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【小説 採用大作戦】第一話 社員募集! ゆかいな仲間たちです!

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 ※注意:しょっぱいマネージャー編が終わってすぐくらいの時期の話

 10月のある日、こんな求人広告が大手求人情報サイト『Myジョブ』に掲載された

  ◇ソフト開発の独立系SIer・ステイヤーシステム株式会社◇

  ★★★★★社員募集! ゆかいな仲間たちと一緒に頑張りましょう!★★★★★

  【募集職種】システムエンジニア、プログラマ
  【仕事内容】ソフトウエアの受託開発、人材派遣
  【応募資格】高卒以上
  【雇用形態】正社員
  【給与】月給20万以上※当社規定により決定
  【休日、休暇】週休二日制(土、日)、祝日
  【勤務時間】9時から18時
  【勤務地】本社または常駐派遣先による
  【企業データ】設立 20xx.12
         従業員 30名(平均38.5歳)
         決算 3月
  【一言】先輩社員が丁寧に教えます!

「ちょっと、この変なキャッチコピー考えたの誰よ?」

 桜子はサイト指差しながら、雄一の方を振り返った。

「俺ですけど? いい感じでしょ?」

 雄一は得意げに応えた。
 定時後の自社の事務所。
 二人は常駐先の職場からそれぞれ戻って来て、一つのパソコンに向き合っていた。
 
「バカ」
「え......?」
「今時、こんなブラックバイトみたいなコピーじゃ誰も応募してこないわよ。ちょっとは考えなさいよ」

 桜子はディスプレイをシャーペンでツンツン突きながら指摘した。

「そっすかね? みんな和気あいあいとして笑顔だし、楽しそうじゃないですか?」

 雄一はキャッチコピーの下にある写真を指差した。
 去年、社員旅行に行った時の写真だ。
 ナニワのUSG(ウニバーサル・スタンディング・ジパング)に行ってアトラクションを楽しみ、道頓塀で粉ものに舌鼓を打ったと記憶している。
 写真は夜の宴会の時の物だ。
 大広間の座敷で社長を中心に集合して撮ったもので、社員の素(す)を表していて雄一としては一押しの一枚だった。

「社員旅行とかショーワかよ。今のレーワの時代、社員旅行なんて企業アピールにもならないわよ。飲み会スルーって言葉もあるように皆プライベートを優先したい時代になったの。だからこんな写真もキャッチコピーも逆効果なの」

 桜子は眉間に皺を浮かべ指摘した。

「俺は飲み会好きですけど」
「世の中、君みたいな人ばかりじゃないってこと」

 雄一と会話が噛み合わないことに嫌気が差したのか、桜子は鬱陶しそうに黒髪をかき上げた。
 雄一はちょっと彼女との雰囲気が悪くなってきたのを感じ取り、話を変えた。

「それにしてもうちの会社って、案外、年寄りばっかりですね」
「平均年齢38.5歳だもんね」

 月一回の社内会議で全社員と顔を合わせることがあるが、思い出すのは自分より老け込んだ社員達の顔ばかりだ。
 よく考えたら社内に二十代は、自分と同期の中山と桜子そして新人の藤澤しかいない。

「有馬君。君、いくつ?」
「27です」
「私なんか来年29よ。ほんとどうすりゃいいのよ」

 桜子は両手を組み、その上に顎を乗せため息をついた。
 憂いを帯びた表情だった。

「どうするって? 俺に訊かれても......」
「結婚して」
「え?」
「嘘よ」

 たじろく雄一に、桜子は切れ長の目を細めて笑った。

「はぁ(良かった)」

 一瞬、尻に敷かれた挙句、馬車馬の様に働かされる地獄絵図が脳裏を駆け巡り、背筋に冷たいものが走った。
 桜子は美人だし普通にしてるとおっとりしてるかのようにも見えるので、男は騙されるだろう。
 そこが怖いのだ。
 本当に仕事だけの師弟関係でとどめておきたい。
 雄一はそう思った。

「まったく、誰があんたみたいな女たらしと」
「え? 俺、そんなキャラでしたっけ」
「うん」

 桜子は小さく首肯すると、ディスプレイに向き直った。

「兎に角、採用担当チームになったからには、若くて優秀な人材を入れたいわ。平均年齢を押し下げるためにもね」

 年功序列が基本のニッホン国企業では、勤続年数が上がるごとに給料が上がる仕組みになっていた。
 ステイヤーシステムもそうした給与体系になっている。
 給料を上げるためには個人の単価を上げる必要がある。
 だが、そう簡単に案件に対しての個人単価など上がることは無い。
 従って年齢が高い者が多くなるほど、人件費と単価の差がなくなり会社経営が苦しくなるのだった。

「安田、頼んだぞ」

 先日、桜子は東海社長から特命を受けた。

「任せてください」

 桜子は採用担当を拝命した。
 雄一はその補佐。
 先月、ステイヤーシステムは社員数50人のキャロット情報ブレーンを買収した。
 そして、キャロット情報ブレーンはユニコーン・ペガサスと名を変え新スタートを切った。
 ステイヤーシステムの30人と合わせると、グループで総勢80人になった。
 桜子はキャロット情報ブレーンの副社長に就任する一方、両社のエンジニアとしても現場に出張るという多忙ぶりだった。
 更なる飛躍を目指していたその矢先、両社合わせて10人の退職者が出た。
 3年後のオリンピア開催と政府の経済対策が効果を発揮し、ニッホン国はIT業界をはじめ景気が上向き始めていた。
 そのせいでIT業界は人材不足になり、会社同士で人材の取り合いが起きる様なっていた。
 そんな状況の中での採用担当。
 やりがいがある一方、過酷な道であることに間違いは無かった。

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 静まり返った面接室。
 というより、ステイヤーシステムの事務所の中にパーティションを区切って扉を付けただけの急ごしらえのブースじみたものだ。
 卓には桜子と雄一が隣り合わせに座っている。
 ドアがノックされた。

「お入りください」

 桜子の声で扉が開いた。
 茶髪にピアス、黒いスーツから白いワイシャツの襟が飛び出している。
 いかにもホスト崩れ、そんな感じの男だった。

「どういうことよ?」
「どうって?」

 桜子と雄一は顔を見合わせ囁き合った。
 すぐさま目の前のチャラ男の履歴書を見返した。
 貼られている写真は、黒い髪を横分けにした真面目そのものといった感じだった。

「......あの、小島さん、ですよね?」
「ああ、そうだけど」

 小島は雄一の問いに、あっけらかんと答えた。

「写真とだいぶ違うようですが......」
「ああ、その写真、去年の就活の時撮ったやつだから」
「そうなんですか?」

 履歴書によると、前の会社を三ヶ月で辞めたとのこと。
 最初の頃の藤澤みたいな奴だな。
 雄一はそう思った。
 だが、藤澤は桜子の矯正により心を入れ替えて今や若手のホープになっている。
 だから人は見かけだけじゃない。
 小島だって話してみればまともな奴かもしれない。
 雄一は自分自身にそう言い聞かせた。

「志望動機を教えてください?」
「えっ? 志望動機ですか? そりゃ一日中座って仕事してりゃいいから楽だなと思って」

 チャラい恰好をしたロン毛の男は椅子にふんぞり返ってそう言った。

(こいつはシステムエンジニアを根本から勘違いしてやがる)

 雄一は叱り飛ばしたいのをグッと堪えた。
 それにしても桜子がさっきから無言のまま俯いているのが気になる。

「小島さん。システムエンジニアは机に向かって仕事してるだけじゃないんですよ。客先で打ち合わせしたり、派遣先から無茶な要求をされてその日のうちに対応したり、障害が起きたら夜中でも駆け付けたり、通称、机の上の土方って呼ばれてるんですよ」

(いかん、フォローに全然なってない)

 雄一はカッコいい表現が見つからず歯噛みした。

「とか何とか言っちゃってぇ、ビビらせてるだけですよね? あっ、これ圧迫面接? プログラムなんて誰かの作ったやつをコピーしてちょちょっと変えればいいだけじゃん? 違いますか?」
「いやいや、プログラムはコピペすることもあるけど......」

 雄一がそう言い掛けると、目の前を何かが遮った。

「安田さん......」

 それは桜子の左腕だった。
 彼女から怒りのオーラを感じる。

「あんたみたいなのがエンジニアになるからクソコードが増えんのよ!」

 叫びと共に彼女は大魔神の様に立ち上がった。

「おいおい! クソとは何だよ。俺は入社してないんだからあんたらから見たら客みたいなもんだろ、それを......」
「黙れ」

 彼女は静かに言った。
 それが返って相手に恐怖を与えた様だ。
 小島は震えあがり二の句が継げないでいる。
 桜子は息を継いだ。

「確かにコピペすることはあります。だけど、コピー元のプログラムの一字一句意味を理解してからコピーしていますので、そこは勘違いの無きよう。プログラムとはシステムの動きを指示するものです。仮に障害が起きたとして、コピペしたものだから何が起こるか分からなかった、ではお話になりませんから」

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 19時。
 チャラ男氏との面接の後、雄一は国道沿いの音楽スタジオ『ポップロック』に向かった。
 シーバードのリリースもひと段落着いた雄一にとっては、久しぶりのバンド練習だった。

「鮫島夏美です。よろしくお願いします」

 スタジオに入るなり、見たことも無い大学生風の女が雄一に頭を下げて来た。

「ああ、どうも」

 つられて雄一も頭を下げる。
 「誰?」という感じで、リュウジのほうに顔を向ける。

「ネットで見つけて来たボーカル志望だよ」
「聞いてねぇぞ」
「夏美ちゃんが今日しか時間が無いって言うんで、急遽、音合わせすることになったんだよ」

 キングジョージのメンバー募集には最近、多数の応募が来るようになった。
 セクレタリアトのスズカが元居たバンドだったという噂が広まっただけで、それまで三日に一回だった応募が一日に三回に増えた。
 自分たちは何も変わっていないのに、周りの反応だけが変わって行く。
 そのことに雄一達は戸惑った。
 だが、時間が経つにつれ少しずつ慣れて行った。

「アメンボアカイナアイウエオ」

 彼女が一人発声練習を始めている。
 声の大きさ、伸びはスズカに比べるとはるかに劣る印象だ。
 だが、歌ってみるまで分からない。

「じゃ、凱旋から」

 雄一はドラムスツールに座るなりそう告げた。
 ギターのリュウジとベースのツヨシが頷く。
 夏美が目を泳がせてるのが気になるが、そのままハイハットでカウントを取りタム回しのフィルインから曲に入る。
 八畳ほどのスタジオ内は爆音に包まれた。
 この爆音を突き破る歌声でなければ、採用しない。

「ん?」

 とっくにイントロが終わり歌い出しに入ったのに、夏美は一向に口を開かない。
 その内、顔の前に手を持って来て振り出した。

「ストップ!」

 雄一が演奏を止めると、つられてギターとベースも音が止んだ。

「どうしたの?」

 不安そうに眉を下げる夏美にドラムセット越しに話し掛ける。
 彼女は言いにくそうに口を開いた。

「......あの、知らない曲なんですけど」
「え?」
「セクレタリアトの曲やらないんですか?」

 メンバー一同唖然とした。

「あの、俺たちオリジナルでやってるんだよね。コピーはやってなくて......」

 リュウジが優しく言う。

「え? でもスズカさんがいたバンドでしょ?」
「そりゃそうだけど、あいつがいたからって別にセクレタリアトと関係ある訳じゃないよ」

 雄一は腹が立って来た。
 実力は全然及ばないが、スズカを奪われたという過去からセクレタリアトには勝手にライバル心を抱いていた。
 その名前を出してくる目の前の女にプライドを打ち壊された気分になり、苛立ちを感じて来た。
 スタジオ内が険悪な雰囲気に包まれる。

「じゃ、すいませんけど......」

 彼女はここに居づらくなったのか、誰とも顔を合わせることなくこの場を去ろうとした。

「おい! ちょっと待て!」

 彼女はドアに手を掛けたまま、ビクリと肩を震わせた。
 無礼な態度に雄一は思わず声を荒げた。
 
「ふざけんなよ! こっちは徹頭徹尾オリジナリティでバンドやってんだ! お前もデモテープ聴いてここに来たんならその辺の覚悟は持ってこい! セクレタリアトだぁ!? 俺たちはそんなもん端から眼中にねーんだよ。せいぜいテレビに出てくるバンドだけ追っかけてやがれこのミーハー野郎が!」

 と、年甲斐も無く、しかも初対面から数分も経っていない異性を罵倒しつくした。

「うるせぇ!」

 と、女は涙声で叫ぶとスタジオ代も払わず出て行った。
 後に残された三人は途方に暮れた。

「お前なぁ、ちょっとは大人になれよ。他人にあんなこと言って訴えられても知らんぞ」
「俺は自分の作ったものがないがしろにされたのが、気に食わねぇんだよ!」

 仕事だったらここまで腹は立たなかった。
 雄一にとって曲を作り詩を乗せることは、自分自身の感情をむき出しにする行為だった。
 だから、それを粗末に扱われることは自分が粗末に扱われたこととして冷静さを失うのだった。

(それにしたって......)

 バンドのメンバー募集にも、採用する側とされる側とで意識の差異がこんなにもある。
 ステイヤーシステムの採用は上手く行くだろうか。
 この先の前途が多難であることを暗示しているかのような出来事だった。

つづく

Comment(8)

コメント

桜子さんが一番

新連載おめでとうございます
桜子さんは29歳!こんなしっかりした29歳・・・恐ろしい。

VBA使い

自分自身の感情をむき出し「に」する行為だった。


【仕事内容】ソフトウエアの受託開発、人材派遣
→ちょうど今、ハケンの品格2007やってるから、桜子さんが春子さんとイメージ重なったw


それまで三日に一回だった応募が
→バンド業界のことはよくわからないんですけど、三日に一回の応募でも十分すごい気がします

ほげ

あの話の後で雄一くんと桜子さんが普通に話をしてるのに軽い驚きを感じています。
雄一くん、身体は大丈夫ですか?
かんざしが頭頂部にぶっ刺さってたり、腕の一、二本もげて機械化とかされていたりしませんか?

foo

待ってました、桜子姐さんの出演!
はてさて今回はどんな痛快な活劇や隠し芸を見せてくれるやら。

湯二

桜子さんが一番さん。


コメントありがとうございます。


>29歳
連載始めた時の設定が27で、ま、来年4月くらいに29で丁度いいかなと。

湯二

VBA使いさん。


校正とコメントありがとうございます。


>ハケンの品格
リアルタイムで観てました。
丁度、人材派遣の会社のCMとか多いころで、オー人事、オー人事、言ってた頃だと思います。
ドラマではマグロの解体までやってて、派遣の枠を超えてましたね。


>三日に一回
確かに、これでも多いですね。
実際にメンバーをネットで募集しても一週間に一人くればいい方でしたよ。
あと当日になって、来なかったり。
本文に「一日に三回」って書いたから、それに続けてつい「三日に一回」ってリズムで書いちゃいました。

湯二

ほげさん。


コメントありがとうございます。


>あの話の後
でっかいたんこぶが出来てたのに次のシーンでは何故かすっかり治っているという、80年代のアニメみたいな展開。


>身体は大丈夫ですか
実は話と話の描写されていない間で、ジャムオジサン的なヤツが登場して縫合してくれてたり。


>機械化
24時間戦える体にされて、今の世の中に逆行した企業戦士になってたりして。

湯二

fooさん。


コメントありがとうございます。


>桜子姐さんの出演!
約3か月ぶりの登場です。
短編なので5、6話くらいです。


>隠し芸
隠し芸っていうと正月の、テーブルクロス引きとかやってたあの番組を思い出します。

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