株式会社ジーワンシステムの代表取締役。 新しいものを生み出して世の中をあっといわせたい。イノベーションってやつ起こせたらいいな。

ラムネ氏のこと

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 このコラムのサブタイトルは「ラムネの瓶でいいから新しいものを生み出したい」としていますが、もしかするとわたしの年代では分かるかな? と思って採用したものです。

 元ネタは、高校の教科書にも載っていた坂口安吾の「ラムネ氏のこと」という短いエッセイです。高校の頃は授業がおもしろくないので、よく暇つぶしに教科書を読んでました。なんのこっちゃ(笑)。

 ちょっと引用。

 小林秀雄と島木健作が小田原へ鮎釣りに来て、三好達治の家で鮎を肴に食事のうち、談たま/\ラムネに及んで、ラムネの玉がチョロ/\と吹きあげられて蓋になるのを発明した奴が、あれ一つ発明したゞけで往生を遂げてしまつたとすれば、をかしな奴だと小林が言ふ。

 すると三好が居ずまひを正して我々を見渡しながら、ラムネの玉を発明した人の名前は分つてゐるぜ、と言ひだした。

 -- 中略 --

 全くもつて我々の周囲にあるものは、大概、天然自然のまゝにあるものではないのだ。誰かしら、今ある如く置いた人、発明した人があつたのである。我々は事もなくフグ料理に酔ひ痴れてゐるが、あれが料理として通用するに至るまでの暗黒時代を想像すれば、そこにも一篇の大ドラマがある。幾十百の斯道の殉教者が血に血をついだ作品なのである。

 その人の名は筑紫の浦の太郎兵衛であるかも知れず、玄海灘の頓兵衛であるかも知れぬ。

 とにかく、この怪物を食べてくれようと心をかため、忽ち十字架にかけられて天国へ急いだ人がある筈だが、そのとき、子孫を枕頭に集めて、爾来この怪物を食つてはならぬと遺言した太郎兵衛もあるかも知れぬが、おい、俺は今こゝにかうして死ぬけれども、この肉の甘味だけは子々孫々忘れてはならぬ。

 俺は不幸にして血をしぼるのを忘れたやうだが、お前達は忘れず血をしぼつて食ふがいゝ。夢々勇気をくぢいてはならぬ。

 かう遺言して往生を遂げた頓兵衛がゐたに相違ない。かうしてフグの胃袋に就て、肝臓に就て、又臓物の一つ/\に就て各々の訓戒を残し、自らは十字架にかゝつて果てた幾百十の頓兵衛がゐたのだ。

 -- 中略 --

 愛に邪悪しかなかつた時代に人間の文学がなかつたのは当然だ。勧善懲悪といふ公式から人間が現れてくる筈がない。然し、さういふ時代にも、ともかく人間の立場から不当な公式に反抗を試みた文学はあつたが、それは戯作者といふ名でよばれた。

 戯作者のすべてがそのやうな人ではないが、小数の戯作者にそのやうな人もあつた。

 いはゞ、戯作者も亦、一人のラムネ氏ではあつたのだ。チョロチョロと吹きあげられて蓋となるラムネ玉の発見は余りたあいもなく滑稽である。色恋のざれごとを男子一生の業とする戯作者も亦ラムネ氏に劣らぬ滑稽ではないか。然し乍ら、結果の大小は問題でない。フグに徹しラムネに徹する者のみが、とにかく、物のありかたを変へてきた。それだけでよからう。

 それならば、男子一生の業とするに足りるのである。

 さらに元ネタの夏目漱石の「文芸は男子一生の事業とするに足らざる乎」は知らなかったのですが(苦笑)、これを読んで、高校生の僕ちゃんの頃から「ラムネ氏」になりたいと「俺にとって『男子一生の業とするに足りる』ことは何だろう」「結果の大小ではない。物のあり方を変える何かは何なのだ?」そればかりを考えていました。

 ベースの性格に加えて、思春期にそういう物に感化されると、わたしのような変な人間になってしまう。

 おもしろおかしく楽して生きたい。という思いがないわけではないです。しかし、「ラムネ氏」として人生を全うしたいという思いも強いのです。もちろん、「大事を成したい」と思っていますが、どこまで意地を張れるのか、「ラムネ氏」になって散るのが目的になってきているような気がする。

 そろそろ、妥協点を見つけなくてはならないのだろうか。変に妥協して、中途半端にはなりたくないのだが、もっともっとずる賢くしたたかに生きるべきだろうか。

 不惑にして、惑いっぱなしなので、息抜きに読み直してみたら、やっぱり、わたしは「ラムネ氏」を目指すしかないのかとも思える。

 IT業界は、現代の「ラムネ氏」になれるチャンスはまだまだ一杯ある。

 大事を成す「ラムネ氏」になってやる!

 ……なんて青臭い文章なんでしょ(苦笑)。コラムを書き始めて1周年記念として書こうと思ったら、前回が1周年でした……。

Comment(14)

コメント

しっぱ

こんにちは。しっぱと申します。

感銘を受けるお話ですね。
物事を角度を変えてみると全く違う見え方になるっていうのは大事なことですね。

物事だけでなく、人も多角的に見て行きたいと思いました。
普段、あまり印象の良くない人も角度を変えればいいこところは必ずあると思いますし、業務能力としても絶対に良いところはあります。

小林秀雄氏のように「くだらない」の一言で片づけてしまうのは容易いことですが、三好達治氏のように見方を変えて、良いところを発見していくことというのは出来そうでなかなか難しいのかなと思います。

なぜなら、それは「くだらない」と考えてしまった自己を否定することから始めなければならないからだと思います。
自己否定をすることは仕事の現場でも少なからずありますが、それを自然にできる人と出来ない人が出てきてしまいますね。

自己否定をした上で再度考察を行うとより一層良いものが出来上がっていくのではないかと思います。

良いお話を伺えましたこと、誠に感謝しております。
非常に感銘を受けました。ちょっとこちらの本を探させて頂きたいと思います!

しっぱさん、こんばんは。

私の大好きな坂口安吾が気に入って貰えて幸いです。
ラムネ氏を目指す若い人が増えてくれたら良いのですが……。

あ、「ラムネ氏のこと」これ授業でやった記憶があります。
もう一回読み返してみようかな。。。

サトにゃんさん、こんばんは。

授業ではインスパイアされなかったのね。
なかなか味のあるエッセイですよ。

ちなみに無粋なことを書くと、坂口安吾は50年以上前になくなっているので著作権は気にしなくても大丈夫です。50年以上前に亡くなった歴史上の人物は、基本呼び捨てにしています。(乃木大将などは例外です)

そんな突っ込みはやめてね(ちょっと怖がり過ぎかな……)

ビガー

ビガーです。こんばんは。

ラムネ氏のこと、初めて知りました。
自分の場合は、革新を起したいという発想ではなく、結果的にそれが革新になっていればいいと考えています。そもそもそんな発想では革新は起きないとは思いますが。

私は、いまだに文芸や古典では、哲学すぎて実務では使えないと思っている僕ちゃんです。
とはいっても最近は、趣味で古典を読むようになってきています。オヤジへまっしぐらか。。

ビガーさん、おはようございます。

古典(というほどは古くないと思いますが)もなかなかよいものですね。

私は何を見ても、反応できる感性を持っていたいとは思っていますが、ゲームとかアニメとかは苦手です。
未だにパケットフリーにしてないぐらい、携帯文化にもついて行けてない。

そっちにも、アンテナを向けようとは思っていますが……。

何というか……。

件の女性は今まで生き残っているならできるはず。
仮定が架空でおかしすぎる。
VB/oo4oというのは、VB/Oracleの意味で、保守はOracle(SQL)の方が圧倒的にウエートが高くなるのです。
できなかったら、何を言われても仕方ないです。


例えば、英語で考えましょう。
高校で「関係代名詞」を習いますね。

英語で飯喰ってる翻訳家、通訳などのプロなら、関係代名詞が分かった上で、使うべきか、使わざるべきか、という文法の問題から、スラングから、方言から、お互いの文化から、いろんなファクターを加味して、どう訳するべきか考えて、翻訳なり、通訳なりを行います。

旅行で行く一般の人が、高校で習う「関係代名詞」を使った会話がすんなり出てこなくても、聞き取れなくても、それほど恥じることではないです。

通訳が「関係代名詞はやめて!」ってあなたはそんな通訳に金を払う?
翻訳家が「関係代名詞は訳しにくいから、単文にまとめました」って許せる?

高校生って未経験ですよ、新人以下ですよ。
負けていいじゃなくって、彼らがやっているテキストより低いレベルで書いてくれっておかしすぎる。
せめて、高校生レベルはできるようになろうよ。


> ごくごく一部の矮小

医療の世界では、極々一部でしょう。
多いって言ってる人もいたけれど、私はそんなに多いと思っていません。

しかし、通常ではあってはならないことが、コの業界では広汎に行われているという比喩なのですけれど、それも読み取れないですかね?

ヤス

面白い作品を教えてくださってありがとうございました。
少し自分が今やっている仕事について考えてしまいました。まだそれに答えを出すには経験が短いみたいです。でも、自分が死ぬときには自分がやってきた仕事について、自問して肯定して死ねるようなものを作りたいと思います。
そのためにもへっぽこで未熟な自分は少しずつスキルをつけていきたいと思います。

最近のコラムを読んで自分の専門分野で趣味でやっている人に負けてショックを受けない人が結構いるのかな、と思って少しびっくりしました。
俺なんかは専門分野以外に詳しい趣味人とかだったらそこまではないものの、自分の分野だったら恥ずかしいですね。まあ、それと同じくらいその辺をしっかり勉強さえすれれば技術者として一歩前進できるっていう思いも湧いたり。
ひょっとして、俺が負けず嫌いなだけなのかもしれないけれど。

ヤスさん、おはようございます。

おもしろいと思う人がいればうれしいです。
他の坂口安吾の文章は読みにくいのもあるけれど、なかなか奥深くておもしろい。
私のこだわりも滑稽以外の何物でもないのですが、でも、ラムネ氏でありたいのです。


SQLができたら特権階級ではなく、できないのにプロを名乗っている人がおかしいと言ってるだけなのですけれど、なかなか通じないのはなぜなのでしょうね。

ホント、関係代名詞と単文の羅列と同じレベルなんですけどね。
プログラムを作るというのは、業務をプログラミング言語に翻訳するという仕事で、SQLなんてって人は、「単文の羅列でも意味は通じる」という主張でしかないのですけれどね。

flatline

こんにちは。

> ハツカさん
たぶんここでそんなことを言っても無意味ですよ。
本人は確信犯的にやっていることなので。

> プログラムを作るというのは、業務をプログラミング言語に翻訳するという
> 仕事で、SQLなんてって人は、「単文の羅列でも意味は通じる」という主張で
> しかないのですけれどね。

これはちょっとこじつけでしょう。
SQLではなく別の言語で翻訳するというだけ。
注射器とか高校生とか、いつも比喩がちょっとおかしいから、いろいろ反論を招くのではないでしょうかね。

宝春

こんにちは。

どうも明治~昭和あたりの文章って読みなれていなくって
敬遠しがちです。昭和~平成の文章の方が読みやすいんですけど
頭に残るのはどちらかと言えば、前者ですね。

ちなみに私が好きなのは、もっと古い中国の古典です。

どちらにしても、アンテナで受信できるくらいの余裕は
残しておきたいものです。そして、いますぐでなくても
いつかそれを咀嚼できればなお良いですね。

宝春さん、おはようございます。

中国の古典までは手は出せないけれど、やっぱりアンテナは立てておかないといけませんね。やっぱり、私も高校時代とは違った印象でした。
もっと咀嚼できるようになれば。

flatlinさん、ハツカさん、おはようございます。

わざとなのでしょうけれど、はてしないほど読解力なさ過ぎです。
二度と来ないで下さい。

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