地方でシステムをつくったり維持したりしている人間の、あっちこっち寄り道しながら道を進む様子をコラムにします。

トータルパートナー&トータルサポート

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■はじめに:「SIer」の仕事

 タイトルから、ものすごくアバウトなキーワードを出してしまってすみません。

 自分がSIerとして忘れたくない考え方・姿勢として、数年前から考えているのが「トータルパートナー&トータルサポート」です。目指す方向性を考えたとき、自分のイメージを表す言葉として考えついたのがこのキーワードでした。

 「SIer」の仕事とは、顧客と情報システム構築・運用保守などについて、あらかじめ定めたスコープ範囲内で請け負っている作業をまっとうすることはもちろん、顧客が日常的に困っていることの相談を受け付け、それらをサポートすることも含んでいると考えています。

 つまり、顧客から「(困ったときなどに)どうすれば最も良いのか、あの人に聞いてみよう」と言ってもらえる存在、それがSIer人としての目指す人物像だと考えました。

■「トータルサポート」

 面倒を見ている特定の情報システムに関することだけでなく、顧客が困っていることに対して広く相談を受け付けることが必要だと思います。もちろん、顧客が困っていることを解決するためには経費(機器・ソフトや人件費など)が掛かるケースもあると思いますが、まず顧客の話を聞こうとする姿勢を持つことが大事だと思います。

 初めに顧客の話(悩み)を聞いた上で、その悩みを解決するためにはどんなことを実現するべきで、その実現のためにどれくらいのコストが掛かるのかを説明することが必要と思うのです。

 顧客の話を聞くということは、(その時点で)自社が請け負っていない内容であっても、いったん聞く耳を持つということです。たとえば、PCの使い方レベルの話から、今顧客が困っていること(何ができなくて困っているのかなど)、といったことについても話を聞くことが必要です。

 「何かあった・困った時に顧客から相談される・頼りにされる存在になる」こと、それが「トータル・サポート」なSIerの姿です(個人的イメージ)。

 いろいろな業者の方々と接していると、顧客の話を聞くときに「請け負っていないことだから」「自分には関係ないことだから」」と聞く姿勢すらを持たない人がいます。特に最近は、その姿勢が顧客に伝わる形で示されることが多くなりました。おそらく、自社から「余計なことに手を出して、その結果作業工数が増えるようなことは禁止。責任問題になってはいけないし」と指示されているのでしょう(たしかにそのようなトラブルは以前メディアで見た気がします)。

 他社システムが整備したシステムに関することなど、答えられないものというのはもちろんあると思いますが、そういったことを受け付けた際に「それはうちじゃない」という態度で顧客と接するのではなく、「困っている」と言う気持ちだけでも受け入れてあげるような、心配りが欲しいと思います。

 自分が請け負っていないことの話を聞くことで、業務時間を取られるなど大変なことはあると思いますし、実際に「面倒だな」と思ってしまうこともあるかもしれません(特にリソースが絞られるている中業務量だけ同等か増えるような状況では)。

 でも話を聞くことで、「顧客は今何に困っているのか」を知ることができます。また、顧客から「頼りにされる」状態になるためには、拒否せずに、まず向き合ってみてはどうかな? と考えます。

■「トータルパートナー」

 顧客と「トータルサポート」の関係を築いた後に取り組んでいくのは、今顧客が何を考えていて、今後どのようにしていきたいのかを知ることです。もちろん、その時は顧客の顧客のことまで視野に入れた上でお話しします。

 初めは「ぼんやり」としたイメージしかない、顧客が考えていることや目指していることを具体化し、その目指す方向性や情報システムのあるべき姿を「顧客と一緒になって」考え、実際にカタチにしていく頼りになる存在が、私が考える「トータル・パートナー」な「SIer」の人物像です。(これは「コンサルティング」のイメージに近いのでしょうか? 「コンサルティング」と意識してやったことはなく、また用語の一般的な意味もきちんと理解していないため、間違っていたらごめんなさい)

 顧客と一緒に今後目指す方向性を検討し、その後実際にカタチにするところまで(全体を通して:トータル)やる・デキル(=強み)が「SIer」なんだと思います。そして、広い視野・実績から物事を考え新しいアイデアを提供してくれる、そしてそれらを実現するだけの組織力を備えているという点で「大手メーカー」という立場が有利になるのだろうと思います。おそらくその結果として多重請負構造が生まれるだろうと思いますが、「大手メーカー」のメリットをちゃんと生かしていない。

  「どうしようかねぇ?」と顧客とSIerで議論し、いろいろな実例から新しい仕組みややり方などのアイデアを出し合い、具体的なシステムの形に仕上げていく……これだけでも考えると顧客もSIerも「わくわく」するような気持ちになると思います。

■おわりに

 まず、顧客の話を聞き、顧客の業界の勉強をして、顧客と寄り添う「トータルサポーター」なSIerとなること。

 その上で、顧客と議論・検討した結果からイメージを描く。ここでの目標は「そう! それなんだよ! 君の言うとおりだ!」と顧客に気づいていただき、「この人(達)と一緒にやっていきたい」と言ってもらえる「トータルパートナー」になること。Appleが各種製品で広く(一般)顧客に受け入れられるのも「それだ!」と顧客自身が気づいていなかったことをカタチにして提供しているからなんじゃないかな? と思うところがあります。

 ただし、顧客と寄り添い一緒に考えたとしても、それが提案競技によるシステム構築業者の選定になってしまうこともあります。この場合、RFPなどの形に至るまで議論して、顧客の置かれている背景やいきさつを踏まえた適切な提案内容・商談活動へ結び付けられます。他社にはそれがなく、自社の強みと考えることができると思います。

 ただ、気を付けないと、顧客と議論して描いたシステムの資料・ドキュメントをそのまま他社へ渡され、顧客と他社間でシステム構築の契約がなされてしまうことも十分にありえますので、資料の取り扱いや提供範囲について、あらかじめ顧客と合意を取っておくことも必要かもしれません。このあたりは作成した資料をどこまで顧客に提示するか、どこまで顧客側で改変できるようにするか、第三者に提供可能とするかどうかといったことを押さえておく必要があるのでしょう。

 IT業界の中ではこれまでも人月計算がどうのこうのとか、開発手法がどうのこうのとか今までも今後も議論されてきて、今後も多様な意見が出てくると思います(実際にちゃんと議論してもっと良い方法がないか考えることも必要と思います)。

 ただし、「SIer」と名乗るなら最低限、顧客の存在を忘れてはいけないと思うわけです。

 今までは「追いつけ追い越せ」という状態で、顧客にも目指すべき方向がはっきりと見えていて、SIerはそれをどう実現するかだけを考えればよかったという時代背景もあるかもしれません。顧客側が「お願い」してSIerに「作っていただく」そんな関係が(すべてでないにしても)あったのではないかと。

 今後の時代は「追いつく追い越す」状態から「自ら生み出し創造する」状態に顧客側の環境が変化しており、SIerに求められていることも変わってきているのだと思います。おそらく、その変化に対応できていないSIerが「やばい」と言われることになるんだろうと思います。

 「お願い」されて「作ってあげる」SIerから、顧客が悩んでいることを後方から支援してあげられるSIerが指示を集め、生き残っていくんじゃないかなと思います。「そのようなSIerってどんなひとだろう?」と考えた結果「トータルパートナー&トータルサポート」という行動ができる企業という考えに至りました。

 これからのSIerは「トータルパートナー&トータルサポート」の姿勢・取り組みをもっと積極的に現場・中の人ともに行動していかなければ、その会社はもはやSIerとして存在できないところまで時代になっているんじゃないかなぁ、と感じています。

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