請負での開発しか経験していない筆者が、クラウドに迫る!!

今そこにある危機~クラウドによって破壊されるもの

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■クラウド(雲)がもたらすもの

 わたしたちの目の前に見える広大な空、それは雲に覆われている。雨雲だ。

 ある人々にとって、雨雲は創造をもたらす。「恵みの雨」によって。またある人々にとって、雨雲は破壊をもたらす。「すべてを洗い流す雨」によって。

 わたしたちにとってのクラウドコンピューティングは、どちらの雨をもたらすだろう。

■創造をもたらす「恵みの雨」

 クラウドコンピューティングの市場規模は、各調査会社によってばらつきはあるものの、2015年までにおおむね3~5倍に拡大すると予想されている。金額にして約7500億円ほどだ。

 2010年度のITサービス市場がおよそ4兆9500億円(※1)であるから、市場全体から見た割合は決して大きくはないが、5年で3~5倍の成長というのは、2010年度で対前年比-1.3%(※1)というITサービス市場と比較しても期待できる市場であるといえる。

 ITという産業にとって、市場という観点で考えたとき、クラウドコンピューティングがもたらす「雨」は「恵みの雨」であるといえる。

■クラウドコンピューティングは、ITにおける産業革命

 ではなぜ、クラウドコンピューティングはIT市場においてこれだけの成長曲線を描けるのか。それはクラウドコンピューティングによってもたらされる変化が、ある種の産業革命であるからだ。

 産業革命とは、18世紀後半のイギリスで始まった機械化による産業の変革と、それに伴う社会構造の変化である。

 産業革命以前、製品はすべて手作業によって生産されていた。それが機械化によって生産力が大きく増大。大量生産による規模の経済によって製品価格は安価になり、生産者は「少数の職人」から「多数の労働者」に転じた。

 クラウドコンピューティングは、この産業革命とよく似た経緯をたどろうとしている。

 これまで、企業ごとに個別導入されていたITシステムは、インターネットを経由して利用されるサービスとなる。個別生産から、同一製品の大量供給に転じるため、必然的に提供価格は安価となる。個別カスタマイズが必要なサービスについても、クラウド事業者が提供するプラットフォームによって生産性が向上。当然、これも安価になる。

 クラウドコンピューティングは、産業革命と同様、ITサービスの大量供給を実現する。

 それでは、「少数の職人」から「多数の労働者」へ変化した、産業における雇用の構造は、クラウドコンピューティングによってどうなるだろうか。

■破壊をもたらす「すべてを洗い流す雨」

 ITにおける雇用の構造を少し単純化して考えてみよう。

 今、市場では10社の企業がITシステムを利用していると仮定する。10社のうちの5社が、同時に新しいITシステムを導入しようとしている。これまでのIT市場では企業ごとに個別に新しいシステムを導入していたから、5社それぞれの開発に生産者を割り当てねばならない。1システムあたり10名の生産者が必要だと仮定して、10×5の50名が、現在市場で新しいシステムの導入に従事していることになる。

 システムにはすでに導入済のものもある。その維持に必要な技術者が、1システムあたり1名必要だとする。現在市場には10社あるわけだから、10×1の10名が、既存システムの維持に従事していることになる。

 現在、この仮の市場には、60名のIT技術者が雇用されている。

 クラウドコンピューティングによって、この市場にはどのような変化が起こるか。これも単純化して考えてみよう。

 この市場に、ひとつのクラウド事業者が創業した。ITシステムは、クラウド事業者の提供する新しいインターネットサービスの利用によってすべてをまかなえると仮定する。

 クラウド事業者は、継続して新しいサービスを生産するために生産者を雇用する。この市場では1つのシステムを生産するために10名必要なわけだから、10名が雇用される。また、すでに提供済みのサービスの維持要員も前述したとおり、1名雇用される。

 いまある10社は、すべてクラウド事業者が提供するサービスに乗り換えるだろう。他社と同一のシステムを利用するということは、単純に考えて提供価格が10分の1で済むからだ。その場合、今後に新しいシステムを個別に導入することはない。すなわち、システムの生産者たちは不要となる。同様に、システムの維持はクラウド事業者が行うわけだから、システムを所有しない各企業にとっては、維持のための技術者が不要となる。

 市場全体に存在した60名のIT技術者は、1社のクラウド事業者がかかえる11名に大きく集約されることになる。

 提供価格が安価になることでITシステムを利用していなかった企業が利用を始めると予想されるため、で10社しかなかった ITシステムの市場は拡大するかもしれない。しかし、そこで雇用される技術者総数は、市場の拡大と比例することは決して無い。

 これが、クラウドコンピューティングがIT技術者たちにもたらす未来だ。

 現実の市場はもっと複雑だから、ここまで極端な変化とはならないまでも、ある一定の規模において、このモデル化された市場と同一の変化を辿るのではないかと思われる。

 われわれIT技術者にとって、クラウドコンピューティングは破壊をもたらす。それはつまり、雇用の破壊なのである。

※1:IDC Japan調べ

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