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【小説 愛しのマリナ】第八話 進捗率ほぼほぼ0%

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 早速開発が始まった。
 二人に割り振られた仕事は、前任者が作りかけていたプログラムとそのテストだった。
 慶太は逃亡者の分を。
 森本は急病で離脱した者の分を。
 それぞれがどれだけ進捗していたかで、慶太たちの負担が変わってくる。
 まずはsvnからそれぞれが担当するソースをチェックアウトし、設計書と比較した。
 進み具合がどれくらいか把握するためだ。
 慶太と森本それぞれの前任者は、途中で仕事を投げ出したのだろうか、プログラムはほぼ手付かずであった。
 作られた部分を見ても、これは作り直したほうが早いのではないか、と思うほどだった。
 スケジュール表を確認すると、完成予定日は一週間後となっていた。
 実際にこの画面に割り当てられている作業期間は二週間となっていた。
 そして、進捗率を見てみると50%と記載されていた。

「50%どころか10%にも満たないだろ? これ......」

 慶太は深々と溜息をついた。
 隣に座りスケジュール表とにらめっこしている森本は「うーん」唸った。

「私のも一週間後完成になっています。進捗率は50%になっていますね」

 二人の担当している機能は画面だけは出来上がっていて、あとは中身が無いという状態だった。
 
「恐らく、前に居た人は画面が出来たから50%にして、中のロジックが出来たら100%にしようと思ってたんじゃないでしょうか?」

 森本が言った。
 慶太は、そんなザックリした感覚あり得るのかと思った。
 しかし実際に本人に訊くことが出来ないので、そうなのかもしれないと推測するしかなかった。
 設計書を見たところ、画面よりもロジック部分の実装や単体テストに時間が掛かりそうだ。
 唯一出来上がっている画面部分についても、画面設計書や画面項目定義書がだいぶ変わっているので修正が必要だった。
 慶太としては、この機能を一週間後に完成させるのは無理だと判断した。
 当初二週間のスケジュールで一週間以上たった今、引き継いだものは慶太をして、進捗率10%も満たされていないと判断できるものだった。
 そのため、スケジュールの引き直しを開発リーダの荒川にお願いすることにした。

「今のスケジュールじゃ間に合いません、リスケをお願いします」

 そう言った慶太の方を、荒川は見向きもせずディスプレイを睨みつけたまま黙っている。
 眉間にしわを寄せ、最初から要求を撥ねつけようとしている様子をありありとみせた。

「何言ってんの? 進捗率50%ってなってるじゃない。 前に居た人が頑張って一週間で50%にしてくれたんだよ。あと一週間で50%出来るはずだよ。あなたJAVAが出来るって面談の時言ったじゃない」

 嫌味な言い方に慶太はムカッと来たが、そこは抑えた。
 つとめて冷静な口調でこう答えた。

「ロジック部分が全然出来ていません。設計書を見たところ、この機能は画面よりも中身のロジック部分に時間が掛かると思っています。前に居た方はその辺の工数の見積もりが甘く、単純に画面が出来たから50%にしていたようです」
「それで?」

 荒川は欠伸をしながら答えた。

「画面の方も今の最新の設計書と比較すると、だいぶ異なってきているので修正が必要です。後一週間で完成するのは難しく、二週間は欲しいところです」

 荒川は腕を組んで考えているようだ。そしてこう言った。

「更に二週間も掛けられるわけないだろ」
「え?」
「来週月曜から結合テストなんだから、今週日曜までに終わらせてもらわんと困るんだよ」

 すでに休日出勤前提で話している。
 荒川は相変わらずディスクプレイの方を向き、マウスのボタンをカチカチしながらため息を吐く。
 さっきからこっちの方を向かずに、自分の仕事をしながら話半分で聞いてる荒川の態度に慶太は苛立ちを感じ続けている。

「来週からの結合テストは遅らせられないんだよ。うちのチームだけじゃなく全体のスケジュールに関わるんだから。遅れを取り戻す、そのために急遽君らを雇ったんだから」

 まったく聞き耳を持たない荒川に慶太は眩暈がし、少し頭痛がした。
 
「本当は逃げた奴と同じ会社の人を雇いたくはなかったんだけどね。まあ、これでうちと営業停止になるのも、君らの社長が可哀想だからね。社長さんにチャンスを与えたんだよ。あなた達はそういうことも含めて頑張ってもらわないといけない立場なんだよ。とにかく期待されてるんだよ」

 荒川は詭弁っぽいことを、慶太を馬鹿にしたかのような口調で言った。

(こんなやつだだったら、逃げたくもなるよな)

 と、ここから逃げ出した土田のことを慶太は思い出していた。

「......ですが、このまま進めても実際に間に合わないんですよ。もし間に合わすなら人を入れてもらわないと......」
「甘いことばっかり言ってんじゃないよ!」

 荒川は自分の机の表面を、右の平手でバシッと叩いた。
 
「徹夜でも何でもして終わらせるの! そのために出したくも無い残業代だって出すんだから! 口ばっかり動かしてないで手を動かせ! 逃げた奴の分まで遅れを取り戻せ!」

 いつまで経ってもこちらの言うことを聞かない荒川に、真面目で理不尽なことが嫌いな慶太は怒り心頭となった。

「何なんですか!? こっちのせいばかりにして! そっちが人の言うことも聞かず、そうやってずさんな管理してるから逃げる人が出て来たんでしょうが! それを顧みもせず今度はこっちに無茶なスケジュールを押し付けるんですか!? 私としては承服しかねますよ!」

 慶太の怒気を含んだ声が辺り一帯に響いた。
 それを聞いたメンバーの作業の手が一瞬止まった。
 実際は慶太の声はそれほど大きな声ではなかったため、フロア内の数名にしか聴こえなかった。
 しかし、感情が籠った怒りのメッセージは、聴こえた者たちに十分伝わった。

「それに私だっていきなり連れてこられて、やり方を理解するところから始めないといけないんだから、ちょっとは考えてくださいよ」

 言いたいことを言った慶太は、溜飲が下がると同時に少しずつ後悔もし始めていた。
 瞼の裏に家族と、社長の顔が思い浮かぶ。

「君ねぇ......」

 荒川が絞り出すような声で、やり返すための言葉を探している。

「はいはい、通りますよー」

 その時、後ろからポリ袋を持った清掃員の外山が二人の間に割って入って行った。
 荒川の隣にあるゴミ箱から、手に持ったポリ袋にごみを移し替えている。
 忙しそうに他の席にあるゴミ箱のごみも、手持ちのポリ袋に引き取っていく。
 突然の闖入者に気勢をそがれた荒川と慶太は、お互い目も合わせずそれぞれの席に戻って行った。


「そんな、かっかっしたらダメだよ」

 清掃員の外山が、眉を八の字に口をへの字にした心配そうな顔で言う。
 顔がしわくちゃになり梅干しのようだ。
 母も生きてたらこのくらいの年だろうと慶太は思った。

「すいません......」

 三階の男子トイレで掃除をしながら外山は慶太に、先ほどの反省を促していた。
 四階だと開発室があるので、誰かに聞かれてしまいかねない。
 だから、わざわざ三階のトイレで話している。
 確かに血気がはやって慶太の方も売り言葉に買い言葉になってしまったが、元はと言えば荒川の方に問題があると慶太は思っている。

「荒川さんも、怒鳴ったり、あんなに人の言うこと聞かない人じゃなかったんだけどね」

つづく

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