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本性との付き合い方

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ある人が芸術学校の先生に、伸びる生徒は他の生徒と何が違うのか、と質問したところ「様々なテーマに節操なく取り組むタイプ」という回答があったそうです。加えて「多くの生徒は、自分だけが大切にしている何かがあるので、指導する立場としてはそれを見守るしかない」とも。

また、軍隊など上意下達の組織行動が求められる組織では、ブートキャンプなどで個人が持っている価値観を壊し、組織としての価値観を新たに持たせる訓練が行われるという話も聞いたことがあります。いわゆる鬼教官のしごき。

これらの話は分かる気がします。誰かと話をしているとき、その人が話す内容の傾向や発言のタイミングなどから、なんとなくその人が大切にしている事、価値観みたいなものを感じることがあります。当然、自分の価値観を明確に口にし行動を伴っている人もいますが、無自覚なのかそれとも公表したくないのか、自分の価値観を口にださない人もいます。

そしてこれも想像ですが、自分の価値観を口に出さない人の多くが、自分の価値観に対して実は無自覚なのではないかと思っています。それが、冒頭の芸術学校の先生の話。生徒が大切にしているものはわからない。見守るしかない。と言っておられる点です。何故わからないか、それは生徒が口にしないから。もしくは無自覚なので口にできないから。だから見守るしかない。

若い人たちは経験が浅いので、自分の中にどのような価値観があるか気が付かない可能性があります。加えてその価値観が未熟であることも。だから自分の中にある未熟な価値観に捕らわれることなく、いろいろなことに無節操に取り組み、その経験のなかで自分の価値観をアップデートできる学生が伸びるのではないか、と先生は言っているように感じます。

一方で軍隊の話。軍隊は統制が自分たちの生死に直結する特殊な組織です。上からの命令には有無も言わさず従うことが求められます。絶対服従の組織において、個人的な価値観は必要ありません。ましてやその人がどのような価値観を持ってるかわからないことはリスクでしかありません。だから最初に個人の価値観を壊しておいて、組織としての価値観を自覚させる。鬼教官から罵詈雑言を浴びせられ、無理難題を言われ、理不尽な罰を受ける。しかし、それら困難を同期の仲間と協力し、解決し、はれて組織の一員として巣立ってゆく。軍隊や警察などをテーマにした小説などでは、見慣れたストーリです。

仕事の現場でも、メンバーに案件を任せるという体で、押し付けている管理職がいたりします。任せると押し付ける、何が違うかというと管理職自身がその案件を理解し対応できるけれども、メンバーにやってもらう場合は任せる。自身ができないことを丸投げすると押し付けになります。押し付けの場合、その案件がトラブり始めると管理職は「オレ、言ったよね」という発言が増えてきます。任せている場合は、トラブり始める前に管理職が状況を察知し早めに手が打てるのですが、押し付けの場合は「オレ、言ったよね」と管理職が責任逃れをしますが、なにか対処ができるわけではないのでことは深刻になってしまいます。

売上が安定しないから、と採用に消極的な役員がいました。しかも赤字だから、時間外を減らせとぐちぐち言います。そんなある時、大型案件が決まりました。すると明からにリソース不足が顕在化します。だからでしょう。今度は、危険だからこの案件を断りたいような発言をし始めました。この役員、もともとから自分に責任かかりそうな場合にのみ発言し、しかも高圧的なも言いをしていたので組織の成長より保身なんだろうな、と感じていたので驚きはしませんでしたが。

面白いのは、この管理職に個別で話すと「押し付けたつもりはない」と言いますし、役員も「大きな案件を任せてもらってありがたい」と付け加える様に発言します。でも彼らの発言傾向や行動は「保身」の他なにものでもありません。本人は無自覚かもしれませんが、このように価値観はにじみ出てくるものなのでしょう。

だから、価値観の自覚は大切だと思います。無自覚な価値観はバイアスにつながります。そして、価値観の継続的なアップデートも重要です。組織のなかで偉くなってしまうと、仕事は部下がやってくれるようになるし、自身の発言や行動に対して反対する人はいなくなります。加えて指示や指導という上から目線での部下と接する機会が多くなります。すると、情報や経験が自分からの一方通行となり、自身の価値観をアップデートする機会が極端に少なくなります。自覚がないからなおさらです。だから自己防衛本能が働き、保身に走ってしまう。

ドラッカーはリーダーシップに必要なことはセルフ・マネジメントだと言っています。自身のマネジメントができない限り、他者のマネジメントはできません。そして自身のマネジメントとは「まず自己の強みを知ること。そして、仕事の仕方を知り、学び方を知る。価値観を知る。自己を知ることで、得るべきところがわかり、なすべき貢献が明確になる」ことだとも言っています。

価値観は、自覚しようとしまいと自分の中に存在します。そしてどんなに取り繕ったとしても、その言葉と行動との矛盾から他人に悟られてしまうものでもあります。だから自身の価値観を自覚し、アップデートをし続ける必要があるのです。自身が未熟な頃は、周囲の環境でアップデートする場合がありますが、成熟と共に自身でアップデートしなければなりません。だからこそ、自覚することが大切なのです。

これが、本性との付き合い方だと思います。

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