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第11回 キャリコン事例(4) 共働き、妻であるわたしのキャリア

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 こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。

 今回のキャリコン事例は、共働きでITエンジニアをしている女性のお話です。結婚後、女性にとって仕事を続けるか否かは非常に大きな問題です。どのようなキャリアを構築することが、ITエンジニアとして、そしてご家族にとってベストな選択肢になり得るのでしょうか?

 それでは、始まりですっ!

…………

■相談者のプロフィール

 神田さん(女性・29歳)、中堅開発ベンダのITエンジニア。業界経験7年。専門はWebアプリケーション開発で、主に下流工程を担当。得意言語はJavaだが、最近はExcel VBAを使った小規模開発を担当することが多い。

 神田さん 「今の会社には大学を卒業した後に入社しましたので、今年で7年目です。うちの会社の受託開発部門でお仕事をさせてもらっています。最初はJavaによるWebアプリケーションの開発を担当していましたが、ここ数年、EUC絡みの開発が多く、ExcelとOracleを繋ぐシステムのクライアント側(つまりExcel側)をExcel VBAで構築するお仕事を担当しています。お仕事自体には何の不満もなく、できればこのまま続けていければ良いなぁと思っています」

 ※EUC:end user computingの略。利用者(エンドユーザー)が開発会社や社内の情報システム部門などに頼らず、システムの構築、運用、管理に関わることを言います。神田さんが関わっているシステムの場合、EUC実現のために利用者端末(クライアント)のアプリケーションをMicrosoft Excelで構築しています。

 神田さんは、落ち着いた感じで話を始めました。見た目の派手さはありませんが、明るく人懐っこい性格っぽく、社内でも評価が高いそうです。

 神田さん 「ただ、私事なんですが、昨年秋に結婚しました。旦那は同い年で、別の会社ですが同じITエンジニアの仕事をやっていますので、今は夫婦共働きの状態にあります。お互いITエンジニアの事情は分かっているので、相手の仕事に干渉しないのがわたしたちの暗黙のルールになっています。そのため、旦那がわたしに仕事のことで何かを言うことはないんですが、将来のことを考えると、このままいつまでも共働きをするわけにもいかないと思ってるのです」

 神田さんはご結婚をされていて、現在は共働きの状態。ご主人が神田さんのお仕事について何も干渉してきませんが、神田さんはこの先共働きで仕事を続けて良いのかどうか迷っているということでしょうか?

 神田さん 「ええ、そうですね。今は旦那もわたしも元気だから特に問題はないんです。また、今は借家住まいなので、そろそろ家も買いたいと思っています。ですので、まだまだ共働きは続けるつもりではいるんです。ただ、旦那もわたしも子どもが好きなので、できればマル高になるまでには子どもが欲しいんです。そう考えると、この先仕事を続けていけるのか、いけないのか、よく分からなくなってきたのです……」

 ※マル高:高齢出産のこと。一般的には35歳以上で初産される場合のことを表します。過去、高齢出産の場合に母子手帳に○に"高"の判が押されていたことからその名前が付いたそうです。現在は廃止されていてますが、言葉だけが残っています。

 これは働く女性にとって大きな問題だと思います。一般的に女性の場合、お子さんが生まれるとある一定の期間は育児に専念されるため、休業される方が多くなります。ただ、その分所得が減りますので、家を購入するなどの場合、家計のやりくりが大変になりそうですね。このことについて、ご主人とはお話しをされたことがあるのでしょうか?

 神田さん 「わたしの方からですが、話は結構しています。でも、旦那の仕事はいつも忙しくて、あまりちゃんと聞いてくれません……。話の最後はいつも『お前の仕事だから、お前がやりたいようにやれば良いよ』で終わっちゃいます。結局これって、わたしに全部丸投げされている感じがするんです。だから、なおさら決められなくて……」

 出産マイホーム購入は人生の一大イベントでもありますから、それを神田さん1人が抱え込むのはちょっとつらいかもしれませんね。ちなみに、失礼ですが今の神田家の経済状況ってどうなっているのでしょうか?

 神田さん 「うちは共働きなので、旦那とわたしの財布は別々にしてあるんです。毎月、お互いのお給料から一定額のお金を家に入れ合って、そのお金で家計のやりくりをしています。ですので、家に入れてない分のお金はそれぞれが管理してるってことになっています。一応、家に入れているお金から貯金もするようにしていますが、家用の貯金は数十万円程度しかありません。また、旦那もわたしも趣味にお金を使うことが多いので、わたし個人はほとんど貯金がありませんし、恐らく旦那も同じだと思います」

 家族の財布の扱いは、ご家庭の事情によって違いますから一概に良し悪しは言えませんが、ご主人さんと神田さんはそれぞれどれくらいの年収がおありになるのでしょう?

 神田さん 「旦那が大体400万円程度、わたしが350万円程度だったと思います。ですので、今は2人合わせると700万円以上あるので比較的生活に余裕を持てますが、わたしが働かなくなると、旦那の稼ぎだけをアテにしなければならないので、一気に生活は厳しくなると思うんです……」

 確かに、家族全体の収入が約半分になってしまいますので、少なくとも今の生活のままでは厳しいでしょうね。ところで、神田さん自身はお仕事をどうお考えになってるのでしょうか? このままずっと仕事を続けていきたいのか、それとも、家庭に入って専業主婦でやっていきたいのでしょうか?

 神田さん 「正直なところ、どちらでも構わないと思っています。ただ、子どもが小学校を卒業するくらいまでは一緒にいてあげたいです。そう考えると、結果的に専業主婦ってことになるでしょうね」

 ここまでで、ある程度神田さんの想いが出てきました。まとめてみましょう。

《神田さんの想い》

・マイホームを持ちたいと考えている
・35歳までには子どもを産みたいと考えている
・お子さんが産まれたら、小学校卒業までは一緒にいたいと考えている。そのため、子どもが産まれたら専業主婦になろうと思っている
・神田さんが家庭に入ると収入が約半分になるため、ご主人の収入だけで生活していけるかどうか不安に思っている

  こうやって並べてみると、神田さんの悩みは

マイホームを持ちたい(神田家の支出が増える)
子どもを産んで専業主婦になりたい(神田さんの収入がなくなる)

ご主人だけの稼ぎで生活していけるのか!?

といった形に集約されそうですね。

 神田さん 「確かにそうなりますね。でも、そうすると子どもを産むか、マイホームを持つかを諦めないとダメっぽいですよね……? 」

 いや、そういうことでもないです。神田さんの場合、ネックになっているのはお金の問題が大きいので、そこを整理すれば解決の糸口が見つかるかもしれません。試しにこの先神田家が必要となるお金をざっくり計算して考えてみましょう。

《神田家の総収入と総支出のシミュレーション例》

■収入例

ご主人 : 500万円/年×30年=1億5000万円(60歳定年までの平均年収を約500万円で試算)
神田さん : 350万円/年×? 年=? 円(神田さんがこの先働く年数)
年金 : 15万円/月×12カ月×20年=3600万円(65歳から受け取る年金を平均月約15万円とし、ご夫婦が85歳ころまで生きると想定)
総収入計 : 1億8600万円+神田さんの収入

■支出例

住宅ローン :10万円/月×12カ月×35年=4200万円(マイホームを3000万円程度で購入したと想定)
生活費 : 25万円/月×12カ月×55年=1億3200万円(生活費を平均月約25万円とし、ご夫婦が85歳ころまで生きると想定)
養育費 : 10万円/月×12カ月×22年=2640万円(子ども一人当たりの大学卒業までの養育費)
総支出計:2億40万円

 ここでは、神田さんの生活状態が分からないため非常に大雑把な見積りになっています。そのため精度はかなり低いので、あくまで1つの参考として見てください。

 ※このような将来に渡るお金のプランニング(マネープラン)は、はFP(ファイナンシャル・プランナー)の方に依頼されると詳細に計算していただけます。

 こうやって見ると、神田家では総収入と総支出のバランスが崩れている可能性がありそうです。この例では、『総収入計-総支出計』で約1400万円程度不足することが分かります。もし、この不足分1400万円を『何か』で補えれば、神田家はマイホームが持てますし、子どもも(1人は)育てられるのではないでしょうか?

 そして、その不足分を補う『何か』こそ、神田さんの収入と考えてみたらどうでしょうか? 現在、神田さんは年収350万円程ありますので、約4年間働けば不足分1400万円は補えられそうです。

 つまり、将来のことを考え、これからは神田家の財布を一つにまとめ、収入と支出を管理するように変更する。そのうえで、神田家の総収入と総支出のバランスを考え、神田さんは向こう4年間今の仕事を続けたうえで、その後は専業主婦として家庭に入る。こう考えれば、神田さんの想いを実現することは、決して不可能ではなくなります。

 ただし、実際に神田さんがどれだけの期間働かなければならないかはFP(ファイナンシャル・プランナー)などの専門家に相談し、神田家の詳細なマネープランを計算しなければ分かりませんので、その結果によっては、今後働く年数が前後する可能性はあります。また、厚生労働省ではさまざまな育児支援事業を展開しており、その流れを受けて時短勤務制度子育て支援金の支給などを導入されている企業もあります。神田さんはお子さんが産まれてからは専業主婦になることを希望されていますが、状況によってはこれらの制度を活用しつつ、子育てと仕事を両立する方法を選択した方が良い場合もあります。

 こういった状況を踏まえたうえで、最終的に神田さんが後どれだけ働くのか、その期間を決めます。そして、その期間、神田さんはITエンジニアとしてどのような働き方をすれば良いのかを考えてみてはいかがでしょうか。

 例えば、将来も働く可能性があることも想定し、時間の制約を比較的受けない部門に異動しておくという考え方もあると思います。また、現在の受託部門で仕事を続けるために、時間の制約が少なくなるよう上司に相談してみる方法もあると思います。このように、その人の目的に応じてこれから先、働ける時間に期限を設け、その期間内にできる最善のことや次につながることを始めようとすることも1つのキャリアづくりと言えます。

 神田さん 「ITエンジニアとしての期限を決めて働くという考えは、なるほどと思います。正直なところ、お恥ずかしいですが、うちの経済状況はよく分かっていないんです。でも、それがいけないことなのは良く分かりました。まずは旦那と相談して一度FP(ファイナンシャル・プランナー)の方に会ってこようと思います。そうして、わたしが後どれだけ働けるかを決めて、その間にできることをやっていこうと思います。ただ、今はまだ具体的に何をやったら良いのかが見えていないので、そのときはまた相談させてください」

 それでは、また次回お会いしましょう!

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