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第12回 キャリコン事例(5) 新入社員が抱く理想と現実の狭間で

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 こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。

 今回のキャリコン事例は、今年の4月に入社された新人ITエンジニアについて取り上げます。入社して4カ月が経ち、理想と現実の仕事像との狭間で悩む新人ITエンジニアは、この先どのようなキャリアを考えていけば良いでしょうか?

 それでは、張り切っていきましょう!

…………

■相談者のプロフィール

 小川さん(男性・22歳)、中堅開発ベンダのITエンジニア。業界経験4カ月。研修期間中にJava言語を習得したが、現在は多機能携帯電話(スマートフォン)の端末評価業務を担当している。

 小川さん 「私は理系の4年制大学を卒業後、新入社員として入社しました。入社後の社内研修ではJava言語を学びました。しかし、研修後に配属された現場は、市場に出回る前のスマートフォンの動作確認を行う評価業務(テスト業務)を担当しています。まだこの仕事を始めて3カ月程度なので、今の時期にこういうことを言うべきじゃないと思いますが、入社前に私がイメージしていた仕事と違っていて、ちょっと戸惑っているというか……、どう自分の気持ちを納得させたらいいか分からず、現場の仕事にも身が入らない状態が続いています……」

 小川さんは少し小柄ですが、身なりは整っており、受け答えもハッキリしています。しかし、それが逆に、まだ就活生の雰囲気を醸し出しているようにも思えました。

 小川さん 「就職面接の際、人事担当の方から、この会社には私がプログラマとして活躍できるフィールドがあると言っていました。その時点で、私は3社から内定をいただいていましたが、この言葉が決め手となって今の会社を選びました。しかし、実際に仕事が始まると、プログラマではなくスマートフォンの動作確認の仕事を指示されました。仕事内容は、毎日いろいろな所に車で出向き、そこでスマートフォンの動作確認を行い、不具合があれば報告書を作成して開発チームに報告するようなことをやっています。日にもよりますが、1日の半分以上は車で移動していますので、1日の作業時間は正味2~3時間程度だと思います。こういう仕事がITエンジニアの仕事でないとは思っていませんが、毎日この作業ばかりだと、仕事に対するモチベーションが保てません」

 かなりストレートにご自身の想いを伝えていますね。このことについて、現場の先輩や同僚に相談したことはありましたか?

 小川さん 「もちろん、現場の先輩にも同僚にも話をしました。でも、現場の先輩は『自分のやりたくない仕事であってもそれは仕事なんだから、最低でも3年間は我慢して頑張れ』としか言ってくれません。しかも、同僚も同じようなことを言ってきます。社会人である以上、自分のやりたい仕事ばかりできるわけではないことは分かっているつもりです。だけど、これじゃ採用面接の時に人事担当の方が言ってくれた話と違う気がして、私の中でわだかまりが残ってしまっています……」

 小川さんはかなり溜め込んでいる想いがあるようですね。それでは、小川さんはどのような仕事であれば、納得して仕事ができるのでしょうか?

 小川さん 「そうですね……、先ほども言いましたが、プログラマの仕事がしたいです。お客さんと話をしたり、設計書を書いたり、プログラムを作ったり……そんな仕事をイメージしていました」

 小川さんは、プログラマだと納得して仕事ができると言っています。しかし、現在担当されているスマートフォンの端末評価業務は、採用面接の際に人事担当者から聞いた話と違っているので納得ができず、仕事にも身が入りません。なぜプログラマと端末評価業務の仕事にこんなにも大きな想いの差が出るのでしょうか?

 小川さん 「想いの差……ですか? もともと、私がこの会社でやりたかったのはプログラマです。人事担当の方からもプログラマとして働けると聞いて入社を決めました。そして、実際にプログラマとして働いている同期入社の社員もいます。しかし、私は今プログラマとしてではなく端末評価業務の仕事をしています。私はプログラマの仕事をしていないのに、『アイツだけなぜ? 』のような感情があるからだと思います。正直に言えば、せっかく他の会社の内定を蹴ってまでこの会社に入ったのになぜ……という想いさえあります。きっと、これがプログラマと端末評価業務との想いの差に繋がっているのだと思います」

 小川さんの話からは、小川さんの中にあるプログラマの仕事ができない自分に対する焦りやプログラマの仕事をしている同期入社の社員に対する羨望にも似た感情が混じっているようにも思えました。ここまでで、ある程度小川さんの想いが見えてきましたので、整理してみましょう。

《小川さんの想い》

  • 現在担当している多機能携帯電話(スマートフォン)の端末評価業務は、入社前に人事担当者から聞かされていた話と違っている。
  • 小川さんはプログラマとして働くことを望んで入社した。同期入社社員の中ではプログラマとして働いている人もいる中、小川さんがプログラマとして働けていない。これだと、採用面接の時に人事担当者から聞かされていた話と違っており、納得できない想いがある。

 これを整理すると、

採用面接で人事担当者からプログラマとして働けると聞いて入社を決めた

実際に働いてみると、プログラマとしてではなく評価担当者として働くことになった

採用面接時に人事担当者から聞かされていた話と違っている

今の現状に納得できない

ということになりそうです。そう考えると、プログラマとして働ければ小川さんの悩みは解決に繋がるのでしょうか?

 小川さん 「そう……ですね、そうだと思います。私はこの会社でプログラマとして働きたいです。このような考え方は間違っているのでしょうか? 」

 小川さんの考え方が正しい、間違っているを論じる前に、小川さんに考えてほしい点が2点あります。これらを考えた上で、正しいか間違っているかを判断してみましょう。

 考えていただきたい最初の点は、『仕事のあり方』についてです。

 会社の中で給料をもらって仕事をする人のことをサラリーマンと呼びますが、これは、雇用主(会社)からサラリー(給料)をもらっているからその名が付けられています。サラリーマンはサラリー(給料)その見返りとして、会社に労働力を提供して利益を生んでいます。会社とサラリーマンはこのような約束ごと(契約)の下で成り立っています。そう考えると、仕事とは、会社が小川さんに何かを与えるために行われるモノではなく、小川さんが会社に何か(一般的には利益)を与えるために行うモノなのです。会社は小川さんの想いを自己満足させるための手段ではないのです。

 会社は人員を配置する際、個人の適性やその時点での会社の状況を踏まえた上で行います。たとえ、採用面接でプログラマとして活躍できるという話が出ていたとしても、今の時点で小川さんがプログラマとして働くかどうかはその時の会社の判断によります。サラリーマンである以上、このことを正しく理解しておく必要があります。

 それでは、会社と個人との関係だけを考え、小川さんは単に会社から給料をもらう代わりに、労働力を提供するだけの存在なのか? と言われると、それもまた違います。

 これが2つ目に考えていただきたい点である『キャリア』です。

 ここでいうキャリアとは仕事上のキャリア(ワーク・キャリア)ですので、最初にお話しした仕事のあり方を無視して作ることはできません。あくまで雇用主と個人の関係を維持しながら、いかにして個人の望むキャリアを作り出すかを考えます。小川さんの場合、プログラマとして仕事をすることが当面の目標ですので、今の評価業務を続けながら、プログラマとして働くためにはどうすれば良いかを考えます

 具体的には、小川さんは目標とするキャリア(=プログラマ)に対する能力が不足していますので、以前に紹介した意思決定の3フェイズを使って考えてみます。

(意思決定:第1フェイズ)

・プログラマとしてシステム開発業務を行う!

(意思決定:第2フェイズ)

一般的にプログラマとは、

・基本設計書を基に詳細設計書を作成する
・詳細設計書を基にプログラミングする
・詳細設計書を基に単体テスト仕様書を作成し、単体テストを実施する

この3つの業務を遂行する能力が求められますので、これらを汎用的能力・スキル、実務的能力・スキルに分けて、必要な情報を習得します。

a.汎用的能力・スキル

・プログラマとして必要な知識:ITパスポート試験
・開発言語の習得:OJC-P
・テスト実施能力:JSTQB Foundation Level

b.実務的能力・スキル

・現場で行われているテスト技法を習得し、将来、システム開発を行うことになった場合でも、そのテスト技法が流用できるように知識を整理しておく
・報告書の書き方を見直し、どのような報告をすれば、開発チームに理解されやすく、開発チームの作業負荷が軽減されるかを考え、報告書を作成する。報告書の出来が、製品であるスマートフォンの品質を上げることに繋がるかを考え、ITエンジニアとしてプラスアルファの努力をしてみる

(意思決定:第3フェイズ)

・上司にプログラマとして働きたい意思を伝える。また、プログラマとなるために現在行動している内容(汎用的能力・スキル、実務的能力・スキル)を伝え、気持ちだけではなく行動も伴っていることを知ってもらう。
・ただし、サラリーマンである以上、会社の指示で行っている今の仕事であるスマートフォンの端末評価業務を全うすることを最優先に考える。

 小川さんはこの会社でプログラマとして活躍したいという想いを持って入社しました。それ自体は素晴らしい考えです。小川さんがプログラマとして活躍することで、会社に対して利益が生み出されます。これは本来あるべき会社と個人の関係だと言えるでしょう。

 もし、小川さんに対して正しい、間違いを論じるのであれば、会社の中で自分の想いが実現できなかった時の身の振り方や考え方にあったのではないでしょうか? 小川さんはプログラマとの仕事ができないことで、ご自身の置かれている状況を悲観していました。それ自体仕方のないことですが、そこで動きを止めてしまったことに問題があったように思います。会社の中で働く以上、今後も今回のような状況に遭遇することはあるでしょう。大切なことは、現状を否定することより、どうすれば目標に近づけるかを考え、行動することにあるのではないでしょうか?

 小川さん 「私は人事担当の言葉にとらわれ過ぎていたように思います。それだけ、その言葉に期待してこの会社に入ったのです。しかし、私は会社に雇われて入社していますので、私も会社の一員なんですよね。たくさんの社員がいる中で、皆が自分の好きなように仕事をしてたんじゃ会社は成り立たないですね。そう思ったら、私は周りが見えておらず、独りよがりの考え方をしてたのかもしれません。私も会社の一員である以上、ただ何もせず給料だけもらっている存在になるのは嫌です。ちゃんと会社に貢献できる社員にならなきゃと思います。本当はそういったベースがあった上で、そこからどうすればプログラマになれるかを考えなければならないのですね。

 恐らく、職場の先輩も同僚も、このことが分かった上で私に我慢するような話をされたのかもしれません。『我慢』という言葉を使っていましたが、これって会社の一員である以上、当たり前のことなんですね。今の仕事にも会社の一員としてなすべき責任があるということ、そして、将来プログラマとして働くために必要な技術・スキルを身に付けるための場でもあるということならば頑張れそうな気がします。会社の一社員としてなし得なければならないこと、そして一個人としてなし得たいことが両立できるよう、私にもやれることをやってみようと思います」

 それでは、また次回お会いしましょう!

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