お客様から見たIT人材の価値とは
わたしは約10年間、システムエンジニアとして従事し、その後は大企業のネット化支援をミッションとするシステムコンサルタントとして約7年間働いてきました。
わたしは「エンジニア」から「コンサルタント」にキャリア転換をしていく中で、エンジニア時代にはほとんど意識をしてこなかったスキル、視点・考え方というものに出会いました。
そして、専門スキル・知識だけでなく、それらのスキル、視点・考え方をバランスよく身につけ、高めていくことが、お客様に高いバリューを提供できるIT人材への道であると実感し、日々意識をしながら実践していくことでそれは確信に変わりました。
本コラムは “お客様を感動させるIT人材になるには何をすべきか?”について、わたしのこれまでの経験や視点を紹介しながら皆さんと考える場にしたいと思っています。
■ お客様から見たIT人材の価値とは
皆さんはお客様から見たIT人材の価値はどのような式で表せると思いますか? わたしは以下のような式で表せると考えています。
「お客様から見たIT人材の価値 = 専門スキル・知識 × ヒューマンスキル」
専門スキル・知識とは、例えば、システム設計やシステム開発、プロジェクトマネジメントなどITサービスを提供する上で必要となるスキルや業務知識などです。ヒューマンスキルとは、例えばコミュニケーションやドキュメンテーション、プレゼンテーションやリーダーシップといった業種を問わずビジネスで必要となるスキルです。
わたしは30歳くらいまでのエンジニア時代、専門スキルを高めることに日々邁進していました。専門スキルを高めていくことが、その後の自分のキャリアアップにとって最も重要であると信じていたからです。
ところが、30歳を過ぎてコンサルサントに転身してお客様と接する機会が多くなると、その考え方は180度変わりました。自分の専門分野であるIT領域のことをITの知識がないお客様に分かりやすく伝え、理解をしてもらい、物事を前に進めていくためのスキル、つまりヒューマンスキルがないといい仕事ができないからです。
事業会社のエンジニアからITサービスを提供するコンサルタントに転身し、ITの専門知識がないお客様と日々仕事をしていく中でわたしが痛感したのは、
「専門スキル・知識が非常に高い人材であっても、ヒューマンスキルが伴わなければ、プレーヤーとしてお客様から大した評価は得られない」
という現実でした。
もちろん、専門スキル・知識を高めていくことはIT人材にとって重要なことの1つです。ただし、その専門スキル・知識を本当の意味で活かすためにはヒューマンスキルがないと困難であることも事実です。
この気づきこそが、専門スキル・知識以外の分野に対しても視野を広げスキルアップをしていく行動につながっていきました。
■ まず、あなたの時間単価を意識する
ヒューマンスキルを高めていくにあたり、まずわたしが意識をしたのは「お客様に自分の人月単価以上のバリューを感じていただく」ことでした。
サービスを提供するエンジニアやコンサルタントは“人月単価”という値札がその人について来ます。特にコンサルタントは人月単価も高くなるため、当然ながらお客様から日々厳しい目でパフォーマンスを見られます。
そして、人月単価にパフォーマンスが見合わないとお客様やPMが判断すれば、すぐにメンバー交代を言い渡されることも珍しくありません。
このような環境が「自分の1時間の仕事は、お客様から見て時間単価以上のバリューを発揮しているか」という意識を強く持つことにつながりました。
例えば、あなたが人月単価160万円でお客様にサービスを提供している人材であれば、お客様から見たあなたの時間単価は1万円(1人月=160hで計算)ということになります。
この時間単価を元にあなたの仕事の価値を客観的に考える習慣を身に付けることをオススメします。例えば資料作りに1日(8h)を費やしたのであれば、その資料には8万円の価値があるか? 自分がお客様の立場だったら納得して支払うか? を考えてみてください。
仕事の内容が金額に見合う価値がないと思った場合には、そのギャップを埋めるために「質の向上」か「時間の短縮」を考える必要があります。また、金額に見合う価値があると思った場合でもIT人材として上を目指すのであれば、お客様にさらにバリューを感じて頂くためには何をすべきかを考える必要があります。
自分自身の時間単価を強く意識して仕事をしていくということは、キャリアアップを考えていく上での基礎になると思います。
■ IT人材のキャリア形成に必要な要素
では、お客様にバリューを感じて頂くIT人材となるためには何を身につけていく必要があるのでしょうか?
わたしはIT人材のキャリア形成に必要な要素として、「専門スキル・知識」、「ヒューマンスキル」、「視点・考え方」の3つがあると思っています(図1)。
わたしはコンサルタントに転身してから3つの要素の内、特に「ヒューマンスキル」と「視点・考え方」を高めることに注力してきました。実際にプロジェクトをこなして行く中でこれら2つの要素の重要性を強く感じたからです。
IT人材が「専門スキル・知識」を本当の意味で活かすためには、お客様の抱える課題を的確に聞き出し、ITを活用してどのように課題を解決するのかを分かりやすく説明し、理解してもらうための「ヒューマンスキル」を高めることが必要です。「ヒューマンスキル」が備わってくるとお客様や社内からの評価は次第に高くなっていきます。
さらにもう1つ、仕事をしていくうえで、忘れてはならないのが物事に対する「視点・考え方」です。例えば、資料作成をする際には“担当者の視点”、“実務責任者の視点”、“予算権限者の視点”、“協力会社の視点”など、その資料を閲覧する対象者に「何を、どのように伝え、理解してもらい、行動してもらうか」を考えて作成することが求められます。
わたしは「ヒューマンスキル」や「視点・考え方」を高めていくことは、お客様からみた仕事の価値を数倍、数十倍に高める“てこの役割”を果たすものだと思います。
「専門スキル・知識」を磨いて行くことはIT人材にとって必要なことです。ただし、「専門スキル・知識」だけ高めていっても本当の意味でのお客様からの満足は得られない、というのも事実であり、IT人材は年齢や職責に応じて「専門スキル・知識」、「ヒューマンスキル」、「視点・考え方」をバランス良く身に付けることが求められています。
■ お客様から見た人材価値とスキルバランス
では、これら3つの要素(専門スキル・知識、ヒューマンスキル、視点・考え方)はどのように身に付けていけばいいのでしょうか。わたしは「顧客から見た人材価値とスキルバランス」は以下のような関係で表せると考えています(図2)。
また、中長期計画を立案し、推進していくようなプロジェクトでは“利害関係者の視点”だけでなく、“ビジネス視点”、“全体視点”、“中長期視点”といった視点で物事を考えることが求められます。
「視点・考え方」の引き出しが増えていくと、お客様や社内からの評価が高まるだけでなく、「専門スキル・知識」を本当の意味で活かすということにもつながって行きます。
図2:顧客から見た人材価値とスキルバランス
この図ではIT人材のお客様との関係構築レベルを「認知される」「信頼される」「高く信頼される」「感動させる」の4段階に分けてみました。
まず最初の段階が「認知される」という段階です。この段階ではお客様とのコミュニケーション頻度も少ないため、与えられた仕事を計画通りにこなせる専門スキル・知識やヒューマンスキルがあれば達することができると思います。
その次の段階が「信頼される」という段階です。この段階ではお客様や社内とのコミュニケーション頻度が増え、一定水準以上のヒューマンスキルが求められるようになってきます。また、この段階から直接のカウンターとなるお客様の職階に応じた視点・考え方を持ち、仕事に取り入れていく意識が必要となってきます。お客様の実務担当者から信頼され、実務責任者からは一目置かれる存在になる、というイメージです。
その次の段階が「高く信頼される」という段階です。この段階では実務責任者や予算権限者の視点・考え方を持ち、仕事に取り組むことが必要です。また、仕事についても「ここまでやってくれるのか」「ここまで考えてくれるのか」といった感動をお客様に与えることが求められると思います。その結果、自身の専門知識や経験、人柄、仕事ぶりがお客様の実務責任者や予算権限者から高く評価されて次の仕事につながる(仕事が広がる)、指名で仕事が取れる、というイメージです。
また、その次の段階である「感動させる」では、自身の専門知識や経験、人柄、仕事ぶりが特定のお客様だけではなく、複数のお客様の実務責任者や予算権限者から高く評価され、指名で仕事が取れる、また、仕事を通じてお客様を感動させ、新たなお客様を自ら紹介していただける、というイメージです。
わたしはお客様にとって“替えが効かない人材”となるためには少なくとも「高く信頼される」段階に達していなければならないと思っています。
「高く信頼される」ためには、“お客様を感動させる他人との差別化ポイント”が求められると思います。その差別化ポイントとなる要素が「ヒューマンスキル」であり、「視点・考え方」であると思っています。
次回は、お客様から「信頼される」関係構築レベルを築いていくために必要となる「ヒューマンスキル」「視点・考え方」について考えてみます。