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【小説 パパはゲームプログラマー】第二十八話 姫のラブソング3

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「ジェニ姫......」

 ベッドで半身を起こしたケンタは、目を見開き驚きの表情を浮かべている。
 その中に、男子特有の歓喜が少し入り混じっているのを私は見逃さなかった。(男の性ってやつね。まったく)
 向かい合う私はと言うと、白色の寝間着姿。
 腰までの白銀の髪(自慢のね)は洗い立てで、石鹸の匂いがする。
 月光に照らされた私は、ケンタの瞳に真っ白な姿で映り込んでいた。
 心の中はドキドキで火照って真っ赤だと思う。

「......一緒に、寝ていい?」
「え、ええ!?」

 彼は、きっと、そんな経験なんてないんだ。
 ま、私も無いけど。

「横、入るね」

 私がスッと彼の隣に入り込む。

 子供の頃、ばあやが言ってた。

「女性から、仕掛けるものではありませぬ」

 ごめん、ばあや。
 私はこんな風に育ちました。

「姫、だめですよ」
「マリナさんのことがあるから?」
「......」
「私、そうやって嘘をけない君が好きなんだよ。ずっと旅してて、マリナさんを一途に思う君のそんなところに惹かれたの。おかしな女の子でしょ? だけど、これだけ一人の人のことを思える人が、私のことを好きになってくれたら......。そう思うと、君のこと好きになってた」

 ある時は反乱の前夜で。
 ある時は戦場で。
 シチュエーションは毎回違えど、死ぬ度に繰り返し言って来たセリフだ。
 ループの度にゼロになるケンタにとっては、いつも初めて聞く告白なんだろうけど。

「ジェニ姫......」
「こうして、一緒にいるだけでいい。君の心にマリナさんが住んだままでもいい。徐々に、私のことを好きになってくれればそれでいいから」

 窓から差す朝日が、まどろむ私を徐々に覚醒させて行く。
 昨夜は、私はケンタの胸に頬を押し当てたまま眠ってた。

「おはようございます」

 ケンタも目を覚ましたみたいだ。

「二重顎」
「そこから見ると、そうなります」

 私の指摘にケンタは困り顔で応える。

「姫のつむじ、左巻きだ」
「うるさい」

 こういうどうでもいいやり取りが嬉しい。
 お互いおかしかったのか、二人同時に吹き出した。
 ケンタと私は添い寝だけだった。
 だけど、確実に彼の態度が変わって来たことが分かる。

 それからの一週間はとても楽しかった。
 二人の距離が徐々に近づきつつあるのを私は感じていた。
 ケンタは毎日釣りをし、私は釣った獲物を街に売りに行く。
 夜は一緒に私の手料理を食べる。
 食後のお茶にも付き合ってくれる様になった。

「また、お勉強?」
「あっ......うん」

 ケンタは寝る前に本を読むようになった。
 何を読んでるんだろうって、覗き込むと慌てて隠そうとする。
 チラッと見えた単語は『火、水、土、風属性』。

「あっ、魔法を勉強してるんだ」
「ま、まあ。教養として」

 確かに学問としての魔法は面白いから、はまる人ははまる。
 それにしてもケンタが魔法を......。

「私が教えてあげようか?」
「大丈夫。僕、魔法が使いたいわけじゃなくて、その......、魔法を題材にした小説を書きたいんだ」
「へぇ、書いたら読ませてよ。水属性の魔法使いが弱かったら許さないからね。あっ、魔法で分からないことあったら訊いてね」
「......うん」

 歯切れの悪い返事が少々気になったが、魔法に興味を持ってくれたことは、魔法使いとしては嬉しかった。

 日々は流れた。
 私達の知らないところで、世の中は流れていた。
 悪い方向に。

「グラン王国はケト月10日、メルル王国との同盟を解消し、同日、同国に攻め込んだ。戦いはグラン軍が終始、同国を圧倒。現在のグラン軍は、メルル王国の中間にあるベルの丘を占拠し、そこを橋頭保として要塞を建設中。一ヶ月の間に、現在の3倍の物資と兵力を調達した後は、一気に城へ攻め込む予定。」
※グラン王国日報より

「戦争が始まった......」

 ケンタは新聞を食卓の上に置くと、ため息をつく様にそう言った。
 私は戦争という言葉に胸が痛くなった。
 グラン王国とメルル王国は、お父様の時代から同盟関係を築いていた。
 お互い、足りない物資を輸送し合い、災害があった時は助け合う友好的な関係だったはずだ。
 それをグランがメチャクチャにした。
 スライム島の周辺の島からも大量の希少資源が採掘出来ることを知ったグランは、その島に兵を送り込みグラン王国の領土としての既成事実を作った。
 だけど、そこは元々メルル王国の領土(無人島だった)。
 二国の関係悪化は、この領有権の争いが原因だ。
 私は、スライム島にいるお父様のことが気になった。

「いずれはメルル王国以外の5つの王国も征服し、全世界の民のための理想郷を作る」

 新聞で、グランはそうインタビューに答えている。
 事実上の世界征服宣言だった。

「こんなことになるなんて......」

 ケンタが、行き場の無いもどかしさをぶつける様に、食卓に拳を叩きつける。
 振動で食器がけたたましい音を立てて揺れる。
 彼は自己嫌悪に陥ったかの様に、両手で頭を抱えている。
 
「私のせいだ......」
「え?」
「ん......何でも無い」

 私は小さく首を横に振った。
 だけど、こんな世界に、未来になったのは私のせいだ。

 私がケンタの復讐を止めたからだ。

 私はケンタと一緒にいたい。
 それだけなのに、沢山の犠牲が次から次へと生まれて行く。
 この未来は間違っていて、やっぱりケンタを救世主にすべきだったんだ。

「キャー!」
「わー!」

 村人の叫び声が聞こえる。
 私は咄嗟に床板をめくり、ケンタの手を取った。
 彼を引きずり落とすように、地下の隠れ穴に落とす。
 彼の声を無視し、急いで床板を穴の上に敷く。
 その上にタンスを移動させる。
 と、同時に玄関の扉が蹴破られる。
 全身黒くめの親衛隊がズカズカと、私達の家に入ってくる。

「グラン王国親衛隊だ。ここに雑用係のケンタがいるだろ? 出せ!」
「いません」
「スライム島のルキという男を拷問したら、ケンタが逃げたことを吐いた。調べたらここにいることが分かったんだ」

 スライム島と聞いて、お父様の身にも何かあったと思った。
 隊長と思われる男が、細身の剣を一振りし、食卓に載った食器をはらう。
 床に落ちた食器が衝撃音と共に砕け散る。

「ここにいるのは分かっているんだ。かくまうとお前もこうなるぞ」

 隊長が粉々になった無残な食器を剣で指し示す。

 こんな奴ら、私なら一掃出来るのに。
 だけど、魔法は使えない。
 私がジェニ姫だとバレたら、色々と厄介だ。

 私がジレンマを抱えている間に、他の隊員達が寝室や風呂場、ベランダに至るまで荒らしまわっている。
 私はケンタとの思い出が詰まった調度品が破壊されるのを見るたびに、怒りが湧いて来る。
 私の怒りに呼応するかの様に大気中の水分子が私に集約される。

「お前がさっきから背にしている、そのタンス......怪しいな」

 隊長の手がニュッと伸び、私の頭越しにタンスに触れようとする。

「ダメ......」

 ひっ、と声を上げ隊長が手を引っ込めた。
 彼の手はしもやけの様に焼けただれていた。
 私の身体から発する氷のオーラで火傷したのだ。

「お前......」

 隊長がまじまじと私の顔を見る。
 私は黒装束で顔半分を隠している。
 だけど、隊長はさっきの現象と私の目を見て、何か悟ったようだ。

「こんなところでお会いするとは。ここは引き上げたほうがいいようですな」

 全隊員、撤退した。
 壊れて蝶番から外れた玄関のドア。
 開け放たれた長方形から、外の世界が見える。
 親衛隊に連行される村の男達。
 泣きながら追いかけるその恋人、家族達。
 きっと、徴兵されたんだ。

「ふー」

 私はため息をつき、タンスを背もたれにして座り込む。

「ジェニ姫」

 床からケンタの声がする。

「やっぱり、僕、グランに復讐してマリナを取り戻す」

「僕が復讐をしなかったから......」

 私とケンタは床板越しに話す。
 ケンタの決心は揺ぎ無いようだ。
 だけど、諭すように私は言う。

「ケンタ君。君の気持ちも分かるけど、もう手遅れだよ。私達には勝ち目なんて無いよ」

 時間が流れ過ぎた。
 ソウニンはグラン側についただろうし、ダニーも消息不明だ。
 カンストメンバーだって集まらないだろう。
 何よりこれだけ徴兵されたら、反乱軍を作ったとしても加わる国民もいないだろう。
 チャンスを逃した私達は非力だ。
 どうしても復讐を完遂したいなら、私が死んで時間を巻き戻すしか無い。

「それに、あれだけ何度も戦っても勝てなかった」
「え?」
「あっ、え~と。とにかく、あいつらは私達じゃ手に負えない」

 今はループの話をしてる暇は無い。

「早くここを出よう。奴らが大挙して押し寄せて来るわ」
「どこに?」
「どこにって、誰も知らないところよ。そこで一緒に......」

 ケンタは黙った。
 私も何も言えずに黙った。
 永遠かと思えるほどの長い沈黙を破ったのはケンタだった。

「マリナは魔法をかけられているだけだ。だからグランのことを本当に愛していない」

 なるほど。
 魔法の勉強をしていたのはそのせいか。
 ケンタなりに、マリナさんの性格を良く知っているから、魔法に侵されているとあたりをつけたのだろう。
 それにしても凄い執念だ。
 魔法使いでも無いケンタが一から魔法を勉強して、よくそこまで理解出来たものだ。
 私と一緒に住んでいながら、それでもマリナさんを信じていたケンタのことが憎いと思う反面、更に愛しさも増した。

「だから、グランを倒すって言うの?」
「......はい」

 マリナさんを出されてしまっては、もう私の出る幕は無かった。
 私はタンスをずらし、床板を外した。

 私は『ゲーム』のことを思い出した。
 ケンタと一緒に住む様になってから、私はゲームの存在を忘れていた。
 タンスの奥から取り出したそれは、埃をまとっていた。
 STARTボタンを押す。
 世界は魔王率いるモンスター軍であふれていた。
 ゲームも現実の世界も、戦いを放棄したせいで、同じ様な荒廃した世界が広がっていた。

 悲壮な戦いになることは覚悟していた。
 たった二人の反乱。
 もちろん、勝てるはずも無く......

「ケンタアァァァァァーッ! 死んじゃいやぁあっ!」

 私は虫の息のケンタをその腕に抱いて、天に届けとばかりに嗚咽した。
 神様、私達に力をください。
 だけど、空は灰色の雲で蓋をされたまま。
 思いは届かない。

「あら、死んでなかったのね」

 両手に鉄の爪を装備したソウニンが、私達を見下ろす。
 爪の先端からケンタの赤い血がしたたり落ちる。
 グランの城に忍び込んだ私達はあっけなく返り討ちにされた。
 私はケンタを抱く手の平越しに治癒魔法をかけ続ける。

「無駄よ。毒に侵されてるから」

 ソウニンの鉄の爪の先端には、ポイズンドラゴンの猛毒が塗られていた。
 治癒魔法で回復しても無駄だったのはそのせいか。
 私は解毒魔法は使えない。

「ケンタ......」

 ケンタの鼓動が停まった。
 私は、もうこんな世界、どうでも良くなった。

つづく

Comment(2)

コメント

VBA使い

嘘を「吐」けない君が


全身黒「ず」くめの親衛隊


私が死んで時間を巻き戻すしか
→根幹に関わる話だが、ハッピーエンドになった際には、ループを解除しないと、ジェニが寿命を迎えた時にまた元に戻ってしまいますね。
それとも湯二さんのことやから、それを更に上回る世界観を用意しているのかしら?

湯二

VBA使いさん。


コメント、校正ありがとうございます。


ず、づ、時々分からなくなります。


>それを更に上回る世界観
うわあ。
プレッシャーだなあ。
この先読んでもらうと、用意してますけど、驚いてもらえるかどうか。
ちょっと強引な感じ何で、こんなもんかと思って読んでいただきたい。

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