「エンジニアの人生=エンジニアライフ」に役立つ本を紹介します。

『統合型プロジェクト管理のススメ』――プロジェクト管理に根性論・精神論はいらない

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統合型プロジェクト管理のススメ 統合型プロジェクト管理のススメ

梅田 弘之(著)
翔泳社
2010年8月
ISBN-10: 4798122467
ISBN-13: 978-4798122465
2520円(税込)

 なぜ、赤字プロジェクト、失敗プロジェクトはなくならないのでしょうか?

 これまで、システムインテグレーションの現場は、知識やノウハウの伝承についてさまざまな取り組みが行ってきました。それにもかかわらず、満足のいくレベルでプロジェクトを管理できない……。私自身、「これは何かが欠落しているからではないか?」と感じていたため、本書を手に取りました。

■経験に基づいた具体的な「プロジェクト管理」ノウハウを知る

 本書は、PMBOKの知識エリアと合致した章立てで、非常に体系的です。初学者にも分かりやすいように用語の補足やイラスト・図による解説などが充実しており、「プロジェクト管理」を初めて勉強する人が読んでも、十分に理解できるでしょう。

  • スコープ管理とWBS
  • コスト管理
  • タイム管理(スケジュール作成と進捗管理)
  • 品質管理
  • 要員管理
  • 調達管理
  • リスク管理
  • コミュニケーション管理

 本書の重要なポイントは、「筆者の経験に基づいた具体的なノウハウを紹介していること」「そのため、現場での実践をイメージしやすいこと」です。

 少ないながらもプロジェクト管理の経験がある私にとっては、過去に困った点や難しいと感じた場面と比較し、自身の活動を振り返る機会にもなりました。

■精神論、属人的なプロジェクト管理からの脱却

 「これまでのプロジェクト管理の取り組みは“精神論”主体で、“属人的”アプローチだった」――筆者は本書でこう主張しています。

 どれだけ方法論をうたい、レビューを厳しくしてみても、プロジェクト管理を実行する主体がプロジェクトマネージャという人間である以上、ある程度は個人の能力に依存してしまいます。そこで、標準化やツールの整備が重要になってきます。

 世の中には、プロジェクト管理を補助するためのさまざまなツールがあります。ツールを購入しなくてもいいように、多くの組織ではExcelやWordなどのテンプレートなどを導入していることでしょう。

 しかし、このようなツールがあったとして、「個人の取り組みのバラツキ」は解決できるのでしょうか? 筆者の意見でもあり、私自身の感覚でもあるのですが、実際には思ったほどの効果を上げられていません。

 何かが足りない……そう、組織としての管理能力を担保するためには、「自動的・強制的にプロジェクトを見える化する仕組み」が必要なのです。WordやExcelといった局所的なツールを準備するだけでは結局、うまくいかない、これが筆者の主張です。

■解決案としての「管理プロセスの強制」

 では、「自動化・強制化」はどう進めればいいのでしょうか。ここで重要なのが、ITです。筆者は、ERPのようにプロセスも含めてパッケージベースでプロジェクト管理を実施する方法を提示しています。

 人間はどうしても手を抜いてしまうし、ミスや抜け漏れだってあります。ある程度は強制しないと、精度や効率は上がりません。一方、現場の人間は諸手を挙げて賛同……というわけにはいかないでしょう。実際は「ただでさえ忙しいのに、管理のために時間が取られるなんて!」というのが通常の反応だと思います。

 そのため、IT技術の力を借りて、管理に必要な情報を手間をかけずに集められるようなパッケージを実現しなければなりませんが、ここで少し考え方を変えてみる必要はありそうです。

 エンジニアの中でも進捗管理の利点を理解している人が増えていますし、エンジニア自身が自分の行程を可視化できるなら、仕事しやすくなります。そのため、プロセスを強制するプロジェクト管理方法は思ったほどの抵抗はないかもしれない、と私は予想しています。

 その点、本書は具体的なツールを例に挙げて説明しているため、現場で働くエンジニアの立場で読んでみても、納得感がありました。

■管理の「型」を通じて、エンジニア自身のスキルも向上させる

 プロセスを強制して、ツールを統一するメリットは、「管理の容易さ」だけではありません。これは、「スキルアップ」にもかなり効果があるのではないでしょうか。

 プロジェクト管理能力を向上させるために、私はこれまで2つの方法で取り組んできました。

 (1) PMBOKなどの体系的な管理領域を机上で学ぶ

 (2) 現場での経験を振り返る、ツールを整備する

 基本的な取り組みとして、(1)のようにPMBOKを読んでみたり、研修を受講してみたりするのはいいでしょう。ただし、それだけでは実際のプロジェクトではお手上げです。

 (2)はより実践に即しています。ケーススタディ形式の研修を受講してみる方法も、(2)に分類できるでしょう。その結果、どれくらいプロジェクト管理能力がついたのか……正直なところ、あまりよく分かりません。このままでは、「プロジェクト管理は経験が重要」という精神論、根性論に陥ってしまい、根本的な解決になりません。

 本書は、上記の2つの方法に加えて、もう1つの方法を紹介しています。それは、「パッケージを使用して学ぶ」という方法です。ここでいうパッケージとは、プロジェクト管理用のアプリケーションです。

 これは、言われてみると納得感がありました。なぜなら、プロジェクト管理は仕組みとツールが合わさって、初めて効果が出るからです。私の経験上、頭でっかちな方法論や知識だけだと現場では通用しなかったし、ツールといってもしょせんExcelやWordで作ったものの寄せ集めで、統一感も網羅感もありませんでした(管理パッケージを使用していなかっただけではありますが)。

 きちんとプロジェクト管理用に機能を備えたツールを通じて、手を動かしながらスキルアップしていく――これは確かに効果が高そうです。何事も習うより慣れろ、です。

 個人的に、何かを始める時に“型”を知ることは、上達のためにとても重要だと考えています。その点では、PMBOKもプロジェクト管理の型を提供しているわけですが、これは実体のない抽象的なものにすぎません。目に見えて、強制力もある“型”があれば、学習にはもってこいです。そう、筋力養成ギブスのようなものです。2~3回ほど、プロジェクト開始から終わりまでの手順を流してみれば、プロジェクト管理・進行の型を、はっきりとした形で体感できます。

 もし、新人教育の時から同じ型を使って研修やOJTを進めていけば、新人がやがてリーダーやプロジェクトマネージャになっても、同じ要領で仕事ができるので、相当に効率的です。従来に比べて、教育する側としても効率的にノウハウを伝授できるのではないでしょうか。

 「ツールが強制されることによる学習促進」は、これまでに考えたことがなかったのですが、プロジェクト管理力を向上するためには、とても有効な取り組みだと感じました。

■まとめ

 プロジェクト管理において、マネージャのスキルが大事であることは間違いありません。ただし、チームとして、組織として、プロジェクトを成功につなげるためには、個人のスキルだけに頼るわけにはいきません。やはり、適切で合理的な手法、具体的なツールの存在が必要不可欠です。

 本書は、最後に「組織全体でのプロジェクト管理」について述べています。複数のプロジェクトをまたがる管理は、「プログラム管理」と呼ばれる領域です。組織としての管理の場合、プロジェクトを横断した一元管理が重要となるため、この部分は参考になりました。

 効率化、改善を個人の工夫に頼っているうちは、うまくいきません。本書を読んだことで、「個人の工夫で乗り切ろう」と頭のどこかで考えていた自分自身を反省する機会もできました。また、本書は充実した知識とコラムも特徴的です。ノウハウ本としてだけではなく、読み物としても楽しめるつくりになっています。

 ぜひ、こんな人に読んで欲しい1冊です。

  • プロジェクト管理を精神論でこなそうとする管理者
  • プロジェクト管理を開発のオマケのように捉えている技術者・管理者
  • 若手エンジニア、これからプロジェクト管理を始める人

 システムインテグレーションの現場では、旧態依然としたプロジェクト管理が横行してしまっていると感じてなりません。ちょっと刺激の強い言葉で書いてしまいましたが、もう一度、組織としての管理力向上につながる取り組みができているかは、考えてみるといいのではないでしょうか。

 また、若手エンジニアやこれから管理を始める人には、「1つの目指す姿」として眺めてもらうと、今後チームをリードする際に役立つと思います。

 自分自身の活動や組織においても、みんなが幸せになれるプロジェクト管理が実現できるようになりたいものです。

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