若手の目からみたこの業界のアレコレ、気の向くままに書いてみます。

「少しでも安く、よいものを」の裏側で。

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【Intro】

 不況だなんだといわれている今、消費者としては「少しでも安く、よいものを手に入れたい」と考えるのは当然のことですね。わたし自身、そのような思考パターンで日常生活を営んでいますが、いざ自身が生産者側の立場に立ったとき、非常に微妙な気持ちになります。

【「それ、サービスで」といわれて】

 いきなり大層なIntroから始めてみましたが、例によって中身はすっかすかなので、ご安心いただければと思います。

 わたしが以前書いた「兼業環境屋」という記事をごらんになった方はご存じかもしれませんが、会社でのわたしは、ソフトウェアとインフラの両方を担当しています。特に「インフラ」の方については、わたし以外にできる人間がいなかったりするので、お仕事ではけっこう重宝がられます。都合よく使われている……というとらえ方もできますが、それはいったん忘れておきましょう。文字通り「自分にしかできない仕事」というのは(たとえ思い込みであっても)、モチベーションがかなりあがるものですね。

 受託開発にしろ自社で開発したサービスにしろ、インフラを意識しなければいけないお仕事というのはけっこうあるかと思います。たとえばWebサービスでしたら、当然Webサーバやアプリケーションサーバ、データベースサーバなんてのが必要になりますし。本番(商用)環境だけではなく、検証環境や開発環境なども、セットで必要になります。

 ほとんどの場合は、こういったインフラ系の作業もちゃんとお金をいただいてやるのですが、「サービスで」作業をやる羽目になることも……。

【契約を取るための販促ツールとしてのインフラ】

 たとえば自社でなにかのソフトウェアやサービスを作っているとしましょう。新しいお客様がその商材を検討していただいている、あと少しで契約が取れそうだ……というとき。

今ご契約いただけるのであれば、御社のホームページもあわせて作成させていただきます。基本的なコンテンツの作成とデザイン料として○○円ほどいただければと。普通、業者に頼むとこの金額ではとてもできませんよ?

などというセールストーク。それが功を奏し、商材の契約とホームページ作成・運営の案件が受注できました。

 ……この架空のストーリーのようにインフラ関連の作業がゼロ円になってしまうケースをたびたび経験しています。なぜか、デザインとかコンテンツの作成の方でこのようになるケースはあまり目にしません。

 ちなみに、このケースにおけるインフラ関連の具体的な作業を列挙すると、

  1. サーバの手配(選定、契約代行)
  2. ドメイン名の手配(決定補助、契約代行)
  3. 環境構築
  4. 保守/運用

といった内容がすぐに浮かんできます。このセールストークをしている方は、頭にこういった作業が必要である(あるいは必要になるかもしれない)という考えがないのでしょう。この話がわたしの耳に届く頃にはすでに話がまとまっていたりするので、もうどうしようもなかったりします。

 結果、極力持ち出しが小さくなるように、工夫を凝らすことになるわけですが……。

【俺の仕事は金をもらえるものではないのか?】

 先のケースですと、3と4を他社に丸投げできるならまだよいでしょう。しかし、そもそもその分のお金をお客様からいただいていないので「今自社で契約しているサーバに相乗りできない?」なんて話になるのがオチです。

 そうなると、DNSの設定やら、Webサーバの設定やら、メールサーバの設定やら……そういったのを「ただで」やる羽目になる訳なのですが、このような状況になるたびに「俺の仕事は、金をもらえるレベルじゃないのか?」という思いが脳裏をよぎります。

 もちろん、マウスをポチポチクリックするだけの簡単な作業で終わるものもありますが、こういったものはお金もらっても罰は当たらないのではないかと思うのは、自分を過大評価しすぎでしょうか。

 それに「ホームページだけ」といいつつ、「業務でばりばり使うメールアドレス」もセットでついてくるのが普通です。……そうなると、下手にサーバを止めることができなくなるので、死活監視やらなにやらでさらに作業が増え、工数がふくらみます。当然、運用に掛かるお金もいただいていないので、その実務的しわ寄せはインフラ担当者に降りかかってくると……。

 そうやって少しでもお金が掛からないように構成を考え、安定運用したとしても評価されることもなく、トラブルがおこったらまた「お金が掛からないように」対応したりする生活が待っているわけで、なんともやるせない気持ちになります。「お客様から直接怒られることはない(かもしれない)」という点が、せめてもの救いでしょうか。

【Outro】

 大幅にアレンジしておりますが、このシチュエーションはよくあります。もちろん場合によってはこのようにせざるを得ないケースもあるのは理解しています(納得できるかはまた別なお話)。結局は技術の安売りをしているにすぎないですから、正直なところ止めていただけないかなぁと思う今日この頃です。

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