技と名がつくと深入りしてしまうスキルマニアのエンジニア

古代語魔法の再発明

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 「なんでもやります。がんばります」

 若いころ、よくこんなことを言っていた。自分のスキルの未熟さをどうにかしたい。そんな思いから、ちょっとでもチャンスがあると首を突っ込み経験値をあげていた。

 時は流れて一人前のエンジニアになった。「なんでもやります」という言葉が「(ほぼ)なんでもできます」に変わった。傲慢なモノ言いなのは承知している。ずっとエンジニアを続けていると、たいていのことはそれなりに勉強すればできるという自信もできるものだ。

■魔法の開発≒システム開発

 ふと、思う。

 わたしはこの「なんでもできる力」を使って何がしたいのだろうか?

 ソフトウェアというのは魔法の呪文によくにている。スペルを正しく唱えると、デジタルの世界ではなんだってできる。

 アルゴリズム。デザインパターン。デジタルな魔法語の使い方は覚えた。プログラムを連ねるスクロールに記されるのは、破壊の炎か、回復の奇跡か。

■古代への情熱

 最先端の研究を追いかけることは誰にだってできることなのかもしれない。ネットに接続すれば、情報の洪水であきれかえるだろう。OSSに手を出してみてもいい。いまのスキルがあれば、カーネルソースだって追いかけることができる。

 技術は知恵の積み重ねだ。アイザック・ニュートンの言うように「巨人の肩の上」に立っていることは知っている。しかし、いつまでも肩の上から眺めているだけでは、いつまでたっても自分自身は巨人にはなれない。

 一般ユーザーという言葉がある。システムが専門でない人や、パソコンを使うだけの人のことを指す。わたしたちエンジニアも、巨人からみたら「一般ユーザー」にすぎないのかもしれない。

 コンピュータの基本設計は1940年代から何も変わってはいない。クロード・シャノンやフォン・ノイマンの遺産によって食べているだけなのかもしれない。どこまでいってもフォン・ノイマン型コンピュータという手のひらの上。

 会社員を指して歯車ということがある。エンジニアだって歯車のひとつだ。「エンジニアであればできること」はたくさんある。「わたしだけにしかできないこと」は本当にあるのだろうか。いまさら、自分探しの落とし穴にはまる。ああ、恥ずかしい。

■偉大すぎる巨人は影もまた大きい

 歌舞伎だったか忘れたが、伝統芸能の世界にこんな言葉があるらしい。「師匠をみるな。師匠のみているものをみろ」。師匠をみているだけでは、いつまでたっても師匠を追いこせない。そこが、ゴールになるからだ。師匠の先にあるものを目標にして、より大きな存在になれる。

 巨人たちは、いったい何をみていたのだろうか。見晴らしのいいポジションにいながら何もみえてこない。凡人は視力でさえ凡庸ということらしい。

 アラン・ケイは言う。「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」。ここでの視力というのは、アイデアといいかえてもいい。アランの言葉を借りれば、アイデアとは、わたしが生まれてきたときになかったものすべてだろう。

■わたしたちは、色眼鏡をかけて世界をみている

 回復に向かっていた十二指腸潰瘍が悪化した。体温計は38度を指している。結構な熱じゃないか。もうろうとした意識の中でそんなことを考える。ずっと、ずっと考える。ぐるぐる。ぐるぐる。まるで禅の公案のようだ。隻手の音声(せきしゅのおんじょう:禅の公案の1つ。両手で打つと音が出るが、片手にはどんな音があるか? 「隻手の声」ともいう)でも考えたら何かヒントをつかめるかもしれない。

 禅の世界では、公案を解くときにほかの人の解釈を聞いてはならないという。他人の解釈が自分の理解の妨げになるからだ。つまり、「巨人の肩にのらない」という選択をする。一度は、巨人の足元まで降りて、下からみることも必要なのだろう。

 しかし、わたしはもう、巨人の肩の上の景色に見慣れすぎている。巨人の足元から見上げても、高いところからみる風景を忘れることはできないでいる。悟りの世界はまだ遠いようである。

 いや、その前に誰か回復の呪文をかけてくれ。

 どこか遠くからレベルアップを告げるアラート音が鳴り響く……。

【本日のスキル】

  • コラムニストスキル:レベル32
  • RPGスキル:レベル15
  • 歴史スキル:レベル25
  • 座禅スキル:レベル10
  • 闘病スキル:レベル2

Comment(3)

コメント

第3バイオリン

はがねのつるぎさん

はじめまして。第3バイオリンと申します。

>会社員を指して歯車ということがある。エンジニアだって歯車のひとつだ。
私は昔、若気の至りで「組織の歯車になるなんて嫌だー!」と息巻いていました。
しかし今ではどんなすごいマシンも歯車ひとつ足りないだけで動かなくなってしまう、だったら歯車上等だ!と考えています。
しかし歯車の中にも本当にないと困るものから、なくてもなんとかなってしまう歯車までいろいろあることにも気が付いています。
私も、取り換えのきかない私になりたいです。

今の私はテストリーダーをまかせてもらうのが目標ですが、
実際のところは人手が足りないテストプロジェクトを渡り歩く傭兵のような
生活をしています。
ときどき、このままでは単なる便利屋で終わってしまうのではないかと不安になることがあります。
今はいろいろな経験をして基礎体力を身につける時期だし、同じ便利屋ならこいつにまかせたいと思われる便利屋になりたい。そう思うようにしています。

お体のほう、どうぞお大事に。

はがねのつるぎ

>第3バイオリンさん

カラダへの気遣い痛み入ります。

歯車にもいろいろとあって、プラスチック製より、丈夫でサビないチタン製であるほうがいいし。歯が欠けてギクシャクするより、ピシっとした精度で滑らかな回転で安定しているほうがよいのかもしれません。すべての歯車が完璧に組み合わさって力を発揮しているときの気持ちよさというのもありますね。

同じ歯車であっても、特別なところで使われる歯車でありたいと思います。遊星ギアみたいに。

とは言え、それだけで終わってしまっては面白くない。
で、あれこれ悩みながら大学院生になってみたりするわけです。

ある楽器で超絶技巧の持ち主だとしても、そこで「何をどう演奏するか」という悩みはあるのでしょう。いつかは、自分だけのバッハ、自分だけのパガニーニ、あるいは自分だけのメロディをみつけてみたいと、願っているのかもしれません。

などと、考えながら、面白法人カヤックの『ウェブで一発当てる方法』なんて本を読んでいました。「グダグダしているヒマがあったらなんでもいいから手と頭を動かしてモノを作れ!」そういうメッセージが行間からあふれ出していました。まるで、ストリートミュージシャンのような世界観です。


人は悩みながら前に進むもの。きっと、いいテストリーダーになれますよ。
わたしがプロジェクトマネージャーになる日とどちらが早いでしょうか(^^;

第3バイオリン

はがねのつるぎさん

>ある楽器で超絶技巧の持ち主だとしても、そこで「何をどう演奏するか」という悩みはあるのでしょう。
技術はあくまで道具や手段にすぎませんからね。
技術をどのように使うか、技術で何をするかはそれこそ人間の感性が問われる部分だと思います。
IT業界のように機械が相手の仕事こそ、人間力が必要なのかもしれません。

>人は悩みながら前に進むもの。きっと、いいテストリーダーになれますよ。
ありがとうございます。そう言ってくださるとなんだか力が湧いてきました。
私がんばります!

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