筆者は1970年生まれ。先輩から、情報技術者を目指す若い方へ生きてゆくためのコラムです。

小説 個人情報の住む街

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 それは2000年頃の出来事でした。テレビ東京系の出没! アド街ック天国という番組で、横浜港北ニュータウンが紹介されたとき……。系列局のテレビ大阪で見ていた僕は、血圧が数十ぐらい上がりました。たぶん。「なんじゃ、このブルジョアジーな街はー!!」

【どんなブルジョアが住む街なのか】

 真新しい洒落た街並みで、ベビーカーを引くニューファミリー。リッチな主婦のランチ。絢爛豪華なショッピングセンター。ド派手なクリスマスのイルミネーション。横浜市都筑区のUR都市機構の開発プロジェクト、港北ニュータウンのすべてを、つまびらかに見てしまいました。このクソ生意気な!! 僕は戦前に発達した阪神間モダニズムの街、古いニュータウン「武庫之荘」に住んでいるので、そもそもブルジョアジーが大嫌い。いったいどんなクソ生意気な奴等が住んでいるのか、ということに最初腹が立って、怒濤の検索活動を始めたのでした。

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阪神間モダニズムを色濃く残す阪急神戸線沿線 8000系電車 武庫之荘駅

【たどり着いた先は、ジモティーが運営するサイト】

 さんざん検索して、疲れ切った頃に、とある小説サイトにたどり着きました。個人情報の住む街、というサイトです。庶民目線でありながら、気が利いたウイットに富んだ、知のきらめきを感じさせる、実にふつーの人が住んでいました。しかも、小説の内容は、緻密に仕組まれたIT関連の内容

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 史上最大級の個人情報データベースが密かに作られていた。エリートエンジニアの男は、その恋人を開発パートナーに選び、女もまた、そのプログラムこそが2人の愛の果実と信じていた。

 だが、男はプログラムに重大な欠陥があることを知りながら動かし始めた。 個人情報を消された学生は就職活動で突然、企業から拒否され、「存在しない人間」であることを知った。

 女は学生たちを救うため、男を裏切るか、それとも愛を貫くべきか、心が揺れ動く。女性エンジニアの仕事と愛の苦悩を描く自作小説

 ……というのが、そのあらすじです。2000年当時で、人材マーケティングや、多重コアのプロセッサを積んだコンピュータ、それよりなにより今、非接触型カードに使われているRFIDなど、来るべき近未来を、用語こそ違えど、的確に言い当てたこの人の小説。さっそく友達になりたいな、と思って、恐る恐るメールを出してみました。ハンドルネームは晴海 巡(はるみ じゅん)さんでした。

【あなどれないギャグのセンス】

 晴海さんは、たとえ偉くても、決して偉ぶらないクールヘッドのウォームハートな人だったので、相互リンクはすんなり進みました。もっと言えば、横浜の人でありながら、そんじょそこいらの関西芸人よりもメールの話題がおもしろく、あなどれない人です。僕は、兵庫県の人でありながら、まだ神奈川県や千葉県テイストを引きずっていたので、お互いに歩み寄れてちょうど良かったのではなかったかと思います。たとえば、美味しいたこ焼き屋さんが、大阪を捨てて東京へ行くように、また、有能なお笑い芸人さんが、大阪を捨てて東京へ行くように、ギャグの質はむしろ、大阪よりも総じて面白いのかも知れませんね。

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東急田園都市線 8500系電車 東京メトロ永田町駅

【横浜と神戸情報を交換しつつ……】

 たとえば横浜で「グリーンライン」という地下鉄が出来たらそれを教えてもらい、こちらで「阪神なんば線」「京阪中之島線」という地下鉄ができたらそれを教えてあげる。そんなことから、たわいもないお話まで、晴海さんはきっちりレスを返してくれます。こちらが「震災情報」を載せれば、田所稲造 本音の地震対策として掲載してくれたりしました。また、最近のメールでは、長距離用のバイク式自転車で東京や横浜、町田まで出かけられる様子が紹介されていました。どうやら、フィジカルな生活に目覚められたようです。運動不足の僕とは大違い。そして、そんなハイカラな街に住んでいる晴海 巡さんも、「たとえば渋谷に出かける時はやっぱり、ドキドキ、オドオドしますねえ」とのことです。

【メリット抜きでつきあえる気軽な間柄】

 このような奇縁で、今もなお定期的にメールのやりとりを許されています。一時期リムネットに加入した際にはお友達割引を、リムネット始まって以来初めての「一面識もないネットワーカー同士のお友達割引適用」の一例になりました。アクセスプロバイダが、僕はODNになり、晴海さんがSo-Netになっても、まだまだお友達です。「個人情報をお互いに明かさない」「顔も見たことがない」「どこに住んでいるのかも定かではない」間柄ですが、いちばん大きな点は、どんなときも、メリット抜きで僕とつきあってくれる点があるのだと思います。

 (コラムは続くよどこまでも……)

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