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【小説 人間のクズ】第一話 パパは漫画家

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 ※注意

 この小説は、愛しのマリナという小説の、15年後を描いた続編です。

 お時間のある方は前回の内容をおさらいしてみてください。


 

 桜散り緑が目立ち始めた5月のある日。
 都心にある新築マンションの一室に、ある家族が引っ越して来た。
 家族構成は父と母そして娘一人。
 父親はIT企業の社長。
 とはいっても、社員20人程度の小企業だった。
 母親はパート勤めの主婦。
 そして、中学3年生の娘。

「パパー、この段ボールどこに運べばいい?」
「ああ、パパの書斎に運んどいてくれ」

 大沢希優羅(おおさわきゅら)はギッシリ荷物が詰まった段ボールを両手に抱えた。

「書斎だって、カッコつけちゃってさ。ただの引きこもり部屋でしょ」
「何だとぉ?」
「あはは」

 父と子供たちのやり取りを、母がキッチンでお茶を淹れながら見ている。
 その顔はほころんでいた。

「重いなぁ。何が入ってんだろ」

 希優羅は父の部屋に入るなり、ドスンと段ボール箱を置いた。
 パパと書かれた段ボール箱に興味を持った。
 ドアを閉め、箱を開けてみる。
 中には分厚い書籍が詰まっていた。

「マスタリングTCP/IP? データベーススペシャリスト試験? OracleMaster? プロジェクトマネージャーの鉄則? 何だ。つまんない本ばっかり」

 IT系の書籍や雑誌ばかりが出てくる。
 確かに父は社長になる前はITエンジニアとして現場で仕事をしていた。
 こんな本を引っ越し先にも持ってくるということは、まだエンジニアにも未練があるのだろうか?
 スマホやSNSには興味津々の希優羅であったが、それを支えるIT技術には全く興味が無かった。

「面白いものとかないのかな」

 ゴソゴソと奥の方まで漁る。
 親の秘密を探っているみたいで、ちょっとした背徳感と興味が混ざり合った何とも言えない気分になった。
 底の方に古びて紙が茶色くなった漫画雑誌があった。

「ヤングマガデー......。うわっ! 15年前のやつだ」

 自分が生まれた年に発行された雑誌。
 それを目の当たりにした希優羅は感慨深いものを感じた。
 思わず手に取り、茶色く変色したカサカサのページをパラパラとめくる。
 スマホでしか漫画を読んだことがない希優羅にとって、紙の上に描かれた漫画は新鮮だった。

「『轟け! SE魂』......」

 一番最後に掲載されているその漫画のタイトルに、何故か心惹かれた。
 作者の名前は『大沢慶太』。

(パパ......!?)

 希優羅は絶句した。
 震える手でページをめくった。

(何これ? 面白い!)

 全16ページのその作品の絵は、正直言ってヘタクソだった。
 だが、それを補って余りあるほど、ストーリーは面白かった。
 気付けば希優羅は3回も読み返していた。
 最終ページをめくると、その裏に作者についての紹介が書かれていた。

  大沢慶太氏(28)は、本作『轟け! SE魂』で第三十六回 ヤングマガデー新人賞の準大賞を受賞しました。
  大沢氏は都内でITエンジニアをしながら本作を描き上げました。
  これが初めての作品ということで編集部でもその才能が話題になりました。
  本人は漫画家になるつもりはないとのことですが、これほどの才能を埋もれさせておくことはもったいない。
  そこで、大賞しか本誌掲載をしないという原則を破り、この度、読者の皆様の前に披露することになりました。
  大沢氏が漫画家になることを切に願っております。
                         --編集部一同

 最初は同姓同名の別人かと思った。
 だが、流石にITエンジニアでかつITエンジニアの漫画を描いているという事実を前にしては、本人と認めざるを得ない。
 まさか自分の父親が漫画を描いていたなんて。
 それもたった一作で才能を認められていた。
 その事実に、自身も漫画家志望である希優羅は驚愕し、言いようもない誇らしさと、もどかしい何かを感じた。
 ちなみに彼女は漫画を描いていることを両親に隠していた。
 まだ人に見せることが出来るレベルではないと判断していたからだ。
 雑誌を閉じた瞬間、ページの間からヒラリと一枚の紙が落ちた。
 手に取って見ると、それは手紙だった。

  「こんにちは。

   元気してますか?
   私はまあまあ元気です。
   この手紙が届くころ、慶太君にもいいことが起きてるはずだよ。
   全てはうまく行ったと思う。
   多分......
   あとは、慶太君の頑張り次第だね。
   これで、ちょっとは恩返しできたかなあ?
   って、慶太君は覚えてないのか。
   寂しいなあ。

   二年前のあの日だよ。
   データベースが起動しなくて私が困ってた時、
   慶太君が缶コーヒー持って助けに来てくれたじゃない。
   あの時の君は、私のヒーローだったなあ。

   その恩返しがやっとできました。
   あっ、でも奥さんとのことがあるから、それと相殺されちゃうかな。
   ......って言うか、マイナスって感じ(涙)
   でも、これで少しは罪滅ぼしが出来たかな。

   あと、私、会社辞めます。
   できれば、もう一度、慶太君と仕事がしたかったな。

   しばらくは田舎でのんびり過ごします。

   慶太君、奥さんと希優羅ちゃんと、また一緒にやっていけるといいね。

   それで、本当にすべてうまく行ったってことだからね。

   んじゃ     
                                 真里菜より」

(真里菜......)

 手紙を持ったまま希優羅は固まった。
 まだ女として15年しか生きていない希優羅だが、たった十数行のこの手紙を読んだだけで分かった。
 真里菜というこの手紙の主は、自分の父を愛していた。
 だが、どういう理由か分からないが、父から身を引いた。

(ママと私がいたから?)

 恐らくそうだろう。
 仲が良い父と母の過去を知ってしまった。
 一瞬、二人の仲は本当に良いのだろうかと疑ってしまった。
 この手紙を残しているということは、父はまだ真里菜に未練があるのだと思った。
 真里菜という女が、いつか家庭を崩壊させる恐ろしい人間に思えた。
 そして希優羅は、父が漫画を描いていたという事実と、この手紙がセットで残されているということに何らかの繋がりを感じた。
 
「希優羅ー。何やってんだー」

 父の声だ。
 希優羅は急いで段ボール箱に本をしまった。
 だが、とっさに手紙を挟んだヤングマガデーだけは自分の上着の下に隠した。

 次の日。

「おはよう。希優羅は?」
「先に学校に行ったわ」
「何だよ、引っ越して初めての朝飯なのに」
「あの娘も思春期だから色々あるのよ」

 大沢慶太は、それを聞いて少々心配になった。
 希優羅は自分に似ず可愛く育った。
 小さな顔に大きな目。
 長くツヤツヤの黒髪。
 体はちょっと華奢だから、もう少し太ってほしいところだ。
 彼女は、生まれながらに与えられたものを自分でも素晴らしいと思っているのか、アイドルになりたいと夢を語ることもある。
 色々男も言い寄って来るだろう。
 男親としては心配だ。
 慶太は席に着きニッケイ新聞を開いた。
 妻の淹れ立て珈琲の匂いをかぎながら、世界情勢を頭に入れる。
 やっと手に入れた新築のマンション。
 3LDK。
 大きなベランダに、広いダイニングとキッチン。
 泡の出る風呂。
 本当は一戸建てが欲しかったが、これでも十分頑張ったし満足だ。
 収入はエンジニア時代に比べると格段に上がった。
 だから、この住まいを手に入れることが出来た。
 社長になったのは成功だったのかもしれない。
 だが、人の管理は苦労の連続だ。
 プログラミングさえ間違いなければ言うことを聞くコンピュータに比べると。

(帰ったら、本の整理をするか)

 朝食を摂りながらそう思った。

「行ってらっしゃい」

 妻に見送られ慶太は出社した。

 電車に揺られること30分。
 慶太はダイナ情報サービスの事務所に着いた。

「おはようございます」

 総務を担当する山本紀子が、お茶を持って来た。
 今年45歳の彼女は、慶太よりも古参のベテラン社員だった。

「ありがと」

 自らの執務席に着いた慶太はそれを一口すすり、パソコンのスイッチを入れた。
 先代の社長である生島は5年前、ガンで死去した。
 遺言通り、慶太がその座を継いだ。
 彼が38歳の時だった。
 OSが起動した。
 グループウエアを立ち上げ、メールを確認する。
 相変わらず、人材情報に関するメールばかりだ。
 これこれこういう案件があるから、こういうスキルを持った人間が何人必要だ。
 その単価はいくらだ。
 概ね、そんな内容だ。
 例えば、こんな感じだ。


 To:ダイナ情報サービス 大沢社長

 お世話になっております。
 TBスタッフサービスの田山です。
 以下の案件で、二名探しています。

 ・勤務場所:大都会
 ・業種  :ラクタンカード株式会社のコールセンターシステム
 ・職種  :PG(業務に精通していれば尚良し)
 ・単価  :50万円から
 
 弊社を間にして、目黒ソフトウエア工業として参画することになります。
 人材が確保出来そうな場合、電話ください。

 この案件を受けた場合、商流はこうなる。

  ラクタンカード株式会社(顧客)
      ↓
  目黒ソフトウエア工業(元請け)
      ↓
  TBスタッフサービス(二次請け)
      ↓
  ダイナ情報サービス(三次請け)

 大手SIerである目黒ソフトウエア工業と口座を持たないダイナ情報サービスは、目黒ソフトウエア工業の仕事をしたい場合、いつもTBスタッフサービスを通すしかないのだった。
 つまり、ダイナ情報サービスは中間業者であるTBスタッフサービスに中抜きされる立場になる。
 一人当たり50万円のはずが、5万円中抜きされて45万円が振り込まれることになる。
 それが毎月だ。

「まったくボロイ商売だぜ」

 そう皮肉を呟きながら、慶太は電話を掛けた。

「あっ、田山社長。お世話になります。大沢です」
<おお、大沢さん。さっきのメールの案件、いい人いますか?>
「それがお陰様で、今全員出で払っていて割り当てられる人員がいないんですよ。すいません......」
<そうですか。AIを扱う案件だったから、御社にとっても新技術に携われるチャンスになるかと思ったんですが......残念です>

(最新技術に携われるチャンス? 例えそうだとしても、こんな安い単価で人を出せるかよ)

 悪態をつきそうになるのを我慢して、丁寧に電話を切る。
 社長になってからというもの、人脈というものの重要さをことあるごとに痛感させられる。
 田山のように目黒ソフトウエア工業をスピンアウトして会社を興した人間は、その縁で口座を開いてもらえる。
 だが、ダイナ情報サービスの様な独立系の零細IT企業はそんなコネも無いのだった。
 先代の生島の人脈を引き継いだ慶太ではあったが、そのほとんどは生島あってのものだったため、それを活かすことが出来ていなかった。
 従って、いつも安い単価で仕事を受けざるを得ないのだった。
 気を取り直して、メールを整理する。
 その中には仕事で悩む社員からのメールもいくつかあった。
 一人で常駐先に派遣されているような社員は、技術的にも仕事的にも気軽に相談出来る人間がいない。
 結果、社長である慶太に直接、相談のメールが来るのだった。
 それらのメールに「今度飲みに行こう」とか「昼休みにそっちに行く」とか安心させる内容を返す。
 元請け案件も無く、力が無い会社は、社員一人一人の力が頼りだった。
 だから慶太自身、社員のメンタルには人一倍気を使っているつもりだ。

「ん?」

 あるメールに目が留まった。
 差出人は、北村薫。
 今年入社したばかりの新人だ。
 彼女のメールには、タイトルも文面も何も書かれていなかった。
 他のメールの様に悩み事や常駐先への文句が書かれているほうが得体が知れる分、まだ安心出来る。
 だが、何も記されていないメールは訴えたいことが分からず不気味さだけが先行した。
 彼女に電話しようとスマホに手を掛けた時、紀子が電話片手にこう伝えた。

「大沢社長。プレシャックスの山形様からお電話です」

 プレシャックスは薫の常駐先だ。

「はい。大沢です」
<お世話になります。柴田です>
「どうもお世話になります。」
<御社の北村さん、昨日今日とうちに出勤してないんですが......>
「え? 本当ですか?」
<はい。もしかしたらそちらに来てるかなと思いまして>
「い、いえ」

 慶太は何も書かれていないメールを、もう一度よく見た。

つづく

Comment(4)

コメント

桜子さんが一番

新連載おめでとうございます。

VBA使い

たった数行
→改行のせいだろうけど、約20行に見える


間違え「い」なければ


今全員「出」払っていて


新連載スタート、おめでとうございます。


シリーズものは雄一だけかと思ったら、慶太くん再登場ですか!
「しょっぱいマネージャー」よりも強烈なタイトル、誰のことだろう? キニナル

「母」「妻」
→「響子」という名前が出てこなかったので、まさか?と思ったが、希優羅の思考からすると響子なんでしょう


目黒ソフトウェア工業
→おお、ついに事故記録、演・ジニアに加え、慶太シリーズも、雄一シリーズとの接点ができたw

湯二

桜子さんが一番さん。


コメントありがとうございます。

一ヶ月半のご無沙汰でした。
単体で分かる様にはなってますが、お時間があれば、前回の分を読んでみてください。
人間関係が分かってより楽しめると思います。


あと、すいません。
ここに桜子は出てこないです。。。

湯二

VBA使いさん。


コメント・校正ありがとうございます。


一ヶ月半ぶりの登場です。
よろしくお願いいたします。


>慶太くん再登場
しかも社長になって登場。
あと、15年も経ってるのに技術が進化していない世界。。。。


>誰のことだろう?
K太。


>「響子」という名前が出てこなかった
すいません。
名前が一度も出てきませんでしたが、慶太は離婚して再婚したとかそういうことはありません。
文章書いて行ったら、名前が自然に出てこなかっただけです。


>接点
世界を構築する手間をはぶく、作者の手抜きかもしれぬ。

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