なめられないITスペシャリストになろう

御社のITコンサルタントって何するんですか?

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 「コンサルタント? 別に立派な報告書を作る人はいらないよ。欲しいのは動くものなんだ」

 「弊社のコンサルタントは必要に応じてコーディングもやるんですよ。」

 「それってSEとかプログラマの仕事でしょ。御社のITコンサルタントって何するんですか?


 「弊社に応募された理由を教えてもらえますか?」

 「プログラマ、SEと下流工程を積み上げてきたので、そろそろコンサルタントになりたいと思っているんです」

 「なるほど。で、おっしゃっているコンサルタントはどういうイメージですか?」

 「上流工程の仕事をする人のことだと思うんですが……違いますか? 御社のITコンサルタントって何をするのですか?


 はじめまして。ウルシステムズの林です。

 本コラムでは、ITコンサルタントというキーワードを支点にして、日本のIT業界とそこで働くITスペシャリストのあり方について考えていきたいと思います。ちょっと大上段な感じもしますが、勢いでタイトルを「ITコンサルタント宣言!」としてみました。初回として、まず「ITコンサルタント」のイメージを合わせることから始めたいと思います。

 冒頭の会話ですが、1つ目はわたしが「アジャイル開発プロセス導入支援」のコンサルティングを提案したとき、2つ目は、採用面談のときのものです。ITコンサルタントという単語はよく聞くものの、それが何をする仕事なのかというイメージは、会社や人によってかなり違っています。Webを検索してみてもいろいろなものが出てきます。

 わたしが所属するウルシステムズは、「ビジネスとITのギャップを埋めるコンサルティング会社」です。しかも、わたしは「コンサルティング事業部長」などという肩書きなので、当然のように「ITコンサルタントが何か説明してみろ」という面倒なチャレンジを毎日のように受けています。

 それもあって、ITコンサルタントの意味が人によって違うのはまったく困ったものだと思っています。コンサルタントという単語にかっこいいイメージがあるからかもしれませんが、SEが普通に行う作業までコンサルティングと呼ばれている場合があります。その反対に、顧客が戦略コンサルタントのイメージを強く持っているために、ITコンサルタントの実施する作業の価値を正しく理解してもらえないこともあります。これらが明快に説明できなかったり、会社ごとに違ったりしているので、「ITコンサルタントをしています」とか、「ITコンサルタントを目指しています」と言われても、実は何のことかよくわからないのです。

オレ様定義にはしたくない

 そこで、この「ITコンサルタントって何?」という質問への答えを用意しようというわけなのですが、一般の用語に自分なりの説明をつけるのは、たいていの場合はとてもむなしい作業です。自分が考える「本当の○○」や「真の○○」はこれができなければダメだ、といった主張をときどき見かけますが、そんな自分勝手にした定義がみんなに使ってもらえるわけがありません。特にコンサルタントのような仕事は、やっている人の思い入れが強いので、その人の「想い」が入りすぎてしまって、聞いている方が引いてしまうことがあります。わたしが耳にした、「コンサルタントとは何か」という話をつないでいくと、次のようになります。

 コンサルタントとは、クライアント企業の社員より深くその会社の問題の本質を見抜き、その社員が何年もかかって解決できない課題の解決策をわずかな期間で導き出し、ロジカルシンキングを駆使したプレゼンでクライアントの役員をうならせ、成果を出すためにどんな職業よりも働くハードワーカーであって、世の中のあらゆる事象に常にアンテナを張り、週末には数10冊の書籍を読み込んで知識を広げ……といった具合です。

 これでは超人ですね。自分の仕事に誇りを持っている人に語ってもらうとありがちですが、わたしはこうしたものを「オレ様定義」と呼んでいます。こういう話の終わりには、たいていの場合「……オレ様みたいに」という言葉が暗黙で続いているからです。わたしはこの手の超人的オレ様定義を聞かされると、「『かめはめ波』は使えなくても良いんですか?」とか聞きたくなります。

辞書的定義を参考に

 ITコンサルタントの説明をオレ様定義にしないために、まず、辞書を調べておくことにします。そのものずばりの単語はのっていないので「コンサルタント」や「コンサルティング」を調べてみます。

 Yahoo辞書で引くと、「企業経営・管理の技術などについて、指導・助言をする専門家。相談役」(大辞林:三省堂)とあります。

 コンパクトな定義で、一般用語のコンサルタントのイメージに合っているようですが、実際にコンサルタントが行っている調査・分析作業とはギャップがある気がします。また、ITコンサルタントに転用するには少し物足りません。システム化計画を策定したり、システム構築のための業務分析を行ったりする仕事が含まれているのかいないのかよくわかりません。

 Wikipediaを見ると、「コンサルティング(consulting)とは、業務または業種に関する専門知識を持って、主に企業(まれに行政など公共機関)に対して外部から客観的に現状業務を観察して現象を認識、問題点を指摘し、原因を分析し、対策案を示して企業の発展を助ける業務を行うことである」(2008年10月3日時点)とあります。

 わかりやすい定義で、実際に行っている作業イメージと合いますが、一言で説明というにはちょっと長すぎます。また、戦略コンサルタントの作業イメージが強いので、ITの分野にそのまま転用しにくそうです。

ITコンサルタントのポイント

 少々引っ張りましたが、わたしは「ITコンサルタントって何?」という質問には次のように答えることにしています。

 コンサルティングとは、「専門知識を使って顧客の抱える課題の解決を支援する仕事」です。コンサルティングの直前につく単語で、対象とする課題の種類を示します。仕事を人に置き換えたものがコンサルタントです。

 つまり、ITコンサルタントとは、「専門知識を使って顧客の抱えるITに関する課題の解決を支援する人」だということになります。

 こう考えることで区別したい他の単語との違いを明確にすることができます。ITコンサルタントであるためのポイントは次の3点になります。

1. 専門知識を使うこと

 専門知識を使った知的な仕事を行います。ITコンサルタントであれば、ITに関する専門知識を使うことになります。いくら助かる支援作業であっても、単純作業や肉体作業はコンサルティングではありません。

2. 支援者であること

 顧客の課題を解決する主となる当事者は顧客企業のメンバーであって、コンサルタントはそれを補佐する役割です。顧客には能動的に解決をする動きが必要になります。特定の課題解決の依頼を受けて、その結果を受け身の顧客に提供するという仕事ではありません。

3. 課題の解決をすること

 活動のゴールが顧客の抱える課題を解決することにあります。この点がシステム構築に関わる場合でも、SEの仕事の取り組み方とは決定的に違うところです。SEの仕事は基本的に顧客が必要とするシステムを開発することがゴールです。

よくある疑問に答える

 「顧客が抱えるITに関する課題」とひとことで表現しましたが、これにはいろいろなものがあります。

  • 新しいビジネスを実現するためのシステムをどう実現すればよいかわからない
  • ITを使った新サービス構築のための投資対効果を知りたい
  • 業務を整理してシステムによって効率化したい
  • システム開発のプロジェクトが遅延していて手が打てない
  • 開発ベンダから上がってきた設計の内容が妥当かどうかわからない
  • インフラの運用手順を効率化したい
  • リテラシーが低いため業務に必要なツールを使いこなせない

 などなど、いわゆる上流領域から下流領域まで様々です。

 こうした課題を解決する支援を行う人がITコンサルタントとなるわけです。もちろん、あらゆるIT関連課題を1人のコンサルタントが対応できる必要はありません。これらの様々なIT課題のいくつかについて解決の支援をできればITコンサルタントと呼べるわけです。

 ITコンサルタントをこのように考えれば、よくある次のような質問にも答えることができます。

1. コンサルティングの仕事は報告書のようなドキュメントを作ることですか?

 違います。ドキュメントの作成は手段の1つに過ぎません。ドキュメントは活動の成果物になるので非常に重要なものですが、その他にも意思決定を方向付けるためのプレゼンテーションや議論のリードなど、課題を解決するためのさまざまな活動を行います。

2. コーディングをするのはコンサルタントの仕事には含まれないのですか?

 含まれる場合もあります。顧客のITに関する課題はいわゆる上流工程のものだけではありません。新規技術を適用することの妥当性を検証するためのプロトタイピングや新しい開発プロセスの定着のために雛形となるコードを用意することも、顧客の課題解決を支援するコンサルティング活動と言えます。

3. SEの行う要件定義はコンサルティングの仕事と言っても良いですか?

 基本的には違います。しかし、取り組み方によってはコンサルティングと呼んでもよい場合もあります。まず、目的意識がシステムを開発することにとどまる限りはコンサルティングとは呼べません。ですから、システムを構築するために、顧客が必要とする機能についての仕様を聞いて整理するような取り組み方は、コンサルティングではありません。発注者も作られるシステムに対して対価を払います。これに対して、顧客の課題を解決することを意識した取り組みであればコンサルティングと呼べます。システムの構築にビジネス上のどんな意味があり、それを実現するために必要な要件について、顧客をリードしながらシステム化範囲を決めていくような進め方なら、コンサルティング活動になります。発注者も課題の解決の支援に対して対価を払っている意識を持つことができます。

対象範囲を絞り込む

 ITコンサルタントというだけでは、実際にどんな課題に取り組んでもらえるのかはわかりません。ITの領域は非常に広範囲だからです。システム開発だけでなくハードウェアやネットワークなどのインフラ、各種のパッケージソフト、ITリテラシー教育など様々なものがあります。より明確にサービスの内容を伝えるためには対象とする範囲を絞り込む必要があります。

 例えば、わたしの所属するウルシステムズの場合、企業のビジネスを担うITについて、戦略の立案・要件定義・設計・開発にいたる工程を中心に、その中で生じているギャップの解消を行うコンサルティングを得意としています。

 以上、ITコンサルタントが何かについてのベースのイメージをお伝えしました。次回以降では、ITコンサルティングの活動の実際とそれに必要なスキルについて紹介していきたいと思います。

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