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【小説 人間のクズ】第五話 本気と書いてマジと読む

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「バレなければいいんです」

 薫は慶太の目をじっと見つめて、そう言った。

「だ、だが......しかし」

 慶太は嬉しい気持ちと戸惑う気持ちが半々だった。
 昨晩、薫に言い寄る松岡に嫉妬した。
 彼女を、あの嫌味な男に取られると思うと腹立ちと切なさが同時に襲った。
 つまりは、慶太は自分のことを愛してくれている薫に惹かれていたのだった。
 薫のつるりとした形の良いおでこが慶太の目の前にある。
 抱き寄せてしまえば、彼女が自分のものになる。
 このままやってしまえ、腹の底からそんな思いが突き上げてくる。

「北村さん......」

 薫は小さな顎を、微かに上下させた。
 彼女の細い腰に手を回した。
 だが不意に、希優羅の顔が浮かんだ。
 薫の長い黒髪と華奢な体が、娘に似ていたからだ。
 
(家族は裏切れない)

 慶太は寸でのところで、一線を越えることを思い留まった。
 万引きするほど不安定な心を抱えた娘。
 そんな娘に泣き叫ぶ妻。
 家族を思うと、甘い果実に手を出したくても出せない。

「社長、いいんですよ。私は誰にも言いませんから」
「そういうことじゃないんだ! 誰が見ていようがバレなかろうが、こんなことしちゃあダメなんだ! 君だって幸せな人生を送りたいなら、こういうことはやっちゃダメなんだ!」

 慶太は叫んだ。

「私は、社長とだったら人生ダメになってもいいんです」
「何を言ってるんだ......」
「社長は本気で人を好きになったこと、ありますか?」

 薫の目は真っすぐ慶太の目を見ていた。
 慶太は彼女の目を見て思った。

(俺は響子を愛しているのだろうか?)

 目の前にいる自分を本気で愛してくれている女と、色々とご無沙汰の妻とを比較している自分に嫌気が差した。

プルルル

 電話が鳴っている。

「はい。ダイナ情報サービスです。ああ、お世話になっております......」

 電話を切った慶太は笑顔だった。

「急だけど仕事の面談が決まった。新人でもOKのところだから。今から一緒に面談に行こう!」
「は、はい」
「大丈夫! 今度は僕が毎日様子を見に行くから!」

 そう言いながら慶太はイソイソと準備を始めた。

 放課後。
 午後4時。
 校門前にて。

「ごめん。希優羅。今日、一人で帰って」
「あ、うん」

 陽菜は男子に誘われて一緒に帰って行った。
 見たことのある男子だ。
 確か、淳史といつも一緒にいる、名前は......そう木場鷹哉だ。
 顔は淳史よりは劣るけど、カッコいい部類に入る。
 髪は茶髪で耳と首が隠れるくらいまで長い。
 校則違反だが教師は観て見ぬふりをしているようだ。
 噂では彼の父親はヤクザだそうだ。
 それが関係しているのか。
 陽菜と鷹哉が二人で歩いていると、お似合いのカップルに見える。
 二人とも満更でもない表情だし、どっちもヤンキーっぽいからだ。

「よぉ、大沢」

 希優羅は後ろを振り返った。
 そこには淳史がいた。
 笑顔の真ん中に白い歯が光ってる。

「おつかれ」
「ちょっと待ってよ」

 淳史は素っ気なく帰ろうとする希優羅の腕を掴んだ。

「痛いなぁ。もう」

 しかめっ面で迷惑そうに言うと、「ごめん、ごめん」と軽い感じで謝ってきた。

「そんなツレない態度取らないでよ。俺の気持ち、知ってるでしょ?」
「困るんだよね。あれから陽菜との関係もギクシャクしてるんだから」
「あいつにバレないように付き合えばいいじゃん」

 淳史は手を合わせ片眼を閉じ、お願いする仕草をした。
 希優羅は淳史の勘違いを正そうと思い、こう言った。

「私、別に陽菜に義理立てして君のこと振ったわけじゃないから」
「俺のこと好きじゃないってこと?」
「ちょっとモテるからって自惚れないでよ。私、あんたのこと別に好きでも嫌いでもないから」

 希優羅は断ち切るようにそう言ってやると、踵を返してスタスタと歩きだした。

「ちょっ、ちょっと」

 後ろから淳史の焦った声が聞こえる。

「なぁ、陽菜ちゃんさあ、淳史のことは諦めて俺と付き合おうぜ」
「やだよ」

 それでも鷹哉は何度も頭を下げてくる。

(どうしても一緒に帰りたい理由は、それだったのか)

 駅前のエムドナルドの窓際席で、二人は30分前からそんな感じだった。

「くそっ!」

 思い通りに行かないのが悔しいのか、そう叫んで席を立つ。

「トイレ?」
「おお!」

 鷹哉はそう言って大股で歩いて行く。
 トイレの戸の前で立ち止まり、振り返ったかと思うと

「『くそっ!』って言ったからって、うんこじゃねーからな!」
「はいはい」

 陽菜は鷹哉のことを、バカだと思っている。
 それも愛嬌のあるバカだと。

ブルルル

 机に置きっぱなしの鷹哉のスマホが振動した。
 LINEのメッセージが一部だけ見えた。
 淳史からのものだ。
 「いけない」と思いながらも、陽菜は鷹哉のスマホを手に取った。
 ロックもされていないスマホだから容易にメッセージを確認出来た。

<鷹哉、もうちょっと陽菜をひっぱっててくれよ。希優羅のやつがなかなか強情で俺の言うこと聞かねぇんだよ。>

 陽菜は思った。

(私と希優羅を別々にするために、このバカを利用したのね)

 陽菜は店を後にした。

 児童公園のベンチで希優羅と淳史は一人分の間隔を開け、座っていた。

「好きなんだよ! 中一の時から」

 淳史はその思いを訴えた。

「それなら、私がイジメられてた時なんで助けてくれなかったの?」
「イジメ? それいつの話?」
「入学したばっかりの時。一学期の頃」
「希優羅がイジメられてたって? 俺、二学期に転校して来たからそんなの知らねぇよ」

 淳史は悔しそうに唇を噛み締めた。

「イジメてたやつ誰だよ? 今から俺が仕返しして来てやる!」

 淳史は学ランの腕をまくった。
 自分の見せ場はここだと言わんばかりに。

「いいよ。もう陽菜に助けてもらったから」
「陽菜に?」
「そう。だから、陽菜は私の恩人。だから、陽菜の好きな人を奪うことは出来ない」
「そんなの知るかよ! 俺の気持ちはどうなるんだよ!」

 淳史はキレたように叫んだ。
 そして、強引に希優羅の肩を掴んで自分の方に引き寄せると、無理やり唇を奪った。

 その様子を、数10メートル先の杉の巨木の陰に隠れた陽菜が見ていた。

 Zenlyという便利なアプリのお陰で、容易に希優羅の位置を特定出来た。

「大切な友達と位置情報をシェア」

 それがこのアプリの機能であり、売りだ。
 陽菜と希優羅は、お互いのスマホにこのアプリをインストールしていた。
 友情の印のために。
 だから、二人はどこにいてもお互いの位置関係を把握出来た。

(あいつ、嘘ついてやがった......)

 キスしている希優羅と淳史を見て、陽菜は怒りのあまり太い木の幹に爪を立てた。
 陽菜の位置から二人は数10メートル離れていた。
 淳史が無理やり希優羅の唇を奪ったのだが、陽菜のいる位置からそうは見えなかった。

 希優羅は淳史の胸の辺りを両手で突いた。
 不意をつかれた淳史は体をぐらつかせ、ベンチからずり落ちそうになった。

「バカ!」

 希優羅はそう言い放ち、その場を後にする。

「淳史君!」

 陽菜は無様にベンチに座り込んでいる男に声を掛けた。
 本当は希優羅と一緒にいる現場をおさえてやろうと思った。
 だが、希優羅は一歩先にこの場を走り去っていった。

「ああ......」

 淳史はボーっとしている。
 まるで陽菜のことなど眼中に無いかのように。

「柔らかかったな......」

 唇に手を当てそう言った。
 陽菜は淳史に存在を認められていない自分が無様で悔しくて、仕方がなかった。
 そして、それは希優羅のせいだと一方的に思った。

(あいつめ......)

 慶太と薫は、駅前のコメダワラ珈琲店で向かい合っていた。

「今から来る人は、うちと取引がある会社の部長だ。今度の仕事を紹介してくれたのはその人だ」
「緊張します」
「大丈夫。ざっくばらんな人だから」
「......そうですか」

 薫の表情は浮かなかった。
 まだプレシャックスでの挫折を引きずっているのだろうか。
 慶太は彼女の顔を心配そうにのぞき込んだ。
 桜色の唇を固く閉じ、伏し目がちなのか長いまつ毛が目立つ。
 何て綺麗なんだと思って見とれていると、

「大沢さん、お疲れ様」
「塚本部長、今日はお時間ありがとうございます」

 禿げ頭にでっぷりした腹の男が現れた。
 ダブルのスーツのボタンが弾けそうだ。

「はじめまして。ダイナ情報サービの北村薫です」

 薫が立ち上がり、名刺を差し出す。

「はじめまして、乱テック株式会社、情報システムグループ部長、塚本です」

 塚本部長は薫のことを、頭の先から爪先までじっくりと見た。
 薫は黒のスーツにタイトスカートだった。
 就職活動中の学生の様だった。
 塚本部長の口角がいやらしく上がる。
 禿げた頭に脂汗が浮かんでいる。

「この人が候補者ですね」

 薫を指差し、慶太に問い掛ける。

「はい」
「ま、先方はそんなに高い技術力は無くてもいいと言っていたから、大丈夫だと思う」
「そうですか! ありがとうございます」

 慶太は頭を下げた。

「今回は目黒ソフトウエア工業さんの仕事だから」

 塚本部長はメモ帳を見ながらそう言った。

「エンドユーザは大盛食品」
「へぇ、大盛食品ですか。カップラーメンの『雷麺』とかレトルトの『ポンカレー』とか作ってる会社ですよね」

 大手食品メーカーの仕事。
 馴染みがあるのか薫の表情が少し明るくなっている。
 目黒ソフトウエア工業は、大盛食品のシステムの開発やメンテに元請けとして携わっていた。

「ハードのメンテナンスが年内に切れるんだとさ。だからこの際システムをリニューアルしましょうって話になったんだと」
「そうなんですか」

 慶太と塚本部長は、薫そっちのけで金や商流の話をし始めた。
 一しきり話が済むと、塚本部長は薫の方を向いてこう言った。

「今回もうちは間に入るだけだから。つまり、うちを通して目黒ソフトウエア工業のプロジェクトルームで仕事してもらうからね」
「え?」

 意味が分からないといった風の薫に、慶太はこう解説してあげた。

「君は乱テックの社員として、目黒ソフトウエア工業に派遣されるんだ。間違ってもうちの名前を出しちゃいけないよ。うちと目黒ソフトウエア工業には商流が無いからね」
「私......嘘ついて仕事するの、すごく不安です」

 薫が胸に手を当て、訴えるように言う。

「大丈夫。向こうは優しい人ばかりだから。特に君は綺麗な女性だからかわいがってもらえるよ」

 塚本部長は、フォローにもなってないセクハラ的な発言をした。

 都心にある雑居ビルの5階。
 その階がまるごとプロジェクトルームだった。
 その一角にある会議室が面談場所だった。
 慶太と薫そして塚本部長はそこに通された。

「乱テックの北村薫です」

 きちんと挨拶出来た薫に、慶太はホッと胸を撫で下ろした。
 と同時に、薫に別の会社名を名乗らせたことに罪悪感を感じた。
 自分を愛してくれている女を、再び売ったことに悲しくなった。

「新人の方ですか?」
「はい」
「う~ん。どうかな。簡単なデータ移行の補助作業だけど、少しはデータベースを知ってないといけないし」

 面談の担当者であるプロジェクトマネージャーの荒木は難色を示した。
 彼は三十代と思しき男で、目黒ソフトウエア工業では課長という役職だった。

「北村はスキルは足りませんが、やる気だけはあります!」

 すかさず、慶太がフォローを入れる。

「けどなぁ......」

ブルルル

 卓の上に乗ったスマホが振動した。

「失礼」

 荒木課長の物だった。
 彼はスマホを手に会議室の外に出た。
 慶太と薫は会議室に残された。

「社長」
「何だい?」
「あれ」

 薫の指さす先、天井の角に小さなカメラが設置されている。

「監視されてるんですか? 私たち......」

 薫はレンズから顔を逸らし、気味悪がった。

「最近、個人情報の盗難がニュースになるじゃないか。きっと、犯罪抑止のためだよ」
「けど、会議室にカメラつけますか? 私、何か覗かれてるみたいで気持ち悪いです」
「ん~、まあ」

 そう言われればと、慶太が考え込んでいると扉が開いた。

「大沢社長、OKです」

 電話片手に荒木課長は笑顔だった。

「え? ということは」
「じゃ、北村さん。明日からお願いしますよ」

 夜21時。
 自暴自棄になった陽菜は、一人街をうろついていた。
 センター街と呼ばれるその場所は、若者が集まる活気のある繁華街だ。
 だが、夜になると風俗のキャッチや、酔っ払いがたむろする物騒な街になる。

「よぉ、君、中学生だろ? こんな時間にこんなところウロついてたら襲われるよ? 俺の家に来ない?」
「おじさんと、エンコウしない?」
「セーラー服、幾らなら売ってくれるのかなぁ?」

 言い寄って来る輩を無言で振り払いながら、目的もなく、歩く。
 まっすぐ帰る気にならない。
 街のノイズを肌身に感じることで、悔しさから気持ちを逸らしていた。
 希優羅からのLINEメッセージが何通も届いているが、既読スルーしてやった。

「ん?」

 前方数メートル先に見覚えのある顔があった。

(希優羅のパパだ......)

 七三に分けた黒髪。
 細身の体にグレイのスーツ。
 銀縁フレームのメガネが真面目な顔を更に真面目に見せている。
 顔は希優羅の家に遊びに行った時、何度か会ったことがあるから覚えている。

「うちの娘と友達になってくれてありがとう」

 希優羅のパパは私にそう言ってくれた。
 フツーのお父さんだと思った。

(そんな人が......)

 綺麗な女の人を連れている。

つづく

Comment(4)

コメント

桜子さんが一番

乱テックってすごい社名ですねw

VBA使い

もうちょっと陽菜をひっぱ「っ」ててくれよ


キスしている希優「羅」と淳史を見て、


辛うじてIT業態とDBの話が出てきたw

湯二

桜子さんが一番さん。

コメントありがとうございます。


>乱テック
なんとかテックって社名多いですよ。
ありそうで、ない名前を付ける時、ありそうな単語と、なさそうな単語をくっつけて創作してます。

湯二

VBA使いさん。

校正とコメントありがとうございます。

>辛うじてIT業態とDBの話
エンジニアライフで執筆するならもうちょっと技術のネタを書けよって感じですよね。。。
ほんと、自由にやってます。

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