タクシードライバー
僕は、たまーに遠くの病院に行く際、または電車では不便な場合などでタクシーに乗るとき、運転手さんとしゃべるのが大好きです。何と言いますか、その人の一面を垣間見ることができたり、前職は何だったのと聞くとか、その人なりの人生哲学などを聞いたりすると、たいへん勉強になったり、ぜんぜん勉強にならなかったりします(どっちやねん)。
■車のいろは空のいろ
僕が小学2年生のとき、初めて小学校の図書館に行って借りた絵本は、タクシードライバーを題材にした、あまんきみこさんの「車のいろは空のいろ」という、不思議な絵本でした。運転手の「松井さん」が、とっても子どもにやさしい人。どこでも誰でも連れて行っちゃう。1977(昭和52)年当時は単行本でしたが、最近では、国語の教科書に取り上げられているみたいです。また、続編も出ている様子です。
■路上にかなぐり捨てられました
いまはなき阪神印刷のお別れ会(倒産残念会)で、僕はしこたま冷酒を浴びるように飲んで、気がついたらタクシーの後部座席に3人がかりで放り込まれ、後輩が行き先を運転手さんに告げたようです(覚えていない)。後部座席に横になって揺さぶられると、気持ち悪くなり、何度もタクシーを止めました。き、気持ち悪い……。
停車し、扉を開けてもらい、運賃を余分に払い、団地の路上、しかも市道の交差点にかなぐり捨てられました。道の真ん中で、倒れていたそうです(覚えていない)。その後、近所の若者が「おっさん大丈夫か!!」と助けに来てくれて、団地の階段まで4人がかりで引きずってくれました。後にも先にも、あれだけ酔っ払ったのは最初で最後でした。
タクシードライバー/中島みゆき(歌詞)
■万巻の書物を読むようなもの
タクシードライバーさんは、人生経験豊富な方が多いです。たとえば、元M電機の取引先に勤務して、企業城下町さに辟易した話だとか、伯父の会社の元取引先で機械部品を製作していた人とか、女手ひとつで子どもを育て、タクシードライバーに成り上がった人とか、その他さまざまです。その人達の人生を垣間見ると、前職にもいろいろあるのだなあ、苦労してはるなあ、と思うことが多いです。失敗したくなかったのに失敗した人。元会社重役だったのに、いまではタクシードライバーをしている人。65歳を過ぎてもなお、現役のタクシードライバーで、いい老人ホームがあったらすぐにでも入りたい人、などなど。
■過酷な勤務実態でも笑顔
タクシードライバーは、1日おきに勤務します。というか、飛び石で1日中、朝から朝まで乗って流して、翌日は全休。「休みはどうやって過ごしてはるんですか」と聞いたら、昼まで眠って、起きたらパチンコ屋さんで、出る出ないに拘わらず気分転換をし、買い物行って飯食ってまた眠る……そんな生活だそうです。これは、一例に過ぎませんが……。また、片道5000円以上でないとうまみが出ないそうです。損益分岐点が、5000円ぐらいにあるらしいのです。それでも「まあ、近くでも、クルマをカラで走らせるよりは、乗っていただける方がありがたいのですがね」というご意見もありますが……。
■プリウスのタクシーが登場
久しぶりのわくわく体験ができました。プリウスのタクシーに乗ったのです。東海道本線、JR立花より先~ほぼ伊丹市まで乗ったのですが、加減速はまるで電車。スピードはガソリン車といった具合です。止まるときに、回生ブレーキ(モーターで発電して止まる)が効くとか、動きはじめるときに静かだとか、普段は街乗り用の「エコモード」なのですが、切換が出来て、高速道路用の「パワーモード」では、発進時、身体にGを受ける話だとか。
いやー、2000円払って試乗できて、本当に良い体験をしました。どこ行った……どこって、病院の往復ですが……。内科医から「歩かなアカン!」と言われたのですが、プリウスが通ったので、思わず乗車してしまいました。そのタクシー会社は、あと2台増やして4台にするそうで、順次全面プリウスにするらしいです。
一番難儀するのが、車両のスタイルが、クラウンとは違い、いくらタクシー仕様に塗色しても、自家用車と間違われる点だそうで、運転手さんがそうこぼしていました。社内では有名になって、自分の自家用車を逐次プリウスに買い換える運転手さんも多いようで……。
■松下幸之助翁はかく語りき
人生って、人それぞれ、いろいろだなあ、と感じる次第です。そして、タクシーでの会話のすべてが、僕の知恵となり知識となり、養分となる。教科書やテキストに載ってない、ナマの人生がタクシーに詰まっています。松下幸之助翁はかつて、生前に「人生とは、万巻の書物を読むのに等しい」というニュアンスのことをおっしゃっていたそうで、タクシーに乗っても何らかの人生勉強にはなるものです。その人の苦労話を聞いてあげる。タクシードライバーから学ぶ点は、学ぶ姿勢を持っていれば、それはそれは得るものが非常に多いのです。
(タクシーって、人生哲学だよな……)