常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 人間のクズ】第十二話 力が欲しい

»

 無事にデータベースのリストアを終えた慶太は次の工程に進むのだった。

「まず、バックアップからキチンとリストア出来たか確認するよ。適当なテーブルを参照して確認するから、教えてくれ」
「えっと......」

 薫が首を傾げるので、慶太は業務チームの誰かを呼んでくるように依頼した。
 数十秒後、薫が連れて来たのは、先程彼女を責めていた年配女だった。

「購買履歴テーブルとかどうかしら? あれなら毎日18時にバッチで更新されます。登録されてるレコードの登録日時に昨日の18時辺りのレコードがあればOKだと思いますよ」

 そう伝えると忙しそうに元の場所に戻ろうとするので、慶太は呼び止めた。

「ちょっと待って。テーブルの英名は? 登録日時が分かるカラム名は?」
「テーブル名はKOBAI_RIREKI、カラム名はCRT_NTIJIです」
「ありがとう」

 慶太はディスプレイに向き直り、本番データベースに接続した。
 そして、次のコマンドを打った。
 
<SELECT CRT_NTIJI FROM KOBAI_RIREKI;>

 ザザーッと上から下にデータが表示される。
 一画面に表示しきれずDOSプロンプトの画面がスクロールしまくる。

「ちょっと絞ればよかったな」

 大量に表示されるデータを見て、慶太はそう呟いた。
 データの表示が終わり、画面のスクロールが止まった。

「あった!」

 昨日の18時に登録されたデータを見つけ、思わず声を上げてしまう。

「リストアは上手く行った。次はリカバリに行くぞ!」

 慶太は傍らで見守る薫と太っちょ眼鏡氏に声を掛けた。

「はいっ!」

 二人揃って若手らしい爽やかな返事をする。

「リストアしたデータに、アーカイブログをあてて障害直前の状態に戻すまでがリカバリだ」
「障害直前って......?」

 薫が不安げに問い掛ける。

「君が不本意ながらデータを消してしまう直前まで戻すってことさ。そう、不本意ながら、ね」

 慶太は薫を安心させるために、そう言った。

<RECOVER DATABASE;>

 そうコマンドを入力し、しばし待つ。

「完了しました!」

 太っちょ眼鏡氏が興奮気味に甲高い声を上げる。

「よし! データを確認するぞ!」

 慶太は先ほどと同じ要領で、つまり業務担当から確認するのに相応しいテーブルを確認し、そのデータを参照した。

「大丈夫みたいですね」

 年配女が首肯する。

「ありがとうございます」

 慶太は礼を言うと荒木課長の元へ向かった。

「データベース復旧終わりました。お客様の動作確認をお願いします」
「分かりました」

 荒木課長は無表情で頷いた。
 無表情だが、頬肉が緩み多少安堵している感じはある。

「北村さんと一緒に会議室で待機していてください」

 そう指示される。
 慶太は端末の前に戻り、薫に一緒に会議室に行くよう促した。
 カバンを手に会議室に行こうとすると、

「あの、先程はありがとうございました!」

 振り返ると、太っちょ眼鏡氏が45度のお辞儀をしていた。
 薄くなりかけた頭頂部に、微かに汗の玉が光った。
 その瞬間、上気して真っ赤な顔が持ち上がった。

「こちらこそ、協力ありがとう」

 慶太は穏やかな笑顔でそう返した。

「色々と勉強になりました! 私の名前は朝霧静樹です! 今後何かあったらよろしくお願いします!」

 顔と体に似合わずラノベの主人公みたいな名前だなと、慶太は思った。
 名刺を渡される。
 それを見ると、彼は乱テックの社員らしい。

「乱テックのプロパーさん?」
「はい」
「ああ、そうだったんですね。塚本部長にはお世話になってます。こちらの北村も乱テックさん経由でここに来てるんですよ」

 慶太は朝霧が取引先の社員だと知ると、先ほどまでのタメ口を改めた。

「あっ、そうなんですか。塚本によろしく言っときます!」

 慶太の突然の口調の変化を気にすることも無く、朝霧は丁寧に言葉を返す。
 慶太は今度飲もうという型通りの社交辞令を述べた後、薫と共に会議室へ向かった。

 慶太と薫はシンと静まり返った会議室で、二人並んで座っていた。

「北村さん......」

 慶太は囁いた。

「はい」
「君は何か弱みを握られてるのかい?」
「えっ......」

 薫は絶句し表情をこわばらせた。

「正直に言ってくれよ。荒木課長や朝井部長と何かあったんじゃないのか?」

 彼女から突然昨日の昼休みに呼び出されたことに対して、慶太はずっと違和感を感じていた。

「明日から様子を見に来なくていいです」

 その言葉を言った時の、薫の真っ白な顔に差した昏い影を思い出した。
 あれは悲壮感に満ち溢れていた。
 全ては自分に心配を掛けたくないがために、そう言ったのだろう。
 慶太はそう思った。

「社員は僕の家族だって、いつも言ってるじゃないか。君は僕の家族みたいなもんだ。悩み事があるなら何でも言っておくれよ」

 彼女の不安を和らげるために、そう優しく言い聞かせた。
 本当のことを話して欲しい。
 怪しい荒木、朝井の両名の化けの皮を剥いでやらなければ気が済まない。

「......私......」

 桜の花びらの様な小さな唇が開いた。
 薫が真実を語り始めた。

ガチャリ

 扉が開く。
 荒木課長に続いて、のっそりと朝井部長が入ってくる。
 ギョロリと血走った目が慶太を睥睨する。
 慶太は唇を引き結び、負けないくらいにその目を見返した。

「エンドユーザさんによる動作確認は無事完了しました。問題ありませんでした」

 荒木課長は席に着くなりそう言った。
 それを聞いて、慶太はとりあえず胸を撫で下ろした。

「良かった」

 思わず言葉が漏れる。

「他に言うことがあるんじゃないのか?」

 慶太の言葉を拾った朝井部長が、地鳴りの様な低い声を出す。

「そちらこそ、何か言うことがあるんじゃないんですか?」

 慶太の凛とした声が会議室に響いた。
 弱小SIerの社長が、まさか言い返してくると思わなかったのだろう。
 目の前の妖怪とそのゴマすり野郎が目を丸くしている。

「そもそも接続先データベースを確認することが載ってない手順書を渡して作業させているのが、おかしいです」

 慶太は指摘した。

「手順書に載っていようがいまいが、接続先を確認するのはエンジニアとしての常識だ。それを怠った御社の社員に落ち度がある」

 その指摘は荒木課長によってはじき返された。
 だが、負けじと次の指摘をする。

「データベース接続に関する各種設定ファイルの変更。というか改ざんですね。そんなことうちの北村がする訳ないでしょう? そんなことして何のメリットがあるんですか? きっと誰かがやったに違いないんです」

 慶太はこのことを大事にはしたくなかった。
 今後もこの業界でやっていくことを考えたら、和解を前提とした話し合いをしたい。
 だから、目の前の二人には真実を素直に語ってほしかった。
 だが、その思いは通じていない様だ。

「設定ファイルの変更は前の日にインフラチームがやったと聞いている。一時的に、あの端末から本番環境のデータベースに接続する必要があったらしい」
「じゃ、設定を戻しておいてくださいよ。それから、そのことをこちらに一言伝えてください!」
「黙れ!」

 慶太と荒木課長のやりとりを、朝井部長が塩辛い胴間声で制した。

「荒木課長も言う様に、北村さんがエンジニアとしての常識を怠ったのが問題だ。端末の環境が変わった云々は関係ない」
「そっ、そんな無茶苦茶な......」
「常識を守れば防げた事故なんだ。つまり、社長であるあんたにも責任があるからな。ちゃんと常識を教育していないという責任が」
「くっ......」

 慶太は妖怪の鷲鼻を叩き折りたい衝動に幾度も幾度も駆られた。
 両ひざを掴むことで、怒りに任せて立ち上がることをずっと堪えている。
 その様子を、薫が横で眉根を寄せ涙を浮かべながら見ている。
 もう慶太は、和解だの穏便だの、悠長なことを言う気も無くなった。

「僕、お二人の話を聞いちゃったんですけど」

 慶太は上目遣いの三白眼で、妖怪とゴマすり小僧を見据えた。

「このデータベース障害は北村を陥れるために仕組んだことなんでしょう?」
「はぁ?」

 荒木課長はとぼけた様子だ。

「あなたがたは彼女に何かを要求したが断られた。それに恨みを持ち仕返ししようと画策した。だから、彼女に事故を起こさせるように端末に罠を仕込んだんだ」

 薫の話と目の前の二人の会話から、推測を交えつつカマをかけてみる。

「なっ、なにを......貴様」

 朝井部長が動揺し始めた。

「事故を起こした彼女に責任を擦り付け、自分たちの言うことを聞かせるのが目的だったんでしょ?」

 慶太のまっすぐな声が会議室に響く。
 薫は慶太の横顔をじっと見ていた。
 まるで姫君が勇者の戦いを見守るように。

「このことを......しかるべき所に、告発しますよ」

 形勢が逆転したことは、朝井部長が額から脂汗を出し息を荒くしていることで分かる。

「証拠は?」

 その横で未だ冷静な荒木課長が問う。

「証拠なんかなくたって北村の証言とこの状況を説明すれば......」
「大沢社長、やるならどうぞ。だけど、その後のことは知りませんよ」
「え?」

 未だに自信満々というか動揺一つ無い荒木課長に不気味さを感じた。

「乱テック経由であなたの会社の社員がうちに沢山派遣されてるのは、もちろん把握されてますよね」
「はっ......」
「その中には、まあ大したスキルも無いのに使ってやってる方も何人かいるんですよ。まぁ、うちも慈善事業じゃないんでね。利益を上げるためには案件を効率良くさばく必要がある。そこで、パートナー企業ひいては派遣されてくる人材についても見直す必要があると考えているんですよ。これは目黒ソフトウエア工業の経営会議でもしばしば取り上げられる議題でしてね」

 慶太は荒木課長が何を言おうとしているのか、少しずつ理解出来、虫唾が走った。

「ダイナ情報サービスさん、その辺のとこ考えて発言してもらえませんか? いえ、無理にとは言いませんがね」
「卑劣な......」
「何か言いましたか?」
「いや......」

 慶太は振り上げた拳を収めるしかなかった。
 社員達の仕事を守る。
 それが社員達の生活を守ることになる。
 それは社長の使命だった。

「......分かりました」
「OK。じゃ、私達に謝罪して下さい」
「えっ?」
「あなた、私達がこの障害を仕組んだみたいに言ったじゃないですか? それを撤回して下さい」
「そっ......それは、あなたたちがやったことでしょ!」
「大沢さん!」

 荒木課長が慶太を制する。

「弱小SIerなどいつでも潰せるんだよ」

 その言葉はどこまでも慶太の心をかき乱すのだった。

「すっ、すいません」

 深々と卓に額を擦りつけた。
 涙が出そうだった。

「社長......」

 薫の涙声が耳に響く。

「それじゃ、疑われた私らの気持ちは癒されんなあ」

 形勢が逆転したことで朝井部長が息を吹き返したようだ。
 鬱蒼とした暗い森の様な髭を摘まんだり引っ張ったり、余裕の表情だ。

「なぁ、北村さん」

 ヌラヌラした目玉から発せられる醜い視線は、薫に向けられた。

「......分かりました」

 薫は小さな顎を、微かに首肯した。
 固く引き結ばれた唇はまるで、全てを悟り覚悟を決めたかのようだった。

「では、大沢社長、あなたの誠意は伝わりました。ここはプロジェクトの関係者同士で今後の対策を検討します。あなたは帰られて結構です」

 荒木課長がもとの穏やかな表情でそう告げる。

「え......?」

 あっけにとられた慶太は薫を見た。

「社長、大丈夫です」

 その美しいには、満面の笑みが浮かんでいた。

つづく

←【小説 人間のクズ】第十一話 仕組まれたデータベース障害

来週はお休みします

Comment(6)

コメント

kaz

塚本は丁寧に言葉を返す。

朝霧は丁寧に言葉を返す。

その美しい面には、満面の笑みが浮かんでいた。

その美しい顔には、満面の笑みが浮かんでいた。

いつも楽しく読ませてもらっています。

湯二

kazさん。

校正、コメントありがとうございます。


いつの間にか、登場人物が入れ替わってましたね。
複数の人が出てくるときは、注意が必要ですね。

桜子さんが一番

証拠集めフェーズでは真理奈、森本ペアが帰ってくる?

湯二

桜子さんが一番さん。


コメントありがとうございます。


>証拠集めフェーズ
実はそのパターンないです。
この後、普通に別のフェーズというか場面に移ります。

匿名

まぁ、主人公には気の毒だけど、偽装請負で食い繋ぐしか能のない、顧客のパワハラセクハラから社員一人まともに守れない弱小SIerなんざ、とっとと潰した方が世のエンジニアのためになるんだよなぁ。
薫も慶太をハメた訳だから同情できんけど。

湯二

匿名さん。

コメントありがとうございます。


>偽装請負で食い繋ぐしか能のない
慶太は意外とプライドが高いから、そう言われるとすねるかも。


>薫も慶太をハメた訳だから同情できんけど。
兎に角、皆、私利私欲のために動いていて、でもそれが一生懸命生きた結果なのが悲しいです。

コメントを投稿する