シリコンバレーで現役デバッガやってます。

BUG011 -「シリコンバレーでは新卒のプログラマーが誰でも年収1000万円!」というウソとホント

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 はっきり言ってホントです。この手の話、日本の意識高いメディアでちょくちょく目にかけます。1000万円と言えば現在のレート(1ドル=120円)で約8万ドルですが、実は、シリコンバレーの「中の上」程度の普通の会社でそんなもんだと思って間違いありません。まして、世界に名だたる超有名企業なら10万、いや12万ドル以上でも不思議ではありません。文字通り桁違いな金額に加えて社食の食事が三食タダとか、無料フィットネスジムやら託児所があるとか、確かに嘘ではありません。

 こんにちはelcaminorealです。今回のお題は、みんな大好き、お給料のお話です。では、そんな破格の待遇を受けるプログラマって、いったいどんなスーパープログラマなんでしょう?きっと超難関有名大学を出て、数学にディベートに難しい理論武装して、どんな複雑怪奇なアルゴリズムでも流しそうめんの如くスラスラと数分で書き上げてしまう超天才・・・なぁ~んてことは全くありません。アメリカの大学でコンピューターサイエンス専攻とかカッコいい学歴でも、やってるのは「Java入門その1」とか、せいぜい難しいところでも双方向連結リストの探索とかそんなもんです。所詮、職業訓練の域を出ていません。まぁ情報処理試験でいうと二種、じゃなかった「基本」の午後程度だと思って間違いないです。

 それでは「基本」なプログラマなら誰でも年収1000万で豪華に暮らせるのか?と言うと残念ですが実はそんなうまい話ばかりではありません。まず周知の通り、会社が傾けばいつクビになるかわかりませんし、65歳まで雇ってくれる保証などどこにもありません。年俸制ですから当然ですが、残業や休日出勤手当なんてものはいっさい出ませんし、家族手当や通勤手当などといった類のものは皆無です。さらに退職金という仕組みが一切なく、コードが書けなくなったあとの老後の備えは確定拠出年金、いわゆる401Kというシステムですべて自己責任で運用するという過酷な世界です。

 そして税金です。世界の隅々に軍隊を送ったりいろいろとお金のかかるアメリカです。所得税はもちろん、日本と同様に、もらえるかどうか全くアテにならない国民年金も払わなければいけません。また、アメリカでは州ごとに税率が異なる州税ですが、最悪なことにカリフォルニア州の税率は全米ダントツの10%です。それに消費税がこれまたダントツの約9%。これでは誰のために必死にコードを書いているのか分かりません。

 それでもアメリカならきっと豊かな暮らしができるんだろうな、日本のマンションと違って庭付き一戸建てで庭にプールなんかあって、な~んて夢も絵に描いた餅かもしれません。不動産バブル真っ只中のシリコンバレーでは、いわゆる賃貸マンションで単身なら月2000ドル、家族向けなら3000ドルの家賃は最低でも覚悟しないと日本の感覚のキレイなまともな物件はありません。(もちろんそれでもウォシュレットなんてハイテクなものはないのですがそれはまた別の機会に。)ちょっとした庭付き一戸建てでも買おうものなら、築50年のかなり古びた平屋で100万ドル!って一体どういうことよ、ってのがここの相場なのです。

 物価の違いは不動産だけではありません。経験から言って、アメリカのほうが日本より確実に安いモノは、肉、酒、果物、ガソリン&自動車関係、サプリメントくらいだと思って間違いありません。反対に、住居、衣服、医療費、大学をはじめとする教育費、外食、ホテル、スポーツや文化&レジャー施設の入場料、どれをとってもデフレが長く続いた日本に比べかなり割高で、しかも確実に毎年値上がりします。3%のインフレということは、当たり前ですが3%昇給してはじめてチャラ、それ以下なら実質、生活はダウンしてしまうわけです。

 例えば平日のランチで言うと、ファストフードのセットで7ドル、流行りのオーガニックな健康志向系のバーガーだと11ドル、普通のアメ食のレストランで15ドル、ちょっとオシャレなイタ飯ならもう20ドル超えです。700円、いや500円で味も量も栄養もまともな定食が食べられる日本とは雲泥の差です。つまりです、ニュースの言う1ドル=120円で計算するからすべての感覚が狂ってくるのであって、物価を考慮すれば、ちょうど半分の1ドル=60円くらいで計算するとちょうど感覚があうのです。

 さて、タイトルの新卒の話に戻りましょう。年収8万ドルということですが、物価を考えて1ドル=60円で計算し直すと結局のところ何の事はない、約500万円です。それが基本情報処理を取った新卒のエンジニアの給与です、そう考えると十分納得行きませんか。

 それでもこうしてシリコンバレーに世界中からエンジニアが集中している理由は、結局は、高給だとか社食がタダとかイケてるとかそういうことではなく、それぞれの出身地であるアメリカの田舎や、はたまた遠く離れた故郷の国ではそもそもIT関連の仕事が少ないから、というのが本当の理由なのです。異常な物価高に耐え、外食やレジャーを控えて、自宅で肉を焼いて缶ビールを飲んで、ケチケチ節約して貯金して、老後は出身地の田舎や故郷の国へ帰って優雅な第二の人生を送りたい、というのがシリコンバレーのITエンジニアたちの儚い夢なのです。

 今日は長くなりましたが、それではまた。

Comment(2)

コメント

匿名

マジかよ、プログラマー辞めて来る。

たろう

25年ほどプログラマをやっている中年のおじさんです。シリコンバレーは物価も税金も高く、給料がよくても生活は案外大変だと聞きます。
私はテキサス州にいますが、シリコンバレーからテキサスに引っ越してくるIT企業も、ソフトウエア開発者も最近は目立っています。こちらでも、シリコンバレーと同様に、技術的な話をするミートアップイベントなんかも盛んです。

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