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【小説 しょっぱいマネージャー】第三十五話 ITの神様に愛された男

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 如月弥生は都内の、とあるビルの一室に向かった。
 開け放たれた入り口には、『結婚情報サービス・縁結び』と書かれている。
 緊張を抑えながら、受付にある呼び鈴を押す。

「ようこそ、お越しいただきありがとうございます。相談員の寺山です」

 笑顔で出迎えられたことで、弥生は少し緊張が緩んだ。
 真っ白なメイクに赤い口紅をべったり塗った顔には少し驚いたが。
 中に案内された。
 パーティションで仕切られたブースでは、相談員と恐らく弥生と同じ入会希望の男性や女性が打ち合わせをしている。

「こちらへどうぞ」

 一番端っこのブースに案内された。
 着席し一礼する。

「シーバード株式会社が運営する『縁結び』に興味を持っていただき、ありがとうございます」

 寺山はそう言いながら、パンフレットを卓の上に置いた。
 表紙には「素敵な出会いをあなたに」という文言と共に、男女が仲睦まじく手を繋いだ写真がプリントされている。

「弊社のサービスをどこでお知りになりましたか?」
「えっと、母の勧めで......」

 今年28歳になった弥生は、二か月前、二年付き合った男と別れた。

「仕事が忙しいんだ。だから、お前と結婚する気はまだない」

 そう言われて、この人にとって私はただの『遊び』なのだと分かった。
 だから、こっちから別れてやった。

「如月さん。まず、ヒアリングさせてください」
「はい」
「職業は?」
「文具メーカーの事務です」
「趣味は?」
「えっと......読書とアニメ鑑賞です」

 寺山は質問しながら、手元のシートに弥生の回答を書き込んで行く。

「好きな男性のタイプは?」
「......ええ、そうだなぁ......」

 一瞬、父親みたいな人と回答しそうになったがファザコンと思われても嫌なので、

「男らしい年上の人」

 と、ぼんやりとした答えを返してしまった。
 父親らしい人を望んでいながら、弥生に父親はいなかった。
 母親に聞くと、弥生が小さい頃に別れたらしい。
 だけど、弥生は父親を恨んではいなかった。
 正確には子供の頃は恨んでいたが、はたちの時、アルバムに残されたある写真を見つけてから気持ちが変わった。
 若い頃の父親が笑顔で、赤ん坊の頃の自分を抱いた写真。
 父親は猿にそっくりで背が小さく、可愛らしかった。
 それから、弥生はいつか父親のような人と出会って暖かい家庭を築きたいと思った。
 だが、現実はなかなか理想的な出会いは無く、迷った挙句ここに至った。

「では、プロフィール用の写真撮りますね」

 そう言われ、スタジオまで移動させられる。
 写真撮影があると事前に聞いていたので、髪型や服装には気を付けて来た。
 派手過ぎず地味過ぎず、空色のワンピースにした。
 黒い肩までの髪は綺麗にとかして来た。
 たまに可愛いと言われる顔は、ナチュラルメイクで仕上げて来た。

「はい。次は全身撮ります」

 カメラマンに言われ、背筋を伸ばす。
 この写真を見て、自分を選んでくれる人がいるのだろうか。


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 撮影が終わり数分の休憩後、ブースに戻り今後の活動についての説明を受ける。

「如月さんのマイページが出来ました」

 寺山はそう言いながら、手元のノートパソコンを見せた。
 そこには先ほど撮影したばかりの写真と共に、質問に答えた内容や自己PR文が添えられている。
 このページからスケジュール管理やメッセージ送信が行えるようだ。

「さっきまで停止してたシステムがやっと復旧して」

 弥生が別室で休憩中に、急いで作ったらしい。

「男性の方々は、これを見て私という人間を判断するのですね」

 ブラウザに映った自分。
 その一部の情報だけで判断されることに不安を覚えた。

「大丈夫です。あなたにピッタリの人を見つけて見せます」

 そんな気持ちを払拭させるかのような寺山の口振りだった。

「後日、如月さんに合いそうな男性を3名から5名紹介しますので、もう一度ここにお越しください。その時に、誰と会うか決めましょう」
「あの......会ったことも無い方といきなり二人きりでって......大丈夫なんでしょうか?」

 この期に及んで、心配になって来た。
 知らない男と会うなんて、やはりちょっと怖いと思った。

「大丈夫です。うちに入会しているということは身元のはっきりした方ばかりです。それに、ベテランの私が経験を元にして選んだ方達ばかりですので、安心してください」
「は、はい」

 自信一杯の態度に気圧されながらも、寺山のことを頼りになるなと思った。

「ではシステムについて、説明させてください」
「はい」
「月会費が一万円。一週間に3名から5名紹介いたします。月にすると最大20名ですね。で、何人と会っても良いですが、初めて会う時だけ一人あたり一万円掛かります」
「結構しますね」
「如月さん、だから会う人はじっくり選んでくださいね」
「はい......」

 その言葉に、商売を度外視した寺山の気遣いを感じた。

「初めて会って印象が良ければ、私の方にOKメッセージをマイページから出して下さい。お互いにOKだったら、それぞれの連絡先を公開しますので、あとはご自由にお付き合いしてください」
「自由......なんですか?」
「はい。ですが、半年以内に結論は出してください」
「結論......」
「結婚するかどうかですね」

 わずか半年で結論が出せるのだろうか。
 弥生はそう思ったが、自信満々の寺山を見てるとそう弱気も言ってられ無かった。


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 翌週、8月3日(月)。

 OGR.comのプロジェクトルーム、その会議室で桜子はインフラチームのリーダーである田原と向かい合っていた。
 今後のインフラ作業についての打合せだ。

「うちは空港近くのデータセンターだから被害はありませんでしたよ」

 土日に発生したデータセンターの大規模停電のことだ。
 幸い、桜子のプロジェクトで使用する本番サーバは難を逃れた。
 田原の報告通り、停電したデータセンターとは別のデータセンターだったためだ。
 気掛かりなのは雄一のことだった。
 藤澤からの情報によると、雄一のプロジェクトのサーバは停電のせいで全てダメになったらしい。
 サーバの修理から搬入まで待たされているそうだ。
 お陰で、本番環境構築に遅れが出る可能性があるとのこと。

(有馬くん。君はある意味、ITの神様に愛されているわ)

 桜子が試練を与えなくても、こうして空から逆境が彼には降り掛かる。
 きっと神様も彼の成長を願ってやまないのだろう。

「じゃ、うちのサーバ搬入は終わった、それでいいのね」
「はい」
「じゃ、本番環境構築スケジュールを見せてください」

 田原はスケジュール表を卓の上に置いた。
 桜子はそれを一目見て、

「こんなスケジュール、認められませんね」

 と、そのA3用紙をペンで叩きながら、目の前の相手を見据えた。

「ほう、どんなところがダメでしょうか? 説明していただけませんか?」

 田原は桜子の指摘に臆することは無かった。

「まず、全サーバの構築に3週間は長すぎます」

 田原のメガネグラスが青く光った。

「構築をお願いされている本番環境は、データベースサーバが3台構成のRACで、アプリケーションサーバが3台。社内用、社外用Webサーバもそれぞれ3台ずつ。バッチサーバが1台。合計で13台で構成されています。土日はもちろん休日ですから、使えるのは15日。一日一サーバ構築完了予定です。バッファは2日しかありません。これでもだいぶ詰め込んだのですがね」

 田原の見積もりは、桜子が自分で引いてみたスケジュールと大きく異なる。
 彼女の見立てでは、多くても二週間だ。

「何故、一日一サーバなのでしょうか?」
「例えばデータベースサーバを構築してからでないと、アプリケーションサーバの構築が出来ません」
「何故?」
「データベースが無いとアプリケーションサーバにデプロイしたアプリの動作確認が出来ないからですよ」
「アプリの動作確認が必要なら、一時的に開発データベースで行ってもらっても構いません。だから、本番データベースサーバが出来るまでアプリケーションサーバの構築を待たせる必要などありません」

 そんな調子で桜子は、田原の意見全てに反論した。
 遂に田原は口を閉じたまま、桜子を睨みつけるだけになった。
 構わず、桜子は続けた。

「サーバ同士の依存関係が無い部分......例えばOSのインストールやカーネルパラメータの設定なら全台並列で出来ますよね。何だってそこまで作業を直列にしたがるのか......私には意味が分かりません。だいたいこのスケジュールだと、一日一人しか稼働してないじゃないですか? 他のメンバーは遊んでるんですか?」

 田原のスケジュールだとその日構築予定のサーバを担当する一人しか稼働していなかった。

「兎に角、一日一サーバ構築とか、うちのプロジェクトはそんな悠長なこと言ってられませんし、人を遊ばせる余裕もありません。スケジュールを作り直してください」

 目の前の男のこめかみに浮き出た青筋が、ピクピク脈打っている。
 いつも冷静なインフラリーダーは声を荒らげた。

「それはPMである金沢課長が言うことだ」
「は?」
「商流の異なるあなたがうちの出したスケジュールにとやかく言う筋合いはないと思いますが」

 田原は議論を本筋から逸らすことで、この場を凌ごうとしているようだ。
 確かに彼が属するハロンテクノロジーは目黒ソフトウエア工業と準委任契約していて、ユニコーン・ペガサスとの間には金の流れは無い。
 
「なら、金沢課長に直訴するがいいわ。意味無いと思うけど」
「何だと?」
「目黒ソフトウエア工業は私たちユニコーン・ペガサスに仕事を丸投げしています。PMから設計そしてプログラミングに関する全てを。あなたを雇ったのも私の裁量です。むしろ、私はスケジュールを短縮して予算を節約しようとしているので、私の案の方が金沢課長に受け入れられると思いますが」
「だからって、雇用主でも無いあなたの指示に従う義務はない」

(小賢しい奴)

 嫌いなタイプが目の前にいる。

「うっさいなあ......」
「あ?」
「だから、私の言ってることは金沢課長が言ってることと同じなんだよ」

 桜子の眉間に皺が寄る。
 彼女の中で怒りが弾けた。

「そうやって水増しした工数で、限られた予算を掠め取ろうとしてんじゃねえ! この詐欺師が! 前のプロジェクトでは、今までのやり方で通ったんだろうが、私がPMのこのプロジェクトではそんなオイタさせねえ! 黙っていて来い!」

 桜子の表情が、鬼のように変わっていた。
 そのギャップに驚いたのか、田原は何も反論できず、拳を握り締めているだけだった。

 その時、

「あの~」

 扉が申し訳なさそうにスーッと開けられた。
 そこから半身を出した酒井社長が桜子にこう言った。

「金沢課長が呼んでますよ」

 背中に田原の射貫くような視線を感じながら、桜子は会議室を後にした。


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 桜子の目の前には、白髪交じりの男が座っていた。
 いかつい顔に短髪。
 格闘家みたいな筋肉質な体をしている。
 恐らく40代半ば。
 背は190cmほどあり、椅子に座っていながらも桜子を見下ろす形になっている。

「柴田社長、今日はまた突然どういったご用件で」

 金沢課長は、山のように大きな男に恐縮しきっていた。

「ちょっと相談事があってね」

 地鳴りの様な、低く響く声だ。

「どういったことでしょう?」

 お飾りのプロジェクトマネージャーが、愛想を振りまくように揉み手する。

「ん? そちらの女性は?」

 山が動いて、桜子に目を向けた。

「弊社のサブPMの安田です」

 柴田社長は一礼し、名刺を差し出した。

「はじめまして。OGR.com社長、柴田です」

 桜子は恭しく名刺を受け取り、自身も名刺を差し出した。

「ユニコーン・ペガサス?」

 柴田社長は名刺を手に眉をひそめた。

「こ、こら! 安田」

 桜子の隣に座る金沢課長が慌て出した。

「どういうことですか? 金沢課長。私は目黒ソフトウエア工業に仕事を依頼したつもりだか」

 ユニコーン・ペガサスは、顧客の前に現れてはならない存在だった。
 偽装請負がバレてしまうからだ。

「ユニコーン・ペガサスは私の会社ですが、何か?」

 桜子は表情一つ変えることなく淡々とした様子だ。
 柴田社長はそんな桜子をじっと見据えている。
 ただ一人、金沢課長だけが無様に弁解の言葉を口走っている。

「私は自分の会社の名前で仕事がしたい。ただ、それだけです」

 桜子は毅然とした態度でそう言ってのけた。

つづく



登場人物などの各種設定

Comment(6)

コメント

桜子さんが一番

桜子さん。今年もよろしう。

VBA使い

構わず、桜子は「一」続けた。


黙って「付」いて来い
→この漢字の方がしっくりきます。


愛想を振りまくように「も」揉み手する。


今更ですが、キャロット情報ブレーン→ユニコーン・ペガサスの社名変更で、
目の前にニンジンを吊り下げられて疾走するペガサスが思い浮かびますw

foo

> (有馬くん。君はある意味、ITの神様に愛されているわ)
>
>  桜子が試練を与えなくても、こうして空から逆境が彼には降り掛かる。
>  きっと神様も彼の成長を願ってやまないのだろう。

どう考えても「ITの神様」とやらは、神は神でも「疫病神」や「邪神」の類じゃないか……。

>  桜子の表情が、鬼のように変わっていた。
>  そのギャップに驚いたのか、田原は何も反論できず、拳を握り締めているだけだった。

ここの桜子の恫喝っぷりは、反社も顔負けで読んでて漏らしそうになったぜ。
ただ、劇中の描写を見る限りでは、田原を恫喝したのは二人だけのときのようだし、公然と田原を叱責する事でいわゆる「公開処刑」をやらないあたり、曲がりなりにもマネージャーとして超えてはいけない最後の一線はわきまえているみたいだな、桜子姐さん。

湯二

桜子さんが一番さん。


今年もよろしくお願いいたしますどすえ。(桜子)

湯二

VBA使いさん。


校正、コメントありがとうございます。

今年もよろしくお願いします。


>ニンジンを吊り下げられて疾走するペガサス
確かに名前がダサい。。。
ユニコーンの角にニンジンが突き刺さって大団円。

湯二

fooさん。


コメントありがとうございます。
今年もよろしくお願いいいたします。


「ITの神様」は怒らせたら怖いですよ~。
障害バンバン起こしますから。
ちゃんと厄落とししとけば安心!?
ITっぽくない。。。


>恫喝
正月早々、穏やかじゃない。


>「公開処刑」
よくPMの本に書いてありますね。
メンバーの前で怒るな、誉めろって。
でも、現実は怒ってる場面をよく見ます。

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