いろいろな仕事を渡り歩き、今はインフラ系エンジニアをやっている。いろんな業種からの視点も交えてコラムを綴らせていただきます。

テクニカル・ハザード

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■某SIerで見た戦慄

 ある日のこと、私は某大手SIerで過去の仕様書を探してファイルサーバを散策していた。四年か五年前に作成された資料がたまたま見つかったのだが、それを見て愕然とした。フォーマットが今のと全く変わってない。

 四年、五年前に書たドキュメントと、現在書かれているフォーマットが同じだけでない。抜けている情報、クソ汚いExcel方眼紙、見にくい紙面の構成など、そのまま引き継いでいる。しかも、ファイルサーバを整理するスキルもゼロで、探している資料は見つからなかった。

 平たく言えば、四年、五年も経つのに全く進歩が無い。SIerで働いていると、こういうのは珍しくない。何年も変わらぬ方法でしか仕事をしている人がIT業界は変化が激しいと言う。その割に十年前と同じやり方でしか仕事ができない。コイツら大丈夫かと戦慄を覚える。

■技術の劣化は起こり得る

 このところ、どこの企業も目先の収益を上げるために新人を真面目に教育しない。いや、教育できるだけの能力が無いのではないだろうか。近年、こういった傾向を仕事をしていて痛切に感じる。

 まず、技術の裏付けを説明できない人が増えた。過去事例に沿った方法しか提示できない、ネットの情報の切り張り、解決をサポートにぶん投げる。こういう事例を良く見る。理由の説明を求めるとキレる。俺がいうのだからやれと。それが仕事だという説明しかできない。

 技術といっても、単にサーバを構築したりコードを書くだけじゃない。むしろこういうのは、動いてからがスタートだ。動くまでが仕事と思う人は増えたように思う。動かすだけなら大した技術がなくても体当たりで実現できる。動かした後のことを考えない。

 自分の責任の範疇を超えると、途端に考えなくなる。動いた時点で、あとは運用に任せよう。運用は運用で、とりあえず動かし続けてリプレイスに引き継ごう。リプレイスはリプレイスで現行踏襲。実質的なシステムの完成度は、いつまでも横ばい、もしくは下がっているのかもしれない。

■仕事の成り立つ臨界点

 どんな仕事にも、仕事が成り立つのに必要な技術レベルというのがある。これを下回れば仕事は成り立たなくなる。もちろん、高度なことをやろうとすればするほど、求められる技術のレベルは高くなる。

 現代社会というのは、仕事に対して多くのものが求められる。要求が多いので、当然技術的な難易度が高くなる。青天井に要求が上がればいつかは追いつかなくなる。仕事が成り立たなくなれば、単にお金がもらえなくなるだけじゃない。その人の持つ技術が消失する。確かに、大きな社会の中の一個人の技術が失われたところで、大したことではない。

 だが、一個人ではなく一企業、しかも大きな企業で仕事が成り立たなくなったらどうだろう。成り立たなくなる企業が続出すれば、文明を支える技術が維持できなくなる。最終的には、人類が衰退に繋がる。

■いつか来るXデイ

 お金さえ出せば優秀なエンジニアが雇えると高をくくっていたら、優秀なエンジニアの絶対数が減って、雇うに雇えなくなる。雇えないといっても、実際はエンジニアの待遇が良くなる訳でもない。

 求められる技術はどんどん高くなり、今まで散々積み重ねた技術的負債を、今までと同じ給料で解決して欲しいという条件で働くことになると思う。結果、割の合わない仕事だったり、ミッション・インポッシブルになる。人の募集はあるが、できる人、やりたい人がいなくなり、「人材不足」なんて騒がれることになるだろう。

 もちろんお金がかかるので技術者を育てるなんてしない。技術者の絶対数が減っていくので、どこかで原稿の技術を維持できなくなる。技術大国としての日本は終わるだけでなく、今まで使っていたインフラも維持できなくなることもあり得る。

 企業さえ儲かっていれば、社会は右肩上がりに良くなっていく。こういう常識もそろそろ通じなくなるのではないだろうか。大企業にしても、日本という国にしても、絶対壊れないみたいな幻想を抱いていないだろうか。状況が変われば今までの常識は通じなくなる。こういう技術的な問題に直面して、社会が衰退することもあり得ると思う。

Comment(1)

コメント

nsh1960

5年前の改修以前と土台の基盤が変わっていてもその上っ面は
「ボタン操作一つといえども従来と変更点を一つもなしで同一帳票作成」
みたいな大前提があると作成日付だけ改まった更に5年前の改修時の文書を
まるごとコピーできるという長所があった……という裏事情を想像。

当然のことだが旧開発システムの維持担当者が10年も異動なしということは
大きめの職場では少ないであろうから今となっては謎のロストテクノロジー。

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