『エンジニアのための図解思考 再入門講座』――「格好良い仕様書」には良い図解があるものだ
エンジニアのための図解思考 再入門講座 開米瑞浩(著) 翔泳社 2010年10月 ISBN-10: 4798122750 ISBN-13: 978-4798122755 2310円(税込) |
■図をつくったけどなんかいまいち、というコトってあるよね?
仕様書などのドキュメントを書いていると、「ここは図示したい」「図を描いてみたけどどうもいまいち」ということ、営業が作る提案書がやたら格好良くて「自分もあんな風につくれたら」と思うことがあるはず。少なくもぼくはある。
そんな気持ちで手に取ったのが、本書『エンジニアのための図解思考 再入門講座』。説明に「本書は、エンジニアの情報理解・伝達のスキルを飛躍的に向上する『図解思考』のノウハウを手ほどきする指南書です」とある。後述するが、即効性を期待してはならない。本書はじっくり、腹を据えて読む本だ。
著者の開米氏が発行するメールマガジン「開米瑞浩の『知識を図解し教える技術』」を購読しているエンジニアは多いかと思う。ぼくもこのメルマガで氏を知った1人だ。メルマガには本書のような練習問題があるが、メルマガの性質上、どうしても流し読みになってしまう。だから、書籍であることはありがたい。
■ボリューム感満載の章立て
さて、章立ては下記のとおりである。
- 第1章 図解はなぜ必要か?
- 第2章 図解力を伸ばすコツ
- 第3章 「ラベル」で問題を一気に単純化する
- 第4章 「表」があなたの思考地図になる
- 第5章 「仮説思考」で発想を引き出す
- 第6章 プロセスに関する共通認識を作る
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: - 第15章 モチベーションを上げるヒント
なんと15章もある。見出しが丁寧に書かれているので気になるところから読み進めよう……といきたいところだが、前章とのつながりがある章が多いので、頭から読んだ方が無難だろう。
さても、なぜこんなに章が多いのだろう? 章はある程度「第○部」としてまとめられなかったのかと疑問に思った。しかし、あとがきを読んでこの謎は解けた。本書は雑誌『ITアーキテクト』の連載に、前半を大幅に加筆・編集したものだった。それ故、このような構成なのだろう。
※とはいえ、13章で「とりあえず3つに分ける」と言っているのだから、もう少し何とかならなかったのだろうかとも思う。
■豊富な練習問題を実際に解いてみる
本書の特徴は、豊富な量の練習問題だ。しかもエンジニアなら「ああ分かる分かる」といった状況の問題が多いから良い。
第3章までは、ウォーミングアップと言ったところ。著者の「分かってもらえなかった」挫折の経験談などが興味深い。
第4~6章では「セキュリティの脅威の考察」といった、エンジニア向きの題材を取り扱う。この部分の展開は圧巻である。文章を表(大抵の人はマトリックス系のいわゆる「表」で終えてしまうのだが)にしつつ、それを発展させた最終型が、とにかく素晴らしい。図にしか見えないが、著者に言わせると「これも表」とのこと。
「タテ方向、ヨコ方向のいずれでも、同じ一直線のライン上に同じ種類の情報が並ぶように情報を配置したもの」が表。
この説明を読んで、納得した。納得したが、ここまでたどり着くのは至難の業だった。見慣れない表なので、ぱっと見では読み手は「なんだこれは」と思ってしまうだろう。しかし、読み手に対面で説明する場合は、力を発揮しそうだ。
■携帯の説明書ってこんな分かりにくいものだったのか
第7章以降も、ひたすら練習問題が続く。「家庭用漂白剤の注意書き」「携帯端末の操作説明書」という、ITとは関係ない、しかし身近な題材ので考えやすかった。
読んでいてつくづく実感したのが「普段からこんな分かりにくい文章を解釈させられていたのか!」ということ。これらの分かりにくい文章が、あれよあれよという間に分かりやすい形になっていくのは面白かった。
■忙しいエンジニアのための読み方アドバイス
冒頭に書いたように本書は、腰を据えて練習問題を実際に解きながら、じっくり読みたい。しかし、そのためにはかなりの時間が必要だ。いわゆる普通の「ノウハウ本」ではないので、興味のあるところをつまみ食いという読み方は適さない。
だから、まとまった時間が取れないエンジニアにとっては、ややハードルがやや高いかもしれない。本書は、休みが取れた時に一気に読んでしまう読み方が良さそうだ(実際、ぼくもゴールデンウィークに一気読みした)。一度読んでしまえば、全体を俯瞰(ふかん)できるようになるので、気になる見出しをピックアップして読めるようになる。
ただし、読み終えればそれで図解思考がつくかというと、もちろんそんなことはない。結局、3章「ラベリング」、12章「1日3分見出し付け」を普段からきちんと行えるか否かというところが肝になる。そして時々、15章に書いてあるモチベーションについての記述を読み返してやる気を保つ。そんな使い方をお勧めする。
(『30過ぎで5社目でした。』コラムニスト けいいちっく)