社会人8年生のなんでも屋SEです。3年前から「うつ病」と一緒に生きています。

第1夜 ~もってるスキルは「うつ?!」~

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 コラムを書くにあたり、筆者よりメッセージ

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 皆様はじめまして、NEMO(船長)と申します。

 今回思うところがありまして、エンジニアライフにコラムを投稿することにしました。

 テーマは最近話題の「エンジニアとうつ」です。この話題そのものはns-writer氏の「Webエンジニアのコーヒータイム」という素晴らしいコラムの中で触れていますので、私はもう少し赤裸々に、

うつ病に陥ったシステムエンジニアの葛藤を疑似体験できるコラム

を目指します。

 お節介にはなりますが、このお話の登場人物N氏になったつもりで読んでいただけると幸いです。本当に「うつ」になったら大変ですから、あくまでバーチャルで体験して下さい。

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 とある平日の午後6時、都内の某メンタルクリニック。1人の背広姿の男性が病院の入口をくぐる。座る場所さえない程に患者でごった返す待合室。その中で、まるで酒場の常連客のようにスタッフと会話する男こそ、今回のコラムの主役であるN(※1)である。

 N氏が診察を受けるまでの時間を利用して、彼の紹介をしておこう。

 N氏は31歳。ITバブル華やかなりし2000年4月に社会人となり、現在は9年目である。

 大学では法学を学ぶも、「社会の役に立つシステムを作りたい」と言語未経験でIT業界に飛び込んだ。

 会社は準大手の独立系ソフトハウス「A社」。念願かなって全国規模のネットワーク構築プロジェクトに参画し、入社2カ月目にしてC言語プログラマとして開発の最前線に放り出されることとなる。その後も主に通信系企業のインフラ構築を中心に、ある時はSE、ある時はPG、またある時はネットワーク/サーバエンジニアと、プロジェクトの手薄な部分を埋めるバイプレーヤーの地位を請負先のリーダーから指名され、6年半の間、業務に没頭し続けたのである。

 彼の性格は一言で言うと『愚直で冗談が通用しない』。時に自分の体を犠牲にしてでも遅れたスケジュールの回復に努め、無理な稼働を制止する先輩方のアドバイスにも、

 「あ、私の生命保険じゃ、このプロジェクトの遅延損害賠償払い切れませんから……」

 と、ニッコリ笑って返事をする始末。また、スケジュールの線表の作業時刻を「0時-12時-24時」と書いてみるなど、常に破たん状態のプロジェクト管理の中で、歪んだ仕事への忠誠心を磨き続けていきます。もちろんそんな浪花節の態度は請負先の上司からとても気に入られ、何度も「かわいがり」をされる(一世代上の諸先輩方よりはかなり恵まれているものの、ピーク時の稼働は月間350時間近くまで上がり、月に5回は飛行機で出張しながら業務を並行させる)中で、確実にスキルと疲労を積み重ねていくことになっていったのである。

 ――1時間もたったであろうか? 予約時間を大きく過ぎ、すっかり人気のなくなった待合室でN氏の名前が呼ばれ、彼は診察室に向かった。

 診察室の向こうには、一度社会人を経てから医師を目指したというちょっと型破りな経歴を持つ先生が、「1週間、調子はどう?」といつものように問いかけてくる。彼は少々考えてから、

  • 仕事がどうにかできていること
  • 睡眠時に歯ぎしりと寝言がひどいこと
  • 薬を服用すると頭がぼーっとなるし、効果が切れると頭の中で寒気がすること
  • 集中力が続かないので、正直自分の仕事に対して自己嫌悪してしまうこと

などを話した。先生はその言葉をカルテに書いてから、いつも服用する薬に1種類追加し、彼にこう伝えた。

 「ここは“頑張って(※2)”仕事を転がしていきましょう。苦しいと思うけど60点でね」

 N氏の処方箋には9種類の抗うつ薬、抗不安薬(※3)が記されている。1日に飲む錠剤の数は最大24錠。このような生活を2年以上続けている。東京都から『自立支援医療(精神)(※4)』の補助が出ているものの、月の診療費は1万円を軽く超える。

 こんなに大量の薬を服用していながら、通常勤務ができる程に回復したのはつい最近のこと。6年半の無鉄砲な頑張りの後の1年半の間、彼は戦線離脱を繰り返し、ついには会社をも退職せざるを得なくなったのである。そんなもがき続ける中で手に入れた新たなスキルこそが……

 「うつ」

 だったのである。

 恐らくSEが最も『もってはいけないスキル』を手に入れてしまったN氏。彼のSE生活の中で「うつ」がどのように業務に影響をしてきたのか。日に日に壊れていくN氏を周囲の人がどのようにサポートし、どのような成果と失敗を重ねたか。そしてN氏が『うつというスキルをもたない』エンジニアに語る言葉とはどのようなものか。

 もう少しN氏の人となりを追いかけながら掘り下げていこうと思う。

 (以下次号に続きます)

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※1:N氏はこのコラムの執筆者本人ですが、3人称視点で「うつ」を語ってもらいます。

※2:『「頑張って」はうつ病の最大の禁句のはず』と思った方はちゃんとメンタルヘルスを学んでいらっしゃいます。でも、なぜ医師が「頑張って」と言えるのかは、後でお話しすることになると思います。

※3:N氏の処方箋は以下のようになっていました(詳細はWebで調べてみてください)。

  • 1日3回……アナフラニール×2、リーマス×1、リボトリール×1
  • 1日2回……パーロデル×2
  • 1日1回……パキシル×2、ジェイゾロフト×1、ナウゼリン×1、トレドミド×1
  • 頓服……ワイパックス×2

 多いか少ないかはご判断にお任せします。

※4:心の病気で治療を受けている人へ、都道府県からの助成制度があります。もっと重度の場合は身体障害者に認定される事もまれにありますが、あまりお勧めはできません。この自立支援によって医療費は原則本人負担1割になります。社会的地位のペナルティもありません(参考URL:http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/shogai/jiritsu/index.html

 次回は、N氏が「うつ」のスキルを得てしまった背景を見ながら、うつへと転がり落ちる危険な兆候を確認していきましょう。N氏の失敗の轍を踏まないことが、健康なエンジニアライフへの第1歩ですから。

Comment(2)

コメント

NEMOさんへ

「うつ」であるということを
客観的に、良し悪しを判断せずに
描いていくということは
とても大変なことだと思います。

わたし自身もチャレンジしたことがあって、
それで余計にわかるのです。

SEとして、「うつ」と生きて
NEMOさんがどのような成果と失敗を
重ねてきたのか。。。
正直いってとても興味深いです。

わたしは12年、この‘性質’と歩んでいますが、
「躁鬱」であるということを‘病気’だとは思っていません。
誰しもがもっている‘条件’や‘環境’、
‘スキル’ともいえるかもしれません。

かといって、仕事をできているかというと
そうではなく、打開策をさがしているのが現状です。
NEMOさんの経験がじぶんと重なって
具体的にどのように建設的な道を
探れるのか、ということに面白さを感じます。
‘対・じぶん’にとどまらず、
同じように悩んでいらっしゃる方々が
何に気づいていくのか、もです。

NEMOさんの挑戦にエールを送ります。

NEMO(船長)

>マユミさん
コメントありがとうございます。
私はおよそ5年程ですが、12年のお付き合いですか・・・本当に長い間大変だと思います。

自分も、仕事が全くできなくなって、自暴自棄になった時もあります。
でも、「自暴自棄になってる限り、自分の言葉では『うつの辛さ』を理解してもらえない」と、
ある時思ったんです。

--自分を「外」から見つめて、「一体、私は外からどう見えるか?」

これが全てだと思うんです。

--同情でも排除でも嫌悪でもなく、「ありのまま」を受け止めてもらう。

これが私の願いです。自分を3人称にして書いたのも、その目的のためです(中々上手くは書けていないため、お叱りを受けたりしてますが)。

まだまだ筆力が至らない面もありますが、こうしてメッセージを頂けるのはとても励みになります。
お互い‘スキル’をうまく使えるように、転がしていきましょう。

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