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第570回 三層構造のススメ3 -気づきのロジック

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 こんにちは、キャリアコンサルタント高橋です。

 「三層構造のススメ」も3回目になりました。これまで三層構造とは何か? 三層構造を使って問題解決をするためにはどう考えれば良いか? といった点についてお話してきました。今回は問題を解決するためのカギとなる気づきのロジックについてお話しします。

■「問題を解決するということ」はどういうことか?

 ここで改めて考えてみたいのですが、そもそも問題を解決するということはどういうことなのでしょうか?

それまで分からない状態だったことかったこと(=問題)が分かる状態になる(=解決)こと

 となるのではないでしょうか。それでは分からない状態にある人が分かる状態になるためにはどうすればよいのでしょうか? それは、思考の転換させることです。言い方を変えるならば考え方を変えるということです。

 そもそも、分からない状態にあるのはなぜでしょうか? それはその人が持つ価値観やパラダイムを通してその問題と捉えているからです。例えば、前回までの例であげた退職を考えている人の話をもう一度出して考えてみます。

三層構造.png

 こちらは第1回で登場した三層構造の図です。この人はそもそもこのような価値観やパラダイム(2層)を持っていました。

  • 職場で困っていたら助けてあげるべき
  • 職場では我慢が強いられるべきではない
  • 職場の雰囲気は楽しくあるべき

 それに対し、この人の置かれている状況(1層)は

  • 上司が厳しく当たる
  • 分からないことがあっても誰も教えてくれない
  • 相談できる人がいない
  • 職場の雰囲気が悪い(誰もしゃべらない)

このようになっていました。だから、この人の考えは転職したいという行動(3層)を取ろうとしたのです。

 しかし、この人の価値観は本当に正しいのでしょうか? 例えば上司が厳しくしていたことに何か理由があったとしたらどうでしょうか?

上司はこの人を次のリーダーに育てたいと考えていた

 このような理由があったとしたら、この人はどう思うでしょうか?

 勿論、この人には先ほどのような価値観やパラダイムを持っていますのでこの価値観やパラダイムを元に考えようとしますが、上司が自分のことを厳しく当たる理由(=次期リーダーにしたい)があるのであれば、「それなら仕方ないよね」といった例外を生む余地が生まれます。この例外のことをユニーク・ケースと呼びます。このユニーク・ケースに気づかせることが問題を解決する上で重要なポイントになります。

■ユニーク・ケースに気づかせる方法

 それでは、なぜこの人はユニーク・ケースに気づくことができないのでしょうか? それはこの人に情報がないからです。ユニーク・ケースかどうかを判断するだけの情報を持っていないため、自分の価値観やパラダイムでモノを見るしかなく、それが3層の転職したいという行動となって表れていたのです。

 つまり、ユニーク・ケースに気づいてもらうためには新たな情報を提供し内省を深めてもらう必要があるのです。そのための情報は5つに分類されます。

  • 自己理解不足(自分のことが分かっていないという情報)
  • 仕事理解不足(仕事のことがわかっていないという情報)
  • コミュニケーション不足(周りの人の考えがわかっていないという情報)
  • 中長期的視野の不足(将来のことが分かっていないという情報)
  • 相談者独自の捉え方(相談者が持つバイアスという情報)

 先ほどの例では「上司の考え」という情報が不足していると考え、

「上司の方はなぜ厳しく振舞うのでしょうね? そのことについて尋ねたことはありましたか? 」
「あなたが上司の立場だとして、部下であるあなたに厳しく当たっています。それはなぜだと思いますか? 」

のような問いかけをすることで、上司の考えが理解できていなかったということに気づいてもらうのです。これが問題の本質、つまり解決すべき問題になるのです。

■価値観やパラダイムを変えることの難しさ

 この三層構造を用いた問題解決法(Aチャート法)はその人の価値観やパラダイムを変えることで問題を解決しようと試みます。その前提には

「他人は変えることができないが、自分は変えることができる」

という考えから来ています。この「自分」というのは自分の価値観やパラダイムのことを指しています。私たちは人の価値観やパラダイムを変えることはできませんが、自分の価値観やパラダイムを変えることはできるのです。

 しかし、価値観やパラダイムを変えること(パラダイムシフト)はそう簡単にはできません。だからユニーク・ケースがあるのです。ユニーク・ケースという考え方ならば、その人が持つ価値観やパラダイムを否定することなく例外的に新しい価値観やパラダイムを生み出すことができ、これが問題解決へと繋がっていくのです。

 さて、今回はここまでです。次回は問題の本質に気づいた後にどうやって問題を解決していくのかについてご説明します。

Comment(4)

コメント

ちゃとらん

いつも楽しく拝読させていただいています。


ユニーク・ケース…初めて耳にしました。
そのなかの 『5つの情報』は、なかなか興味深いお話です。


で、次週に向けて予習しておこうと思い『ユニーク・ケース』をgoogle で検索したところ、iPhoneの面白スマホケースばかり、引っかかってきました。

情報が不足すると、間違った答えに導かれるということが、実感できました。(違う意味で:笑)

キャリアコンサルタント高橋

ちゃとらんさん、


いつもコメントありがとうございます。


「ユニーク・ケース」は私の造語なので、一般には出回っていない言葉だと思います。。。


ただ参考にしているモノはありまして、ナラティブ・キャリアカウンセリングという手法の「例外的(ユニーク)な結果」の考え方をベースにしています。


ナラティブ・キャリアカウンセリングの手法の詳細は割愛させていただきますが、簡単に言うと、自分の持つ価値観やパラダイムから外れた所にある物事の捉え方を「例外的(ユニーク)な結果」と捉え、新しい考え方を構築していく手法です。


今回の気づきのロジックを形にしようとした時に、私が過去に行っていたナラティブ・キャリアカウンセリングの「例外的(ユニーク)な結果」という考え方がフィットしたので、これを自分の中で発展させたのがユニーク・ケースだったりします。。。

ちゃとらん

いつも楽しく拝読させていただいています。


> 「ユニーク・ケース」は私の造語なので、…
せっかくなので、広めていきましょう(笑)


この、パラダイム・シフトの問題は、自分の意見を相手に理解してもらうためには、その相手にパラダイム・シフトしてもらう必要があり、その時に先の『5つの情報分類』の観点からプレゼンするのが、良さそうな気がします。

キャリアコンサルタント高橋

ちゃとらんさん、


コメントありがとうございます。


>この、パラダイム・シフトの問題は、自分の意見を相手に理解してもらうためには、その相手にパラダイム・シフトしてもらう必要があり、その時に先の『5つの情報分類』の観点からプレゼンするのが、良さそうな気がします。


おっしゃる通りです!


もう少し深くお話しすると、実際の対話を想定した場合、どんな情報が不足していて、何に対して気づきを促すかを相手との対話の中でリアルタイムに考え戦略を練る必要があります。


そのため、講義ではこれら5つの情報不足を頭に入れておき、相手との対話の中でどれが当てはまるかを考えながら対話をするように説明しています。
これを私は「砂場のおもちゃ」と呼んでいます。


小さなお子さんに砂場の中におもちゃがあることを伝えると無心になってそのおもちゃを探そうとしますが、この時に「三角形のおもちゃがあるよ」と伝えると、三角形のおもちゃを意識して探そうとします。


5つの情報不足を頭に入れて相手と対話するのもこの感覚に近く、どんな情報が不足しているかを頭に入れて対話を進めていくと、どの情報が不足しているかがキャッチしやすくなります。そうして、不足している情報の当たりがついたら、その情報が不足していることを相手に気づかせるようなアプローチをとっていきます。
これがちゃとらんさんのおっしゃる「『5つの情報分類』の観点からプレゼンする」ということになりますね。


言葉にすると難しく感じるかもしれませんが、実際の講義では私がデモンストレーションして実例を見ていただくので納得していただけることが多いですね。

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