常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 人間のクズ】第三話 詐欺SIer

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「パパ、何か隠し事してない?」

 希優羅は父親に問い掛けた。

「何も無いよ」

 慶太は無表情でそう答えた。

「ふぅん」

 希優羅はスマホの方に向き直った。
 今まで口数が多かったのに、急に言葉少なになったのを怪しく感じた。

「あー、いいお湯だった」

 響子が風呂から上がって来た。
 バスタオル片手に寝間着姿で、二人の様子を見る。
 硬い空気を感じたのか、不審げな声で

「どうしたの?」

 と問い掛ける。
 響子は希優羅と慶太の顔を交互に見た。

「もう寝る」

 希優羅は立ち上がり、茶の間を後にした。

(やっぱ、手紙の女の人とまだ何かあるんだ)

 自室で希優羅は一人、そう思った。
 そして、それが元でこの一見幸せな家庭が壊れるのかもしれない。
 父親を汚らわしく思った。

(まさか、希優羅のやつに見られたんじゃないだろうな......)

 薫の肩を支えているところを、我が娘に見られたのだろうか。
 慶太は自室で頭を抱えていた。
 薫のマンションと希優羅が通う中学校は目と鼻の先だった。
 見られたとしてもおかしくはない。

(薫の具合が悪くて部屋まで送っただけだ。そう言い続ければ問題ない)

 慶太はそう何度も自分にそう言い聞かせた。
 だが、その言葉は何度も自分の中で空回りしていた。
 それはあの時間、自分の気持ちが少しでも妻から、薫に傾いていたからだった。

「とりあえず、本の整理でもするか」

 慶太はモヤモヤした気持ちを吹っ切るように席を立つと、パパと書かれた段ボールを開けた。
 朝、本の整理をすると決めていた。
 気分転換にそれを行おうと思ったのだ。

「あれ?」

 本を書棚に入れていく中で、ある本が無いことに気付く。

「ヤングマガデーがない」

 前の家に置き忘れたか。
 そう思った。
 自分の漫画が載った号だから捨てられずにとっておいたのだ。
 ちなみに、慶太はそこに真里菜からの手紙を挟んでいたことはすっかり忘れていた。

 次の日、昼12時半。

「ごめん。君とは付き合えないんだ」

 淳史は申し訳なさそうに頭を掻いている。
 思い切って彼に告白した陽菜の顔は青ざめていた。
 その隣で、二人の様子を希優羅は冷めた目で見つめていた。
 屋上。
 陽菜は意を決して淳史に告白した。
 希優羅は、一人じゃ不安がる陽菜から付き添いを頼まれてこの場にいるだけだ。

トン。

 陽菜が軽く希優羅の背中を叩いた。

「ね、与良君。陽菜は優しくてすっごくいい子だよ」 

 言ってやったぞとばかりに親友の顔を見る。
 さっきまで青ざめていた顔に少し朱が差した。
 小さくサムズアップしてくる。

「いや、陽菜ちゃんはいい子だけどさ......。俺、他に好きな子いるから」
「え?」

 陽菜がハッと顔を上げる。

「誰?」
「ん、いやぁ、まあ......その......ここじゃあ、ね」

 淳史はそう言いながら希優羅の方をチラ見した。

(私?)

 希優羅は迷惑だと思った。
 彼のことは特に好きでもない。
 それに、父親のことがあってからというもの、男に対して不信感を持つようになっていた。

「誰よ? 誰? 言いなさいよ!」

 陽菜は声を荒げた。
 眉間にしわを寄せ淳史に詰め寄る。
 こういう時に、元からのヤンチャな性格が出てくる。
 それに気圧された淳史は

「希優羅ちゃん」
「え?」

 空気が凍り付いた。
 目の前の二人が、自分の返事を待っている。
 希優羅はそう思った。
 そして、こう言った。

「ごめん」

 その日の夜19時。
 月一回の社員全員集まっての社内会議。
 普段はバラバラになっている社員が一堂に会し、社の方針と各社員の状況を共有する大事な日だ。
 事務所だと全員が入りきれないので、駅近くの貸し会議室で行うのが恒例だ。

「みんなも派遣、常駐先で辛い思いをしたら遠慮なく相談してくれ」

 壇上で慶太はそう訴えた。
 大きく頷く社員もいれば、スマホいじりに気を取られている社員もいる。
 薫と目が合った。
 彼女は小さな顎を小さく上下させた。

「社長」
「なにかね。松岡君」
「そもそも派遣に頼り切っているのが良くないと思うんです。これからは請負仕事もやっていかないとだめだと思います」

 松岡高志は3年前に新卒で入った中堅だ。
 大学時代は空手部で、インカレで準優勝したほどの武闘派だ。
 細マッチョで短く刈り揃えられた頭髪、見た目が爽やかなイケメンだ。

「松岡君。僕もそう思うよ」

 この男は若手でありながら物怖じせず、しっかりと意見を言う。
 頬に傷がある精悍な顔は、自信ありげだ。
 それが社長である慶太にとって心強かった。

「では、積極的に打って出ましょうよ!」

 彼は文系でこの業界に入って来た。
 そこは慶太と同じ経歴だ。
 だが、彼と慶太の大きな違いは、その才能だった。
 彼の場合、IT関連の技術、知識の吸収力が非凡というかハンパなかった。
 数々の派遣、常駐先で実績をおさめ、常駐先で何度もヘッドハンティングされそうになっているという噂も聞く。
 才能というのはこういうものかと慶太は、この男を誇らしく頼りに思っている。
 ハッキリ言って彼の様な男が何故、うちの様な人売り零細SIerにいるのか不思議なくらいだ。
 だが、そんな彼には、一つ欠点があった。

「そう焦るなよ。こういうことは慎重にやらなければ」
「そんなこと言ってると、チャンスを逃しますよ。今、俺の常駐先で新しい案件が立ち上がりそうなんです。プロパーが俺を買ってくれてるんで頼み込めば......」 
「松岡君。君が思ってるほど請負の仕事は甘くないんだよ。うちのようなプロジェクト管理のノウハウが全くない会社にとっては特にね」

 慶太も請負仕事で収益を上げたいと思っている。
 その方が社員の団結力も高まるし、安定した売り上げを確保出来る。
 何より派遣だけでは、この先会社を大きく成長させることが出来ない。

(分かってる。分かってるさ......。でも......)

 ダイナ情報サービスは常駐先への派遣で売り上げを立てて来た。
 言い方を変えると、成果物ではなく労働を提供して利益を上げていたのだ。
 そのため会社として、決まった予算、期限で成果物を納品するというノウハウは無かった。
 全てを丸抱えして責任を全うする請負契約は、成功すれば儲けも多いが、反面リスクも多い。
 言ってしまえば、慶太は社長としてそういったリスクを避け、外部に依存することで会社を運営していたともいえる。 

「情けないことを......」

 煮え切らない態度の慶太に業を煮やしたのか、松岡は吐き捨てるようにそう言った。
 松岡の欠点が出て来た。
 慶太に対して一言多いという欠点が。

「そうやって楽な道に逃げてるから、実績がつめないだけなんじゃないですかね?」
「くっ......」

(楽なもんか! 君らの派遣先を見つけるのに僕がどれだけ苦労しているか。知っているのか!)

 喉元まで出掛かった言葉を苦労して呑み込んだ。
 それを言ってしまえば、関係が壊れるのは目に見えているからだ。
 二人を取り囲む周りの社員達の表情が硬くなっていく。
 慶太と松岡のこうしたやり取りはたまにあった。
 だが、今日は特に激しかった。

「今回の北村さんのことだって派遣に頼り切ってるから起きたことなんですよ。彼女は新人なのに一人で派遣先に売られた。そりゃ新人だから失敗して先方と人間関係も変になりますよ。それに、常識的におかしいでしょ。何もスキルが無い人間をSEと謳って売り込むなんて。うちは詐欺会社ですか?」

 慶太の頭の中でブチリと音がした。
 松岡はダメ押しの様にこう続ける。

「うちは詐欺SIerですか?」

 その言葉が慶太の耳朶を打った。
 慶太はキレた。

「きっ......きさ......」

 叫び声を上げそうになった時、

「松岡さん、大沢社長はちゃんと私の相談に乗ってくれました」

 薫が声を上げた。

「北村さん......」
「社長も一生懸命頑張って私たちの仕事先を探して来てるんです。今回は私も至らなかったんです。社長ばかり責めないでください」

 薫にそう言われた松岡は意気消沈したのか、矛先をおさめ大人しく席に着いた。
 その後は、社員同士での情報交換、総務からの連絡事項など滞りなく会は進み、20時には閉会となった。

「じゃ、飲みに行くぞ~!」

 会議室を後にする社員に慶太は声を掛けた。
 会の終わりに近くの居酒屋で飲むのが恒例だった。
 参加出来るメンバーだけで執り行う。
 毎回15名は集まるが、今回は慶太と松岡が揉めたこともあり敬遠する者が多数出た。
 結局、慶太に着いて行ったのは7名で、その中には問題の松岡も、そしてあの薫も含まれていた。

「お疲れさん!」

 自社近くの焼き鳥居酒屋「チキン男爵」。
 そこの個室内に、ジョッキがぶつかり合う音が響く。

「会社もちだから気にせず飲んでくれ!」

 慶太は景気よく社員に声を掛けた。
 皆、「おおお」とどよめいてみせる。
 毎回恒例のやり取りだ。
 長テーブルに向かい合って3人ずつ座っている。
 上座で慶太がその様子をビール片手に見ている。

(うむ。皆楽しそうだ)

 社長になってからというもの、毎日、社員がどうすれば働きやすいかを考えている。
 手探りながらも自分なりに手を打って来た。
 こういった飲み会もその一環だ。

(ん?)

 いつの間にか席替えが行われていて、松岡が薫の隣で親し気に話している。

「やだ~」

 薫はそう言いながら、松岡の肩を冗談めかして叩く。

(何だよっ)

 その様子を見た慶太は苛立ちを覚えた。
 そして、その苛立ちの原因が松岡に対する嫉妬心だというのが分かった。

(そうか、こいつ!)

 会議の時あれほど慶太に食って掛かったのは薫のことがあったからだ。
 そう言えば、こうした飲み会の時、あいつはいつも薫に何か言い寄っていた。
 今までは対して気にしていなかった。
 だが、昨日、薫の自分に対する気持ちを知ってしまった慶太は、彼女のことに対して敏感になっていた。
 そして、妻子持ちでありながら女子社員に心を惹かれつつ自分に戸惑いと背徳感を覚えた。

「ね、今度の日曜日、ディステニーランドに行こうよ。俺、年パス持ってるからさ」
「え~、でも」
「いいじゃん」
「こらこら、松岡君」

 おどけた態を装いながら、慶太はグラス片手に二人の間に割って入った。

「あ?」

 松岡が三白眼で慶太を見た。
 社長に対する態度とは思えない。
 慶太は先ほどのこともあり怒りを覚えたが、無礼講の飲み会ということもありグッと堪えた。

「二人が楽しそうに話してるからさ。僕も仲間に入れてくれないか」
「わぁ、どうぞ」

 薫が笑顔で迎えてくれた。
 松岡は無言で移動し、慶太一人分の空間を作った。
 そのまま目を合わせることも無く、日本酒に手を付けだす。

「松岡君、さっきはごめんな。君の意見を真摯に取り入れるよ。これからも一緒に頑張ろう」

 慶太はそう言いながら彼のグラスにビール瓶を傾けた。

「はあ」

 だが、それに乗ることなく彼は空間の一点を見つめたまま気の無い返事をした。

(くっ......)

 慶太は拳を握り締め怒りに耐えた。
 元々こいつは自分をバカにしているところがある。
 慶太は常々そう思っていた。
 彼は仕事が出来て才能がある。
 だから、本来は大した実力がないのに社長になっている慶太を軽く見ているのだろう。
 
(不満ばかり言うなら、会社を辞めて大手にでも行けよ。お前の実力なら行けるだろ)

 何度もそう言いそうになった。
 だが、会社の希望の星を失いたくないのも事実だった。
 行く先々で実績を上げる松岡を切るのは、経営上ありえないことだった。
 彼が言うようにいずれは請負の仕事で実績を積まなければならない。
 そのためには彼の力はどうしても必要なのだ。

「じゃ、二次会は自由にやってくれ」

 レジで精算を終えた慶太は、店の外で待つメンバーにそう呼び掛けた。
 各自適当に挨拶して踵を返す。
 慶太は薫を目で探した。
 何と、松岡に誘われて駅の方に向かっている。

「ちょっ......」

 慶太は手を伸ばした。
 小さく振り返る薫と視線が合う。

「俺も......」

 そう言い掛けた時、胸ポケットのスマホが鳴った。

「何だよっ!」

 悪態をつきながら電話に出る。

<あなた、今すぐ帰って来て!>

 響子の憔悴しきった声がスマホから溢れ出て来る。

「どうしたんだ?」
<希優羅が......希優羅がまだ帰ってこないのっ>

つづく

Comment(7)

コメント

VBA使い

朝、本「の」整理をすると決めていた。


陽菜が軽く希優羅の背中を叩いた。
→希優羅が陽菜の背中を叩いたのでは?


学校も集合会議も居酒屋もディステニーランドも、今となっては。。。

桜子さんが一番

薫ちゃんは小悪魔枠ですか
こうゆうタイプは怖いですねー、
悪気がない分質が悪い。

VBA使い

陽菜が希優羅に「何か言ってよ」という合図をしたという意味なら、陽菜が希優羅の背中を叩いた、で合ってましたね。
すみません。

湯二

VBA使いさん。


コメントと校正ありがとうございます。


>学校も集合会議も居酒屋もディステニーランド
この小説の時代設定がコロナ前なのかコロナ後なのかで話の展開も変わってきますね。
というか、これから世の中に出てくる小説は、コロナ前か後か決めて書くのが普通になるかもしれませんね。


>「何か言ってよ」という合図
ですです。
フラグONみたいな。

湯二

桜子さんが一番さん。


コメントありがとうございます。


>小悪魔枠
そういう女の人に振り回されたいもんです。
思い悩んで仕事にならんかも。

princess

久々に見たら新作!

今作は技術での殴り合い物語というより、複雑な人間ドラマ中心でしょうか。
どちらにせよ、期待してます!

湯二

princessさん。


コメントありがとうございます。
ご無沙汰です。


>複雑な人間ドラマ中
どちらかというと、技術的な話は少なくて人間関係に寄った話になります。
こんな世の中なので、小説を読んでる間だけはくつろいでもらいたいですね。
一話一話、下世話でばかばかしくて、頭を使わずに面白く気楽に読めるものを目指してます。

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