組みを提供していくことで貢献していきたいですね。

 それではまた。

Comment(5)

コメント

こんにちは。

ある派遣会社から弊社に来ていただいている人で、在宅勤務経験者がいます。
ただ、弊社では適用者はいないですね(制度自体はあるようですが)。

仰る通り、IT業界でありながらインフラの問題などがあって難しいようです。

出産を控えたお腹の大きな社員など、通勤が大変そうで時差出勤をされていたりしますから、そういう人は在宅勤務でいいのではないかなー、思うときもありますね。

関連記事を以前書いたので紹介させてもらいます。
◆ITでいろんな事がうまくいくという話
http://tougen.seesaa.net/article/158171474.html
雇用や労働のクラウド化でかなりの社会問題が解決するんじゃないかと思ってます。 普及しない理由:成果主義にすれば、サボるかもしれないから・・とかは、意味がなくなりますね。

鹿島

>粕谷さん

コメントありがとうございます。

妊婦さんとかは大変ですね。良い人材を確保するのって難しいですし、今いる人を大切にする会社がもっと増えて欲しいです。

>やすボーイさん

初めまして。

ブログの記事拝見しました。メリットに関しては概ね同意です。後は、どう普及させていくか、という所ですね。成果主義も1つの方法だとは思いますが、それで全て解決する訳ではないと思います。その辺は、今後時間のある時にでも続きを書こうかと思います。

それでは。

インドリ

こんにちは、鹿島さん。
それは、日本の体質が関係していると思います。
日本は高度経済期に、終身雇用を柱とし、全ての社員が共有された目標に向かって貢献する事を期待されていました。
また、日本人特有の平等主義も伴って、個人の報酬と成果を結びつけるという発想がありません。
この為報酬は、性別・年齢・学歴・勤務年数などといった「レッテル」で決められ、成果が評価されません。
成果が評価されないので、管理者は仕事を管理するのではなく、人を管理するのが一般的になっています。
そうした、日本の体質が成果主義の在宅勤務を採用したがらない理由だと思います。

鹿島

インドリさん、こんにちは。

仕事を管理するのではなく人を管理する、というご意見は興味深いですね。上のコメントでやすボーイさんもおっしゃってますが、成果主義というのは一つの方法なのでしょうね。それの導入はまた一つの大きなトピックになってしまいますが。

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