常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 非リア充はリア充のために生きる】前編

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 12月24日、18時。
 安田桜子はブラインド越しに窓の外を見た。
 夕方から降り始めた雪で、外は真っ白だ。

「まったく、カップルばっかりね......」

 白い絨毯の上を、仲睦まじく歩く男女を見てため息をつく。

「安田、先に帰るぞ」

 福島課長がリュックを背負いながら、そう言う。

「珍しいですね。課長が定時上がりなんて」

 いつもは遅くまで仕事してる上司も今日この日だけは特別なのだろう。

「娘がさ、妖怪何とかのオモチャを欲しがっててさ。それ買って帰らなきゃならなくて。すまんな」

 いつもは仕事に厳しい上司も、家庭では良いパパなのだ。
 今宵はサンタにでもなるつもりか。
 桜子はこう返す。

「気にしないでください。詳細設計も終わったことですし、プロジェクト的にもひと段落着いたところです。沢山家族サービスしてあげて下さい」

 11月から始まったサードステージ食品工業の生産管理システムのリプレース。
 ステイヤーシステムの規模にしては大型な請負案件。
 桜子は他のプロジェクトと掛け持ちで、そのプロジェクトにインフラのリーダーとして参画していた。
 来年4月のカットオーバーを目指し、目下、設計中だ。
 つい先日、詳細設計の顧客レビューが完了した。
 プロジェクトとしてもひと段落着いたところだ。
 掛け持ちしてる他のプロジェクトも落ち着いている。
 そのせいか今年は珍しくクリスマスをゆっくり過ごせそうだし、年末休みも取れそうだ。
 それなのに、彼女の顔は浮かない。
 思わずこう呟く。

「いいなあ......」

 ここ数年、この時期は仕事に追われ季節を感じる事さえなかった。
 仕事で埋め尽くされた生活は、余計なことを考えさせる余裕を奪っていた。
 それがある意味では気楽だった。
 だけど、今年は違う。
 余裕がある。
 余裕があるということは、雑音が入る余地があるということ。
 それが、桜子を浮かない気持ちにさせる原因だった。
 カップルを見た時、家族のために帰宅する上司を見た時、心がざわつく。

「来年、29か......」

 一人そう呟くと虚しさが一層心に広がる。
 アラサー。
 そんな言葉が耳に響く。
 ワーカーホリックの彼女も、一人の女として自分を顧みた時、どうにも何とかしなければという思いが胸にある。
 次々収まって行く同年代の女友達を見る度に、意外に自分にもそういう感情があるのだと発見させられる。
 彼女とてその年に至るまで、想う相手がいなかったかというと嘘になる。
 だが、幾多のすれ違いの結果、今は一人だ。
 長い黒髪とクールな切れ長の目に惹かれ、職場には彼女に声を掛けてくる若手SEもいる。
 だけど、断り続けている。
 やはり、自分がいいと思った人にしか着いて行きたくない。
 ふと、視線を移す。
 自席のペン立てには、桜のかんざしが立てられている。
 これをプレゼントした男は自分のことをどう思っているのか。
 まったく。
 辺りを見渡すと職場には桜子一人しかいない。
 社員の7割が常駐先に出張っている。
 残り3割の社内メンバーは、全て定時退社していた。
 桜子は帰ることにした。
 久々に早く家に帰って、積読状態の本やゲームと戯れよう。
 ノブに手を掛けようとした時、扉が開く。

「あ、有馬君」
「おつかれさまです」

 顧客先から戻って来た有馬雄一は、自席に着くとカバンからノートパソコンを取り出し作業を始める。

「帰らないの?」
「いやぁ、セントライト化粧品の方の仕事もしなくちゃいけなくて......。中山のやつ今日はどうしても帰らないといけないから任されちゃったんですよ」
「大変だね」

 彼もまた桜子と同じように、サードステージ食品工業のをメインにやりながら、他の仕事も掛け持ちしていた。
 今となっては、入社して一、二年の頃のだらしない感じは無くなっていた。

「手伝おうか?」
「大丈夫です。安田さんは早く帰らなくて大丈夫なんですか?」
「え?」
「だって、今日はクリスマスですよ。安田さん、彼氏とかいないんですか?」

 何でもない事の様に問い掛けて来る。
 どう答えていいものか迷った桜子だったが、こう返した。

「私はワーカーホリックだから、クリスマスとか関係ないの。それに『彼氏いるの?』とかセクハラ発言だからねっ!」
「はいはい」

 と、適当な返事。

(こいつ......最近、私との接し方に慣れて来てないか?)

「あっーー!」
「何?」
「見てくださいよこれ!」

 雄一が指差すパソコンの画面に、ニュース映像が映っている。
 仲睦まじく寄り添うカップルが、街頭インタビューに応えている。

「くっそー! 腹立つなあ! こっちは仕事だっていうのにイチャイチャしやがって! こっちは彼女がいる同僚のために仕事してんだぞ!」

 雄一が怒っている。
 外にいる実際のカップルを見たら襲い掛からんばかりの勢いだ。

(てか、こいつ仕事してないのか......)

 さっきは彼のことを成長したと思ったが、全然そんなことはないようだ。
 むしろ、こっちの方が彼らしくてちょっとだけ安心した。

「羨ましいなー。俺も仕事なんか切り上げて、恋人とイチャイチャしたいですよ」
「有馬君」
「はい」
「クリスマスは誰かと過ごさなきゃいけない......そんな常識、一体誰が作ったのかなあ」
「え?」

 ケーキだってディナーだって、一人でゆっくり食べたほうが、味わえる......はず。

「常識だと思うから、それに乗れてない自分を苦しく感じるのよ」

 桜子は雄一にそう言い聞かせながらも、自分にもそう言い聞かせていた。

「なるほど」
「仕事でも何でもそうよ。常識を疑いなさい! 自分が信じると思うことをやり通すのよ!」
「安田さん」
「何?」
「それでも、俺は羨ましいです。その常識に染まりたいです」

 雄一には通じていないようだ。
 桜子も自分の気持ちをごまかしている分、その言葉に芯が無いということを感じていた。

「じゃさ......、これから」
「俺、帰ります!」

 雄一はサッと立ち上がった。

「え? 仕事は?」
「明日、早く来てやります。それより、今から街に繰り出してナンパして来ます」
「えぇ?」
「俺みたいにきっと寂しい女の子がいるはずですから」

 そう言うと、桜子を置いて雄一は去って行った。
 桜子はもう一度、桜のかんざしを見つめた。

「バァカ」

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 このまま家にまっすぐ帰っても、一人。
 冷たい布団が待っているだけだ。
 仕事が忙しくないクリスマスは、寂しい気持ちを増長させる作用がある様だ。
 ふと目をやると、小さなお菓子屋の看板が目に付いた。

(ケーキでも買って帰るか)

 扉に手を掛けようとした時、バッグの中のスマホが振動する。
 ディスプレイには『福島課長』。

「はい」
<おう、安田。夜分遅くにすまんな>
「何でしょうか?」

 こんな時間に電話なんて、絶対仕事関係だ。
 そう思うと、行き場を失っていた桜子はやっと居場所を見つけることが出来た気がして、心が安らいだ。

<ちょっと障害が起きてなぁ>
「はい」

 沈黙。
 福島課長は桜子からのリアクションを待っている様だ。

<パパー。一緒にケーキ食べようよ>

 電話口から少女の声が聞こえる。

<萌香、ちょっと待っててな>

 普段とは違う優しい上司の声。

「課長。私、行ってきます」
<いいのか? 予定とかないのか?>

 福島課長の気づかいの言葉は、安ど感に満ちていた。

「はい。私、ちょうど予定無かったので」
<そうか。俺も一緒に行ってやりたいんだが......>
「娘さんが待ってますよ」

 桜子は福島課長から行き先と障害の概要を聞き出すと電話を切った。
 まったく。
 非リア充はリア充のために生きる。
 視界がはっきりした桜子は拳を握り締めた。

「やるかっ!」

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 大都会ツリーなどを手掛けた大手ゼネコン『兜建設』の子会社である『カブト設備工業』。
 該社は、ニッホン全国に10の営業所を持つ建材・什器のメーカーである。
 その本社ビルに寒い中、タクシーを使い10分で到着した。

「やあ、よく来てくださいました!」

 情シスの担当者が出迎えてくれた。

「情報システム部、部長の夏木です」
「ステイヤーシステムの安田です」

 サーバ室に向かいながら挨拶を交わす。

「福島課長から聞きましたよ。凄腕のエンジニアだって」
「いえいえ、それほどでも」
「いやぁ、こんなシュッとした美人が、コンピュータをカタカタやるなんてカッコいいね!」

 ワイシャツに作業着を羽織り、足元は草履。
 禿げ頭で赤ら顔の夏木部長は情報システム部の部長というよりも、ざっくばらんな町工場のオヤジといった感じだ。

「保守要員はいないんですか?」
「私の部下と私の二人だけです」
「ベンダーとかは?」
「もう撤退してしまって、私達だけなんです。いやぁ、スマホも良く分からんオヤジには情報システムって難しいんですよ」

 ガハハと笑いながら、夏木部長はそう言う。
 福島課長によると、カブト設備工業の社長とステイヤーシステムの東海社長は同じ大学の同期生らしい。
 その関係で、この話が桜子に来た。
 頼るところが無いカブト設備工業は藁にもすがる思いで東海社長に泣きついたのだろう。

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 サーバ室とは名ばかりの四畳半のスペースには、所狭しと段ボールや資材が置かれていた。

「おい、宮川。凄腕ハッカーを連れて来たぞ」

(ハッカーって......おい)

 ラックに収められたサーバに向かう男性が振り向く。

(あ!)

 桜子は思わず声を上げそうになった。
 そこに立っていたのは雄一。
 ......だけど......そっくりなだけの男だった。
 よく見ると背格好とか髪型が一緒なだけで顔は違う。
 メガネかけてるし。
 一瞬見ただけとか、遠目から見ると、間違うレベルの相似形だ。

「情報システム部主任、宮川です。よろしくおねがいします」

 骨格が似ているせいか、声も似ている。

「じゃ、後はよろしく頼むよ。24時が期限だからな」

 そう言い残して、夏木部長はサーバ室を後にした。

「年次バッチが終わらないんです」

 絞り出すような声で宮川がそう言う。
 宮川の後ろで、サーバがもの凄い熱を放っている。
 激しいファン音が部屋に響く。
 ディスクへのアクセスが頻繁に行われているのだろうか、カリカリと音がする。

「このサーバでバッチが動いてるんですか?」
「はい......」

 宮川は何をしていいのか分からないのか、サーバの前で立ち尽くしたままだ。

「コンソール使いますね」

 桜子はラックからコンソールを引き出し、ディスプレイを開いた。
 画面にLinuxのデスクトップ画面が表示された。
 GNOME端末を起動する。
 psコマンドでプロセスを確認する。
 pmonプロセス発見。
 ORACLEインスタンスが起動しているということか。
 nenjibat.shというプロセスもある。
 これが年次バッチか。

「そうです」

 宮川は桜子の指さす先を見て、首肯する。
 桜子は福島課長がざっと教えてくれた内容を、頭の中で反芻した。

 ・年次バッチはcronで起動されるシェル
 ・シェルはORACLEデータベースにアクセスしてデータを作る
 ・あとは現地で訊いてくれ

「あの、このバッチの仕様を教えてください」

 宮川の話を整理するとこんな感じ。

 ・バッチは12月の第4木曜の20時から動く。つまり今日。
 ・多数のテーブル(受発注データ、顧客マスタ、商品マスタなど)を結合し、年間売上データを作成する。
 ・そのデータをCSVファイルとして出力し、親会社である兜建設のサーバにHULFTで配信する。

「それが一時間経っても終わらなくて......」
「想定完了時間は?」
「30分です」
「30分......」

 時計の針は21時を回っていた。
 想定よりも二倍の時間が掛かっているにも関わらず、バッチは終わっていない。
 それに、夏木部長は24時が期限だと言っていた。
 あと3時間しかない。
 桜子は下層レイヤから調査することにした。
 vmstat、iostat、nmonなどのコマンドで各種リソースの状況をモニタリングする。

「CPUの待ちが多い......」

 その原因は、異常なまでのディスクへの読み書きの遅さだった。
 そのせいでCPUが暇している。
 桜子は、AWRレポートを取得しディスクアクセスを大量に発生させているSQLを特定することにした。

「ふむ......」

 物理I/Oが異常に高いSQLは、バッチのメインとなるSQLだった。
 受注テーブルを中心に、いくつものテーブルを結合させようとしている。
 正規化し過ぎたせいでSQLが複雑化している。
 実行計画を確認するとインデックスは使われているので、単純にディスク性能の問題だ。

カリカリ......カリ......

 ディスクが悲鳴を上げている。
 桜子は各設定値を調べる。
 搭載されている物理メモリやSGAサイズが、データ量に対して小さすぎる。
 そのせいで個々のテーブルがメモリに乗り切れず、一つの巨大な結合体を作るためにディスクアクセスを繰り返している。
 桜子は気になることを宮川に尋ねた。

「あの......、想定完了時間が30分という根拠は一体どこから?」
「ええ......と、開発サーバでこのバッチ実行したら30分で終わったんです。だから、本番サーバでも同じくらいの時間で終わるって想定しました」
「データ量は?」
「今の本番と同等量を用意しました」
「本番サーバで実際に動かして時間測定しましたか?」
「いいえ......テストしたかったのですが、運用中の本番サーバを使う訳にはいかなくて」

 宮川曰く、このバッチは本番運用開始後に追加されたもので、性能テストは開発サーバでしか出来なかったとのこと。

 今日初めて稼働したバッチ。
 結果、開発サーバ以上の性能を、本番サーバが出せていない。
 おかしな話だ......このバッチが24時までに終わるとは思えない。
 本番サーバに何かあったとしか思えない......。
 が、それが分からない。
 
「意味が分からない......」

 本番サーバが開発サーバよりも劣る訳が無い。
 それは桜子の経験則であり、常識だった。
 それが後に彼女を苦しめることになる。

つづく

Comment(4)

コメント

桜子さんが一番

桜子さんキタ。一人なら僕が一緒に・・・ハッ、取り乱しましたw

VBA使い

どうしても帰らないといけ「ない」から


ニ「ッ」ホン全国に10の営業所を


こっちは彼女がいる同僚のために仕事してんだぞ!
→中山君、桜子さんのことは諦めたんですね


新規にシステムを立ち上げる時、開発サーバがそのまま本番サーバになって、後で買った方の開発サーバの方が性能が良かった、とか?

湯二

桜子さんが一番さん。

お待たせしました。

是非、脳内で相手してやってください。

湯二

VBA使いさん。


コメント、校正ありがとうございます。
いやぁ、間が空くと、色々と名称を忘れてしまいます。

>中山君、桜子さんのことは諦めたんですね
細かい設定までよく覚えてますね。
実は諦めてなくて、今も未練があるんです。


>開発サーバがそのまま本番サーバになって
いい読みです。

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