いろいろな仕事を渡り歩き、今はインフラ系エンジニアをやっている。いろんな業種からの視点も交えてコラムを綴らせていただきます。

技術に依存しない技術者

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技術はドラえもんのポケットではない

ドラえもんのポケットにはあらゆる秘密道具が揃っている。いつも困ったのび太君はドラえもんに泣きついて問題を解決してもらう。秘密道具でだいたいの問題は解決するが、ここで一つポイントだある。のび太君は問題解決に対しては一切、手段を講じることはない。ただドラえもんに頼んで、秘密道具を提供してもらう。それ以上のことは何もやっていない。思えばすごくふてぶてしい。

ドラえもんの道具でだいたいの問題は解決する。しかし、その後に誰かが欲を出してこっぴどい目に遭うのが作品の流れだ。のび太君が思考を働かせるのは欲を出した時だ。秘密道具を奪ったジャイアンかスネ夫も、道具をどう活用するかという発想においてはクリエイティブだ。だが、それが裏目にでていつも散々な目に遭ってしまう。何やら業というものを感じてしまう。

ドラえもんというのは、日本人の技術に対する見解を適切に表現した作品だと思う。仕事で要件を確認しているとそう感じる。技術者とは常に完成した技術を持ち備えていて、要件さえ言えば、ドラえもんのポケットのように解決策を出してくれると思っている。そんなことをできるエンジニアなんていないし、客に言われたからとそれを目指すと不幸になる。

私たちは、誰もが納得な斬新な回答をカジュアルに求め過ぎてはいないだろうか。ぶっちゃけ、話はどうでもいいから黙って問題を解決しろというのがクライアントの率直な希望だと思う。技術にそれを求められても困る。できることはできるし、できないことはできない。現代人はインスタントな解決を求め過ぎている。ドラえもんは、そんな現代社会の歪みを風刺したかったのかもしれない。

技術だけでは何の解決にもならない

技術力があれば幸せになれると信じて止まないエンジニアをよく見る。それはそれで素晴らしいと思う。意欲的に技術に打ち込めるし、それ自体が非常に楽しいと思う。どのような技術であれ、多くを学び、多くの気付きを得ることができるだろう。そういう気持ちは大事にして欲しい。そして、技術を好きでいて欲しい。

だが、技術と収入を結びつけた時、大きな歪みが発生する。一般的に、優れていれば多くの利益を得る権利があると考える。この権利に固執すると多くの軋轢を生む。人間関係が悪くなったり、技術より権利を維持する方向に思考が向いてしまう。技術よりも、自分の権利を守るための策に奔走するようになってしまう。

技術力が高ければ、より難易度が高いタスクを振られる。それだけだ。やりがいを感じる保証も無い。収入が増える保証は無い。トータルで何が変わるかを計算すると、自分の立場を維持する労力だけが増えていることもある。高い技術力で仕事がバリバリできるのに、サービス残業で問題を解決するので、実質的な給与がコンビニと大差が無いという事例も幾度か見てきた。

人生は技術力では変わらない。どう振る舞うかで変わる。仕事で「目的とゴールをはっきりさせろ」とよく言われたが、人生においてそれを真剣に考えている人は少ないように思う。結局、何のために技術を身につけたんだよとツッコミを入れたくなる。純粋に楽しさを求める趣味の方が崇高に見えてしまうという逆転現象が、近頃私の中で起きている。

エンジニアの技術観の歪み

エンジニアはドラえもんを目指してお客さんはのび太君のように振る舞う。お互い勘違いしているのが、技術が秘密道具のようにどんな問題も簡単に解決してくれるものと思い込んでいるところだ。お客さんの望むようなものも無いし、エンジニアの技術も秘密道具に遠く及ばない。どんなに頑張ったところで、叶えられない無茶はある。

技術観が歪む原因は人の欲深さじゃないかと思う。ドラえもんを見ていて、しずかちゃんの裸が出てきたら、だいたいのび太がこっぴどい目に遭う。ジャイアンとスネ夫が秘密道具を強奪すると、だいたいこの二人がこっぴどい目に遭う。同様に、お客さんが安く済ませるために変に画策するとこっぴどい目に遭うし、会社がもうけ優先で無茶な値段と要件で仕事を受けると、エンジニアがこっぴどい目に遭う。

欲深さという罠は子供でも説明すれば理解できる。しかし、「利益」がちらつくと簡単に罠にかかる大人はたくさんいる。ただ大人の場合、そういう罠にかかっても人間関係やら政治力も導入して最小限のダメージですり抜けることができる。どちらかと言えば、こっちの方がある意味秘密道具だ。大人の秘密道具といったところだろうか。

大人の秘密道具で問題解決していると、たまに技術って何だろうと疑問に思うことがある。本来であれば、問題は技術で解決すべきだろう。しかし、技術を駆使して一回負けてから大人の秘密道具で利益を出す。そういう流れができてしまっている。ウルトラマンの科学特捜隊と同じで、技術というのがかませ犬的なポジションでしか発揮できなくなっているように思う。

技術以外の何に頼るか

問題解決を図るのであれば、「現象を分析して、問題をリストアップして論理的に解決」というのがエンジニアとして点数を貰える回答だろう。だが実際は、それでだけで問題解決している人を見たことが無い。リストアップもするが、結局は大人の秘密道具に頼ってしまう。もう、エンジニア自体が技術といいつつ技術以外のものに頼って問題解決をやっている。

ぶっちゃけ、大人の秘密道具に頼るのは感情的に受け入れられないが、技術で解消できないものをしっかり把握しているので、これはこれで正解だと思う。もしこれを技術で強引に解消しようとしたら、人の不手際を背負い込んで残業過多と心労増大であっというまに壊れてしまうだろう。実際、そういう人も何人か見てきている。

個人的には大人の秘密道具には頼りたくない。人間関係や政治は何も生まない。確かに、見た範囲での問題は見えなくなる。しかし、国単位で見るとITの競争力低下は明確だ。人間関係や政治で問題を解決しても技術力は伸びない。同じような状況になれば、同じようなトラブルがまた起きる。実際は、人間関係や政治で問題解決をして「成長した」と解釈するので、更にハードルが上げて自爆するケースが多い。

エンジニアでも、技術だけに頼らないというスタンスを持ち備えることは大事だと思う。ただ、技術以外の何に頼るかは考えた方がいい。技術以外にの何に頼るか、私が考えているのは精神的な強さだろうか。欲望に流されないだけの精神的な強さだ。これが無いと、割に合わない利益を求めたり、保身を考えるようになり技術観が歪む。お客さんが無茶な要求をだすのも同じ理由だ。

欲望に流されない精神的な強さ。これが問題の根本を解決に必要なものじゃないかと思う。

Comment(3)

コメント

user-key.

大人の秘密道具に頼りすぎたのが、原発なんですよね。
原発推進派は安全神話を作り上げ、考える事をやめ、地震が多い国で目先のコスト意識先行で沸騰水型の原子炉を作ってさらに寿命を延ばす改修工事を行い完成直後に、地震で全電源喪失した為、廃炉覚悟で海水注水せずに大事故。
その後、原発反対派は「使用済み燃料」はそのままに、運転停止運動って、こちらもリスク管理が出来てない。
本来、高速増殖炉の見通し立たなくなった時点で、大人の秘密道具を使うべきなんだけど、問題先送り。。。
結果、負担は国民へ。

こぐぱんだ

Anubisさんの記事、ずっと昔(2013年くらい?)から追いかけて読ませていただきました。
納得できる記事が多く、いろいろ考えさせられています。
この記事の主題とは若干ズレるかもしれませんがコメントさせていただきます。


ドラえもんの道具の例えですが、エンジニアの主観をどこに置くかで少し見方が変わるかと思います。
技術を愛するエンジニアは、ドラえもんを目指すのではなく、秘密道具を目指すべきではないかと思うのです。
特化する分野を持ち、求められた要望に素早く的確に応える。もちろん、スモールライトに「大きくして」なんて要望は受け付けない。
さらに言えば、ドラえもんは経営陣で、自社に必要なエンジニアを見抜き選別して仕入れておき適材適所で使う。ドラえもんにはそのセンスがあるのだと思います。だから基本的に、「ドラえもんは失敗しない」。こんな関係性が日本の企業に生まれたらいいなと思います。


様々な言語やツールを使いこなしている、ドラえもんのようなエンジニアもたまに見かけますが、泣きじゃくるクライアントや経営陣を甘やかす存在になってしまってはやはり幸福になれないでしょう。


駄文失礼しました。

山下由以

私はこのようなことは思えません。ひみつ道具がないとできないこともたくさんあると思います。私は時間を巻き戻す道具が発明されて商品化されて欲しいです。

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