常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 採用大作戦】第六話 次のステージへ

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 面接会場であるブースの中は、雄一と由紀乃だけしかいない。
 雄一が壇上にいて、それに向かい合う形で由紀乃が長机を前にして腰かけている。

「あれ? 桜子さんは?」
「あっ、ああ......。安田さんはちょっと別の用事があって席を外してる。面接になったら来るから」
「そう......」

 雄一は壁掛け時計を見た。
 デジタル表示は18時29分。
 カチリ。
 18時30分に切り替わる。

「開始」

 雄一の合図とともに、由紀乃は問題が書かれた冊子を開いた。
 雄一も冊子を開き、問題を確認する。

「第一章
 以下の仕様のORACLEデータベースを作成せよ。

  ・構成する表領域は以下の通り。
   SYSTEM表領域 2GByte
   SYSAUX表領域 3GByte
   DATA表領域 10GByte
   TEMP表領域 5GByte
   UNDO表領域 2GByte
 
  ・REDOログのグループは3で、各グループのメンバー数は2とする。
    :
   <<中略>>
    :
 作成に当たってDBCAは使わないこと。
 使った場合は失格とする。
 CREATE DATABASE文で作成すること。

 制限時間 15分」

 DBCAとはGUIベースでデータベースを構築することが出来るユーティリティのことである。
 DBCAを使えば、GUIのカラフルな画面で促されるままにマウスでカチカチ操作すればデータベースが出来上がってしまう。
 言ってしまえば、データベースの各構成を理解していなくても作れてしまう。
 桜子はそんな簡単な問題では満足しなかったのだろう。
 GUIというブラックボックスを通して作られたものは認めない。
 だから、DBCAを使うことを禁じた。
 そのことが、この問題をより一層難しくしていた。
 GUIが使えない以上、CUI、つまりコマンドベースでデータベースを作るしかない。
 一からスクリプトを組ませる。
 そうさせることで、由紀乃がデータベースの各構成が理解出来ているのかを試そうとしているのだった。

「あの......」

 由紀乃が申し訳なさそうに手を上げる。

「はい」
「これ、見てもいい?」
「もちろん」

 どうやら気付いたようだ。
 デスクトップ画面の隅に置いてあるORACLEのマニュアルに。

「マニュアルが一番信頼出来る情報源よ」

 桜子はそう言っていた。
 インターネットは便利だが、間違った情報が多い。
 一番信頼出来るのは、製品マニュアルだった。
 全ての技術の全ての要素を暗記する必要はないし、出来ない。
 その代わり、マニュアルから効率良く解決の糸口をつかめればいい。
 その実力があるか、それを今回の試験を通して試そうとしていた。
 由紀乃がディスプレイに目を這わせる。
 TeraTermを起動し、データベースサーバにログインする。
 両の瞳が左から右へと動く。
 それに合わせて、せわしなく十の指がキーボードを打鍵する。
 制限時間は15分。
 もう10分過ぎた。

タァーン!

 リターンキーを弾いた彼女は、じっとディスプレイを見ている。
 実行したCREATE DATABASE文の応答を待つ。
 数秒後、彼女の口からホゥと息が漏れる。

「出来ました」

 時間ギリギリ。
 10分間の休憩を挟んで次の問題へと進むことになる。

「じゃ、一旦、外に出て待ってて」
「ここにいたらダメなの?」
「うん、次の課題の準備もあるし」

 由紀乃は扉を開け外に出た。
 10分後、戻って来た。

「開始」

 由紀乃が冊子を開き、第二章の問題を確認する。
 すぐさま、ディスプレイに向かう。

「あっ......」

 彼女は目を見開いた。

「マジで......」

 すぐさま、雄一に視線を合わせる。
 そして、訴える様にこう問い掛けた。

「私が休憩してる間に、データベースを止めた?」

 雄一は静かに首を横に振り、こう言った。

「試験に関する質問には答えられない」
「だけど......」
「一つだけ言えることは、俺らの都合に関係なく、障害はいつでも起こりうるってことだ。それが本番環境だろうが、試験環境だろうが」

-----------------------------

 10分前。
 ステイヤーシステムの事務所近くにあるコメダワラ珈琲店にて。

ブルルル

 卓の上のスマホが振動した。
 ディスプレイには有馬雄一と表示されている。

「もしもし」

 桜子は珈琲を卓の上に置き、スマホを手に取った。

<有馬です>
「お疲れ」
<川崎さんが第一章を終え、休憩に入りました>
「分かった。ちゃんと部屋から追い出した?」
<はい>

 桜子は肩と耳でスマホを挟んだまま、両手でノートパソコンを操作する。
 TeraTermで試験用データベースサーバにアクセスする。

「ちゃんと出来てる」

 桜子は由紀乃が作ったデータベースを確認した。
 出題通りの仕様で作られている。

「じゃ、予定通り。落とすわよ」
<やっぱり、ちょっと待ってください>
「何よ? 打ち合わせ通りじゃない。あんたも納得したでしょ」
<やっぱりやり過ぎですよ。採用試験の域を超えてます>
「本当の実力を測るには、これが一番なの。乱暴な言い方になるけど、お客にとってはどう設計、構築したとかよりも、運用開始した後が大事なの。システムのダウンタイムが少なくて、かつ安定的に、そして収益を生んでるかどうかが重要なのよ」
<むむ......>
「だからこそ、由紀乃が障害から復旧出来るかを試したいの」

 桜子は雄一と会話しながら、由紀乃が作ったデータベースを停止させた。
 そして、手を休めることなく罠を張って行く。

<だからって......>
「あっ! あんた、由紀乃を合格させたいんでしょ? まったく男って奴は。そうは簡単にいかせないわよ。彼女は私の弟子でもあるんだから、しっかりその実力を判断してあげないと」

-----------------------------

 再び、ステイヤーシステムの事務所。
 雄一の言葉を受けて由紀乃は決意したようだ。
 彼女は小さな顎を上下させた。
 キーボードに両手を乗せ、ディスプレイを睨みつける。

(安田さん、あんた鬼だぜ)

 健気に頑張る彼女の姿を見て、雄一はそう思った。

「くっ......なんでっ......」

 由紀乃が呻いた。
 sqlplusコマンドでアイドル状態のデータベースに接続出来ない。
 このままではデータベースのスタートアップコマンドを実行したいのに、出来ない。
 彼女の焦りが雄一には痛いほど伝わる。
 この障害から復旧出来ないと、問題を解くことも出来ない。
 制限時間は刻一刻と迫っていた。
 このままじゃ、時間切れでゲームオーバーとなる。

「川崎さん......」

 雄一が彼女の方へ駆け寄ろうとした時、胸ポケットのスマホが振動した。
 ディスプレイには桜子からのLINEメッセージが表示されている。

<余計な事したら、あんたも失格だからね>

 雄一は咄嗟に部屋の中を見渡した。
 監視カメラはどこにもない。
 桜子はどうして、雄一の動きを察知出来たのか?

(なっ、なんて恐ろしい人なんだっ......)

 続けざまにメッセージが届く。

<何でもお見通しなんだから>
<助けてあげて、モテようとしてるんでしょ>

 そして、

<なーんちゃって>
「えっ?」

 舌をペロッと出したウサギのスタンプが送られて来た。

<時間的にも、そろそろ君が由紀乃に声を掛けるだろうなって思ったからメッセージしてみた>
「くっ......」

 雄一はいいように手玉に取られている自分に腹が立った。
 まるでお釈迦様の手の上で踊らされてる孫悟空の様だ。
 メッセージは続く。

<障害復旧の現場で誰も頼る人がいないなんて、よくあることなんだからね。そんな時、頼れるのは自分だけなんだよ。だけどヒントはある。動作ログやらエラーメッセージがそれよ。落ち着けばそこから打つ手を見極めることが出来る。私は彼女にそれを教えてる。だから、有馬君も彼女を信じなさい>

 雄一はそのメッセージを見て、自分の軽率な行動を恥じた。
 由紀乃は目を皿の様にしてディスプレイを見ている。
 動作ログ、エラーメッセージを追い掛けているのだろう。
 次のステージへ向かおうとしている彼女に、雄一は手を差し伸べることを止めた。

「出来た!」

 雄一は由紀乃の笑顔を久々に見た。
 データベースを起動出来たようだ。

<監査ログとアーカイブログの出力先ディスクの使用率が100%になってる。ここがディスクフルだとORACLEに接続出来ないのよ。つまりデータベースを起動するコマンドすら叩けない。罠に気付いたみたいね。良し良し>

 雄一のスマホに絵文字付きのメッセージが届く。
 桜子にも遠隔で由紀乃のオペレーションが把握出来た。
 師匠は罠を潜り抜けた弟子にご満悦のようだ。
 由紀乃は喜びもそこそこに、第二章の問題に取り組む。

-----------------------------

 その後、由紀乃は第三章、第四章と問題をこなしていった。
 それは決して平坦な道とは言えなかった。
 突然のメモリリークでのデータベースダウン。
 急激な負荷によるパフォーマンス低下など、現実でもこれ程のことが短期間で起こるのは珍しい。
 まさに、人の悪意が作り上げたかのような試験環境だった。
 それでも彼女は文句も言わず、健気に取り組んでいた。
 雄一はそんな彼女の姿をじっと見ていた。
 艶のあるキャバクラ嬢の頃とは違う、新たな由紀乃の魅力を感じ始めていた。

「やめ!」

 雄一の号令で、由紀乃は手を止めた。
 第四章まで終わった。
 10分の休憩を挟んで、最終章に入る。
 由紀乃は目頭を指で押さえている。
 フラフラと立ち上がり、外に出て行った。

ブルルル。

 胸ポケットのスマホが振動した。

<おつかれ>
「お疲れ様です」
<君も彼女もここまでよく頑張ったわ>
「俺はいいとして、川崎さんはもう疲労困憊ですよ」
<疲労の真っただ中で、集中力を絞り出して困難を解決する。それこそがエンジニアってもんよ>
「はっ、はい......」

 雄一は桜子が体育会系過ぎて着いていけない時がある。

<最後の問題は、由紀乃が私の言いつけを守っていたら簡単に解ける問題よ>
「言いつけを......ですか」

 雄一にもそれは分かっていたが、彼女にはそんな余裕は無かった様に見えた。

-----------------------------

 冊子を開いた由紀乃は顔を上げると、雄一に向かってこう言った。

「問題が書いてないわ」
「うん」
「どうして?」
「まずは、君の作ったデータベースに接続してみてくれ」

 腑に落ちない感じの表情で由紀乃はディスプレイに向かった。

「あれ?」

 彼女の手が止まり、顔を上げる。

「有馬君、すごいいっぱいエラーが出てくる。これって一体......? もしかしてまた障害?」

 雄一は応えることなく彼女に背を向け、ホワイトボードにこう書いた。

最終章

破壊されたデータベースを元通りに復旧させること。

 つづく

★お詫び

「人間のクズ」のを載せたかったのですが、小説を書いていたハードディスクが飛んだのでいったん中断で、こっちを載せてます。

読んでいただいてる方、しばらくおまちください。

Comment(11)

コメント

VBA使い

今回はなかなか読みごたえがありました。


「何よ? 打ち合わせ通りじ「ゃ」ない。あんたも納得したでしょ」


せわしなく十の指がキーボードを打鍵する。
→そういえば、右手親指はあんまり使わないなぁ。
 Shift+Deleteする時ぐらい。


破壊されたデータベースを元通りに復旧させること。
小説を書いていたハードディスクが飛んだ
→この流れにワロタ。すみませんm(_ _)m(桜子さんの罠だったりして?)

桜子さんが一番

あらら、ハードディスク心配ですね。
俺のLINEにも桜子さんからメッセージ来ないかな~w

foo

> (安田さん、あんた鬼だぜ)

この雄一の心情には全力で同意したい。
いくら入社テストだからといって、既存のシステムで意図的に障害を発生させる操作を行うなんて、もはや桜子の所業はクラッキングの一歩手前……どころか、すでにクラッキングの領域に踏み込んでいるのでは……?
前作で、雄一のところから田原を意図的に引き抜いて雄一をピンチに陥らせたくだりでも思ったが、桜子が時折見せる過剰なまでのしばき主義的な姿勢は、何が発端になったんだろう?
このシリーズにおける謎の一つだな。

> 監査ログとアーカイブログの出力先ディスクの使用率が0%になってる。ここがディスクフルだとORACLEに接続出来ないのよ。

たまには技術的な話もしておくと、ここの「使用率が0%」は、「空き容量率が0%」という意味だろうか。
続く桜子の「ディスクフル」という発言からすると、要は桜子がディスクを意図的にパンクさせて、 ORACLE をご動作させた、と言いたいように読めるし。
(それとも、 ORACLE のマイナーな仕様に基づく、製品特有の挙動?)

princess

コメント欄の誤字をつつくレベルの重箱の隅を突くツッコミですが

>誤「何よ? 打ち合わせ通りじ"ゅ"ない。あんたも納得したでしょ」

正「何よ? 打ち合わせ通りじ"ゃ”ない。あんたも納得したでしょ」

な気が致します。

VBA使い

今回は読み応えがありましたね。


せわしなく十の指がキーボードを打鍵する。
→そういえば、右手親指はあんまり使わないかなぁ
shift+deleteする時くらい??


破壊されたデータベースを元通りに復旧させること。
小説を書いていたハードディスクが飛んだので
→この流れにワロタ。すみませぬ m(_ _)m(桜子さんのワナ?)

湯二

VBA使いさん。


校正とコメントありがとうございます。


一回目のコメント、無視してすいません。
今、気づいて後悔しました。
同じこと二回も申し訳ない。


>右手親指
スペースキーとかで使うなあ。


>破壊されたデータベースを元通りに復旧させること。
僕への挑戦でもあるのでしょうか。
個人のパソコンには復旧対策を施していない緩い自分に喝。。。

湯二

桜子さんが一番さん。


コメントありがとうございます。


>メッセージ
そういうボットというかAIが作れたら作ってみたいです。

湯二

fooさん。


コメントありがとうございます。


>この雄一の心情には全力で同意したい。
たまには同情してやってくれい。。。


>クラッキング
新入社員の研修とかでもこういう罠だらけのシステムで、モノを作らせると実践ぽくて力が付きそうですね。
罠を仕掛ける方もネタを考えるのが大変だけど。


>しばき主義的な姿勢
姐さんが最近マイルドになって来た描写が多くなってきたから、ここらで初心にかえって無双させてみようと思ったらこんな展開になってしまいました。


>「使用率が0%」は、「空き容量率が0%」
すいません。
使用率100%で正しいです。
文脈から推察していただいて、ありがたいやら申し訳ないやら。

湯二

princessさん。


コメントありがとうございます。


>重箱の隅
つついちゃってください。
色々、埃も出てきます。

VBA使い

いえいえ、大丈夫ですよ(^^)ゞ
私はスペースキーは左手親指派です

湯二

VBA使いさん。


コメントありがとうございます。


>左手親指派
僕も場合によっては使い分けてますね。
でも、左が多い。

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