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【小説 しょっぱいマネージャー】第四十一話 あの時、ああしておけば、良かったね

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 テレビに金剛彩香が映っている。
 ボーイッシュなショートカットに、涼やかな切れ長の目、スタイルの良い165cmの高身長。
 若手No1女優である彼女は、テレビ局を出たところで大量のマスコミの餌食になっていた。

<鏑矢社長のインスタグラムにあなたが映っていましたが、お二人はどういった関係なんでしょうか?>

 視聴者の目に悪影響があるのではないか、と思えるほどのフラッシュがたかれる。
 芸能リポーターの差し出すマイクに、彼女は毅然とこう答えた。

<大切な人です>

 おおおっ!
 と、マスコミたちがどよめいた。
 現在、大手事務所が絶賛売り出し中の20歳が、あっさり交際を認めたからだ。

<いずれは結婚も視野に?>
<はい>

 再び、どよめきが起こる。
 だが、渦中の彩香その人はどこか寂し気な表情を浮かべていた。
 そして、ポツリとこう言った。

<でも、あの人はそんな気はないみたいで......>

「アホくさ」

 弥生はチャンネルを変えた。
 8月18日(火)の朝。
 弥生は居間で、出勤前の朝食を母親と共に摂っていた。

<彩香とは付き合っています。でも結婚は考えてませんね>

 猿顔がテレビに映し出された。
 なぜか、母がため息をついた。

「お母さん。この人、ホント、猿に似てるわね。こんなのが良くモテるわよね」
「そうね」

 母がどこか寂しそうな目をした。
 弥生の母親は、彼女を20歳の時産んだ。
 今年で48歳になるが全然若くて綺麗だ、弥生は娘ながらそう思っていた。

「でも、私、この人の顔とか話し方とか嫌いじゃないな」

 どことなくお父さんに似てる、そう言い掛けた時、

「そうね。でも、未だに女をとっかえひっかえ、色んな人を......。もう病気ね。そんな人が結婚相談所を運営する会社の社長なんて笑いが出るわ」

 母は呆れたようにそう言った。

「でも、そんな人が運営してる結婚相談所を紹介したのは、お母さんでしょ?」
「まあね」
「全然、相手見つからないけどね」

 弥生は自嘲気味に笑った。

「弥生、大丈夫よ」
「え? なにがよ?」
「お父さんが、やってるところなんだから」

 と、テレビを指差した。


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「私、もう少し頑張ってみようと思います」

 弥生は寺山に向かってそう宣言した。
 寺山の真っ赤な口紅を塗った唇から笑みがこぼれた。

「そうですよ。後ろ向きな人より前向きな人の方がモテますからね」

 二人は相談所の打ち合わせブースで向かい合っていた。

「母から励ましてもらったんです」
「へぇ」
「父を喜ばせるためにも、ここでいい人見つけなきゃ」
「父?」
「あ、ここの社長さんのことですよ」

 寺山は絶句したようだ。
 そして、弥生がからかっていると思ったのか、質問を投げ掛けて来た。

「でも苗字が......」
「母親の姓です。っていうか、父と母は結婚しませんでした」

 弥生の父、鏑矢社長は仕事優先の男だった。
 彼の仕事にとって、家庭は負担でしかなかった。
 数々の女と関係を持ったが、誰一人として結婚しなかったのはそのせいらしい。

「私の会社の社長ながら、なかなかヒドイ男ですね」
「はい。ですが、いいところもあると思います。良く考えたら、私お金で不自由したことが無いし、母も文句は言うけど本当に嫌いじゃないみたいだし......。だから、ここで相手を探すように母も奨めたんだと思います。それに、私も大人になったから、分かるんです。父にも色々事情があったんだろうなぁって」

 一しきり語ると、弥生はスマホで撮影した一枚の写真を寺山に見せた。
 それは、父親が赤ん坊である彼女を抱えている写真だった。

「ここでいい人見つけることが出来たら、父も喜ぶと思います。」


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 8月18日(火)の17時。
 会議室。
 雄一は顧客関係者を集め、緊急ワーキンググループを開いた。
 顧客側の参加者は、広報と経理担当者、情報システム部から数名、寺山相談員、三浦部長。
 エンジニア側の参加者は、プロジェクトマネージャーとして雄一、議事録係の藤澤、そしてAIを開発した秋華。

「......という訳で、皆さんの協力が必要なんです」

 雄一は鏑矢社長が出したAIについての要望を、皆に話した。
 リニューアル後のシステムの売りはAIによるマッチングだった。
 これは過去の膨大なデータを分析した結果、最適な相手を見つけるマッチングエンジンだ。
 鏑矢社長はサービスとしての売上を上げるために、AIによるマッチング結果を改ざんしようとしていた。

「要するに、売り上げを上げるためにAIの結果を改ざんして、不要な出会いを増やそうと画策してるってことよね?」

 寺山が不服そうに問い掛ける。

「協力というのは具体的にどんな?」

 情シスの担当者が手を上げた。

「AIをそのままリリースします」
「鏑矢社長の要望を取り入れないということですね?」
「はい。皆さんにはこのことについて他言しないで頂きたい。それと、鏑矢社長に報告する内容についても協力して欲しいんです」

 雄一は頭を下げた。

「つまり、報告内容の改ざんに協力しろと?」
「はい。お願いします」

 雄一は頭を下げた。
 三浦部長に聞いたところ、鏑矢社長は会員数、会員同士が出会った回数などを、システムリニューアル後にどう変化したか知りたがっているらしい。
 もしも、これらの指標が鏑矢社長にとって芳しくなければ、AIをそのままリリースしたことがバレてしまう。
 雄一はそうならないために、関係者と口裏合わせをしておきたかったのだ。

「恐ろしいことするなぁ。それでしばらくは騙し続けることが出来るかもしれないが、ずーっとは無理なんじゃないですか?」

 情シス担当者はそう言うと背もたれにのけぞり、天井を見上げた。

「確かに、ずっとは無理だとは思います。ですが、時間は掛かるけど、こちらが思った通りの結果は出るはずです。マッチングの精度が高ければ高いほど、無駄な出会いを無くし、理想の相手が最短で見つかる。これがリニューアルの本当の売りなのですから」

 雄一は皆に言い放った後、秋華の方を向いた。
 彼女は小さく頷いた。

「逆に、小銭稼ぎのためにAIの結果を改ざんすることは、首を絞めることになりますよ。『あそこのAIは嘘ばっかりじゃないか』ってね。逆に、嘘の無いAIならどうでしょう。シーバードのAIが口コミで評判になれば新規会員数も増えるし、何よりAIを使ったシステムとして実績を残すことが出来る。これは業種問わず次の仕事にも繋がるんじゃないでしょうか?」

 皆、黙って聞いている。
 雄一の演説に周囲が納得しつつあるように見えた。

「数カ月も運用すれば良い結果は出るはずです。その結果を、鏑矢社長に突き付けてやりましょうよ。論より証拠できっと、納得してくれるはずです」

 雄一は手応えを感じた。
 会議室内に漂う熱を感じたからだ。
 それだけで、皆が味方になってくれるだろうと期待した。
 だが、

「一ヶ月後にバレますね」

 経理担当がおもむろにそう言った。

「え?」
「鏑矢社長は月の初めに、各サービスの売上を確認するんです。そこでリニューアル後の売上がリニューアル前より落ちてたら、原因を調べるはずです。そこでバレる」
「......そんな」
「まぁ、経営者としては当たり前の動きですな」

 雄一は会議室内の熱が冷めて行くのを感じた。

「じゃあ、売り上げの方も改ざんするということで......」 
「だめですよ。それじゃ粉飾決算じゃないですか。それに、会社としての売上は月次報告として株主にも公開するんですから」
「くっ......」

 万事休すか。
 雄一は目をつぶった。
 額から汗がにじみ出る。
 それが頬を伝い、机の上に落ちた。


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「有馬PM」
「有馬君」
「有馬さん」

 秋華、三浦部長、そして藤澤が、頭を抱える雄一に声を掛けた。
 それ以外のメンバーは会議室を後にした。
 一時間ほどの会議だったが、あっという間に終わった。

「すいません......」

 雄一は掠れた声で皆に謝った。

「いや、謝ることは無い。どだい無理な話だったんだよ。それでも君はよくやった」

 三浦部長が雄一の肩をポンと叩いた。

「有馬さん、恩返し出来なくてすいません」
「恩返し?」
「一度逃げた俺を、またここで使ってくれたから」
「ああ。気にするな」

 涙ぐむ藤澤の肩を雄一はポンと叩いた。
 そんなことよりも、秋華だ。
 雄一は向かいに座る彼女を見た。
 雄一と目が合った彼女は、今まで見せたことも無いような笑顔になった。

「ありがと」

 それだけで秋華が全てを受け入れたことを、雄一は悟った。
 しかし、結局、鏑矢社長の言うとおりにリリースするのであれば、それまで標榜して来た自分のポリシーはただの自己満足のようにも思えて来た。
 皆、納得してくれた。
 後は自分も同じように納得するだけだ。
 それが出来るのか、そう思った時、ドアがノックされた。

「寺山さん」

 雄一は戻って来た彼女を不思議そうに見た。

「私も有馬さんの考えに賛同しています」
「ありがとうございます」
「あの、先程の会議で言おうかどうか迷ったんですが......。やっぱり言います。ある会員のことについてです」
「ある会員?」
「はい。何せ会員のことですから、個人情報もありますし。ですが、皆を味方につけ、鏑矢社長を説得させるにはこれしかないと思ったんです」

 雄一は期待を込めた視線を寺山に向けた。
 その視線を受けた彼女は、思い切ったようにこう続けた。

「私の担当に、鏑矢社長の娘さんがいるんです」


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 寺山の情報で、顧客側担当者の説得は出来た。
 後は、プロジェクトメンバーからの了解を取る必要があった。

 8月19日(水)、10時。
 雄一は池江と谷中を会議室に呼んだ。
 
「お二人にお話があります」
「何だよ、かしこまっちゃって」

 池江がからかうようにそう言った。

「今まで色々あったから、ちょっとやそっとじゃ驚きませんよ」

 谷中が笑顔でそう言った。
 雄一がそのやりとりで少し気が楽になった。

「実は......」

 昨日のワーキンググループで話したことを、そのまま二人に伝えた。

「それであのガキ、怒って飛び出して行ったのか」
「はい」
「で、有馬さんは顧客の要望を突っぱねるんですね」
「はい」

 会議室に沈黙が流れた。
 池江が口を開いた。

「黙ってやればいいのに、なんで俺たちに話すの?」
「え? だって一緒にシステムを作って来たメンバーだから......」
「体制上、俺たちはPMの下なんだから、あんたがプロジェクトのことを考えてそうしたんなら......従うだけだよ」

 池江と谷中は頷き合った。
 雄一の脳裏に、ここに至るまでのことがよぎった。
 野平部長が倒れ、プロジェクトマネージャーに就任した時のこと。
 雄一をプロジェクトマネージャーとして認めない彼らと、何度も話したこと。
 だけど、やっとここまで来た。

「有馬PM、思い出に浸るのはまだ早いよ」
「はっ、はい!」

 池江に言われて我に返った。

「ま、これは俺たちのためでもある」

 池江は語り出した。

「俺もこれまで多くのシステムに携わって来たけど、本当にこんな仕様でいいのかっていうシステム幾つもあった。例えば、8payっていうキャッシュレスサービスに関わってた時だ。セキュリティの基本として入れるべきはずの二段階認証が仕様に盛り込まれて無かったんだ。俺は、疑問に思いつつも顧客が決めた仕様だと思い、黙って実装した。孫請けの俺の立場で、会ったことも無い元請けが作った設計書にケチをつけることも出来なかったしな。言い訳だけど。そんで、リリースしてみてビックリだよ。そのセキュリティの甘さを突かれて詐欺グループによる大規模な不正利用が起きた。挙句、サービスは一ヶ月で終了。今では無かったことになっている」

 雄一もその話は知っていた。
 経営陣が二段階認証が何なのかすらも知らなかったという、お粗末な謝罪会見はよく覚えている。

「結局、損をしたのは8payに現金をチャージしたユーザー、つまりコンビニのお客様なんだよな。システムの発注者も、エンジニアも、ユーザである利用者のことが抜けてたんだ。使う人間にとって明らかにおかしいんじゃないかって思ったら声を上げるべきだったんだ。それがコストや納期、そして政治的なことで決まった仕様だったにしても、俺たちエンジニアなんだからさ。それがプライドだよ。だから、今でも後悔してるよ」

 池江の隣で、谷中が頷いている。
 彼にも何か思い当たる節があるのだろう。

「だから、有馬PMの思うとおりにやってくれよ。俺たちダンマリ決め込むからさ」


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 そして遂に、システム移行当日を迎えた。

つづく

Comment(8)

コメント

桜子さんが一番

そろそろクライマックスですかね。

VBA使い

彼女を20歳の時「産」んだ


不要な出会いを増やそう「と」画策してるってことよね?


小銭「を」稼ぎのためにAIの結果を改ざんすることは


鏑矢社長の言うとおりにリリースするのであ「ってみ」れば、


寺山の情報で、顧客側担当者の説得は出来た。
→弥生の情報を使って、どうやって説得したんだろう?
「あなたの娘がウソの結果で不幸になってもいいんですか」って社長に直接言ってもらうとか?
でもそれじゃ池江達に根回しする必要ないし。

名無し

40話を越えた大長編になりましたね。
最近涙腺が緩く今回の話を読んでいる時も目頭が熱くなりました。

プロジェクトが成功し良いラストが迎えられますように。

湯二

桜子さんが一番さん。


コメントありがとうございます。


>そろそろクライマックス
宣言しよう。
あと五話で終わりです!

湯二

VBA使いさん。


コメントと校正ありがとうございます。


>どうやって説得したんだろう?
はしょった部分に想像させる部分があり、そこは自由な解釈で読んでください。
一応、今後の展開で分かる様にはなってるはずです。


>池江達に根回し
今までプロジェクトを一緒にやって来たから、仲間にも言っておこうという感じですね。

湯二

名無しさん。


コメントありがとうございます。


>大長編
全シリーズを計算すると、50万文字くらいで、98話になってました。(最終話まで含む)
一話書くのに平均4時間掛かるとして392時間。
日にすると16日くらい。
改めて思うのが、これだけの時間があれば他のことをもっとたくさん出来たのではないかということ。
だけど、これを読んで目頭が熱くなる人もいるのであれば、書く意味がありました。

ほげ

なんだかんだで最初は日和見の三浦部長さえ同じ方向いてプロジェクト推進しようって気にさせてるあたり、有馬が積み上げてきた成果だよね。
あの桜子が70点与えるだけのことある。

湯二

ほげさん。


コメントありがとうございます。


>日和見の三浦部長
仕事は出来ないし、技術もいまいちな主人公だけど、一生懸命やって、人に頭を下げたり、頼むのが上手かったり、そういうところなのかなあと思ってます。
現実でも、人を褒めたり、頼み上手なリーダーの方が、「仕方ねえな」って感じで皆、力を貸してくれますから。


>70点
1000点満点中の。

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