外資系IT企業の過酷なIT現場を経た同期4人組(現在は研修講師)が執筆します!

第13話:苦手なメンバーをどうしよう?!“~コミュニケーションを阻害する要因~の巻(上)

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 新任リーダー明日香の会社では、これまで、課長とメンバーの間で話し合って、各自の業務目標を決めていた。しかし今年度からは、全社的な方針変更が告知された。人数の多い部門では、あらかじめリーダーがメンバーと話し合って具体的な目標設定を行い、その上で各メンバーが上司との話し合いに臨む、というかたちになるという。

 課員の多い課や、部長直属で多くのメンバーが働く部門では、上司の目が十分に行き届かない。そこで、日常をよく見ているリーダーの意見をより重視することになったようだ。

 昨日、明日香も、システム部技術ソリューション課長のミヤザキに呼ばれた。明日香のグループのメンバー全員に業務目標を設定するように、という指示だった。

ミヤザキ「うちの課も、普段からメンバーの様子をよく見ているリーダーに、各グループのメンバーの目標設定案作りを任せたい。メンバーが育つように、いろいろな面からよく考えてほしい。もちろん困ったことがあれば、遠慮なく相談して。期待しているよ!」

 1日経って、明日香は、ミヤザキ課長から言われた言葉を思い出しては気が重くなるばかりだった。

 (本人が納得できて、成長の励みになるような目標……難しいなあ……。でも、やがてマネージャになる時のことも考えたら、結局、目標設定は避けて通れない。まずは、去年のメンバーの業務目標を調べてみよう。それをもとに、今年の案を作ろう)

 そして、明日香は時折ミヤザキに助言を仰ぎながら、メンバー全員の業務目標の案を何とか作成した。

 明日香が、業務目標を話し合う一番手に選んだのは、サイゴウだった。

 サイゴウは明日香より5才年上で、仕事もできる。しかし気が強く、明日香の言うことをすんなりとは受け入れてくれない。

 (まずは、一番大変そうなサイゴウさんから始めることにしよう。サイゴウさんさえ乗り切れば、他のメンバーとの話し合いはきっとスムーズに進む

 明日香は気を引き締めて話し合いに向かった。

 しかし、サイゴウとの話し合いは、予想どおり難航した。

サイゴウ「メンバーの育成を僕の業務目標に入れるんですか? これは納得できませんね。あえて業務目標にまで入れなくても、ペア制のアドバイザーとして、すでにイサハヤくんの育成をちゃんとやっているじゃないですか。この上にもう1人若いのを押しつけられて、その揚げ句『新メンバーが育っていない』なんていう理由で僕の業績評価を下げられるのは、いやですからね」

 明日香は、反論が来ることは十分に覚悟していたが、やはりひるんでしまった。ミヤザキからは「サイゴウさんは次のリーダー候補だから、『メンバーの育成』を優先順位の高い業務目標にするように」と念を押されていている。どうにかしなくては……。

明日香「育つ/育たない、は本人の努力によるところも大きいから、もちろん一概にサイゴウさんだけの責任にはなりませんよ。業務目標としてはあくまで、メンバーの育成のためにサイゴウさんが何をしたか、という点が一番重視されます」

サイゴウ「でも、しょせんは結果がすべてじゃないですか! 育たなかったら僕のせいにされてしまう。だいたいね、前にも似たようなパターンで平均以下の評価を受けたことがあるんですよ! もういやですからね」

 サイゴウは一気にまくしたてた。以前のいやな経験を思い出し、冷静に話し合える状態ではなくなってしまったようだ。明日香は、ここで無理に結論を出すのは避けたほうが賢明だと判断した。

明日香「サイゴウさんのお気持ちは分かりました。日を改めて、もう1度話し合いませんか」

サイゴウ「とにかく今年度は、育成に関する項目は目標に入れたくありません。そこのところ、よろしくお願いしますよ」

 明日香とサイゴウは、再度の日程だけを約束し、面談を短時間で終えた。しかし、日延べをしたからといってサイゴウを説得できるわけではない。明日香の気持ちは重くなるばかりだった。

 翌朝。始業時間前の玄関ホールには、高層階行きと低層階行きに分かれて、エレベーター待ちの行列が渦を巻いていた。列の先頭にサイゴウの姿が見えた。同じ列の最後尾に明日香が並んだとき、たまたま彼がこちらを振り返った。明日香はすぐに目礼をしたが、サイゴウはなんの反応もせず、前を向いてしまった。

 (まさか、無視ってこと?! たしかにもともと愛想が良いほうじゃないけど……)

 明日香は、昨日の面談を思い出し、朝から憂鬱になった

 10時を過ぎると、明日香のグループのメンバーはほとんど外出し、イサハヤだけが残った。いつになくイサハヤの目が赤いことが気になって、明日香は声をかけた。

明日香「イサハヤさん、ゆうべ遅かったの?」

イサハヤ「いやー、まいっちゃいましたよ! 昨日はサイゴウさんのカラオケに付きあわされちゃって。やたらに飲むし、おまけに歌いっぱなしで。僕なんか手拍子し過ぎて、手が痛いんですよー。

 それにしても何かあったのかなぁ? サイゴウさんから飲みに誘われることなんて、普段はあまりないから……」

それを聞いた明日香は、さらに落ち込んだ

 (昨日の面談がよほど頭にきているのかなぁ。あんな経験の浅いリーダーと業務目標を話しても、らちがあがないと思ってヤケになったのかしら……。次回の面談、いったいどうやって進めたらいいんだろう……)

 明日香は、誰かに相談せずにはいられなくなった。同期入社の親しい仲間で、今は運用部門のリーダーとして活躍している真紀子に話を聞いてもらえたら、何か解決の糸口が見つかるかもしれない。社内のチャット・システムを確認すると、真紀子は社内にいるようだ。明日香はさっそく連絡してみた。

 久しぶり!お元気ですか? 今日のランチをご一緒できないかな、と思って。ご都合いかが?

 真紀子は返事も仕事も早い。即座に了解の返信があった。(下 へ続く)

メンバーとのコミュニケーションを阻害する要因に気づいていますか(上)

□何となく苦手で、仕事を頼みにくいメンバーがいませんか?

□激しい感情に出会うことも予想し、冷静に対処する覚悟がありますか?

□メンバーに対する何らかの先入観を無意識のうちに持っていませんか?

~原案:株式会社エムズ・ネット・スクエア 講師 津山元子~ (文:津山元子&吉川ともみ)

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