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【小説 パパはゲームプログラマー】第二十九話 姫のラブソング4

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 もう死のう。
 世界が色あせて見える。
 ケンタのいない世界にいても意味が無い。
 私は、今すぐ死んでもう一度やり直したいと思った。
 ケンタと一緒に過ごした日々を。

「あのさ、うずくまってたら、勝負にならないじゃない」

 ソウニンの呆れた声が聞こえる。
 私はユラリと立ち上がり、振り返る。
 黒髪を三つ編みにし、緑の武闘着姿のソウニンと目が合う。

「殺して」
「え?」
「もう......殺して」

 私の言葉を理解出来ないでいるのか、ソウニンは首を傾げている。

「ケンタが死んだから?」
「ええ......」
「あなた達、仲良さそうだもんね」

 ソウニンは動かなくなったケンタと私を交互に見ながらそう言った。
 彼女は私達のことを羨むかの様に、ホウとため息をつく。

「じゃ、お望み通り殺してあげる」

 鉄の爪が私に振り下ろされる。
 死の瞬間、私は目を閉じた。
 この瞬間だけ痛みに耐えれば、また、元の二人の生活に戻れる。
 後ろ向きな希望は、私の心を癒してくれた。

 目の前に広がるのは、死後の暗闇ではなく、真っ赤に染まった少し華奢な男の背中だった。

「ケンタ......」

 4本の鉄の爪が、ケンタを右肩口から左脇腹にかけて袈裟切っていた。
 ケンタは糸が切れた操り人形の様に、力無く私の腕の中に倒れ込む。
 溢れ出る涙がケンタの頬にポタポタ落ちる。
 状況が飲み込めないでいる私に、ケンタが優しい声で話してくれる。

「多分......僕は死んだんだと思う。だけど、ジェニ姫を......死なせちゃいけないから......一瞬だけ蘇ったんだと思う」
「それで、こんな無茶を......」

 血だらけになったケンタを思いっきり抱きしめると、私の白いローブも真っ赤に染まった。
 このまま一つに溶け合いたいと思った。

「最後に......一つだけ......言わせてくれ」
「最後、何て言わないでよ!」

 私はケンタを抱きしめる手の平から、精一杯の治癒魔法をかける。
 だけど、彼の身体は冷たく、それはもう奇跡が起きないという証拠だった。

「ジェニ姫......あなたのことが大好きです」
「私も......」

 ケンタは私の言葉を最後まで聞くこと無く、旅立った。

「お別れ会は、終わった?」

 私の首筋に冷たい物が当たる。

「ええ」

 私は鉄の爪をそっと手で払うと、立ち上がりケンタを殺した張本人を無表情で見つめた。

「どうする? 彼を追って、死ぬ?」

 私は静かに首を振り、否定する。

「ケンタ君とやっと相思相愛になれた。だから彼の復讐は私が引き継ぐ」

 自分でも驚くほど気持ちは晴れやかだった。
 天命を見つけた瞬間、色あせた世界がハッキリとした輪郭を持ち様々な色で彩られた。
 つまり、私の眼前に希望に満ちた世界が現れたのだ。

「ケンタは死んだのよ? あなた彼のことが好きなんでしょ? どうして泣かないの?」

 私は自分に言い聞かせる様に、ソウニンの問いに応える。

「私を愛してくれる彼は、私の心の中にいる」
「何を子供じみたことを......」
「このループで終わらせる」

 私の身体中の細胞一つ一つに力が漲り、ステータスが上昇して行くのが分かる。

 ソウニンの鉄の爪が私を襲う。
 素早さが9999でカンストしている彼女が繰り出す突きや蹴りを、私は全て見切る。

「くっ......」

 武闘家は肉弾戦を得意とする。
 鍛え上げられた四肢から放たれる拳や蹴りは時に強力な硬度を誇る盾をも砕く。
 だが、それは相手に当てればこその成果だ。
 攻撃をかわされなすすべも無いソウニンは、私が一歩進み出るたびに後じさる様になった。

「グランの弱点を言いなさい」

 私は無表情で詰め寄る。

「それは......」

 ソウニンは命が惜しいのか口を開こうとする。
 その時、私の背中に痛みが走る。
 矢だ。
 ダメージはそれほど無い。
 だが、矢を抜き取った瞬間、傷口を中心に嫌な違和感が身体中に広がる。

「はっ......」

 ここはグランの城の中庭。
 騒ぎを聞きつけた親衛隊が私を取り囲んでいる。
 その数、500はいる。

「やれ!」

 中心にいる私に向かって一斉に矢が放たれる。
 視界がビッシリ矢の先端で埋め尽くされる。
 私は大気中の水分子を手の平に集約させる。
 矢が身体を蜂の巣にする寸前で、私は自分の周りに氷の結界を作ることが出来た。
 氷に弾かれた矢は、無残にその役割を果てすことが出来ず、折れて地面に落ちる。

「無駄よ......」

 無表情で、私はここにいる人々を見渡す。

「ひいい......」

 敵わないと思ったのか、助けを呼ぶつもりなのか何人かの親衛隊が逃げていく。
 私はそれを見ながら、自分の背中に微かな違和感を感じた。
 残りの親衛隊が弓を剣に持ち替えて、攻撃体制にはいる。
 私も残りMPを、次に発動する魔法のために注ぎ込む準備をする。

 魔法が封じられている。

 背中に刺さった矢に、きっと魔法を封じる何かが仕込まれていた......?
 私に一斉に切り掛かってくる親衛隊。

 素手で戦えるのか?
 ......鍛えられた親衛隊相手に。
 一瞬怯み、下を向く。
 地面にひとふりの剣が。
 ケンタの物だ。

 私はそれを手に取り立ち向かう。
 なんてことない、ケンタのレベルでも使えるような名も無い細身の剣。
 だけど、剣の柄から彼の意志が私の手の平を通して全身に伝わる。

 刀身はボロボロに砕け、ほぼ使い物にならなくなった。
 私も、激しい戦いに立っているのがやっとの状態だ。
 辺りを見渡すと黒い山が出来ている。
 私が倒した親衛隊の死体が折り重なって出来た物だ。

「さあ、グランの弱点を言いなさい」

 私は戦意喪失し、地面にへたりこむソウニンの喉元に剣の先端を押し当てる。

「それは......」

 彼女が口を開こうとする時、空から光の球が降りて来た。

 これを、待っていた。

 私は光の球に飲み込まれる彼女を無視し、残り少ないHPを振り絞り、城の壁を蹴り跳躍する。

 光の球が発生した、その先に、きっと......

 城壁を蹴り付けその反動で斜め上方に飛ぶ。
 一定のリズムで城壁と外壁の間を、交互に飛び移ることで、私は上を目指した。 
 天から差す光の筋を追い掛ける。
 遂に、城から伸びる尖塔を見上げる場所まで辿り着いた。
 天辺に紫色の人影。
 小柄なその人物の指先から光は発せられていた。

「マリク......」

 私は弱点を知られたくないグランが邪魔しているのかと思った。
 だから、賢者マリクがたたずむ姿に絶句した。
 マリクは私と目が合うと、尖塔の天辺から飛び降りた。
 ローブがフワリと花のように開き、ゆるやかに私の前まで下降する。

「やあ。よくここまで来ましたね」

 彼はボロボロの私を見て、ニコリと笑った。
 白い歯が眩しい。

「あんた、こんなところで何してるの?」
「何って? ゲームバランスの調整ですよ」
「ゲームバランス?」
「ジェニ姫が子供の頃から王様に隠れてゲームをしてたのは知ってますよ。 ゲームが簡単過ぎると面白くありませんよね? だから私はプレイヤーのために適度にバランスを調整して楽しんでもらっているのですよ」

 何で彼がゲームのことを知っているのか?
 それはそれとして......なるほど。
 確かにゲームが簡単だとつまらない。
 私は彼に同意を悟られるのが癪だから、腑に落ちた表情は見せない様に努めた。

「それでも、グランの弱点、知りたいですか?」
「うん。ていうかグランはどこにいるの?」
「今頃、王の間でマリナとイチャついているでしょう」

 マリクは地面を指差した。
 そうか。
 この下が王の間か。
 
「早く教えなさいよ。他にもあんたに色々訊きたいことがあんだから」

 悪趣味なグランは私達が右往左往してるところを、安全などこかから見ていて、ほくそ笑んでいるのかと思っていた。
 だけど、マリクと話している内に私はこんな感覚に囚われた。

 グランも私達も同じ様にゲームのプレイヤーなのかもしれない。
 そして、私達はマリクの手の平の上で転がされているだけなのかもしれない。

「やはり、簡単には教えられません」
「えっ! そんなぁ」
「ゲームも簡単に謎が解けたら面白くないでしょう?」

 私は彼の言わんとすることが、何となく分かった。

「あんたと私、勝負するしかないってことね」

 マリクは笑顔のまま無言で頷いた。
 無邪気な少年の様な仕草だった。
 マリクを倒せば、報酬としてグランの弱点が手に入る。
 これでケンタの復讐が終わる。

 賢者マリクと私は、約二メートル離れ対峙している。
 私の手にはケンタが使っていた細身の剣。
 激闘の末、刀身は刃こぼれだらけ。
 それは武器と呼ぶにはあまりにも寂し過ぎた。
 しかも、私は魔法が封じられている。
 全ての魔法を満遍なく使えるマリクに勝てるはずがない。

 でも、やるしかない。

 マリクが私に向かって手をかざす。
 何か来る。
 そう身構えた瞬間、詠唱の声が耳に響いた。

「封魔解除《シールリリース》」
 
 マリクの手の平から緑色の閃光が飛び出す。
 その光に私は目が眩んだ。
 次の瞬間、自分の身体を覆う何かが解けた様な感じがした。

「さ、これで対等ですよ」

 魔法が使えるようになったということか。
 何という余裕だろうか。
 彼は戦いを楽しむつもりか。
 つまり、彼にとってこの世界はゲームみたいなものなのだ。

 マリクはいつまで経っても仕掛けて来ない。
 それがかえって不気味だった。
 お手並み拝見、といったところですか?
 余裕ですね。

「ずっと私を倒してくれる人を探していた」

 はぁ?
 何言ってんだこいつは?

「数々のモンスター、魔王ハーデン、そしてケンタ......誰も私を倒すことが出来なかった」

 伏し目がちに、寂しそうにつぶやく。

「意味分かんないんですけど?」

 私は首を傾げ、吐き捨てるように言ってやった。
 随分な妄想家、自信家だなあ。
 ハーデンはパーティの一員として倒したんでしょ?
 それに、過去、何度もループしたが、マリクとケンタとは戦ったことが無い。 

「一発で決めるわよ」

 私は右手の人差し指を立てた。
 そう、魔法一発で終わらせる。
 その理由は、こう。
 一回目のループで、ヒットした偶然の一撃。
 あの出血でマリクは相当なダメージを受けたように見える。
 グランの剣で弾かれる様な、あの程度の魔法で。
 だから、マリクはHPが極端に少ないはず、おそらく100くらい。
 大丈夫。
 私は自分に言い聞かせる。
 一発で仕留めたいもう一つの理由。
 勝負が長引けば長引くほど、使える魔法の種類が少ない私の方が不利になる。(手の内が全て知られるという意味で)

「愛の力に目覚めたあなたなら、私を倒せるかもしれません」

 両手を広げるマリク。
 賢者の余裕か。
 私は、詠唱しながら地を蹴った。
 大丈夫。
 この距離なら唱え終わる頃、丁度、マリクのその懐に一気に飛び込み終わり魔法が発動されている。
 奴の心臓をこの手で凍らせる。

 
 そう--
 ならなかった。

 無数の髑髏《どくろ》の口から伸びた触手が私の身体を捉える。
 マリクは詠唱していなかった。
 たったそれだけの時間差で、マリクの魔法の方が私のそれより早く発動された。
 私はあと一歩のところで、彼の魔法にかかっていた。

「なっ、なんで?」
「これですよ。姫、これです」

 マリクはローブのポケットから長方形の物体を取り出した。
 黒い物体には、中央に透明のガラスの様なものが付いている。
 その下には小さなボタン。

「何それ?」
「魔法発動機械です。ここに唱えたい魔法をあらかじめ登録しておけば、詠唱する手間も、魔法陣を描く手間も省けます。ボタン一つで発動出来るんですよ。魔法を使う者なら、どう効率良く発動出来るか工夫しなければダメですよ」

 説教された。
 それにしても、どんな原理だよ......。
 私は髑髏の口から伸びる触手に四肢を捉えれたまま、マリクの手にあるその機械に技術的興味をそそられた。
 もしかしたら、最初にゲームを作ったのはこいつかもしれない。

「あなたでも、無理だったか」

 マリクは残念そうに言うと、魔法発動機械の下方にあるボタンを押した。
 透明のガラスに『雷撃《ライトニング》』と表示された瞬間、私の身体を閃光が貫いた。

「きゃああああっ!」

 圧倒的な痺れが脳天から足の爪先まで、貫く。
 痺れが止んだ瞬間、激痛が体中を襲う。
 髑髏の触手が勢いをつけ、私の身体を天に放り投げる。
 このままだと地面に落下する。

 この城壁を昇って来たんだな。
 落下しながら、場違いな感慨に浸る。

 やっとケンタと相思相愛になれたのに。
 ケンタの髪の匂い。
 手の平の温かさ。
 守ってくれた時の背中。

 このループで......
 もう一度会いたい。

 後頭部に衝撃を感じ、気を失いそうになる。
 地面だ。
 隣には、顔を血で濡らしたケンタがいた。

 良かった。
 会えた。

 ごめんね。
 また、君の復讐を達成出来なかったよ。
 次のループでは、また一緒に......

 お互いのこと大好きになろうね。

 私は意識を手放し、死んだ。

 だけど、ずっと暗闇のままだった。

姫のラブソング編 おわり

Comment(4)

コメント

桜子さんが一番

あら、、、悲しいやん。

VBA使い

ケンタ「の」物だ。


見せない様に「努」めた。


「詠唱」の声が耳に響いた。


お手並み拝「見」、といった


手の平の「温」かさ。


8回でループが終わったのは、3ビットだからかなw


次は、いよいよマリクの1人称で語られるか!?

湯二

桜子さんが一番さん。


コメントありがとうございます。

クリスマス前には完結します。
ハッピーエンドで終わる予定です。

湯二

VBA使いさん。


コメントと校正ありがとうございます。

結構重要なところも間違えてました。。。


>マリクの1人称で語られるか!?
この話も大詰めで、終りに向かってます。
ほんとにエンジニア要素1%もなかったですが、読んでいただきありがとうございます。

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