Windows Serverを中心に、ITプロ向け教育コースを担当

若者は常に不満を抱えている

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月刊「Windows Server World」の連載コラム「IT嫌いはまだ早い」の編集前原稿です。もし、このコラムを読んで面白いと思ったら、ぜひバックナンバー(2009年4月号)をお求めください。もっと面白いはずです。

なお、本文中の情報は原則として連載当時のものですのでご了承ください。

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入社して2、3年もたつと、会社に対するいろんな不満がわいてくる。こうした不満はどうすれば解決するのだろう。あるいは解決しないのだろうか。今月は「会社への不満」について考える。

●愚痴を言うのは若者の特権である 

20代半ばの社員は生意気盛りであると言ってよい。この間も、同僚と「若い者は愚痴ばかり言う」という話になった。ただし「自分たちも若い頃はそうだった」ということで意見が一致した。十代の少年少女は、いわゆる「第二次反抗期」を迎え、親と対立する。同じように、入社して数年たった若者は上司や先輩社員と対立する。昔からの構図である。

第二次反抗期は単なる「反抗」ではなく自我の確立の過程である。自分の主張と大人からの要請との葛藤が、社会と折り合いを付ける能力を育て、人間としての成長を促す。同じように、若者の愚痴や不満は社会人として成長するためのステップだと筆者は考えている。会社や上司に対する不満はあって当然だ。もし不満がなければその方が心配なくらいである。ただ、不満が強すぎて会社を辞めていく人を見るのはつらい。不満を解消できなかった自分の力不足を痛感するからだ。また、他者への不満だけで会社を辞めた人は、次のステップでも失敗することが多い。

愚痴というのは現状に対する不満から生じる。現状に対する不満を分析すれば、改善案が生まれるはずだ。上司や先輩社員は「生意気な若者」を無視するのではなく、真意を汲み取って改善に取り組む義務がある。10代の少年少女が「反抗」という形で自己を表現するのと同じように、20代の若者は「不満」という形で改善提案をしてくれている。これを活かせないのは会社にとって大きな損失だ。しかし、現実には「不満」が「改善」につながらないことも多い。

●愚痴を改善提案にするには

単なる愚痴を改善案にまとめるための「魔法の言葉」がある。

「じゃあ、どうしたらいいと思う?」

本来は上司が若者に言う言葉である。上司に言われなければ自問自答してみよう。最近の上司は若者の育て方を知らない(これは筆者自身の反省点でもある)。

多くの若者は現状に対する不満を口にしても、改善案を出そうとしない。筆者もそうだった。若者は「当然の問題」と考えていても、上司はそう思っていない可能性がある。問題だと思っていないことに対する愚痴を聞かされても戸惑うだけだ。「分かった、何とかするから」とごまかされることもある。「いいようにするから」と言われたのに、何もしてくれなかったという話も聞く。こうして若者はやる気を失い、状況はもっと悪くなる。

「ここが悪い」ではなく「こうすれば良くなる」という主張をぶつけることで、上司は今まで気付かなかった問題を理解し、改善すべく動いてくれるかもしれない。もちろん、何らかの事情で改善案が現実的ではないため、上司から反対されることもあるだろう。その場合はまず反対する理由を尋ねる。その理由に納得できなければ、上司に問い返してみよう。

「じゃあ、どうしたらいいでしょうか」 

上司は部下を育てる義務を持つが、部下だって上司を育てる力を持っている。なんだかよく分からない主張をしている上司がいたらぜひ使ってみてほしい。言い方によっては生意気に聞こえるが、若者は生意気なものである。別に損はしないだろう。陰で愚痴を言うよりはよっぽど立派である。

●会社とは

ただし、どんな不満でも改善案に結びつくわけではない。「どうせこの会社は駄目だ」という愚痴は救いようがない。「どうせ」という前に、自分が今まで何をしたのかを考えて欲しい。以前書いた「部門売却」ではケネディ大統領の就任演説を紹介した。

国家が何をしてくれるかではなく、国家のために何ができるかを問いたまえ

今自分ができることは何かを常に意識して欲しい。

自分が状況を改善しようと思って実行したことを列挙して、それ以上できることがないと思うのであれば仕方がない。転職を考えた方がいいだろう。「どうせこの会社は」と言う人は、転職先でも同じことを言うことになるかもしれないが、もしかしたら自分にあった会社が見つかるかもしれない。

会社の性格は経営者と社員の行動で決まる。愚痴を言う本人も「この会社」の一部である。会社としてのカラーはあるだろうが、結局は社員ひとりひとりの問題である。愚痴を言うときは「会社が」ではなく具体的な業務を対象にしよう。さらに「経理部が悪い」という言い方ではなく「経理部に提出する書類を減らしたい」のように「どうすればいいか」を意識するべきだ。

「この部門が悪い」「あの人が悪い」、というだけでは本当の愚痴になる。単なる愚痴は聞き流されてしまい、改善にはつながりにくい。いや、「あいつは愚痴ばかり言う」と言われて事態は悪くなるかもしれない。同じ内容でも「もっとこうして欲しい」という表現にすることで仕事に前向きであるという印象を周囲に与える。そうすれば、意見を聞いてもらえる可能性も高い。

性格を変えるのは難しいが行動を変えることはできる。そして、周囲の人は性格ではなく行動で人格を判断する。考えてみて欲しい「あの人はいい性格をしている」という場合の根拠は何か。発言や行動で判断しているはずである。「じゃあどうしたらいいか」と考えてから発言すれば、他人からの印象はずいぶんと良くなるだろう。そうなれば意見も聞いてもらいやすい。

どうしても折り合いが付かず会社を辞めるときも「いやだから辞めます」ではなく「別の仕事がしたいから辞めます」と言った方が良い。転職先の面接では辞めた理由を聞かれる。「嫌で辞めた」では印象が悪い。以前の職場に素行の問い合わせが行われる場合もあるので、つじつまは合わせておこう。最悪なのは喧嘩別れだ。企業合併や買収により、辞めた会社の上司と再会することもある。実際に聞いた話だ。

最近では、匿名掲示板に会社の不満をぶつける人もいるらしい。これは何の得にもならないのでやめた方がいい。匿名の悪口は暴力と同じである。暴力で問題は解決しない。

1970年代後半の学生運動は、暴力を伴う内部分裂(「内ゲバ」と呼ばれた)により崩壊した。しかし、暴力が激化する前の学生運動は一定の社会的な支持があった。実際に学生自治権の拡大など、多くの要求が受け入れられたことは覚えておきたい。
会社が成長を続けるには継続的な改善が必要である。そのためには現状に対する不満が必要だ。若者はいつも愚痴を言う。愚痴が愚痴で終わればそこに改善はない。愚痴が悪口になると事態は悪化する。しかし、愚痴を改善案に昇華させることができればヒーローになれる。愚痴を言いたくなったら「じゃあどうしたらいい?」と自問してほしい。年長者には思いつかない提案ができるだろう。

ドイツ共産党創立者のひとりであるカール・リープクネヒトも言っている。毛沢東もよく引用したそうだ。

未来は青年のものだ

■□■Web版のためのあとがき■□■

今年(2011年)の新入社員は総じて優秀だという話である。筆者も2社ほど新人研修を担当したが、確かにそうだと思う。

言われたことはきちんとこなす。結果はすぐに報告し、できない場合は事前に相談する。問題があればすぐに連絡がある。当たり前のことだが、なかなかできることではない。

日報を書かせても、感想文ではない、現状分析と課題、そして解決案が並んだ「報告書」ができあがる。筆者の新人時代にはちょっと考えられないレベルである。

しかし、どうも無理をしているような気がして仕方がない。建前が強すぎて本音が見えない。部下としては好ましいが、友人としてはちょっと敬遠したくなるような感じだ。いつか無理がたたって破綻することがないように願う。

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