某情報システム子会社で、インフラ担当をしています。

雑用とグルのはざまで

»

 お久しぶりです、「@IT自分戦略研究所」のおすすめコラム掲載などという、身の程知らずもはなはだしい光栄(?)を授かってしまって気が動転しまい、しばらく舞い上がっていた法被屋斬刃臂でございます。

 前回はインフラ担当の立場ということで、「雑用係」と「グル」という2種類の立場とその特徴について書きました。今回は、その発生メカニズムについて論じていきたいと思います。

 インフラ担当の「雑用係」化ですが、これは『開発偏重』主義によって引き起こされるものだと、わたしは考えています。

 『開発偏重』とは、IT業務において開発こそが一番素晴らし(開発>保守・運用)く、かつ一番優れたリソースが必要である、という考えで、開発の中でもより高いレイヤー(要件定義・設計)が重要視されてしまう状況を指しています。

 高いレイヤーに優秀なリソースが割り振られる、ということはより低いレイヤー(インフラや運用設計・構築)部分については当然残されたリソースから、ということになります。結果、開発体制の中でも(意図の有無にかかわらず)ヒエラルキーが存在するかのような錯覚を全員で共有することとなります。

 人間とは面白いもので、あるロールを割り振られるとその通り演じてしまう、という性質を持っているようです(興味のある方は「看守と囚人実験」でググってみてください。けっこうエグイですので要注意ですが、心理学ではわりと有名な実験です)。

 こうなるとインフラ担当になってしまった人は単純な相対評価にもかかわらず、結果インフラ担当という立場に縛らてしまい、中々浮上することが難しくなってしまいます。

 では『「グル」は違うメカニズムで発生するのか』ということになるのですが、実は対して変わらない、というかほぼ同じメカニズムに発生しているものだと考えています。

 「スキル」というのは当然ITに関する知識(言語・OS・DBMS・ネットワーク・セキュリティなど)が含まれていますが、開発においては「対人間」(コミュニケーション・折衝・調整能力)も重要となってきます。つまり「スキル」という言葉に囚われ、マニアックな方向に深く進行し過ぎる人間は上位のレイヤーではむしろ扱いにくい存在になると思われます。結果そのような方は上位のレイヤーから丁重にお引き取り願い、マニアックな知識を思う存分活用できるインフラ担当として活躍を期待されるようになるというわけです。

 ただこの場合、「雑用係」とは違い個人のスキルは相当なものであるため、トラブルシューティング時等、頼りにされる時には頼りにされ、かつ本人自身も高いスキルを持っていることを自覚しているので、1つ間違えるとグルの自意識がドンドン肥大化して、マニアックな環境構築(作った本人以外理解できない)に走ったり、周りの他の人間を低く見始めたり、自分のスキル基準で仲間や部下を判断し始めたり、とある意味「劇薬」化してしまい、最終的には周りが腫れものを触るか如くのようになってしまう危険性もはらんでいる、という訳です(なんか民俗学にでも出てきそうなテーマですが(笑))。

 結局「雑用係」にしても、「グル」にしても『開発偏重』主義の産物だ、というのが結論ですが、書いてる自分が言うのもなんですが、これではあまりにも救いがないような気がします。

 ではどうすればいいのでしょうか。

 昔、わたしが「インフラ担当はみんな必死で仕事をしているのに、やって当たり前、できないと非難される、というのではあまりにも報われないのではないか」と話をした時、当時の上司にあっさりこう言われました……。

 「感謝されたいとか言うなら、この仕事辞めろ」

 尊敬していた上司からの一言で、当時はけっこうショックを受けたわけですが、今考えるにこういうことを言いたかったのではないかと思います。

 「相手に感謝されたいとか認められたいとかいうのは、それだけ相手を上に見て自分を低く見ているということなんだ。自分たちはインフラの『プロ』なのだからきちんと自分の仕事をして、仕事で見せろ。評価なんてそのうち付いてくる」。

 ITにおいて開発偏重というのは、ある程度仕方ないことだと、わたしは思っています。ただインフラ担当も開発の中の重要な役割であり、上位のレイヤーよりも下だとも上だとも思いません。

 インフラ担当は「雑用係」や「グル」でもなく、「プロのインフラ屋」としての「インフラ担当」として矜持を持って仕事を遂行すべきだと考えています。わたしもそのようなインフラ担当になれるよう、日々精進(勉強・環境の整備等々)をしていく所存です(最近サボってますが……)。

 勉強、環境の整備やその他の事はまた次回以降で論じていきたいと思います。

Comment(5)

コメント

第3バイオリン

法被屋斬刃臂さん

はじめまして、コラムニストの第3バイオリンです。

>おすすめコラム掲載などという、身の程知らずもはなはだしい光栄(?)を授かってしまって気が動転しまい、しばらく舞い上がっていた

私も最初はそうでした(笑)。
しかもおすすめコラムの見出しになったりした日にはもう・・・部屋中ぐるぐる回るような勢いでした。

>「感謝されたいとか言うなら、この仕事辞めろ」

どひゃー!
そんなこと言ったらコラム名に「感謝されるテストエンジニアになる」なんて
そのまんま付けてしまった私はどうなるんですかー!
と言ってみますが、別に怒ったりなんかしていませんのでご安心を。
上司さんの言わんとすることは私にもわかります。

私が携わっているテストの仕事も一部の開発者からは天敵のように思われ(俺様のコードにケチつける気か!)
しかもユーザーからは「バグが無い時は存在すら顧みられることはなく、
バグが出たら責められる」という笑うに笑えない商売です(涙)。

だから私は、「テストエンジニアは存在を知られたら負け」だと思っています。
そうはいってもこの仕事が嫌いなわけではなく、むしろ好きです。
どんなにタイトスケジュールでも開発者の前では顔色ひとつ変えず、
期日内に報告書をピッと差し出す。
当たり前かもしれないけれど、それができたらカッコいいなと最近思います。

要はわかりやすく主役を張るよりは、名脇役を狙いたいんです。
(理想は「相棒」の米沢さんです。スピンオフが見たいと言わせたい・・・)

あずK

はじめまして。
Webサービス系でインフラから開発まで色々やらされてる(笑)あずKと申します。

自分の部署内で作る or OSSを利用しているので
自社内の、システムの開発をする部署と協業することはありませんが
開発の部署を見ている限りでは「開発偏重」主義があるように感じます。
開発だけしている人って、そういう方が多いのかもしれませんね。
SEであれば、テストや運用を経験することも必要なのかなと改めて思いました。

>「感謝されたいとか言うなら、この仕事辞めろ」
インフラ屋は、「トラブル無くサーバが稼動していること」に
満足を得る職業人でないとなのでしょう、けど、
自分の場合、PG等、運用以外の仕事までしているので
「感謝されたい」と思うことはたまにあります(苦笑)
#だからって感謝されたらされたで、謙遜して素直に喜べないんですけど^^;

>「看守と囚人実験」
名前だけなら何となく聞いたことがあります。
最近、心理学に興味があって勉強していたところなので、
後でぐぐってみます。

インドリ

はじめましてインドリです。
確かに開発高低=位と勘違いしている人多いですよね。
何時の時代の考え方だろう(笑)
私は色々あって全工程を経験しているから分かるのですが、
法被屋斬刃臂さんの言うとおりで、全工程同じぐらい重要だと思います。
開発だけしていると分からないのですが、ネットワークやデータベースの運用は凄く奥が深くて難しいです。
ネットワークのトラフィック量は変化するし、権限の管理は人事がらみで煩雑だし、障害きり分けも難しい、(多すぎるので以下省略)
私はそれを見越してシステムの提案をするのですが、残念ながら運用を疎かにする習慣があるようでその部分は却下されます・・・
ですが、全工程大事だと分かればこの業界もましになると思います。
※多重請負構造を死守したい人が居るから無理かも


> 「感謝されたいとか言うなら、この仕事辞めろ」
この先輩の言いたい事よく分かります。
確かに私も感謝されたいと思って仕事しておりません。
情報処理技術者は陰の存在で、主役はエンドユーザーなのです。
ただ、一言でもいいから「有難う」と言って欲しいですよね・・・


運用管理の重要さを世に広めるために頑張ってください。
応援しています。

EarlGrey

>IT業務において開発こそが一番素晴らし(開発>保守・運用)く、
>かつ一番優れたリソースが必要である、

『素晴らしい』を『難しい』と置き換えても妥当するなあ・・・と思いました。
より正確には、『難しいと"思っている"』という、認識の問題かもしれません。
逆説的に、開発に対する運用系を『簡単だと思っている』のだろうなあ、と。
結果として、簡単なほう(≒運用)にはリソースが回ってこないという(汗)

ただこのあたりは、業務成果のアピール不足もあったりするかもしれません。
運用系が成果をアピールできる方法があればいいんですけどね。

法被屋斬刃臂

第3バイオリンさん
はじめまして、コメントありがとうございます。

>>「感謝されたいとか言うなら、この仕事辞めろ」

>どひゃー!
>そんなこと言ったらコラム名に「感謝されるテストエンジニアになる」なんて
>そのまんま付けてしまった私はどうなるんですかー!

あーっ、すいません、大変失礼しました(汗
新参者故、何卒ご容赦のほどをm(_ _;)m
でもご理解を頂けたのでほっとしております。

>だから私は、「テストエンジニアは存在を知られたら負け」だと思っています。
そうはいってもこの仕事が嫌いなわけではなく、むしろ好きです。
どんなにタイトスケジュールでも開発者の前では顔色ひとつ変えず、
期日内に報告書をピッと差し出す。
当たり前かもしれないけれど、それができたらカッコいいなと最近思います。

そうですね、自分の仕事を責任を持ってきっちり果たして、それがどんなに困難だったとしても顔に出さない、という姿勢は大事ですよね。私もそんなかっこいい人間になりたい。。。。(そしてゆくゆくはスピンオフをば・・・・・)

あずKさん
はじめまして、コメントありがとうございます。

>SEであれば、テストや運用を経験することも必要なのかなと改めて思いました。

その通りだと思います。開発だけですとどうしても視野が狭くなっていくような気がします。システムを構築し、運用するためには色々な立場・仕事があるということを理解しないと開発・運用・保守問わず一人よがりな仕事にしかならないと思います。

インドリさん
はじめまして、コメントありがとうございます。

>開発だけしていると分からないのですが、ネットワークやデータベースの運用は凄く奥が深くて難しいです。
ネットワークのトラフィック量は変化するし、権限の管理は人事がらみで煩雑だし、障害きり分けも難しい、(多すぎるので以下省略)
私はそれを見越してシステムの提案をするのですが、残念ながら運用を疎かにする習慣があるようでその部分は却下されます・・・

色々とトラウマがよみがえってしまいます(涙
インフラ・運用設計をきっちりしないと結局自分の首を絞めるだけなのに、どうしても目先のことばかりに捉われてしまう、という悲しい現実をどうやって解決できるか、と日々自問しております。

>情報処理技術者は陰の存在で、主役はエンドユーザーなのです。

同感です。使ってもらえないシステムはただの【ピー】です。

>運用管理の重要さを世に広めるために頑張ってください。

ありがとうございます。どこまでできるか分かりませんが、自分なりに頑張ってみます(^^

EarlGreyさん
コメントありがとうございます。

>ただこのあたりは、業務成果のアピール不足もあったりするかもしれません。
運用系が成果をアピールできる方法があればいいんですけどね。

「やって当たり前、できないと駄目」という現状で、どのようにインフラ・運用系が成果をアピールできるか、というのは難しいかもしれません。
ただ、ITIL、コンプライアンス、SLA等何かしら役に立ちそうなツール、フレームワークもちらほら出てきているので、この辺を上手く利用できる方法をまた論じてみたいと思います。

>皆様へ
コラムでは偉そうなことを書きましたが、感謝とまでは言いませんが、やっぱりたまには「ありがとさん」くらいは言ってほしい、と思う今日この頃なのです(笑

コメントを投稿する