いろいろな仕事を渡り歩き、今はインフラ系エンジニアをやっている。いろんな業種からの視点も交えてコラムを綴らせていただきます。

紙でできた巨塔(2) PMの血の色は何色だ!

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 北斗野は技術に正直な男だった。幾度となく炎上したプロジェクトに遭遇してきたが、自助努力で乗り切ってきた。そして、場数を踏むごとに、着実にスキルを上げていった。彼はサーバの構築と運用が専門だが、コードが読めるのはそのためだ。

 それだけではない。彼は人があまり見向きもしない細かい部分もよく見ていた。MS Officeの効率的な操作、ドキュメントの構成力もそのために培われたものだ。彼は技術には明るかった。しかし、職場での上下関係においては不器用であった。故に、高いスキルの割に待遇は冴えないものだった。

 北斗野は亀井部長の机の前に立った。亀井部長はちらっとこちらを見ただけで、無関心にマウスを転がしている。……キーボードショートカット使えよ。操作の手際の悪さにちょっとした苛立ちを覚えた。

 そして先ほど印刷したExcel方眼紙を目線の高さに掲げ、勢いよく2つに裂いた。静かなオフィスに紙の裂ける音は響いた。それは静かなる雷のようだった。亀井部長はロボットのような動きで顔を上げてにらんだ。

 「君、何ノツモリダネ?」

 動きだけでなく、話し方までロボットのようだった。北斗野は毅然と抗議した。

 「亀井部長、何のつもりですか? こんなメンテナンス性の悪いテンプレートでドキュメントを作るなんて、Officeの使い方も知らないんですか?」

 「あと、このExcel方眼紙、目次の項目とページがずれてます。これを手動で直すんですか?効率が悪すぎます。目次をメンテナンスするだけでも工数はばかになりません。Wordの目次機能を使えば3分で済みます」

 「それと、やたらめったらシートを分けている割に、シート名はデフォルトの"Sheet1"のままですし。亀井部長、手を抜きすぎです」

 「君二“マネイヂメント”ノ何ガ分カルト言フノカネ?」

 話がかみ合っていない。

 「亀井部長、何を言っているのかさっぱり分かりません。そもそも、ドキュメントとして作られたPowerPointにしてもあいまいな概要図ばかりです。全く意味が分かりません。」

 「どのドキュメントを見ても、メンテナンス性が悪すぎます。今後、ドキュメントのメンテナンスを行う気はあるのですか?」

 「ソンナ流暢ナ仕事ヲシテイル時間ガアルト言フノカネ?」

 話し方までまるでロボットだ。全文カタカナで書かれた文章を棒読みしてるようだ。

 「目次にしても、Wordの機能を使えば自動生成されます。PowerPointにしても、最初は文章に書き起こしてからドキュメントに記す内容を確認しませんか?」

 「……君ノヨウナ派遣ガ理解デキルヨウ、Excel方眼紙デ書イテイルンダゾ。ソシテ、簡単二書ケルヨウ二図ヲ書クダケデ勘弁シテヤッテイルンダゾ」

 この男が“マネイヂメント”とやらを理解しているようには思えない。派遣社員でも、努力を重ね高いスキルを誇る者もいる。いくらなんでも見下しすぎだ。そして、分かりやすいと謳っているExcel方眼紙もとんでもなく見にくい。作るのが簡単だから見て分かりやすいとでも思っているのだろうか。あきれた思考回路だ。

 「君、モウ明日カラ来ナクテモイイ。去レ。」

 「もとからその覚悟はできています。ただ、こんなドキュメントで仕事をするつもりですか? 炎上しても知りませんよ。後の人に読まれる質を達成して、初めてドキュメントと呼べます。このレベルでは、ただの落書きです」

 「ホゥ……。ソレデハ、タカガ派遣ノ君二、“ドキュメント”トヤラガ書ケルト云フノカネw」

 「Wordできちんとスタイルを定義してドキュメントを書けば、書式を整える工数を省いてドキュメントを書けます。検証環境が動くのであれば、時系列が曖昧になったPowerPointの構成図をデータリストを基にVisioで書き直せます。データグラフィックの切り替えで、目的に応じたデータを表示できる、再利用性の高い図を作成できます」

 「バカナwww。m9(^Д^)」

 亀井部長はアスキー・アートのような声で低く笑った。

 「マァイイ。ソンナニ云フノナラ、オマエチャンスヲヤロウ。3日間ダ。今日カラ3日デ私ヲ納得サセルダケノ“ドキュメント”トヤラヲ書イテミロ。デキナイノデアレバ、オ前ハクビダ」

 「トハ云ッテモ、本日は金曜日ダ。月曜ノ朝マデ時間ヲヤロウ。休日出勤ノ許可ハ出シテヤル。精々頑張ルンダナwwww」

 「受けて立とう。あなたを納得させ、その“マネイヂメント”とやらを改めてもらう!」

 北斗野は力強く亀井課長に指先を向けた。突然の劇画のような展開に、プロジェクトメンバーの全ての目線はその指先に集まった。

 ――続く――

Comment(4)

コメント

数字

トライダーだと思ったら美味しんぼだった件wwww

Anubis

いや、パクったネタは誰でも知ってる某小説です。(冷たい方程式からパクらせて頂いたのは、亀井さんの名前だけ)
・・・編集の方だけが知っている。

23年生

でもWordのドキュメントは読みにくいし、予算に優しくないプロジェクトだと
そもそも開いて編集するのに工数取られるんだよね。Wikiとかテキストで
文章を書く方が検索もできるし、いろいろと便利。

1年前、ケツに火がついてたプロジェクトに参加してほぼ完全Wordドキュメント
だったけど、機能ごとにファイル分けた時点から差し込み画像から、
項目定義からメンテナンスがついていけてなくて、まるで俺がクレーマーだった。

Word Wordって別にWordに拘る必要なんてまったくないと思う。客先に提出用
なら、そもそも電子ファイルであちらが読むこともないし、体裁整えるだけなら
Excelでも無料でも別スイートでも何でもよさげ。

Anubis

>>23年生さん
私も、Wordで100%ドキュメントを作って大炎上したプロジェクトにいたことがあります。そこでの経験から言えば、

読みにくいのは、ソフトではなく文章の構成の問題。
工数取られる時点で、Wordの使い方を間違えている。

これに尽きます。

作るのが長文でなければご指摘のようにWikiで十分です。そもそも、頻繁に書き換えてる内は下書きです。そういうのには私もWordは使いません。

ちなみに、Wordできちんとスタイルを設定せずに長文を作成すると、逆にファイルが重くなって、頻繁にデータが壊れます。

>Word Wordって別にWordに拘る必要なんてまったくないと思う。

おっしゃるとおり、拘る必要は無いです。状況とスキルに合わせてツールを選べば問題無いです。

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